京都芸術大学通信教育課程 芸術教養学科について

芸術教養学科は、2023年で開設10年となりました。webを用いた完全遠隔教育で対面のスクーリングがなく、しかもかなりリーズナブルな学費で学べるという画期的な学びのプランは、これまで多くの人に受け入れられてきました。特に2020年からのコロナ禍においては、自宅で過ごす時間が増えたことや、人と直接接触しないライフスタイルが定着したこともあったのでしょう、この間においては志願者の飛躍的な増加がありました。
この10年でほぼ8800人の方が門を叩き、今も約3500人の方が在籍されています。この京都芸術大学の中でも、最大規模の学生数を擁する学科の一つに成長しました。

この多くの学生たちの膨大なレポートに、私たちは常に向き合っています。今のところ添削にAIを導入するような話はまったくありません。一人一人のレポートに、相当字数の添削講評文を付して返しています。ここで公開されている卒業研究レポートについても、一つ一つ添削講評文が返されています。
これまで、公園緑地設計家、落語など伝統芸能を専門とされている文学研究者、都市のサイン計画から教育環境までを扱うデザイナー、美学者、古文書を読みこなす歴史家、ワークショップのファシリテーター、ヨーロッパ美術史家などなど、専門をまったく異にする教員たちが、しかし共通の理念をもって、芸術教養学科の教育に携わってきました。同じ分野の専門家が集まっている、普通の大学の研究室とは全く違うのです。

このことは、芸術教養学科の学びの広がりと関わりを持っています。芸術教養学科は何を学ぶところなのか、なかなかわかりにくいところもあるかもしれません。ただ言えることは、他大学の工学系学科がやっている「デザイン思考」教育とは、かなり違ったことをしているのだということです。伝統文化を同時に学ぶ、というのもそうなのですが、もっとわかりやすくいうと、「人間が行ってきた創造のすべてを扱う」ということなのです。そこに教員チームの幅広さが関わってくるのです。

ここでは、有名な芸術家やデザイナーとその作品について考える、というだけでなく、無名の人がつくった街並みや、地元のお菓子、里山や棚田の美、マーケットの運営といったものも対象にします。人間の創造性が関わった、「よいもの」について考えるための、視点と方法を学ぶのです。本質的な「デザイン思考」は、先端的なデザイナーのオフィスだけでなく、人々のそうした営みの中にも見出されるものなのです。

この学科の学びは、人間の営み全般に対する洞察力を与えます。これはすぐに仕事に役立つことももちろんあるのです(そういう感謝の声も多く寄せられます)が、それだけでなく、その後の人生じわじわ効いていくことは間違いないと思います。「ものの見方」が変わるのですから。

多数の人々が、それまでと異なったまなざしを身につけていく。そうした人々が日本の、世界の各所で何かを変えていく。芸術教養学科はそうしたことを可能にする学びの場なのです。これは、この京都芸術大学が長く志してきた、藝術立国・京都文藝復興の理念をそのまま体現したものでもあるのです。

ここで公開されている卒業制作レポートは、出来不出来はありますが、いずれもそうした学びの成果です。もしかしたらよくご存じの場所等について書かれたものもあるかもしれません。しばしご覧いただき、この学科から巣立った者たちの「まなざし」のありようを共有していただければ幸いです。

芸術教養学科 学科長 下村泰史