水都大阪再生プロジェクトで親水性を高めた都市の水景 〜時代によって変遷していく水辺の文化資産〜

眞木 由香

はじめに
大阪オフィス街の中心にある中之島公園を訪れると川が近く気持ちの良い景色がいつの間にか出来上がっていた。訪れる公園の表情は変わらずに周辺の施設や道が整備され、徐々に川との関係が親密になっていく景色が広がっている。
そんな水景をつくった「水都大阪」再生の取り組みを文化資産として報告する。

1.基本データと歴史的背景[資料1][MAP]
基本データ
水の回廊とは、大阪市の中心部を流れる堂島川・土佐堀川・木津川・道頓堀川・東横堀川の4つの川でカタカナの「ロ」の字を指している。この水の回廊を中心に水都大阪再生プロジェクトが行われている。
中之島とは、水都大阪のシンボルアイランドとして大阪ビジネス街の中心に位置し、堂島川と土佐堀川に挟まれた中洲である。東部エリアには、歴史的建造物の「大阪市中央公会堂」「大阪府立中之島図書館」があり、対照的に近代建築の「東洋陶磁美術館」と2020年に開館した「こども本の森中之島」が調和して並んでいる。
前面道路が2021年の歩行者空間化に整備され、より一層心地良い場所になっている。

歴史的背景
大阪は、江戸時代には「天下の台所」と呼ばれ、商業の中心として栄えていた。現在も続く船場を中心とした城下町は、豊臣秀吉が大阪城築城とともに城下に都市を建設したのが始まりだった。それと共に東端の掘割(東横堀川)、西端の溝(西横堀川)を開いた。江戸時代には道頓堀川を開削している。その結果、船場は現在の水の回廊である4つの川に囲まれることになった。
明治時代には、「水の都」と呼ばれ、東洋一の商工都市となり、中之島、北浜、船場一帯は、近代的な都市景観を形成していた。
しかし、戦後になると地盤の低下と度重なる水害によって防波堤が築かれ、無機質なコンクリートの護岸によって水害対策が取られるにつれ、人と川との接点が失われていった。(註1)
その後、2001年内閣官房都市再生本部によって都市再生プロジェクトに指定されたことを受けて「水都大阪」再生の取り組みが行政・企業・市民が連携してスタートした。
2004年には国土交通省河川局により「河川敷地占用許可準則の特例措置」として河川敷の施設の制限の緩和により、河川敷のカフェテラスやイベントが実現可能になっていった。
2009年8〜10月に開催されたイベント「水都大阪2009」へ向け、様々な水辺空間の整備が行われていった。遊歩道・船着場の整備、護岸・橋梁・高速道路橋脚には日常的なライトアップが施された。
以降も水都大阪再生の取り組みは続き、2017年に「水都大阪コンソーシアム」が設立された。(註2)

2.プロジェクト事例の評価
2-1すべての水景は2つの水門から始まった[資料2-1]
親水性を高めるために建設された道頓堀川水門と東横堀川水門を挙げておきたい
2004年に完成した道頓堀川沿いの遊歩道(とんぼりリバーウォーク)に先行して、2000年に道頓堀川下流部と東横堀川上流部に水門が建設された。
この水門を閉めることにより大雨や高潮で水位が上昇しても浸水被害を防ぐことができるようになった。さらに水位を一定に制御することが可能になり、水門操作で汚れた川(寝屋川)の水の流入を防ぎ、きれいな川(大川(旧淀川))の浄化用水を入れることができるようになった。水質の改善については、現在も実験を重ねながら進行中である。
この水門により、水の回廊の水位や水質が安定し、親水性を高めた水辺の整備が実現していった。

2-2社会実験から始まった水景[資料2-2]
道頓堀川沿い遊歩道の「とんぼりリバーウォーク」は、国土交通省の河川の規制緩和により、2004年に戎橋から太左衛門橋の約170mの区間に大阪で最初の社会実験として整備が行われた。片側約8m幅の上下2段構造で護岸の耐震補強も行っており、それまでにない親水性の高い空間になっている。
土佐堀川沿い川床の「北浜テラス」は、水都大阪2009のイベントに向けて2007年から社会実験的に河川区域に川床の設置を始めた。官民協働の取り組みで民間として初めて河川区域に川床の設置が実現した。3店舗の川床から始まったが、2020年には、11店舗の川床にまで発展している。

この2つの社会実験によって、河川区域の水際の親水性を高めた事例を生んだといえるだろう。その後の護岸整備の参考になり、各地に影響を与えている。

2-3歴史を体感できる水景[資料2-3]
大川沿いの「八軒家浜」は、平安時代、渡辺の津と呼ばれ、江戸時代には八軒の船宿があったことから八軒家浜と呼ばれるようになった。京都と大阪を結ぶ舟運の要衝となっていた八軒家浜を水都大阪再生の取り組みで再現している。

堂島川沿い土佐堀川沿いの「中之島公園」は、中之島の東端から大阪市中央公会堂に向かって整備された親水公園である。1891年大阪市営の風致公園として開設された。1918年に大阪市中央公会堂が建設された当時は「豊國神社」があった難波橋付近から参道空間のようにつながっていたと言われている。
そして、2010年に「観光と市民活動の場の創出と水辺に映える景観」とした公園に生まれ変わっている。

これらは、水都大阪再生の取り組みにより歴史を参考に変遷した水景だといえるだろう。

2-4カフェや店舗のある親水護岸[資料2-4]
「中之島バンクス」は、堂島川沿いの京阪中之島線建設の復旧工事に併せて玉江橋から堂島大橋まで全長400mの堂島川左岸に2009年に整備され、飲食店、ミュージアムや水上チャペルなどが運営されている。
堂島川沿い対岸の「ほたるまち」は、2008年に堂島リバーフォーラム、 ABCホールなどの施設と「福島港(ほたるまち港)」が整備されている。
湊町リバープレイスは、道頓堀川沿いのイベントスペースの大階段と八角形の複合施設のある特徴的なエリアである。2008年に架けられた浮世橋によって南堀江と湊町の回遊性が高まっている。
東横堀川のβ本町橋は、大阪市に現存する最古の橋である「本町橋」のたもとに2021年8月にオープンする水辺施設である。

これらの新しい試みの店舗やイベントスペースは、都心の水辺に新たな可能性を広げる親水護岸である。

3. 世界の大都市の水辺事例との比較[資料3]
比較したい水辺事例は、夏のバカンスシーズンだけオープンするセーヌ河岸「パリプラージュ」(ビーチ)、コペンハーゲンのニューハウン運河沿いの「ストロイエ」(歩行者天国)、アメリカ・サンアントニオ川沿いの「リバーウォーク」(遊歩道)である。
これらは、災害や防災対策を兼ねた護岸整備が行われている点や護岸と川との断面構成が類似している事例である。
一方、公共空間の認識に大きな違いがあるイギリスの水路を相違点として挙げたい。
日本では、河川の利用は自由であり法的な制限はないが、岸辺の管理は厳密であり、水辺を整備するためには法的にも大変で制限がある。
しかし、イギリスでは、国有化された運河及び水路を主に管理している公益法人ブリティッシュ・ウォーターウェイズ(BW)が水路沿いの側道を一般に開放し、随所に船の短期繋留場所を確保している。そのため民間で自由に水辺整備を行うことが可能になっている。
日本でも国土交通省の河川の規制緩和により親水護岸も増えてきているが、民間だけで整備を行うのはまだまだ難しい。

4.今後の展望[資料4][MAP]
水都大阪2009のイベントへ向けての水辺整備から10年以上経った現在(2021年)も水辺の環境整備が進んでいる。大阪では、2025年に開催予定のEXPO2025を見据え、中之島西端ゲートから海を渡ってEXPO2025会場へ入る「中之島ゲートエリア(仮称)」の計画が進められている。現在(2021年7月)安治川沿い(北側)の大阪市中央卸売市場前には、遊歩道の「中之島ゲートパーク」と海の駅があり、川と海を結ぶ舟運には最適な立地である。
実現すれば、EXPO2025会場との連携は良くなるが、EXPO2025が終了した後の利用方法も見据えた計画を期待したいところである。

5.おわりに
最も特筆すべきところは、水の回廊において連続的に現れる水景施設だろう。回廊を船で渡ると気がつくのだが、短い間に多岐に渡り、施設やイベントが現れる。親水性を高めた水都大阪再生の取り組みは、陸からも川からも体感できるようになっている。
このように時代によって河川・水辺利用が変遷していき、この先も親水性を高めた水景が新たに生み出されていくのが楽しみである。

  • map_page-0001 MAPー水都大阪再生プロジェクト水景MAP
  • e8b387e696991_page-0001 資料1ー水都大阪の歴史変遷
  • e8b387e696992-1_page-0001 資料2-1ーすべての水景は2つの水門から始まった
  • e8b387e696992-2_page-0001 資料2-2ー社会実験から始まった水景
  • e8b387e696992-3_page-0001 資料2-3ー歴史を体感できる水景
  • e8b387e696993_page-0001 資料3ー世界の大都市の水辺事例との比較
  • e8b387e696994_page-0001 資料4ー水都大阪再生の今後の展望

参考文献

(註1)橋爪紳也『「水都」大阪物語―再生への歴史文化的考察』藤原書店、2011年
(註2)大阪府【自治大阪H29年9月号 特集】 水都大阪の取組みについて
https://www.pref.osaka.lg.jp/shichoson/jichi/2909fuminbunka.html
「水都大阪」 水都大阪コンソーシアム 水都大阪の歴史 水上交易の中心都市 https://www.suito-osaka.jp/history/history_3.html

<取材協力>
2021年5月20日 水都大阪コンソーシアム 田中氏 インタビュー(ZOOMにて)
提供資料 水都大阪 スライド資料P30(Webサイトの画像使用許諾済)

【参考文献】
<書籍>
橋爪紳也『「水都」大阪物語―再生への歴史文化的考察』藤原書店、2011年
加藤政洋『大阪ー都市の記憶を掘り起こす』筑摩書房 2019年4月Kindle 版.
大阪都市環境会議『大阪原風景』関西市民書房、 1980年。
大阪府近代建築ガイド編集委員会 『大阪府近代建築ガイドブックー水都の風景と記憶―』(社)日本建築家協会近畿支部 2004年3月
三浦行雄『大阪と淀川夜話』大阪春秋社 1985年
松村 博『大阪の橋』松籟社 1992年
西野由紀/鈴木康久『大阪 淀川探訪』人文書院 2012年

<論文>
J-STAGE(すべてPDFダウンロード版)
石川幹子『都市再生施策と自然共生都市計画』 2008年https://www.jstage.jst.go.jp/article/tits1996/13/6/13_6_50/_article/-char/ja
吉川勝秀『川からの都市再生に関する考察』2007年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/procm1993/14/0/14_0_1/_article/-char/ja
田島洋輔、岡田智秀『水辺環境を活かした河川空間の魅力形成に関する研究』2019年https://www.jstage.jst.go.jp/article/aija/84/762/84_1769/_article/-char/ja/
松尾夏奈、志村秀明『公共空間としての川床創出の促進に関する研究』2018年
武田重昭、坂本幹生、加我宏之『大阪市都心部の河川における親水性の評価とその整備手法の変遷に関する研究』2017年
田川洋子『東横堀川から船場を考える』2005年https://www.jstage.jst.go.jp/article/jriet1972/34/3/34_3_205/_article/-char/ja
高原一貴、嘉名光市、佐久間康富『大阪・中之島における都市夜間景観の特徴に関する研究』2012年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/aija/77/672/77_672_403/_article/-char/ja

<海外事例>
法政大学大学院エコ地域デザイン研究所都心・ベイエリア再生プロジェクト+秋山岳志『イギリスにおける水路・水辺の利用と管理』2008年https://hosei.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=4367&file_id=22&file_no=1&nc_session=65l63ukcohkkl6drchlbh7cgl3

【参考Webサイト】
<行政>
大阪府 https://www.pref.osaka.lg.jp/index.html(閲覧日2021年7月28日)
大阪市 https://www.city.osaka.lg.jp/index.html(閲覧日2021年7月28日)
国土交通省 https://www.mlit.go.jp/index.html(閲覧日2021年7月28日)
大阪ブランド資源報告書 http://osaka-brand.jp/panel/index.html(閲覧日2021年7月28日)

<団体>
大阪コンソーシアム 『水都大阪』https://www.suito-osaka.jp/(閲覧日2021年7月28日)
中之島スタイル https://www.nakanoshima-style.com/(閲覧日2021年7月28日)
大阪観光局 https://osaka-info.jp/(閲覧日2021年7月28日)
大阪水上バス(KEIHAN)https://suijo-bus.osaka/(閲覧日2021年7月28日)

<事例店舗>
とんぼりリバーウォーク http://www.tonbori.jp/(閲覧日2021年7月28日)
北浜テラス(北浜水辺協議会)https://www.osakakawayuka.com/(閲覧日2021年7月28日)
八軒家浜(北浜東振興町会) http://hachikennya.nas.ac.jp/(閲覧日2021年7月28日)
中之島公園(大阪市花と緑の情報サイト) http://www.osakapark.osgf.or.jp/nakanoshima/(閲覧日2021年7月28日)
中之島バンクス https://www.nakanoshima-banks.com/(閲覧日2021年7月28日)
ほたるまち https://www.hotarumachi.com/(閲覧日2021年7月28日)
湊町リバープレイス https://www.oud.co.jp/riverplace/index.php (閲覧日2021年7月28日)
β本町橋 https://hommachibashi.jp/(閲覧日2021年7月28日)

<海外事例参考URL>
国土交通省 水辺とまちの未来創造プロジェクトの取組 https://www.mlit.go.jp/river/kankyo/main/kankyou/machizukuri/mizube_p.html
第1回配布資料https://www.mlit.go.jp/river/kankyo/main/kankyou/machizukuri/pdf/01-01.pdf(閲覧日2021年7月28日)
PARIS パリプラージュ https://www.paris.fr/pages/paris-plages-prend-ses-quartiers-d-ete-des-le-18-juillet-8050(閲覧日2021年7月28日)
北欧トラベルガイド コペンハーゲン観光情報 https://www.tumlare.co.jp/guide/denmark/copenhagen/(閲覧日2021年7月28日)
トラベルコ
ストロイエ通り https://www.tour.ne.jp/w_review/CPH/sightseeing/spot/1321985/(投稿日2016/1/27)(閲覧日2021年7月28日)
サンアントニオリバーウォーク https://www.visitsanantonio.com/river-walk/(閲覧日2021年7月28日)
ブリティッシュ・ウォーターウェイズ https://canalrivertrust.org.uk/(閲覧日2021年7月28日)

<計画案>
大阪府 中之島ゲートエリア(仮称)https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/16523/00000000/GATEarea_kihonkeikaku.pdf(閲覧日2021年7月28日)
EXPO2025(公益社団法人2025年日本国際博覧会協会) https://www.expo2025.or.jp/(閲覧日2021年7月28日)

【オープンデータ】
<地図>
国土交通省『国土地理院』 https://www.gsi.go.jp/(閲覧日2021年7月28日)
MappinDrop https://www.gsi.go.jp/(閲覧日2021年7月28日)

<デジタルアーカイブ>
大阪府立図書館 おおさかeコレクション https://www.library.pref.osaka.jp/site/oec/index.html(閲覧日2021年7月28日)
大阪市立図書館デジタルアーカイブ http://image.oml.city.osaka.lg.jp/archive/(閲覧日2021年7月28日)

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