かなまら祭りの目的と、その成果について

木村和晃

かなまら祭りの目的と、その成果について

1.はじめに
神奈川県川崎市にある金山神社では、毎年4月に男根を祀った神輿が巡幸する<かなまら祭り>がおこなわれている。卑猥な祭りとしてとらえられることが多く、奇祭に分類されることも多い。本報告書では、なぜこのような祭りがおこなわれているのか、祭りの本質や目的は何かについて調査する。また、その本質や目的を達成するにはどのような取り組みがおこなわれ、その目的が達成されているかについて報告する。あわせて、同様の祭りとの比較をおこない、特筆すべき点についても報告する。

2.かなまら祭りについて
かなまら祭りは、神奈川県川崎市にある金山神社でおこなわれている商売繁盛や性病避けなどを祈願した祭りである。神輿に男根を祀っているため、奇祭に分類されることも多い。海外では、<歌麿フェスティバル*2-1>として知られており*2-2、毎年多くの外国人観光客が訪れる。祭りの基本データは、次の通りである。

開催場所:金山神社(神奈川県川崎市川崎区大師駅前2-13-16)
開催日 :毎年4月の第一日曜日
ご利益 :商売繁盛・子授け・夫婦和合・性病避け
式次第 :
祭り前日 18:00-21:00
1)宵宮…翌日の祭りの安全を祈願する。また、<おぶっく>と呼ばれる陰陽の形をしたお供え餅を造る。
2)観桜会…花見やカラオケ大会をおこなう。
祭り当日 10:00-16:30
3)例祭…神徳が讃えられ、各種祈願をおこなう。
4)神輿御霊入れ式…面掛け行列に参加する神輿に、御霊を乗せる。
5)大根削り…神前に供える男根・女陰を大根で作る。
6)面掛行列…神輿の巡幸がおこなわれる。神輿は、エリザベス神輿、舟神輿、かなまら大神輿の順で巡幸がおこなわれる。これらの神輿には、男根のご神体が上を向いて祀られている。
7)奉納演芸…境内にござが敷かれ、盛大な宴会がおこなわれる。そこでは、大根削りの大根などがオークションにかけられ、歌や踊りの演芸などがおこなわれる。

3.かなまら祭りの特徴
祭りの特徴として、<男根の神輿>が上げられる。金山神社の祭神は、<金山比古神>と<金山比売神>であり、鉱山や鍛冶にまつわる鞴の神様である。また、御神体は<かなまら様>と呼ばれる金属の男根である。御神体が男根になった理由は、刀を鍛える際に使う鞴の動きが、男女和合のイメージと結びついた為といわれている*3-1。このため、男根が神輿に祀られている。巡幸する神輿は三基あるが、特に目立っているのは<エリ
ザベス神輿>である。エリザベス神輿は、女装クラブ<エリザベス会館>会員監修のもとで造られた作られたピンク色をした巨大な男根を載せられた神輿である。エリザベス神輿のきっかけは、1987年に神田(現在は浅草橋)の女装クラブ<エリザベス会館>の浅野温子氏が、手作り神輿を抱えて面掛行列に参加したことからはじまる。その翌年に、献血血液の輸血を受けた40代男性のエイズ発症例が報告され、WHO(世界保健機構)は、エイズ僕滅と偏見差別解消の為<世界エイズデー>を提唱する。これを知った中村博彦宮司は、かなまら祭りの御利益に現代的な解釈として<エイズ除け>を加えることを考える。そして、1989年にエリザベス会館側に打診を行い、エリザベス会館の会員が組織として参加することになったのである。その時に、舁がれる神輿として作られたのが、エリザベス神輿である。よって、エリザベス神輿は、エイズ除けを祈願し、またエイズへの正しい知識を広め<性の大切さを伝える>という目的を持った重要な神輿となっている。

4.金山神社とかなまら祭りの歴史
かなまら祭りがおこなわれている金山神社の創建や歴史に関しては詳しい記録が残っていないため、詳細は不明である。しかし、江戸時代から祀られており、その当時から<木製の男根>や<松茸の絵馬>が奉納されてことは確かである。*4-1 大正十三年には、鉄道の敷設に伴い、若宮八幡宮の境内に遷座されることになった。その若宮八幡宮には社務所がなく、また森に囲まれていたためほとんど人目につくことはなかった。そのため、木製の男根などの性的な奉納物の盗難が相次いだ。そして、昭和の頃になると性的な信仰は忘れ去られてしまう。その後は、川崎の工業地帯の発展に伴い、鉄鋼関係の守護神や、鞴祭りの祭神としての色合いが強くなっていく。さらに、第二次世界大戦で社殿や資料が焼失すると、性的な信仰は完全に忘れ去られてしまい、神社自体もさびれてしまった。しかし、1960年頃から性的な信仰が残る神社として、海外の民俗学者などが訪れるようになる。これをきっかけに、中村博彦宮司が信者組織である<かなまら講>を1977年に組織する。そして、翌年には神社復興を願い江戸時代の<地べた祭り*4-2>を復活させる。さらに、男根神輿や面掛行列等も取り入れ、現在のかなまら祭りの姿となったのである。

5.他の祭りとの比較
かなまら祭りのように、男根を祀る祭りは全国に数多く存在する。その中でもかなまら祭りと同様に有名な祭りに、<豊年祭>(愛知県小牧市)と<ほだれ祭り>(新潟県長岡市)がある。これらの祭りと比較したものが、表1である。男根を神輿に祀るという点では、3つの祭りは共通している。また、祈願する内容に関しても、<子孫繁栄>は共通している。しかし、<五穀豊穣>の祈願に関しては、かなまら祭りでは祈願されていない。豊年祭は<豊かな実りの年になるように>、ほだれ祭りは<稲穂が垂れるほど豊かに実りますように>という意味が名前に込められているように、五穀豊穣を予祝する祭りだからである。*5-1 一方、かなまら祭りは、花見を兼ねて大地から春の芽吹く生命の力を取り入れて梅毒治癒を祈願した<地べた祭り>が元になっているため、五穀豊穣は祈願されていない。この他にも特筆すべき点として、神輿の男根の形状や向きがある。かなまら祭りでは、睾丸が付いた男根が上を向いて立てられている。一方、豊年祭とほだれ祭りでは、男根のみが横たわっている。この違いは、それぞれの祭神が影響していると考えられる。かなまら祭りの祭神は、<金勢神>である。この名前の通り、<金>は金色の輝きを、<精>は勢を示し、精力絶倫な男根を意味している。このため、精力絶倫を示す為に、男根は上を向けて置かれていると考えられる。しかし、男根だけでは、激しく動かす神輿の上では安定性に欠ける。そこで、男根の根元に睾丸を付けることで、設置面積を広げて安定性を保っていると考えられる。一方、豊年祭やほだれ祭りは金勢神ではないため、精力絶倫を示す必要がない。さらに、男根に触れることによって、子宝に恵まれるという利益信仰もある。このため、男根は横たえられており、睾丸もついていないと考えられる。以上のように、同じ男根を祀る祭りであっても、祈願している内容や神輿の男根の状態など、かなまら祭りは特筆すべき点が多い。

6.まとめ
かなまら祭りは、金山神社を復興すべく、当時外国から注目されつつあった<性信仰>を取り入れた祭りを復活させたものである。当初はほとんど参拝者が集まらず、批判する声が多かったが、2014年には5万人もの見学者が集まる大きな祭りとなっている。また、海外では<歌麿フェスティバル>としても有名であり、<Lonely Planet>が選ぶ世界10大祭りにも上げられている。*6-1 よって、神社復興の目的は果たせたと言え
る。しかし、ろくでなし子とかなまら祭りを同一視する風潮からもわかるように*6-2、 <性の大切さを伝える>というもう一つの目的を果たしたとは言い難い。祭りの本質を理解していなくても、祭りを楽しむことはできるという声もある。しかし、祭りの本質を知らず誤った認識が浸透してしまったままでは、<こんな卑猥で野蛮な祭りは、中止すべき>として、中止に追い込まれる可能性も考えられる。性の大切さを伝え、かなまら祭りを続けていく為には、日本国内はもちろんのこと、外国に対しても祭りの本質や目的を伝えていく努力が必要である。その手法としては、現在取り組んでいるFacebookやYouTubeへの投稿を、祭りの時期だけでなく定期的に、また日本語だけでなく外国語でも投稿し続けていくことが重要である。

  • 987383_8261d6c3f624448aa097c2e40faba5ac 表1 男根を祀る祭りの比較 (出典の写真の閲覧日はすべて2015.1.28)
  • <Webでは掲出せず>
    エリザベス会館の会員に舁がれ、街中を巡幸するエリザベス神輿
    出典:http://hatoblog.com/blog-entry-425.html (閲覧日:2015.1.30)

参考文献

*2-1 海外で<歌麿フェスティバル>と呼ばれている理由として、浮世絵の春画が影響していると考えられる。欧米では、日本の浮世絵の春画は、その美しさと過激な描写で有名である。この春画は、喜多川歌麿から名前をとって<ウタマロ>と呼ばれており、これが転じて男根のことも<ウタマロ>と呼ぶようになったと考えられる
*2-2 2014年度かなまら祭りポスター
*3-1 中村 博彦「金山神社と性信仰について」、P7、若宮八幡宮、1995
*4-1 中村 博彦「金山神社と性信仰について」、P1、若宮八幡宮、1995
*4-2 地べた祭りとは、私娼であった飯盛女たちが梅毒などの病難除けを祈願して、地べたに座して夜宴をおこなった祭りである。明治時代に入ると、西洋文化の流入や陰祠邪神廃止などもあり、廃れてしまった
*5-1 杉岡 幸徳「大人の探検 奇祭」、P150、実業之日本社、2014
*6-1 World’s 10 best festivals(閲覧日:2015.1.25)
http://www.lonelyplanet.com/travel-tips-and-articles/76237
*6-2 外国メディアから疑問の声“ろくでなし子事件は男女差別”(閲覧日:2015.1.25)
http://www.tokyo-sports.co.jp/nonsec/social/291768/
金山神社facebook
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https://www.youtube.com/channel/UCLbTaWJ-TerkCvbYoo2Eo3g