人をつなぐ、熊山英国庭園

大谷 見矢子

1、はじめに
岡山県内には熊山英国庭園と深山イギリス庭園の2つの英国式庭園が存在する。
熊山・深山両庭園は植栽[1]の基本として、ウィリアム・ロビンソン(1838-1935)が提唱した「野生の庭」[2]の思想を取り入れ、自然と共生する庭としてデザインされた本格的な英国式庭園である。
本稿は、両庭園の比較から岡山県赤磐市にある熊山英国庭園の特筆すべき点を示し、文化資産としての価値を考察する。

2、基本データ
2-1、熊山(くまやま)英国庭園(以下「熊山」という)
コンセプト :「周辺の環境・文化的背景との調和」
所在地 : 岡山県赤磐市殿谷170-1(旧小野田小学校跡)
敷地面積 : 約8,000㎡(建物含)
入園料 : 無料
庭園デザイン・監修 : ケイ山田[3]
施設管理・運営 : 赤磐市
開園 : 2000年4月
入園者数 : 37,455人(2018年度)

2-2、深山(みやま)イギリス庭園 (以下「深山」という)
コンセプト : 「20世紀の伝統的なイギリス庭園」
所在地 : 岡山県玉野市田井2-4490 深山公園[4]北側部分
敷地面積 : 約7,500㎡
入園料 : 有料[5]
庭園デザイン・監修 : ピーター・サーマン[6]
施設管理・運営 : 玉野市/公益財団法人玉野市公園緑化協会
開園 : 2000年8月
入園者数 : 17,049人(2018年度)

3、庭園概要
3-1、熊山英国庭園について[資料1] [資料2]
熊山は周囲を山と田畑に囲まれ、付近には詩人永瀬清子[7]の生家や熊山遺跡[8]などがあり、豊かな自然と文化を継承するまちに存在する[資料4-図1]。
古くから地域に愛された廃校を活用し、植物の成長を自然のペースに任せたコテージ・ガーデン[11]がデザインされ、素朴でアットホームな雰囲気の庭である。ガゼボ[9]を中心につくられた英国式の庭園は、綿密に計画された植栽によって四季折々の植物が楽しめる[10]。また、奥の旧校舎はイベントや市民活動の場として活用されている。
さらに、2018年には癒しをテーマにした体験棟[12]を新設し、2021年から地域おこし協力隊[13]が活動を始めた[14]。
熊山は、ガゼボを中心に庭園空間や体験工房、周囲の借景へと人々の視線が水の波紋のように広がり、再び中心のガゼボに戻るといった自由な動線が特徴である[資料5-図3]。

3-2、 深山イギリス庭園について[資料3]
深山のある玉野市は岡山県南部に位置し、芸術と瀬戸内の自然を堪能できる観光資源が豊富なまちである[資料4-図2]。
1995年、玉野市は市制60周年を機に玉野の自然美を基調とした英国庭園の建設を計画し、イギリスでも著名な庭園技師に設計・監修を依頼した[15]。
深山公園の自然を借景にシシング・ハースト城[16]の庭をモデルとし、アウトドア・ルームズ[17]という手法で庭園をデザインしており、非日常でぜいたくな時を過ごせる庭である。そのため、ウェディングの前撮りなどに訪れる人も多い。
また、深山はフォーカルポイント[18]を設定し、人々が自然に誘導され庭園内を巡るよう設計されている[資料5-図4]。

4、熊山の歴史的背景
熊山地域は4〜5世紀頃に栄えた古代吉備国の東端に位置しており、この地の人々は自然と共存する暮らしを営んできた[19]。
オールドローズを中心に庭園スタッフが丁寧に手入れする庭は、かつて、子どもたちがかけまわり、住民に親しまれた小学校の校庭である。明治時代には戦死者の村葬がこの校庭で執り行われたという。その後も学校は地域の人々の暮らしの拠点とされてきた[20]。
1990年代後半、旧熊山町(現赤磐市)は人と自然の共生思想に基づき「全町公園化事業」重点プロジェクトを施策した[21] 。その具現化による人々の憩いとふれあいの交流拠点として、里の風景を活かした廃校利用について思案した結果、ケイ山田にデザイン監修を依頼し、「熊山英国庭園」が誕生した[22]。
開園当初は第三セクター[23]による運営で、庭園ウエディングなども行われていたが運営会社が解散、2005年より赤磐市が運営を行っている。途中、閉鎖の案が浮上したが地区住民の協力により、存続することとなった[24]。
2013年、地区住民有志が正式に「熊山英国庭園活性化委員会」[25]を立ち上げ、市民と庭園をつなぎ熊山の活性化に尽力している。
それにより、庭園を活かした活動を市民が独自に始め、自らが楽しむことによって周囲の人と庭園をつなぐハブとなり入園者も増加している。

5、評価する点
熊山の植栽の特徴は風土に順化した四季折々の植物が絵のような色彩のバランスで育てられていることである。さらに山から降りてくる風に乗って自然の香りが嗅覚に働きかけ、季節によって移り変わる彩りや鳥のさえずりが五感を刺激する。ここで評価したいのは「かおりの空間」で五感を育みながら英国式庭園を気軽に楽しめることだ。
来園者のひとりは「ここに来ると昔読んだ本の世界を思い出し、癒され、時を忘れる」という[26]。 哲学者のアンディ・クラーク[27]によると「心は脳と身体と環境との相互作用によって創発するもの」であるという[28]。庭園スタッフは「コロナ禍で大変だが、日常を少し忘れてホッとできるような空間をつくり、心身ともにみんなが健康でいられるように」と、毎日愛情を込めて庭を育て、予算削減に努めながら来園者に寄り添っている。
このように熊山は、周囲に広がる山々と民家や田畑を借景とし、自然と空間の調和によって中心性をもち、人々に安心感を与えていることから、川添善行[29]が述べる「空間のへそ」[30]がガゼボを中心に生みだされている場所だといえる。

6、特筆すべき点
熊山において特筆すべき点は、英国のコッツウォルズ[31]を思わす景観の庭に旧小学校の面影を、美しく融合させていることである。
深山は英国から取り寄せた噴水や彫像 [32]などを設置し、ラグジュアリーを楽しむ空間に対して、熊山は廃校跡に残された備前焼の二宮金次郎像などが素朴な懐かしさと癒しを与えている。
さらに、非日常の庭と旧校舎を活用し、人々が学びや趣味の時間を共有することで新しいコミュニティを創造していく「時間のデザイン[33]」が多元的に生み出されている。そのひとり、庭園近くに住む黒住さんは仲間と旧講堂でLPレコードの会を主催している[写真3]。黒住さんは「自分たちの楽しみに人を巻き込み、ここが誰もがいられる居場所になれば嬉しい」と語る[34]。
かつての小学校は地域の人と祭事や地区運動会などの特別なコトを行うことで、日常の連続する時間を切り取り、意味を与え、人々の心と100年の時をつなぎ地域の拠り所とされてきた。熊山はそれらを引き継ぎ、人々が重ねてきた連続する時間と五感を育む環境によって、この庭園独自の時間を生み出している。

7、今後の展望とまとめ
熊山の課題は「年間を通して楽しめる」という庭園の魅力が十分に伝わっていないことである。これは非常に残念である[35]。
熊山と深山の庭園づくりにおける思想は自然との共生にあり、本来の岡山の豊かな自然について考え学べる場でもある。テーマパークのような空間ではなく、景観や里の自然を尊重したまなざしで庭園を育て続けていることは両庭園の共通点であり、今後においては相互のつながりも期待したい。
また、地域おこし協力隊の戸田さんは「熊山は、交通アクセスが不便であるが、借景による不思議な空気感や都市部では叶えられない人のつながりが魅力的」という[36]。その魅力を多くの人に伝え、かつての集落の中心としての賑わいを創り出すことが存続のポイントとなるであろう。
それには熊山の特徴である「かおりの空間」で地域の人による地域のモノやコトをテーマにしたワークショップを定期開催し、まちの人の第3の居場所として誰でも気軽に利用できる場づくりを提案したい。周囲を巻き込み、親戚の庭に集まるように誰もが安心して参加でき、うちとそとの境目を超えた人の交流を図ることにより新たな発見があると筆者は考える。
さらに、ここで感じた自然の香りを安心感の記憶とつなぎ、プルースト効果[37]で熊山を思い出した時、いつでも戻ってこれる「みんなの庭」としての役割を期待する。
これまで熊山は人々の暮らしの歴史を紡いできた里の自然と西洋の自然様式が融合し、様々な角度で人をつないでいる。この先も自然と共生し創造することで可能性を広げ、赤磐の文化を紡いでいく役割を担う特別な場であり、文化資産として価値がある庭園であることをここに報告する。

  • 72176_1 [写真1]熊山英国庭園正面から見たガゼボ 2021/05/31筆者撮影
  • 72176_2 [写真2]熊山英国庭園ガゼボの中にあるベンチに座って見た風景。2021年5月31日筆者撮影。
  • 1-e7868ae5b1b1e88bb1e59bbde5baade59c92e8b387e696991_otani_page-0001 [資料1]熊山英国庭園写真による資料、筆者作成。
  • 2-e7868ae5b1b1e88bb1e59bbde5baade59c92e6a682e8a681e8b387e696992_otani_page-0001 [資料2]熊山英国庭園写真による資料、筆者作成。
  • 3-e6b7b1e5b1b1e382a4e382aee383aae382b9e5baade59c92e8b387e696993_otani_page-0001 [資料3]深山イギリス庭園写真による資料、筆者作成。
  • 4-e7868ae5b1b1e383bbe6b7b1e5b1b1e5baade59c92e591a8e8bebae8b387e696994_otani_page-0001 [資料4]熊山英国庭園周辺の写真資料[図1]・深山イギリス庭園庭園周辺の写真資料[図2]、筆者作成。
  • 5-e5baade59c92e58b95e7b79ae382a4e383a1e383bce382b8e8b387e696995-e59bb33e383bbefbc94_otani_page-0001 [資料5]熊山英国庭園提供資料(図3)・深山イギリス庭園(公財)玉野市公園緑化協会提供資料(図4)に筆者が観察した動線イメージの矢印を加えた図。筆者作成。
  • 72176_8 LPレコードを聴く会の開催準備をする黒住さん。廃校になった旧小学校の講堂は、当時の面影を残したまま、窓から田園風景と集落を囲む山が見える。まちの人から譲り受けたレコードや黒住さんらが若い頃に聴いたレコードを持ち寄ってストックしている棚から、好きな曲を選んで聴けるように準備している。筆者撮影・撮影日2021年7月18日

参考文献

【註】

[1]植栽:植物の種類や植える場所などを計画しデザインすること。

[2] 中山理の著書によると「イギリス最古の庭園は古代ローマのヴィラであった」とされるが(中山理著『イギリス庭園の文化史』、大修館書店、2003年、P.4)、イギリス独自の庭園様式といえば18世紀以降に生まれた理想の自然そのままを模した「イギリス風景式庭園」である。それまでのイギリスの庭園としては中世修道院の庭、ルネサンス期の古典的楽園思想、社会が安定した16世紀後半には権力の象徴として王宮庭園が出現した。18世紀ごろまでの英国の庭園はイタリア式庭園やフランス式整形庭園の影響を大いに受けるものであった。18世紀頃には整形式を否定し、広大な土地に自然の風景を再現するイギリス独自の風景式庭園が発展したが、その後プラントハンターが英国に持ち込んだ世界中の植物を庭園が競い合うように過度に乱用することに不信を抱く人もいた。19世紀後半、イギリス風景式庭園に異を唱えた園芸家ウィリアム・ロビンソンの思想による「野生の庭」の造園法によって「古き良きイングランド」の理想の庭とされる「コテージ・ガーデン」が、望ましい英国式庭園として主流となった。
ロビンソンは、庭の装飾のために費用や労力を費やし季節ごとに土を掘り返し花を植え直すイギリス風景式庭園の手法に異論を唱え、1870年に自身の著書『野生の庭』を出版。イギリスの在来植物に加え海外に自生する耐寒性のある植物を多大な費用をかけたり特別な世話をしなくても育つ場所に植えることで野生化した植物によって自然の庭をつくることを提唱した。また、飯田操は著書の中で「外来植物であったとしても、それらがイギリスの風土に馴染み、すくすくと育つならば、積極的にそれらを利用すべきだと主張したのである」と述べている。
飯田操著『ガーデニングとイギリス人』、大修館書店、2016年10月10日、P.242

[3] ケイ山田、長野県に位置する蓼科高原バラクライングリッシュガーデンオーナー/ホーティーカルチャリスト/英国園芸研究家/ガーデンデザイナー、フラワーデザイナーとして活躍後、ライフスタイルを提案するブランド“バラ色の暮らし”を設立。ナチュラルなものづくりをコーディネートしている。服の素材を求めてヨーロッパをまわるうちに、英国の庭の美しさに魅せられ、1991年長野県茅野市に日本初の本格的な英国式庭園“蓼科高原バラクライングリッシュガーデン“をオープン以降、英国庭園文化の普及に努める。庭に咲く花をものづくりの中に活かし、日本における”アーツ・アンド・クラフト運動“を目指している。 熊山英国庭園提供資料『熊山英国庭園』、熊山町企画調整室、2000年3月、P.12

[4]深山公園は1970年に玉野市制30周年を記念して地域の特性を活かし、自然と調和した魅力ある公園を目指し整備を進められた玉野市のシンボル公園である。公園内に植付けされた7種7000本の桜や赤松池の白鳥が有名で四季折々の自然散策やバードウォッチングなどを楽しむ人々が年間約165万人程度訪れる人気観光スポットである。深山公園の広大な南側部分は自然の「静」をイメージし、農林水産物直売書・道の駅・イギリス庭園などがある公園北側部分を「動」のエリアとしてデザインされており、人々が自然を楽しみながら自然環境への意識向上と一定のルールによって自然景観を壊さない配慮がなされている。

[5]深山イギリス庭園入園料 [一般]大人(中学生以上)200円、小人(小学生)100円、(小学生以下・障害者無料) [団体]1割引

[6]ピーター・サーマン(PETER・THURMAN;1953年生まれ。イギリスの庭園技師。Merrist Wood 大学-園芸学の国家免許取得。キュー王立植物園-園芸学の免許取得。王立林業協会-園芸学の修士号。園芸学協会の特別会員・外部審査員。キュー王立植物園-講師・審査員。ロンドンのインチボールドスクールの上級講師・審査員。'Thurman Consultancy'(庭園設計,調査,監督コンサルタント会社)代表。樹木栽培,庭園設計について幅広く執筆活動を行う。

[7]永瀬清子(1906-1995)日本を代表する詩人。赤磐市松木(旧熊山町)出身であることから、生家が保存されている。

[8]熊山遺跡:霊峰・熊山の山頂近くにある高さ約三メートルの石積遺構で国指定史跡に指定されている。

[9]ガゼボ:西洋のあずまや。毎年5月中旬から6月中旬ごろにはバラの花がガゼボを覆い見事に咲きほこる。2020年、2021年の2年間はコロナ禍の密を避けるため閉園となったため公開出来なかった。

[10]熊山英国庭園の作庭:自然そのままに周囲の折り重なる山々や田園との調和、廃校となった小学校をできる限り残し周辺の廃屋まで風景の一部に組み込むルーイン・テイスト(懐古主義)の手法で作庭され、その後この地域の気候や気温にあわせて植物が自然に育つように作庭の変遷がなされている。

[11]イギリスの片田舎の田園のコテージに作られた庭。

[12]アロマ棟:アロマやヨガ教室等の体験棟。大きな窓からはハーブガーデンを見渡すことができる。

[13]地域おこし協力隊は都市地域から過疎地域等の条件不利地域に移住して、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援などの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る取組。隊員は各自治体の委嘱を受け、任期は概ね1年以上、3年未満」
総務省HP「地域おこし協力隊とは」
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/c-gyousei/02gyosei08_03000066.html最終閲覧2021.07.18]

[14]地域おこし協力隊員・上村統美さん、熊山英国庭園や周辺地域の活性化活動を担当。上村さんは英国コッツウォルズに住んだ経験を活かし、現在、熊山英国庭園の魅力発信や庭園に因んだイベントの計画を行い、活動を広げている。上村さんへのインタビューでは、「自分は山が好きでここの借景が素晴らしいと思えた。熊山の自然とイギリスの田舎の風景が似ており、地域住民は地元や庭園愛にあふれている。こんなところで働けるのは幸せと思い応募した。この地の素材を活かし、世代間をつなぎ、盛り上げるために活動したい」と語る。2021年6月3日筆者によりインタビューより。

[15]英国庭園技師ピーター・サーマンに本格的なイギリスの伝統庭園設計を依頼し、ピーターには玉野に3か月滞在してもらい、この地の自然を体験してもらうことで深山の自然環境を活かし自然との調和を奏でるよう設計を行い、4年の歳月をかけて完成した。

[16]シシングハースト城;女王エリザベス1世も訪問した装苑。コテージガーデンの中で傑作といわれる南東イングランドの庭園。「偶然の贅沢さ」で溢れた庭。1967年からナショナルトラスト所有。
横明美著『旅するイングリッシュガーデン−図説 英国庭園史―』、八坂書房、2012年11月24日、P.156、P.157

[17]アウト・ドアルームズとは、敷地を部屋(ルーム)に仕切り、それぞれを独立した庭としてデザインする手法。
ここではヘッジと呼ばれるかまくらヒバの生垣で仕切られた6種類のガーデンルーム(水の庭・バラの庭・夏花の庭・暖色の庭・白色の庭・太白桜の庭)を作り、それぞれのテーマに基づいた草花を植栽し、四季を通じて年中楽しむことができ、それらが互いにハーモニーを奏でるように設計されている。6種のガーデンルームに進む手前には、パビリオン・カナール(運河)・彫刻の回廊と続く。

[18]フォーカルポイント:音も含め噴水やオベリスクなどのポイントに視線が運ばれるように設計しているポイント。

[19]「くまやまの「くま」は「中央から隔たった場所、かたすみ」を意味する古語の「隅」にあたることから「隅山」が「熊山」へと転じたといわれています。県下3大河川のひとつ吉井川が潤し、」町の南部には霊峰・熊山がそびえています。町の周囲は緑豊かな山々に囲まれ、四季でそれぞれに色を変える豊かな田園が広がっています。熊山遺跡や石造十三重層塔など、貴重な石造文化財が点在しています」
熊山町企画調整室編『いま開く。「熊山物語」』、岡山県赤磐郡熊山町、2002年2月、P30

[20] 旧小野田小学校について
「小野田小学校の想い出(森定政義さん)。在学中の思い出として一番印象に残っているのは、日露戦争のことで私が2年生から4年生の頃である。(中略)平穏静かな小野田の里も戦勝の喜びに湧いて、(中略)、小野田村から出征した人々の中に6名の戦死者が出た。その度に学校の校庭で戦死者の村葬が盛大に行われた」
「子供とPTA活動。親子遠足−親子のふれあいの機会をできるだけつくるために毎年5月に先生や父兄が一緒に遠足に出かけ飯盒炊爨やゲームをして1日楽しく過ごす」
「仮装行列の出番を待つPTA役員。秋季運動会が毎年10月に行われる。午前中は児童、午後からPTAや各種団体による学区民の運動会となる」
小野田小学校記念誌編集委員会編『小野田小学校創立100周年記念誌』、昭和62年6月30日発行 、P2、P10、P54

[21]第4次熊山町振興計画によると、「旧赤磐郡熊山町(現赤磐市)が「人・モノ・文化の交流するまち」を目指したまちづくりの将来ビジョン実現に向けて人と自然の共生思想に基づき、「全町公園化事業」を重点プロジェクトとして計画した」
熊山町企画調整室編『人・モノ・文化の交流するまち』赤磐市熊山町、平成10年3月、P.78)

[22]熊山英国庭園:1999年、廃校再活用の農業加工施設の建設案に基づいて市の担当者が長野県に視察に行った際に、蓼科にあるバラクライングリッシュガーデンにも立ち寄った。その時に農業加工施設よりもまちの人々の憩いの場としてバラクラのような日常と非日常が交差するような庭園をつくろうという話になりケイ山田にデザイン・監修を依頼した。「庭は何年もの年月を経て庭園として成長するものであるから町民みんなで成長を遂げる様子を支え育てる」という考えのもと2000年4月26日オープン。

[23]コラボレーション熊山有限会社。

[24]熊山英国庭園、閉鎖案から現在に至る流れ:2005年、旧熊山町は市町村合併によって赤磐市となり、同時に第三セクターも解散し、赤磐市が庭園の運営を担った。次第に入園者の減少が起こり、2009年1月の行政改革審議会の答申で閉鎖の方向が打ち出されていたがこの地を大切に思う小野田地区区長一同が「この地が故郷のシンボルでもあり、最近は歴史を語る古文書も提出され、周囲には小野田城趾等の遺跡も点在していることから簡単に廃止されることには耐え難い」(小野田地区区長一同『英国庭園存続についての要望書』、2010年2月22日付)といった熊山英国庭園存続の要望書を赤磐市長に提出、地元・地区の人々が協力し入場者数も増えてきたということから議会で存続が決まった。

[25]熊山英国庭園活性化委員会:熊山英国庭園を活性化する目的で主に旧熊山町小野田小学校区の住民有志でつくった組織。庭園内の定期教室や各種団体が企画するイベントの共催、赤磐市内外の事業者や市民団体が出店するマルシェや管弦楽のコンサート、地域の中学校の吹奏楽部、砂川太鼓、地元の子どもたちの発表の場となるスプリングフェスタ・オータムフェスタ・クリスマスイベントなどを企画・運営し庭園の活性化やPRに努めている。

[26]赤磐市内在住40 代女性、2021年5月14日筆者インタビューによる。

[27]アンディ・クラーク(Andy Clark)1957年生まれ。哲学者。エディンバラ大学教授。心の哲学、認知科学の世界的第一人者。

[28]心の領域の本質についてあらゆる事例とともに提起している。
 アンディ・クラーク(Andy Clark)著、池上高志/森本元太郎監訳『あらわれる存在―脳と身体と世界の再統合』、NTT出版、2012年11月16日、P.88

[29]川添善行(かわぞえ・よしゆき)1979年生まれ。建築家、東京大学准教授。空間構想一級建築士事務所。国内外の受賞多数。

[30]「穏やかな輪郭が重層し、結果として次第に中心性を持つ状態です」
川添善行著、早川克己編『芸術教養シリーズ19 私たちのデザイン3 空間にこめられた意思をたどる』京都芸術大学 東北芸術工科大学出版局 藝術学舎、2020年9月14日、P.59

[31]「コッツウォルズという名は古語で「羊小屋のある丘」、イギリスを象徴する豊かな田園風景が広がるまち。ロンドンの西方へ2時間ほどの穏やかな丘陵地」。また、劇作家シェイクスピア(1564-)生誕の地でもある
TAC出版編集部『ハルカナ ロンドンコッツウォルズ』T A C株式会社出版事業部、2020.2.29、P.159、P.175

[32]ウォーターガーデン(水の庭)中央に深山イギリス庭園のシンボルマークであるトリプルドルフィンの噴水を配置し、水の音は川のせせらぎをイメージしており耳にも心地よい。その先のローズ・ガーデンにも花が咲き誇るイメージの水の音で演出している。経年の変化にも英国と深山の歴史を感じ、癒される。
モニュメント:ミケランジェロのブルータスなど12体の彫刻をシンメトリーに配置している。さらに、随所にフォーカルポイントとしてオベリスクが設置されている。

[33]時間のデザイン:「本来連続した時間をあえて不連続なものとし、切り取られた特定の時間に特別な意味や価値を与えること」。私たちは日常的に時間をデザインし、デザインされた時間の中で過ごしているといえる。
中西紹一/早川克己編『芸術教養シリーズ18 私たちのデザイン2 時間のデザインー経験に埋め込まれた構造を読み解く』京都芸術大学 東北芸術工科大学出版局 藝術学舎、2014年12月17日、P.22

[34]LPレコードを聴く会:毎月第一・第三月曜日の10:30~お昼頃まで自由参加、どなたでも当日出入り自由。昔から音楽やステレオが好きだったという熊山英国庭園近くに住む黒住員久さんと入矢さん(ともに70代)が中心となりレコードプレイヤーやスピーカーを旧小野田小学校の講堂だった多目的ホール内に設置し、庭園の景色とレコードの音を堪能する目的で企画した。音がうまく聴き取れるように椅子の配置などを工夫して準備をしている。コロナ禍の影響でしばらく休んでいたがこれからも周りを巻き込みながら、可能な限り続けていきたいという。大切に扱われるレコード針を落とす瞬間の黒住さんの表情がこの会の楽しさを物語っていた。2021.7.18筆者インタビューによる。

[35]両庭園におけるPR活動としては熊山活性化委員会がイベントを開催する他、熊山英国庭園は現在、地域おこし協力隊の上村さんや戸田さんらによって情報発信に力を入れ始めたところである。
他方、深山イギリス庭園では現在、(公財)玉野市公園緑化協会の岡秀雄さんが講師を務め、地元の新聞社主催のカルチャーと連携し薔薇の育て方を連続講座として行うなど、ガーデニング講座や市民と連携してイギリスにちなんだイベントを開催している。また、地元新聞に庭園の植物を紹介する連載を掲載、庭園のコンセプトや見どころを伝えるためのボランティアガイド向け庭園案内マニュアルを作成している。さらに、児童生徒への自然環境学習や、玉野市造園組合と岡山県立興陽高校造園デザイン科とのつながり・造園実習の場をつくるなど次世代教育にも取り組んでいる。
しかし、2020年・2021年のコロナ禍によってイベントは、ほとんど中止せざるを得ない状況であった。

[36]赤磐市観光協会事務局担当、令和2年8月着任の地域おこし協力隊員・戸田洋美さんへの筆者インタビューによる。2021.7.01

[37]プルースト効果/プルースト現象:マルセル・プルースト(1871-1922)の著書のワンシーンによって名づけられた。特定の香りが記憶や感情を呼び起こすことをいう。
マルセル・プルーストはフランスの作家。著書『失われた時を求めて』は今世紀における代表的小説の一つである。「プルースト効果」として脳の中の記憶の機能と香りの関係を説明する心理学などで「紅茶にマドレーヌを浸して食べたと同時に過去の記憶が戻ってくる」という冒頭の部分を引用されることが多い。
「紅茶に浸したプチット・マドレーヌを食べたことから記憶が次々とよみがえり「失ったと思っていた時」を取り戻したのである」
 マルセル・プルースト著、鈴木道彦編訳『失われた時を求めて 上』、集英社、1992年6月25日、P.50-P.53

【WEB閲覧】

赤磐市観光サイトhttps://www.city.akaiwa.lg.jp/kankou/index.html赤磐市産業振興部 商工観光課、最終閲覧日2021.7.18

瀬戸内玉野観光ガイドhttps://tamanokankou.com 公益社団法人玉野市観光協会、最終閲覧日2021.7.18

玉野市ホームページ、観光https://www.city.tamano.lg.jp/life/3/ 最終閲覧日2021.7.18

深山イギリス庭園http://www.tamano.or.jp/usr/miyama/igirisu/toppupe-ji.htm、最終閲覧日2021.7.28

【参考文献】

赤磐市教育委員会熊山分室編『詩人長瀬清子の生涯』赤磐市教育委員会熊山分室、2009年3月改訂

赤坂信編、「造園がわかる」研究会著『造園がわかる本』、彰国社、2011年3月10日

安西信一著『イギリス風景式庭園の美学〈開かれた庭〉のパラドックス』東京大学出版会、2020年5月25日

アンディ・クラーク(Andy Clark)著、池上高志/森本元太郎監訳『あらわれる存在―脳と身体と世界の再統合』、NTT出版、2012年11月16日

安藤聡著『英国庭園を読む−庭をめぐる文学と文化史』、彩流社、2011年11月25日

飯田操著『ガーデニングとイギリス人』、大修館書店、2016年10月10日

井野瀬久美惠編『イギリス文化史』、昭和堂、2012年2月20日

ウイリアム・モリス著/城下真知子訳『素朴で平等な社会のために』せせらぎ出版、2021年1月20日

岡山県環境保健部自然保護課『おかやまの自然 第2版』岡山県、1993年3月

小野まり著『図説 英国湖水地方ナショナル・トラストの聖地を訪ねる』、河出書房、2010年3月30日

熊山英国庭園提供資料『熊山英国庭園ホームページコンテンツの内容』、2004/4/1

熊山英国庭園提供資料『熊山英国庭園』、庭園案内リーフレット2019年最新版

熊山町企画調整室編『いま開く。「熊山物語」』、岡山県赤磐郡熊山町、2002年2月

熊山町史編纂委員会編纂『熊山町史 通史編上巻』、熊山町、1994年3月21日

熊山町史編纂委員会編纂『熊山町史 通史編下巻』、熊山町、1994年3月21日

川添善行著、早川克己編『芸術教養シリーズ19 私たちのデザイン3 空間にこめられた意思をたどる』京都芸術大学 東北芸術工科大学出版局 藝術学舎、2020年9月14日

ケイ山田著『庭に生きる〜イングリッシュガーデンに魅せられて〜』、アシェット婦人画報社、2007年5月15日

指昭博編著『初めて学ぶイギリスの歴史と文化』、ミネルヴァ書房、2012年7月31日

高畑富子著『岡山文庫277赤磐きらり散策』、日本文教出版、2012年6月20日

(公財)玉野市公園緑化協会提供資料『深山イギリス庭園ボランティアの会・案内マニュアル』2021年5月17日閲覧

(公財)玉野市公園緑化協会提供資料『深山イギリス庭園概要』、2021年5月17日閲覧

「地球の歩き方」編集室編著『地球の歩き方A02イギリス2019~2020』、ダイヤモンド社、2019年7月24日

デイヴィッド・スーデン著/山森芳郎・山森喜久子訳『図説 ヴィクトリア時代イギリスの田園生活誌』、東洋書林、1997年3月8日

中西紹一/早川克己編『芸術教養シリーズ18 私たちのデザイン2 時間のデザインー経験に埋め込まれた構造を読み解く』、京都造形芸術大学 東北芸術工科大学出版局 藝術学舎、2014年12月17日

中山理著『イギリス庭園の文化史』、大修館書店、2003年6月25日

野村朋弘編『芸術教養シリーズ24 伝統を読みなおす3 風月、庭園、香りとはなにか』、京都造形芸術大学 東北芸術工科大学出版局 藝術学舎、2014年4月2日

バーネット著、野沢佳織訳『秘密の花園』、西村書店、2000年5月10日

ビクトリクス・ポター作・絵/いしいももこ、まさきるりこ、なかがわえりこ訳『愛蔵版・ピーターラビット全おはなし集』、福音館書店、2001年10月5日

藤井学・狩野久・竹林榮一・倉地克直・前田昌義著『岡山の歴史』、山川出版社、2000年6月5日

横明美著『旅するイングリッシュガーデン−図説 英国庭園史―』、八坂書房、2012年11月24日

【調査協力】

赤磐市
赤磐市熊山支所 産業建設課
赤磐市産業振興部商工観光課
赤磐市地域おこし協力隊員上村統美さん、戸田洋美さん
赤磐市熊山英国庭園スタッフの皆様
玉野市
玉野市都市計画課
玉野市商工観光課
公益社団法人玉野市観光協会
公益財団法人玉野市公園緑化協会の皆様
公益財団法人玉野市公園緑化協会事務局次長 岡秀雄さん
LPレコードの会 黒住員久さん
山陽手打ち蕎麦の会 そば打ち教室の皆様
インタビューに対応してくださった皆様(2021年3月13日〜7月25日)

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