町田市「大賀藕絲館」(おおがぐうしかん)の蓮糸の稀少価値

塩路 恵利子

       町田市「大賀藕絲館」(おおがぐうしかん)の蓮糸の稀少価値

1.はじめに
 町田市の下小山田に「蓮」が咲き乱れており[写真1]そこの管理をして様々なものに加工し販売している大賀藕絲館という社会福祉法人施設があることを知った。[写真2]その事業内容は、蓮の茎からとれるハス糸から作られた作品を販売したり、蓮そのものを加工したりと多岐にわたる多種多様な品々を障害者の方々の仕事として成立させている。その他農業やお菓子の製造販売も手掛けており、充実した活動や作業が用意されている。
 このように伝統工芸を通じて、地域の福祉事業を展開している町田市の取り組みの内容を掘り下げ、他の地域との比較や今後の展開について考察を試みるものとする。

2.所在地    
 大賀藕絲館 東京都町田市下小山田町3267番地
 蓮田    東京都町田市下小山田町3029近辺(小山田神社付近)

3.町田藕絲織(ハス織)の歴史
 1951年(昭和26年)に故大賀一郎博士(1883年~1965年)(日本の植物学者)の指導の下に千葉県検見川遺跡から二千年前昔のハスの実が3個発見された。そのうち1個だけが発芽に成功し「大賀ハス」として一躍世界的に有名となった。博士の記述より《科学論文選集》ヒントを得て、1978年(昭和53年)に大下勝正前町田市長が多くの市民の協力のもと藕絲(ハス糸)の採糸実験が行われ、障害のある方の仕事にする働く場づくりを考案した。(1)また紅花と言えば、山形が有名であるが町田で紅花栽培を行い、染料の黄、ピンク、赤などの花餅を毎年作っているのはこちらの藕絲館であり[写真4]ハス糸を花餅で染めて、それを横糸に、縦糸には絹糸を使用して「町田藕絲織」の商品登録を行い、香袋などを制作したことから事業は始まった。採取した後の不要となったハスの茎を利用して和紙にも転用したり、果托を押しつぶして銘々皿に加工したり、その他の加工品も考案して販売するようになった。[写真3]
 現在、大賀藕絲館では蓮の様々な種類約100鉢を育て、夏にはたくさんの花を咲かせる蓮田にて蓮を存分に味わう「蓮まつり」を毎年7月末頃開催し(今年は見送り)、五感を使って蓮を味わい、香りや色彩を感じられるイベントとなっている。「紅花まつり」も毎年6月に開催し紅花染めなどの実践体験など好評のようだ。

4.特色
  「蓮」は仏教との縁は切っても切れず、仏像は蓮華座といわれる蓮の花の台座にすえられる。もっとも有名な念仏のお題目である「南無法蓮華経」は、仏法そのものが蓮の花に例えられている。そんな「蓮」は、記紀や万葉集をはじめとした日本の名だたる上代古典に登場し、飛鳥時代には藕糸で織られた曼荼羅図が新羅より謙譲されたとの言い伝えがある。また国宝である「綴織当麻曼荼羅図(當麻曼荼羅)」は、奈良県葛城市の當麻寺で、藕糸により織り上げたものである、とする伝説が残っている。実際にはこの掛け軸は藕糸ではなく絹により織られていることが判明したが、ハスは尊いものであるとの信仰があるがゆえに生まれた伝説であるといえよう。(註1)よって有名な神社や寺では欠かせない「蓮」の存在は全国いたるところで栽培育成されているが、ハス糸を採取して製品化しているところはほとんどないといってよい。そこで何故、他では蓮糸の採取がなされないのかを紐解くカギを現大賀藕絲館の施設長 清水 愛さんより教えていただいた。蓮からとれる糸には「茄糸」と「藕糸」の二種類がある。「茄糸」の作り方だが、採取する工程は、茎を長さ4,50㎝程の長さに切りそろえ、大きな窯で苛性ソーダとともに約二時間ほど煮立てる。すると、繊維だけが残りそれを乾燥させ手で撚っていく。とても細かくて気の遠くなる作業である。(参5、6)この工程で使用する苛性ソーダの後処理が難しいのだという。しかし、この施設は公的な機関(町田市)で扱っているのでその後始末ができるのであるとのことであった。外国ではミャンマーのインレイ湖近郊で、採取が盛んであり、ここでは縦糸も横糸も蓮絲を使用した製品が作られている。また、ここから蓮絲を仕入れ、日本独特の紡ぎ方で糸を紡ぎ、縦糸も横糸も蓮絲の着物と帯を作成した作家もいるそうである。絹糸や紙子の製品より軽く丈夫だという。
 次に「藕糸」であるが、採取量が40キログラムの茎から、わずか2グラム程度しか取れないので生産性が低い事から、他施設等では断念されているのであろうかと思われるが、大賀藕絲館では糸を紡いだりそれを織物にする労働者が障害者であることから地道にコツコツと作業できるので成り立っていると考えられる。(これは「茄糸」にもいえよう)
 このように稀少なハス糸を紅花で(紅餅に加工後)染色し、様々な製品を販売しているのは日本国内でも珍しいと思われる。

5.今後の展望と考察
 現状では近くに住んでいるものでも存在すら知らない素敵な蓮田なのである。筆者も10年近くたってから存在に気付いた。しかしこの蓮田を公園化し多くの人が訪れやすいように市で計画をしているそうである。そうなれば存在も周知され市外からも訪問される確率も増えるであろう。また、この近くには同じく町田市管轄の「薬師池公園」(菖蒲が有名である)や「町田ボタン園」「町田リス園」がある。自然が多く残っており四季折々に楽しめる場所がいくつも存在する町田市の名所の一つに加えられそうだ。蓮糸の稀少価値や紅花の取り組みなど公的なバックップのある面からも手伝い、さらなる発展が期待できるであろう。また、一連の作業を障害者の方々の各々の能力に応じて割り振り、就労施設としても拡大されていくであろうと思われた。筆者は2017年に紅花の採取のボランティアに参加し、働いている障害者の方に交じり天然素材を使った紅花染めも体験し、とてもほんわかしたピンク色に染まったマフラーに感激し、蓮まつりでは「ハスの実ケーキ」を堪能し、蓮の果托を購入して装飾品を作成した。[写真7]この経験を友人たちに語りその後、一緒に再度ボランティアで蓮の収穫をおこなった。筆者のように口コミや、この施設の存在を広めるため市の広報などでアナウンスがされており、今後ますます町田市の魅力が伝わることを願うばかりである。

  • %e5%86%99%e7%9c%9f2 写真2  2021 6 23 筆者撮影
  • %e5%86%99%e7%9c%9f1 写真1  2017 7 27 筆者撮影
  • %e5%86%99%e7%9c%9f3 写真3  2021 6 23 筆者撮影
  • %e5%86%99%e7%9c%9f4 写真4  2017 7 27 筆者撮影(紅花の仕分け作業に参加)
  • %e5%8f%82%e8%80%835 参5 2021 6 23 筆者撮影
  • 20210629190631_page-0001
  • 20210629190631_page-0002 参6 2021 6 23 筆者撮影
  • %e5%86%99%e7%9c%9f7 写真7 2021 7 29筆者撮影

参考文献

参1 町田市育成会https://machida-ikuseikai.net/about/index.html
参2 「日々好日」 編集 ㈱ウイズ 印刷 猪瀬出版
註1  https://tenki.jp/suppl/kous4/2018/07/12/28275.html

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