舞洲工場からみる廃棄物処理施設をはじめとした公共施設のデザイン

佐野 有貴

1.はじめに
大阪市環境局舞洲工場(以下、舞洲工場)は大阪市此花区に現存する廃棄物処理施設である。デザインはウィーンの芸術家、フンデルトヴァッサーによる。建設当初は高額な建設費等の理由から批判の声は多かったものの、現在ではその特徴的な外観から国内外の観光客が多く訪れる観光スポットとなっている。
フンデルトヴァッサーが舞洲工場にのこしたメッセージと、廃棄物焼却場をはじめとした公共施設のデザインのもつ可能性ついて考察していきたい。

2.舞洲工場の成立経緯
2-1.舞洲について
舞洲工場があるのは、約220haの人工島、舞洲であり、北を頂点とした五角形型をしている。南北に大きな道路が横切り、そこを境として東西でエリアが分かれる。西側はスポーツ公園などがあるスポーツレクリエーションゾーン、そして東側は工場や倉庫が立ち並ぶ物流・環境ゾーンとなっている。今回取り上げる舞洲工場はその東側エリアの海側にある。
大阪市は1990年代後半から2008年にかけて夏季五輪の誘致活動を行っており、この舞洲工場とそこから500mほど離れたところにある同氏デザインの汚泥水処理場、『舞洲スラッジセンター』を舞洲のランドマークとして建設した。(註1)

2-2.フンデルトヴァッサーについて
フリーデンスライヒ・フンデルトヴァッサー(1928-2000)はオーストリア、ウィーン出身の芸術家である。彼は自然との共生・自然への回帰をテーマにし、曲線を多用した独特な様式の作品を数多く残している。(註2)自然と人、自然と都市との関わり方を問い続け、「芸術」こそが人間と自然との架け橋となると考えていた。彼の絵画は曲線や螺旋を多用したカラフルな色彩を特徴としている。また、絵画だけでなく20世紀の主流となっていた画一的で直線による合理主義的な都市空間に反し、有機的で人間味がある生活空間を取り戻すためとしていくつかの建築をのこしている。代表的なものとして、今回取り上げる舞洲工場のモデルとされるウィーンのシュピッテラウ焼却場がある。

3.舞洲工場のデザイン分析
(1)表面のデザイン
・外壁:白を基調として、黒の縦ラインと市松模で塗り分け。他には赤、黄で縦ラインを外壁に板打ちしている(ストライプ板)。先端には金色の球体オブジェを設置。一部では植栽された蔦が張っている。
・開口部の配置:正方形、長方形、丸形、半円と四角形を組み合わせたサークルトップ型の4種類の窓が不規則に設置。ただし、約7割は飾り窓である。上方の開口部には植栽されている部分もある。

(2)細部のデザイン
・出角部の処理:施設そのものは直線的であるが、黒の曲線で縁取りがされている。窓の周りにも曲線的な縁取り。
・エントランス:屋根上に植栽。柱(セラミック柱)は円柱や球体を組み合わせ、砕いたタイルを張り合わせたカラフルなもの。

(3)煙突のデザイン
・形状:円形、裾に向かって若干広がる形状。根本はエントランス同様、円柱や球体を組み合わせたカラフルな柱が支えており、施設本体とは別棟にある。下部の開口部は植栽が行われている。煙突頂部には金色の楕円系の球体(ゴールデンボール)を設置。
・外壁:水色を基調に空、雲をイメージした斑模様の塗装。そこに赤の枝分かれしているストライプ板を張り付け。その他「山小屋」と呼ばれる小部屋、窓(飾り窓含む)が取り付けられている。

(4)外構、周辺デザイン
・外構:約1~1.2メートルの高さの茶色レンガ造り。緩やかな曲線で圧迫感なく工場を囲む。
・周辺:施設と隣接した開放緑地があり、木々に囲まれた遊歩道が整備。そこから一般開放されている施設3階の屋上庭園へ上がることができる。建物北側には池(ビオトープ)がある。

4.舞洲工場の運営とデザインの役割
4-1.現状の運営について
舞洲工場は平成30年8月2日に見学者数25万人を達成した。平成27年には11357名、平成28年には11911名と毎年1万人を超える国内外の見学者を迎えている。これは他の大阪府下6カ所の焼却工場の見学者数が年間3000名程であることと比べると突出している。施設の見学は団体以外でも事前予約を行えば個人でも可能であり、その他年に3回オープンデーとして一般公開されている。平成30年11月10日(土)に行われたオープンデーは過去最高である1,064名の見学者が訪れた。この結果からも舞洲工場が地域に対して情報発信を行い、一定の結果を残していることが分かる。また、遠くからも派手な外観が目に留まるため、施設についての問い合わせや近くを通り好奇心から立ち寄る人も多いという。(註3)
このように、舞洲工場は焼却施設として見学者を動員するだけでなく、舞洲のランドマークとして一定の役割を果たしている。

4-2.デザインが果たした役割
フンデルトヴァッサーは1958年「建築の合理主義に対するカビ宣言」を行い、建築に人間性を取り戻そうとする活動を行った。その中のアイデアとして、『草屋根のある建築』、『ビルの窓々を木々の緑で飾る間借り樹木計画』、『腐植式くみ取りトイレ』などの実践を提言した。当該施設においても、屋上庭園、窓の植栽などが取り入れられている。また、外壁と煙突部分にある赤と黄色のストライプ板は、焼却工程において立ち上る炎を表す。このように、建物デザインはフンデルトヴァッサーの思想に基づく特徴と、施設の機能を表現したものとなっている。
また、彼は都市や社会環境を「第四の皮膚」、地球を「第五の皮膚」と表した(註4)。廃棄物処理場や汚泥水処理場は都市においてなくてはならない公共施設である一方で、マイナスなイメージが拭えない。それをあえて派手な色で着色し、目立つ外観にすることで自分たちの生活から切り離すことなく、身近な問題として日々意識するようになる。彼は、私たち人間が生活していくうえで必ず生じてしまう廃棄物と、それにより失われてしまう自然環境とを共生させるということを舞洲工場のデザインで表現したのである。

5.他の事例と比較-八尾工場(八尾市)
同じ大阪府内にある同様の機能を持つ施設と比較し、舞洲工場のデザインの独自性を考える。
(1)表面のデザイン
・外壁は薄いグレーを基調。横一列にライン状に配置した窓がアクセントになっている。その他、窓と並行して水色のライン。全体的にシンプルで洗練された印象の外観。

(2)細部のデザイン
・出角部の処理も含め、全体的に直線的な印象。正面には赤色のシンボルマーク。

(3)煙突のデザイン
・円形。施設と同色の薄いグレーをベースに、水色の縦ライン。煙突頂部の赤色がアクセントとなっている。

(4)外構、周辺デザイン
・施設周辺は背丈の低い植え込みで囲まれており、閉塞感は無い。

八尾工場のデザインコンセプトは、パンフレットによると『近代的なデザインで付近との調和を図る』とされている。建物そのものに用いられている色数が限定されており、全体的に装飾を抑えたシンプルな印象である。八尾工場は舞洲と同じく工場地帯にある。遠くからでも煙突は目立つものの、清潔感があり洗練されたデザインである点は従来の廃棄物処理場のイメージからは異なる。周辺に溶け込む抵抗の少ないデザインとして建てられた八尾工場のあり方は、地域のランドマークとして建てられた舞洲工場とは異なる役割を果たしていると考える。

6.おわりに
公共建築には、美術館や図書館といった私たちの生活を豊かにするためのものと、廃棄物処理場や発電所などの私たちの生活を支えるためのものがある。前者の施設群にくらべ、後者の多くは八尾工場のようにその存在を主張せず、街の風景に溶け込ませ、人々の目から逃れるように存在してきた。その常識を変え、地域のランドマークとした施設の一つが今回取りあげた舞洲工場である。
今回取り上げたのは廃棄物処理施設に限定したが、私たちの生活に必要不可欠であってもマイナスなイメージの施設とされているものは数多く存在する。施設からの目線を逸らすことはそこに内在する問題からも目を逸らしかねない。反対に、マイナスイメージの施設を地域のランドマークとすることで住民は改めて施設建設の意義や見て見ぬふりをしていた問題を意識せざるを得なくなる。
舞洲工場も「ごみ処理場に見えない」ということで注目を浴びていたが、実際には4-2で述べた通り、建物の外観は中で何が行われているかをデザインが表している。私たちの日々の活動の結果生じるゴミや環境問題についての関心の高まりは、舞洲工場の見学者が現在でも増え続けていることからも明らかである。
廃棄物処理場を始めとしたマイナスイメージを持つ公共施設のデザインを考えることは、日々の生活の結果生じてくる不都合な事象や課題から目を逸らさず、私たちや地域で問題を共有していく一つの方法となるのではないだろうか。

  • %e4%bd%90%e9%87%8e1 舞洲工場及び八尾工場 基本データ
  • %e4%bd%90%e9%87%8e2 舞洲工場、正面 平成30年8月20日 筆者撮影
  • %e4%bd%90%e9%87%8e3 舞洲工場、煙突 平成30年8月20日 筆者撮影
  • %e4%bd%90%e9%87%8e4 舞洲工場、全景 平成30年8月20日 筆者撮影
  • %e4%bd%90%e9%87%8e5 舞洲工場、開放緑地案内 平成30年8月20日 筆者撮影
  • %e4%bd%90%e9%87%8e6 八尾工場、正面 平成31年1月6日 筆者撮影
  • %e4%bd%90%e9%87%8e7 八尾工場、煙突 平成31年1月6日 筆者撮影
  • %e4%bd%90%e9%87%8e8 八尾工場、窓の様子 平成31年1月6日 筆者撮影

参考文献

【註釈】
1.主に大阪市内で発生した廃棄物を舞洲工場で処理し、そこから生まれるエネルギーを島内へ供給する。また、隣接するスラッジセンターは下水汚泥から舗装用ブロックやタイルなど建築資材を造り出す。このように、当初から五輪後の活用を見据え、島内で廃棄物処理及びエネルギー供給が完結する仕組みを作り上げていた。
2. 彼は『直線は人間を没落に導く』として、自然界には存在しない直線を嫌っていたことがよく知られている。(ピエール・レスタニ―『フンデルトヴァッサー 5枚の皮膚を持った画家王』、タッシェン・ジャパン、2002年16ページ)
3.予約をしていなくても施設周辺の開放緑地や屋上庭園は一般公開されており、周囲を散策して充分に楽しむことが出来る。
4.人間が持つ生まれつきの皮膚を『第一の皮膚』、衣服を『第二の皮膚』、そして住居を『第三の皮膚』として『五つの皮膚』を提唱している。

【参考文献】
・ピエール・レスタニ―『フンデルトヴァッサー 5枚の皮膚を持った画家王』、タッシェン・ジャパン、2002年
・Simone Philippi編『フンデルトヴァッサー クンストハウスウィーン』、タッシェン・ジャパン、2003年
・森本陽貴、平野真弓編『人と自然:ある芸術家の理想と挑戦 フンデルトヴァッサー展』アプトインターナショナル、2006年
・(仮称)環境事業局舞洲工場建設工事 建設工事の概要
・八尾工場パンフレット
・大阪市・八尾市・松原市環境施設組合ホームページ(http://www.osaka-env-paa.jp/index.html)(2019/01/10)
・大窪健之、山本拓治、小林正美「清掃工場の建築デザイン手段と設計主旨に関する調査研究 1985年〜1996年の大規模施設を事例として」、『日本建築学会計画系論文集』 第516号、1999年 2 月
・大窪健之、小林正美「清掃工場のデザインの推移と現状に関する調査研究」、『日本都市計画学会学術研究論文集』第31回1996年
・大窪健之「清掃工場の建築デザイン-その歴史と展望-」『廃棄物学会誌』vol.10、No.3、1999年
・大窪健之「清掃工場デザインの変容と社会背景に関する研究」、『京都大学学術情報リポジトリ(https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/157063/2/D_Okubo_Takeyuki.pdf)』1999年

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