大阪 難波神社での「ぐりぐりマルシェ」について 〜6次産業化の取り組みから地産地消を目指して

渡邊綾子

大阪 難波神社での「ぐりぐりマルシェ」について
〜6次産業化の取り組みから地産地消を目指して

1. はじめに
1990年代半ばより、農業経済学者、今村奈良臣氏が提唱した造語、6次産業化(注1)を目的とした活動が徐々に広がりを見せている。6次産業化とは、地域資源を有効活用し、農林漁業者(1次産業従事者)がこれまでの原材料供給者として従事するだけではなく、自ら連携して加工(2 次産業)・流通や販売 (3次産業)に取り組む経営の多角化(1次×2次×3次産業=6次産業化)を進めることで、農山漁村の雇用確保や所得の向上を目指すことである。
この6次産業化を促す取り組みの一環として、難波神社(大阪市中央区)にて開催されている「ぐりぐりマルシェ」という市場がある。以下、ぐりぐりマルシェを調査することにより見えてきた市場がもたらす効果、6次産業化との関わり合いなどについて論述することとする。

2. 6次産業化・地産地消法とは
平成23年3月1日、「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律」、通称「六次産業化法」が施行された。農業が1次産業のみにとどまるのではなく、2次産業(農畜産物の加工、食品製造)や3次産業(卸、小売など)にまで踏み込むことにより、農村に新たな価値を呼び込むことを可能としている。この法律の施行により、農村が抱える高齢化、過疎化といった問題に歯止めをかける一方、生産者が直に消費者の声を聞くことが可能となり、消費者のニーズに合わせた農産物や加工品を販売することが出来るようになった。つまり、六次産業化法は生産者と消費者を直接つなげ、相互により良い関係性を育むことを狙いとしているのである。

3. ぐりぐりマルシェのあゆみ
ぐりぐりマルシェは、2012年3月より毎月第2土曜日、難波神社(大阪市中央区)にて始められ、間もなく3年目を迎える。このマルシェを企画しているのは、「谷町空庭」の実行委員の1人、山内美陽子氏であり、山内氏は6次産業化プランナー(注2)でもある。安全、安心な農産物を集め、生産者(=農村)と消費者(=都会)をつなぐことにより、地域の活性化や農業の自給率を上げることを目的としている。ぐりぐりとは、Green Good Link! =人と緑、人と食、人と農がぐるぐる(彼らはぐりぐりと呼んでいる。)つながる場を指している。
ぐりぐりマルシェが行われている難波神社の境内には、20店舗程が出店し、テントを連ね、地元野菜、果物、米、オーガニックの材料を用いた焼き菓子、ジャムや味噌など様々な食材や加工品を販売している。店以外にも、毎月、季節に応じたワークショップや軽食を楽しむことが出来る。

4. ぐりぐりマルシェの調査報告
1) 調査日:2014年5月10日(土)、7月12日(土)および12月13日(土)
第2土曜日 12:00~およそ1時間程度
2) 場所: 難波神社(大阪市中央区)
3) 開催時間: 10:00~16:30
4) 出店の内容:
地元(大阪と大阪近郊含む)の米、野菜や果物などの農産物、またそれらを原材料とした加工品(ジャム、餅、味噌、米油)
5) その他:
ヨガやラジオ体操などのイベントや季節に応じたワークショップ(例、味噌作り、リース作りなど)を開催
6) 調査報告および調査後の感想:
難波神社の境内には、常時20店舗程が出店している。各自が持ち寄ったと思われるテントの中には、長机が設置され、その上には様々な商品がディスプレイされている。商品の傍には、店の名前、商品に関する簡単な説明を記載したボードや手書きのショップカード、また、試食が並べられている。調査した3回の中で、初めての出店者もいれば、定期的に出店している店もあり、都度異なるマルシェの姿を見ることが出来、興味深い。
境内は決して大きいとは言えない。その中で、歩道の両脇には所狭しに出店しているため、歩道は人がすれ違うことがやっとである。そうした状況の中、店員は試食を差し出し、その度、人は足を止め、話を聞く。生産者であり、店員でもある彼らは、購入者を増やすことを目的としているだけではなく、試食で味を理解してもらい、商品の説明する時間を大事にしている様子である。例えば、出店された店の一つに奈良県からジャムを販売している店がある。この店のジャムの材料は、地元の果物や野菜のみ、糖分は25%(これはジャムにするために必要な最低量の糖分)までと、ジャムの調理も徹底している。また、米油(米を原料とした油)を扱っている店では、茹でた野菜にドレッシングとして米油をつけて試食させながら、米油の品質の高さ、また卸先のスーパーなど様々な情報を提供してくれる。
どの出店者においても、自信やこだわりをもった商品を店頭に出しているため、説明が丁寧なことはもちろんのこと、あらゆる質問にも的確に答える。
ぐりぐりマルシェを調査した結果、出店者は自身の店、品物を多くの人に知ってもらうための広告の場として利用していることを知ることが出来る。また、ぐりぐりマルシェの中を歩いている人も地元の生産物や加工物に興味を抱いている人で賑わいを見せているように感じられ、互いの交流の場として相応しい市場であることが感じられた。

5. 市場がもたらす効果
農林水産省は、2013年度、日本の食料自給率(注3)が4年連続で39%になったと発表した(注4)。一方、カナダ、アメリカ、オーストラリア、そしてフランスにおいては100%を超え、自給率が最も低い韓国でさえも僅かながらではあるが40%を超えている。食料自給率を以前の数値まで回復させるためには、地産地消の取り組み、すなわち、自国の生産物を日々の食卓に取り入れることが課題となる。
近年、この地産地消に着目し、地元野菜を販売している市場が増えつつある。大阪市中央区淀屋橋で行われている「淀屋橋マルシェ」は、平日のオフィス街にて開催し、大阪府もしくは近畿圏内の農家自らが販売者となって生産物を販売、サラリーマンやOLが直接交流できる場所となっている。また、東京都中央区勝どきで行われている「太陽のマルシェ」という日本最大級規模の都市型マルシェにおいては、全国各県の様々な野菜や加工品を購入や子供向けのワークショップもあるため、家族が楽しめるイベント型の市場となっている。上記に対し、ぐりぐりマルシェは、生産者と消費者の架け橋のみならず、日本の食文化の継承においても着目していることは特筆すべき点である。ワークショップで行われている味噌、梅干しや糠床作りはまさにそれである。つまり、ぐりぐりマルシェの活動は6次産業化を推進することにより生産者と消費者をつなげ、更には、ワークショップを通じて日本の食文化に触れることで、地産地消の大切さを理解することを目的としていることが伺える。こうした一連の活動は、我が国の食料自給率を上げる担い手としての役割を果たしているといえよう。

6. まとめ
今日、我々の食生活を支えているのは、市場よりもむしろ大型スーパー、デパートの食品売り場、またネットショップであろう。夫婦共働きなど様々な事情から買い物に費やす時間が減りつつあることが現状である。しかし、その一方で、地産地消という言葉を目にする機会が増えたことも事実である。食の安全性がクローズアップされ、国産品を見直す動きがある。また、一次産業の衰退に関しても見逃してはならない。高齢化、過疎化や重労働などの問題により、一次産業を生業とする人々が減少していることは言わずと知れたことであるが、こうした問題に歯止めを掛けるためには、ぐりぐりマルシェや同様の市場の存在は重要なものであり、更なる発展が期待されるものである。
一次産業は古くから伝えられた伝統産業である。伝統産業を絶やすことなく、今日の我々の生活に沿うよう見つめることが出来れば、後継者やそれに必要とする技術が途絶えることはなくなるであろう。
生産者と消費者互いのニーズが合えばこそ、自ずと食料自給率も上がり、我々の生活が豊かなものになり、地域活性化へと促されるのではなかろうか。
以上、6次産業化の取り組みから地産地消を目指すぐりぐりマルシェに関するレポートとする。

  • 987383_fa2d21fd51334b2a888f8731ab30b781 難波神社におけるぐりぐりマルシェの様子。境内出入口までも地元野菜が販売されている。
  • 987383_fff741030eba4e3d96b437680bbf26cd ぐりぐりマルシェで購入した品々。米やジャムのラベルには商品のこだわりが伺える。
  • 987383_75b64a90b9ff48fc91fa341004b1ab3b ぐりぐりマルシェで購入した品々。米やジャムのラベルには商品のこだわりが伺える。
  • 987383_e6a25f33146f4ddf8ce61a38e2100a92 色鮮やかな地元の野菜や果物を用いたジャム。

参考文献

(注1) 農林水産省では、雇用と所得を確保し、若者や子供も集落に定住できる社会を構築するため、農林漁業生産と加工・販売の一体化や、地域資源を活用した新たな産業の創出を促進するなど、農山漁村の6次産業化を推進している。
農林水産省 農山漁村の6次産業化 2014年12月14日アクセス
http://www.maff.go.jp/j/shokusan/sanki/6jika.html
(注2)6次産業化プランナーとは、6次産業化を目指す農林漁業者やその他事業者に対し、アドバイスや事業計画策定支援、各種制度の活用手引きなどを行う「高度専門人材」を意味する。
農林水産省 6次産業化プランナー 2014年12月14日アクセス
http://www.maff.go.jp/j/shokusan/sanki/jinzai/index1.html
(注3) 食料自給率とは、国内の食料消費が、国産でどの程度賄えているかを示す指標を意味する。
農林水産省 食料自給率とは 2015年1月10日アクセス
http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/011.html
(注4) 2014年8月5日付 日本経済新聞
1) 農林水産省 6次産業化の展開方向と課題 2014年12月13日アクセス
www.maff.go.jp/primaff/meeting/kaisai/2011/pdf/111220sec.pdf
2) 食と農の研究所 2014年12月14日アクセス
http://www.agri-design.jp/doc/
3) 農林水産省 6次産業化プランナー 2014年12月14日アクセス
http://www.maff.go.jp/j/shokusan/sanki/jinzai/index1.html
4) マルシェ・ジャポン 淀屋橋マルシェ 2015年1月10日アクセス
http://www.marche-japon.org/area/2701/
5) 太陽のマルシェ 2015年1月10日アクセス
http://timealive.jp/#Toparea