『東京メトロ銀座線1000系(1001号車)』—国の重要文化財に指定されている価値と電車車両における文化継承—

柳澤 寿江

はじめに
日本の交通機関サービスは、世界の中でも突出して優れたものである。特に都市部の電車については、地下鉄・私鉄・JRの乗り換えもしやすく、多数の沿線が交錯し利便性がますます進化している。日常生活に欠かすことのできない様々な沿線があるが、東京メトロ銀座線の初期車両は国の重要文化財に指定されており、近代化産業遺産と機械遺産にも認定されている。電車の車両が重要文化財に指定されているとはどのようなことなのか。そして時代とともに進化していく中で文化の継承を見ることはできるのだろうか。これらの観点から調査を進めていく。

1)銀座線の歴史
1927年12月30日 東京地下鉄道 東洋初の地下鉄として営業開始
区間 淺草〜上野 2.2km
1941年 7月4日  帝都高速度交通営団(呼称:営団または営団地下鉄)設立
1953年 12月1日 浅草—渋谷間の路線名を銀座線と決定
2004年 4月1日  民営化により、東京地下鉄株式会社(愛称:東京メトロ)設立
2009年 2月6日 銀座線1000系(1001号車)近代化産業遺産
2017年 8月7日  銀座線1000系(1001号車)機会遺産に認定
9月15日  銀座線1000系(1001号車)国の重要文化財に指定
12月30日 地下鉄開通90周年

東洋初の地下鉄が開業したのち、戦争による被害も受けているが、復興を果たし、高度経済成長期を経て安定した。しかしながらバブル経済崩壊後、民営化され現在に至る。

2)世界初の地下鉄と東洋初の地下鉄について
東洋初の地下鉄は日本であったが、世界初の地下鉄は、英国ロンドンメトロポリタン鉄道のパディントンからファリンドンであり、走行区間は6.4kmであった。1863年1月に開通したこの地下鉄車両は、蒸気機関車で1905年に電化となった。(添付資料1) このメトロポリタン鉄道の名が後に日本で地下鉄をメトロと呼ぶ語源になっている。また東京とロンドンの地下鉄路線図は非常に似ている。(註1,2) (添付資料2,3)
英国の地下鉄は、日本の地下鉄に影響を与えているのはなぜだろうか。日本で地下鉄の事業化を進め、後に「地下鉄の父」と呼ばれる早川徳次が、ロンドンを訪れた際に目の当たりにした地下鉄に対して衝撃を受けたことによる。ロンドンの都市を走る地下鉄は網の目のように発達しており、都市における交通は地下鉄だと確信したことで、英国の地下鉄から多大な影響受けて日本の地下鉄事業を進めたことによるものである。また、これは日本だけに限らず、ロンドンで世界初の地下鉄が開通してから150年以上たった現代では、世界100以上の都市で地下鉄が走っており、日本国内では9都市41路線の地下鉄が走っている。

3)電車車両が国の重要文化財に指定されていることへの評価
日本初の地下鉄車両は、東洋初として走行した銀座線1000系の第1号・1001号車である。(添付資料4) この車両が国の重要文化財に指定されている。(註3) (添付資料5)
国の重要文化財に指定されるとはどのようなことなのだろうか。文化庁が提言しているのは、文化財保護法より文化財を6つの定義「有形文化財」「無形文化財」「民俗文化財」「記念物」「文化的景観」及び「伝統的建造物群」とし、国が重要なものを指定し選定と登録を行うことで重点的に保護するとういうことである。(註4)そして指定されることにより現状を維持し、変更に於いては制限されることとなるが、維持のための修理や保護については補助を受けることが可能となっている。指定された銀座線車両1001号車は現在も走行しているわけではない。復元された車両が地下鉄博物館で保存されているため、維持はそれほど大変ではなく沢山の人々の目に触れ、重要文化財に指定されていることが認識されていくことは、利点であると考えられる。(添付資料5)
展示により車内の様子も見ることができ、近代的な構造とお洒落なデザインとなっているが、これだけの理由で重要文化財に指定されているわけではない。当時、他の鉄道車両はまだ木造や半鋼製がほとんどであったが、銀座線車両は火災の危険を避けるため、窓枠やドア等の一部を除き全鋼製でつくられた。内部についてのこだわりも強く、車内照明は影ができない柔らかな光の関節照明を取り入れ、吊手は走行中に揺れないバネ式で未使用時には跳ねあがるリコ式が採用された。座席は、緑色で乗り心地の良さを追求した良質のモヘアブラシが張られていた。(添付資料6)車両の動作・内装・外観全てが当時の最先端技術を駆使された先進的な乗り物であった。また車両だけではなく、制服や駅の装飾、改札に於いてはターンスタイルと呼ばれる自動改札機が設置されていた。(添付資料7) 歴史的にも画期的な出来事であり、人々が押し寄せたのも納得がいく。海外を視察して得た知識が生かされているのは明らかであるが、全て模倣ではないところが日本らしさであることの一つであろう。昔から日本人は海外から得た情報を独自のものに変化させることが得意である。伝統を守りつつ新しいものを吸収し、さらに進化させ伝統を紡いでいる。日本初の地下鉄もまさにそうであり、広く知れ渡るためにも国の重要文化財に指定されていることは、大変評価のできることであると考えられる。
開業から90年の2017年に国の重要文化財に指定され、それ以前に経済産業省の近代化産業遺産、機会学会の機械遺産に認定されたのは、技術と功績によるものであるが、これらの事実を広めていくことによりさらなる日本の技術向上につながっていくであろう。(添付資料8)

4)今後の展望
開業から90年以上の月日が流れている間に車両も変化を遂げている。駅の区間も伸び、車両も増え、時代に合わせた技術も取り入れられているが、規格は1000系に準じているものが多い。長期間に渡って受け継がれているが、時に大きな変化を遂げることもあった。1983年に当時の最先端技術を取り入れられた車両が開発され近代化進んだ。車両本体の色も黄色からシルバーになるなど、イメージチェンジを図ったとされている。しかしながら、2012年になると日本の地下鉄の原点である車両1000系を再度導入し、省エネやバリアフリー化などのサービス向上として原点回帰している。
変化を遂げた後、また原点にも戻るというのは、ファッションのように10年周期で過去に流行したものが戻ってくるような感覚に似ている。当時の良さを取り入れ、現代に合わせて新しいものとなっていく。伝統の中に変化を取り込みつつ継続されていることを電車車両でも見ることができるとは、今まで考えたことがなかった。
日本初の地下鉄車両に準じた現在の車両デザインはオリジナルに近いが、最先端技術を搭載して走行している。デジタルモニターが車両に取り付けられ、日本語だけではない言語も表示され、アナウンスも他国では見られないほど親切で他言語にも対応している。また、特別車両として当時のデザインのままの特別仕様車が時々走行しており、過去において最先端であった車内の雰囲気を実感できる。
今後も最新デジタル技術の向上とともに進化を遂げていく交通手段の一つであるのは明らかであるが、近年よく耳にする持続可能な社会というサステナビリティを取り組みに入れていくことも東京メトロは掲げている。(註5)日本初の地下鉄は、利便性だけでなく環境や社会の流れにも配慮がされ、継続して私達の日常に欠かすことのできないものとして存在するに違いない。

5)まとめ
時代に合わせた車両を開発し安全かつ正確な運行がされているからこそ、私達も日々安心して利用することができる。
今回は電車の車両がなぜ国の重要文化財に指定されているのかということであったが、何かにつけ初というのは、完成までに大変な道のりがあり、それを乗り越えて人々に受け入れられ、各時代の技術やデザインだけではなく利便性や経済発展への貢献なども考慮された上で更に新しいものが生み出されている。価値あるものは受け継がれ、後世に残されるべきであり、国の重要文化財として指定されるシステムがあるということは有意義なことである。
新しい事へ取り組む上で過去の歴史を知ること、伝統を受け継ぐこと、そして時代に合わせて伝統を進化させていくことへの過程の一つとして、国の重要文化財を知ることは、重要な手がかりになることが明らかとなった。

  • 73131_1 添付資料1 英国世界初の地下鉄車両模型 ©:地下鉄博物館 (2021年6月5日 筆者撮影)
  • e6b7bbe4bb98e8b387e696992_page-0001 添付資料2 東京地下鉄路線図 東京メトロ 地下鉄路線図
  • e6b7bbe4bb98e8b387e696993_page-0001 添付資料3 ロンドン地下鉄路線図 一般社団法人日本地下鉄協会 ロンドン地下鉄路線図
  • 73131_4 添付資料4 日本初の地下鉄車両1001号車について ©:地下鉄博物館(2021年6月5日 筆者撮影)
  • 73131_5 添付資料5 銀座線1000系の第1号・1001号車 ©:地下鉄博物館(2021年6月5日 筆者撮影)
  • 73131_6 添付資料6 銀座線1000系の第1号・1001号車 車内 ©:地下鉄博物館(2021年6月5日 筆者撮影)
  • 73131_7 添付資料7 ターンスタイルの自動改札機 ©:地下鉄博物館 (2021年6月5日 筆者撮影)
  • 73131_8 添付資料8 国重要文化財・機械遺産認定プレート ©:地下鉄博物館(2021年6月5日 筆者撮影)

参考文献

<註>
註1:東京メトロ 地下鉄路線図 2021年7月11日閲覧
https://www.tokyometro.jp/safety/barrierfree/pdf/03-04.pdf

註2:一般社団法人日本地下鉄協会 世界の地下鉄イギリス ロンドン地下鉄路線図 2021年7月11日閲覧
http://www.jametro.or.jp/documents/world/railmap/2015_london_map.pdf

註3:東京メトロ ニュースリリース国の重要文化財指定へ 2021年5月23日閲覧
https://www.tokyometro.jp/news/2017/188101.html

註4:文化庁 政策について 文化財 概要 2021年6月29日閲覧
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/gaiyo/

註5 :東京メトロ サステナビリティに対する考え方2021年7月2日閲覧
https://www.tokyometro.jp/corporate/csr/thinking.html

<参考文献>
編集 マイナビ出版編集部『徹底カラー図解 東京メトロのしくみ』、株式会社マイナビ出版、2017年

著者 渡辺雅史『銀座線の90年』、株式会社河出書房新社、2017年

編集 齋田令子『るるぶ銀座線』、JTBパブリッシング、2017年

編集 メトロ文化財団『地下鉄のはなし All about the Metro』、メトロ文化財団、2020年

東京メトロ ニュースリリース 国の重要文化財指定へ PDF版 2021年5月23日閲覧
https://www.tokyometro.jp/news/images_h/metroNews170310_26_2.pdf

一般社団法人 日本地下鉄協会 世界の地下鉄イギリス ロンドン 2021年6月21日閲覧
http://www.jametro.or.jp/world/uk.html

文化庁 政策について 文化財 2021年6月22日閲覧
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/index.html

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