現代アートと社会発展         ~横浜トリエンナーレのデザイン活動による地域経済の活性化~

西澤 洸樹

はじめに
近年、現代アートという芸術分野は国際社会において、地域社会の発展手段の1つとして注目されている。実際にバルセロナやボローニャでは、現代アートの持つ創造性と都市の地域資源を融合させたイベントやまちづくりを行い、芸術文化の街として地位を確立した[1]。
また、日本でも地域社会発展への取り組みとして、現代アートを主軸としたイベントが多く開催されている。本書では、日本の現代アートの祭典である『横浜トリエンナーレ』において、どのような制作・デザイン活動が行われ、どのようにして地域社会の発展に結びついているのか、”経済波及効果(特に個人消費)”に焦点を絞り評価していく。

1.基本データと歴史的背景
『横浜トリエンナーレ』は、3年に1度開催される現代アートの国際展である。現代アートによる新しい価値と文化の継続的創造を目的として開催されている。第1回から第3回までは独立行政法人である国際交流基金が主催していたが、第4回からは横浜市が運営母体となり、芸術や文化を通じて価値や魅力を生み出す『文化芸術創造都市』を目指す取り組みの1つとして、現在の姿が確立した[2]。
イベントの内容としては、横浜美術館を中心とした展示会をメインとしながら、市内地下鉄駅等を活用した外部の空間演出も行っている。
以下は、2020年度祭典の基本データである[資料1-1]。コロナ影響でイレギュラーな開催となったが、大規模な祭典であったことが伺える。

■会期:7月17日~10月11日(78日間)
■主会場(有料):横浜美術館・プロット48
■参加作家数 :69組
■総事業費 :約10億円
■総来場者数 :約15万人
■経済波及効果:約23億円[資料2-1]

2.事例のどんな点について積極的に評価しているのか
『横浜トリエンナーレ』の開催による横浜市への経済波及効果は積極的に評価されている。この経済波及効果を生み出しているポイントは、来場者一人当たりの消費金額が高いということにある[資料2-2]。2020年を例に出すと、横浜市の一人当たりの観光消費金額を大きく上回っている[資料2-3]。この高い消費金額は、横浜トリエンナーレにおいて、特に評価されている2つの制作・デザイン活動から生み出されているといえる。
まず1つ目は、魅力的な会場づくりである。現代アーティストによるダイナミックな会場デザインは、横浜美術館そのものを1つの作品として確立させている[写真1]。また2020年度の海外アーティストとの初コラボの際には、来場者や美術館員などの関係者へオーディエンス・リサーチ[3]を行い、その回答とテーマを照らし合わせた会場づくりを実施した。これによって制作者だけでなく関係者全員が会場づくりの担い手となり、来場者視点も取り入れた会場はより多くの人々が現代アートに共鳴し楽しめる場所となった。この制作活動は展示場への入場を促し、チケット購入による消費金額増加の担い手となっている。
2つ目は、ユニークな地域連携プログラムである。地域のアートシーンと連携し、他会場のイベントも楽しめる形となっている。その中でも、黄金町バザールとの連携はとても興味深い。黄金町は地域活性化のプロジェクトとして、高架下の空き家スペースを、アトリエやイベント会場として使用している[写真2]。これらを活用したイベントを連携開催し、横浜トリエンナーレへ来場した顧客の流入に成功している。
実際に2021年7月に運営の中心でもある、黄金町アートブックバザール[4][写真3]の管理者の方への連携時の様子を伺ったところ、以下を知ることができた。

①お互いの会場を結ぶ連絡バスによって移動がスムーズになり、来場者は連携前より確実に増加した。
②参加アーティストとのコラボイベントなども増え、来場者の滞在期間も長くなった。

これらの枠組みに囚われないイベントのデザイン活動によって、来場者の市内での消費が促進されているだ。

3. 国内の他の事例との比較
瀬戸内国際芸術祭は、瀬戸内海の島々を舞台に開催される現代アートの祭典で、2019年度の経済波及効果は180億円[5]となっている。横浜トリエンナーレのイベント制作・デザイン活動と比較しながら特徴を探る。
まず1つ目は会場づくりであるが、各島の大自然を活用した作品展示や空間演出は、その大きさに圧倒される[写真4]。ただ誰もがアートに親しめる会場ということにおいては、自然の中でのアート展示は独特なものが多く、明るく彩られた会場でテーマに沿って作品を楽しめる横浜トリエンナーレより劣る。
一方で各所の広大な自然を体験できる会場は強みであり、自然の中でアートを体験するイベントは子供でも参加しやすく、家族旅行の一部としても楽しめるのは魅力である[写真4]。
2つ目の他会場との連携については、県立美術館や博物館がメインとなっている印象である[6]。そもそも周辺の島を一括りの会場としており、既に連携をしている部分が多いのも事実だ。その中で、島内の宿泊施設とのタイアップは興味深い。アートをテーマにしたゲストハウスやホテルと連携し、ツアーや宿泊をしてもらうことで滞在期間を長くすることが狙いだ[7]。横浜トリエンナーレは宿泊施設とのタイアップは、都心部での開催ということもあり少ない印象である。滞在期間の増加はより芸術に触れる時間を生み、祭典への消費機会も増やすことができる。

以上の瀬戸内国際芸術祭における活動は、横浜トリエンナーレの今後の施策として、取り入れていく部分もあるといえる。

4.今後の展望について
横浜トリエンナーレによる地域経済への波及効果をさらに上げるためには、今後どのような制作・デザイン活動が必要であろうか。現地取材や比較考察を通して、以下2つが期待される項目として挙げられる。

●新規アート体験イベントの創設
自然を活用したアート体験イベントを創設し、子供や家族連れでも臆せずに参加できるイベントが必要ではないか。瀬戸内国際芸術祭では子供や家族連れでも気軽に楽しめるイベントを開催しているが、横浜トリエンナーレは美術館主体のイベントが多く、レジャー気分で参加できるイベントは少ない。近くの山下公園や横浜自然観察の森を活用しながら、アートをテーマにしたハイキングツアー等の開催し[写真5]、自然に触れる機会を増やすことで、参加者の幅を広げることができ、さらなる消費効果が期待出来る。

●地域連携プログラムの強化
上述した黄金町アートバザールとの連携強化は、さらなる個人消費を生み出すツールになると考える。さらに黄金町art book bazaarの管理者への現地取材では、今後の展望のヒントになることも聞くことが出来た。

①すでに一部のカフェ等はゲストハウスとして提供されている。
②空きアトリエやギャラリー等を宿泊スペースとして提供する施設が増えている。

これを活用して、横浜トリエンナーレ来場者は安く宿泊できる等の優遇プランを設定し、瀬戸内国際芸術祭のようにタイアップすることで長期滞在を促し、さらなるイベントへの消費が期待出来る。

このように現代アートのイベントでの新しい活動が、さらなる地域経済への貢献に繋がると考えている。

おわりに(まとめ)
ここまで現代アートによる地域経済への貢献に関して、代表的なイベント(祭典)をテーマに論じてきた。そして、現代アートのイベント制作・デザイン活動が高い消費を促し、結果としてイベントそのものが高い評価を手に入れ、地域社会の発展(経済の活性化)の方法の1つとして機能していることが分かった。今後においても、現代アートが社会に貢献し、世界の問題に関心を抱くヒントになることで、芸術が大きく歴史を変えることが出来るかもしれない[8]。

  • %e5%86%99%e7%9c%9f1%e4%bf%ae%e6%ad%a3%e7%89%88_page-0001 写真1 横浜トリエンナーレ
  • %e5%86%99%e7%9c%9f2%e4%bf%ae%e6%ad%a3%e7%89%88_page-0001 写真2 黄金町 Art District
  • %e5%86%99%e7%9c%9f3%e4%bf%ae%e6%ad%a3%e7%89%88_page-0001 写真3 黄金町Art book bazaar
  • %e5%86%99%e7%9c%9f4%e4%bf%ae%e6%ad%a3%e7%89%88_page-0001 写真4 瀬戸内国際芸術祭
  • %e5%86%99%e7%9c%9f5%e4%bf%ae%e6%ad%a3%e7%89%88_page-0001 写真5 山下公園・市民の森
  • %e8%b3%87%e6%96%991_page-0001 資料1 横浜トリエンナーレのデータ一覧
  • %e8%b3%87%e6%96%992_page-0001 資料2 経済波及効果と消費金額データ

参考文献

参考文献・URL 
[註]
[1]論文『現代アートと地域活性化~クリエイティブシティ別府の活性化~』 ※2021年6月閲覧
    P.1はじめに 株式会社 日本政策投資銀行 大分事務所 2010年9月
    https://www.dbj.jp/upload/investigate/docs/kyusyu1009_01.pdf 
[2]横浜トリエンナーレHP 横浜トリエンナーレについて 概要 ※2021年7月閲覧
    https://www.yokohamatriennale.jp/about/index.html
[3]『2020横浜トリエンナーレ 記録集』 横浜トリエンナーレ組織委員会 2021年6月
P.13 独学者たちのヨコハマトリエンナーレ-企画準備ノート ※2021年7月閲覧
https://www.yokohamatriennale.jp/archive/pdf/yt2020_docs_jp_web.pdf
[4]黄金町アートブックバザール HP より取材を検討し実施 ※2021年7月閲覧
https://www.koganecho.net/shop-cafe-food/koganecho-artbook-bazaar.html
[5]やまとごころ.jp ニュースサイト 瀬戸内国際芸術祭実行委員会と日本銀行高松支店より発表
    ※2021年7月閲覧 
    https://www.yamatogokoro.jp/inboundnews/pickup/37006/
[6]『瀬戸内国際芸術祭2019 総括報告書』 瀬戸内国際芸術祭実行委員会 2020年2月
    P.14 瀬戸内アートネットワークにおける展開  ※2021年7月閲覧
    https://setouchi-artfest.jp/files/about/archive/report2019.pdf
[7]オリビアン小豆島夕陽丘ホテル HP ※2021年7月閲覧
https://olivean.com/topics/2016_setouchi_art/index.html
    ベネッセアートサイト直島 HP ※2021年7月閲覧
    https://benesse-artsite.jp/stay/
[8]『現代アートとは何か』 小崎哲哉 河出書房新社 2018年11月
    終章 [現代アートの現状と未来] 日本の未来、アートの未来 

参考資料
1.絵でわかるアートのコトバ 「美術検定」実行委員会 美術出版社 2011年4月
2.現代アート辞典 美術手帖(編) 美術出版社 2019年7月(第8版)
3.直島誕生-過疎化する島で目撃した「現代アートの挑戦」全記録‐
秋元雄史 ディスカヴァー・トゥエンティワン社  2018年7月
4.ヨコハマトリエンナーレ2011 OUR MAGIC HOUR -世界はどこまで知ることができるか?-
横浜トリエンナーレ組織委員会 美術出版社 2011年10月
5.芸術文化と地域づくり-アートで人とまちをしあわせに 古賀弥生 九州大学出版会 2020年3月
6.地域を変えるデザイン-コミュニティが元気になる30のアイデア–
 issue+design project (著), 筧 裕介 (監修)  英治出版 2011年11月
7.地方創生大全 木下斉 東洋経済新報社 2016年10月
8.日本列島「現代アート」を旅する 秋元雄史 小学館新書 2015年6月
9.美術でつなぐ人とみらい:横浜美術館開館30周年記念 横浜美術館 河出書房新社 2019年10月
10.黄金町エリアマネージメントセンター パンフレット
  黄金町エリアマネージメントセンター発刊 2021年3月
11.横浜美術館HP ※2021年7月閲覧
  https://yokohama.art.museum/
12. 瀬戸内国際芸術祭HP ※2021年7月閲覧
  https://setouchi-artfest.jp/
13.香川県立ミュージアムHP ※2021年7月閲覧
  https://www.pref.kagawa.lg.jp/kmuseum/kmuseum/index.html
14.横浜市HP(山下公園関連) ※2021年7月閲覧
  https://www.welcome.city.yokohama.jp/spot/details.php?bbid=190
15横浜自然観察の森HP※2021年7月閲覧
  https://sancyokohama.sakura.ne.jp/

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