音無親水公園

野尻 絵里

―親水整備に関する方法論から―

1. はじめに
公園を整備するにあたっては様々な方法論が存在する。親水とは水に親しむことであり、親水公園はそのための公園である。本稿では「音無親水公園」(写真1)をとり上げ、親水公園整備に対し、立地、設備、運営管理、地域とのかかわりなどの方法論から評価を試み、今後の展望を考察する。

2.基本データ
2-1. 所在地
東京都北区王子本町1-1-1先
2-2. 開園年
昭和63年
2-3. 規模
面積約5400㎡
延長約200m
道路からの高低差最長5m
2-4. 設備構成概要(図1)
ア. 渓流風の流れ
距離の短い流れの中に、自然の川の上流、中流、下流を表現している。そのための方法として、まず上流部には、岩組や流木を配し、荒々しさを表現している。中流には玉石を置いた。また、親水公園の上を交差するような配置で音無橋があり、橋下のコンクリートの湾曲が反響板の役割を果たし、せせらぎを意識させる設計構造である。
イ. 滝
中流の左岸側には小滝を設け、滝の水が瀬となって流れと合流している。この滝は、かつてのこの付近にあった王子七滝の一つである“権現の滝”を再現したもので、流量は毎分1トンの勢いがある。
ウ. 木橋
木橋は、舟串橋を水辺から仰ぎ見る形で復元した。明治44年に架橋し、昭和33年の狩野川台風で流され廃橋となるまで、飛鳥山から王子への通路として、地域の人々に利用されていた橋の復元設置である。
エ. 水車
揚水水車の形体をとっている。
オ.魚道
水は水道水を循環させ、濾過器や滅菌装置で浄化して使用。浄化施設を通過した石神井川の水を、右岸端幅1メートルの水路に硫化させ、そこに魚道の機能を持たせている。
カ.散策路
河川に接して左岸側に自然石舗装の散策路を設け、最も高いところで5m下方の親水施設を眺めながら、散策が楽しめる。

3.歴史的背景
石神井川は、北区付近で音無川と呼ばれていた。現在親水公園がある地域一帯は、音無渓谷として江戸時代の『江戸名所図会』や安藤広重の錦絵などに描かれていたことからもわかるように、古くからの名所、景勝の地として親しまれていた。
しかし、昭和30年代からの高度経済成長に伴う水質汚染、さらには土壌の保水能力の低下により頻発する洪水被害防止のため、護岸工事や流路の整備が昭和30年代から40年代にかけて行われた。その結果「かつての渓流を取り戻したい」(1)として、残された旧流路に、失われた自然や水とのふれあいを目的に、昭和63年東京都北区により、王子駅前に整備されることとなった。

4. 方法論の評価
ここでは親水概念に対するアプローチを評価する。比較事例としては、江戸川区の「古川親水公園」をとり上げる。
4-1. 音無親水公園の方法論
立地に関しては、王子駅すぐ近くに整備されている。JR、地下鉄、都電の駅が集中しており、アクセスが非常に良い。王子神社や飛鳥山公園に隣接、近隣には王子稲荷もある。観光的施設の密集、飛鳥山公園の桜や新緑、雪景色など環境の一部を取り込んだ景観を楽しむことができる。これらのことから、立地に関して評価できるといえよう。
設備に関しては、かつてこの地域の名所にあったものや風景を、この場所に集中させて景観を作り上げている。滝、橋、石、水車と、実際に体感できるものを設置することにより、水と親しむ方法をわかりやすく提示するという意図と共に、「これからの子供たちへのプレゼント」(2)という側面が強く出たものだと考える。水遊びの場として利用できるよう、水深が10から20センチ程になっていることも、子供への配慮といえよう。
運営管理の安定性に関しては、水循環設備の管理、清掃、植栽、保安業務すべてを北区が業務委託している。水がある時間と時期も、10:00-16:00、5月1日-7月14日は土・日・祝、7月15日-9月24日は毎日、清掃は毎月2回決まっている。震災時や天候、電力事情などによっても変更はあるが、常に安定した管理を行えるようになっている。しかし、トップの交代などにより区の基本方針が変更した場合、縮小や打ち切りとなる場合も考えられ、その点では不安定だといえる。
4-2. 古川親水公園の方法論
古川親水公園(写真2)は、昭和49年東京都江戸川区によって整備された。音無親水公園と同様、古川は急速な都市化により環境悪化と、下水道整備の進展により治水・利水の役割を終え、新たに親水公園として整備されたものである。「親水の実現」(3)をテーマとした、日本で最初の親水公園である。整備面積9434㎡、延長1200m。主な整備内容は散策路と水遊び場である。散策路には、桜、ピラカンサ、藤など、さまざまな植物が植えられている。また、公園沿いには住宅と共に、神社や寺院、コミュニティ会館、小学校など様々な施設がある。
立地に関しては、一番近い地下鉄の駅からも徒歩約20分、JR錦糸町、平井駅からはバスを利用するという点で、不利といえる。
しかしこの立地は、地域とのかかわりに関しては、評価できる点ともなっている。緑に囲まれ、両岸への通行が容易にできる設計が施されており(写真3)、コミュニケーションがとりやすい構造になっている。また、川沿いの町会・自治会から成る「古川を愛する会」があり、清掃やパトロール、古川祭りの開催などの活動をしている。古川親水公園に隣接する二の江コミュニティ会館は、古川の緩やかな流れをイメージして、曲線ガラスを壁面に用い、建物内外から四季折々の様子を見ることができる。(4)同じく隣接する江戸川区立二之江小学校は古川まつりの際、ブラスバンド演奏で参加している。(5)
設備に関しては、水遊びの夏場時期には水の浄化、塩素滅菌をするが、それ以外の時期は浄化装置を通さず自然水を流している。地域の人々の「かつての川を残したい」という強い要望により実現したものであることがうかがえる。古川親水公園は、大きな遊具的なものはなく、どのような方法で水と親しむのかが明確には見えにくい構造になっている。しかし装置ではなく、川とのかかわり方から親水の概念を提示するという方法は、インパクトは低いが、地域との関係性の深さという点で評価できる。
運営管理の安定性に関しては、浄化管理は江戸川区が行っているが、環境整備に関しては地域の人々によるところが多く、継続面では課題が残るといえよう。
4-3. 比較評価
これらの考察により、音無親水公園は、交通アクセスなどの立地の良さや、この地域の歴史的名所の形跡や風景を、一つ所に集中させて景観を作り上げているという点など、いかに人々を楽しませるかということを考えた、送り手側の姿勢が強く出たものであり、「アミューズメント型」と定義づけることができる。
また古川親水公園は、地域の人々が積極的に水辺と関わっていこうとする受け手側の姿勢が強く見られる「コミュニティ型」と定義づけることができる。

5. 今後の展望
音無親水公園は、アミューズメント機能は優れているが、地域とのつながりという点で、一考を要するべきだと考える。古川親水公園のように、地域コミュニティとの積極的関わりが重要ではないだろうか。例としては、「これからの子供たちへのプレゼント」という音無親水公園整備の原点に立ち返り、地元小学生を対象に、環境保持に対する学習と遊びとを共存させた「課外授業」の実施を提案する。その際、北区に所在する大学の学生に協力を仰ぐということも考えられる。子供たちにとっても良き兄、姉たちとのふれあいが得られ、勉強の機会と同時に楽しい経験となるであろう。
また、コミュニティに協力を仰ぐという点で、近隣の王子稲荷の催事である「王子狐の行列」(6)に着目、主体となっている王子銀座商店街振興組合との連携により、親水に親しむ大きなイベントを組織できるのではないだろうか。

6. おわりに
音無親水公園は、時代による環境悪化から自然環境を取り戻したいと言う発想が出発点となっているが、親水という概念を意識させる為の方法論には、設備のみならず、人と人とのつながりといった、有形無形のデザインが必要であることが分かった。そこには、送り手側がどのように提示し、受け手側がどのように捉えるか、相互の関係性が重要だといえよう。それは、地域と景観との関係性の一端を示すものだと考える。

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  • 2 写真2:古川親水公園。散策路には様々な樹木、植物が植えられている。(2017年6月28日筆者撮影)
  • 3 写真3:古川親水公園は全長1.2kmのうち、大きな橋から簡易な通行路までを含む合計11か所で、両岸への通行ができるように整備されている。。(2017年6月28日筆者撮影)
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参考文献

取材先
北区土木部道路公園課(2017年7月11日:電話による聞き取り、2017年7月27日:訪問による聞き取り)

注釈・引用文献
(1)北区HP:
http://www.city.kita.tokyo.jp/d-douro/bunka/koenichiran/otonashishinsui.html(2018年1月27日参照)
(2)北区建設部河川公園課編『音無親水公園:リバーサイドルネッサンス』、北区建設部河川公園課、1989年
(3)えどがわ環境財団『古川親水公園』、江戸川区、2016年
(4)二之江コミュニティ会館HP:
https://www.city.edogawa.tokyo.jp/shisetsuguide/bunya/bunkachiiki/c_ninoe/index.html(2018年1月27日参照)
(5)江戸川区立二之江小学校HP:
http://edogawa.schoolweb.ne.jp/weblog/files/1310093/doc/41904/346100.pdf(2018年1月27日参照)
(6)王子には大晦日の晩になると、関東一円のお稲荷様の使者である狐が、装束を整え王子稲荷に参拝したという言い伝えがある。現在では「王子狐の行列」として地元の人々に受け継がれており、大晦日の除夜の鐘とともに、袴や着物姿にお面などをかぶって狐に扮し、装束稲荷神社から王子稲荷までの約1キロメートルを練り歩く催事が行われている。王子狐の行列公式サイト: http://kitsune.tokyo-oji.jp/(2018年1月28日参照)

参考文献
北区飛鳥山博物館編『名所物語 浮世絵にみる北区の近代』、東京都北区教育委員会、2014年
東京都北区まちづくり部都市計画課編『北区景観づくり計画』、東京都北区まちづくり部都市計画課、2015年
北区都市整備部都市整備計画担当課編『北区景観百選ガイドブック』、北区都市整備部都市整備計画担当課、1999年
余暇開発センター『石神井川コース:武蔵野の路No.19』、東京都建設局道路管理部安全施設課、1995年
江戸川区編『ふるさと 江戸川区の親水公園』、江戸川区、1981年
江戸川区土木部計画課編『親水公園・親水緑道』、江戸川区土木部、2008年
上山肇「親水公園の都市計画的位置づけに関する研究 : 東京都江戸川区を中心事例として」『建築雑誌. 建築年報1995』、日本建築学会、1995年
日本建築学会編『親水空間論 : 時代と場所から考える水辺のあり方』、技報堂出版 、2014年
畔柳昭雄、上山肇『みず・ひと・まち : 親水まちづくり 』、技報堂出版、2016年