よりよい生活のために、人生の最後の死の質を上げる取り組みをする浦安市と浦安市墓地公園
千葉県浦安市は夫の転勤により通勤に便利なところで住み出し、28年になる。住みやすいと感じるが、その要因は何かと考えると、一つには公共施設の充実だ。その中でも他県よりも特筆すべきは今生活している人の質にも関わる、死の質を大切にする中で造られた墓地公園である。今回はこの最後の拠り所である墓地公園を取り上げてみる。また墓地公園建設秘話ともなる、かつての浦安の人々の人生儀礼の葬送に対する家族を思う温かさをも考えていきたい。
1. 基本データと歴史的背景
基本データ
・浦安の地形
当代島、猫実、堀江の3つの地域だった。それが海の汚染等により漁業権全面廃止となり、周辺の海が埋め立てられ約4倍の現在の広さになったのが昭和56年、現在では先の3つを含め全部で19の地域がある。
・浦安墓地公園 (1)、(添付ファイル 浦安墓地公園パンフレット)
場所 千葉県浦安市日の出8−1−1
施設面積 133,000m2 (東京ドーム約2.8個分)
墓地施設 芝生 12,500基 (1家族と考え、1基に4〜8人可能)
樹林 5,000基
複合 約4800基
※浦安市民全人口 約16万人分をカバー予定
葬儀の歴史的背景
・昔の浦安
当代島は浦安の中でも海から遠く、兼業農家が多く、家の建物の並びの班よりも昔からのご近所付き合いでの組というつながりで冠婚葬祭は執り行われていた。炊き出し、香典場、棺担ぎ、墓の整備等、遠くの親類より近所のもので執り行なった。また葬儀の流れは、火葬→通夜→葬式の順番の習慣であった、遺体の痛みを防ぐためだったと推測される。別の地域、堀江は海に繋がる境川があり、以前は漁業を主としていた家が多かった。喪家に送られた米、味噌、酒などは寺へ手伝いの男性がリヤカーで運んでいた。棺は輿に乗せて運び、墓へと埋葬された。近親の方が白装束を着ること、また男性は紋付袴、子供は七五三の着物で、棺は輿に乗せられ墓地にとは、死を穢れでなく、死を最大の式としていたのがわかる。それは所持する中で一番の正装をしていたことがわかる。(2)(写真1)この白装束については、東北の事例として嫁入りの時の着物で綿帽子も昭和初期まで被ったのも確認できている(3)
・現在の葬儀(浦安)
特に浦安だからととりたてたものはない。現代の社会事情では、亡くなる場所は自宅でより病院が大半である。事前に生前契約をしている人はまだ少なく、病院が2、3葬儀社を紹介してくれるところを利用するケースがほとんどとのこと。(順天堂大浦安病院の霊安室担当者に聞き取り。令和2年2月27日)そして葬儀社主導で諸所の葬儀の打ち合わせを行い、式を執り行う。ご近所へは後日挨拶をし、一緒に手伝いをすることは現在はないに等しい。また以前は近親者のみ喪服であったが、現在は参列者も含めて黒の喪服を着用している。
・お墓について
お墓に関してであるが、浦安は元猟師町であったことからか信仰に熱心である。旧3村にそれぞれあった神社、清瀧神社、豊受神社、稲荷神社が今でも大切にされ、お寺は6つ、真言宗4寺院、日蓮宗1寺院、浄土宗1寺院である。このうちの日蓮宗の正福寺の田中貞真ご住職にメールではあるが質問させていただいた。(令和5年7月6日)
質問 最近、墓じまいというのを聞きますが、こちらでもありますか?
田中ご住職 ここ10年で2件です、継承者が途絶えてしまった遠縁の方から依頼がありました。
質問 新しいお墓は年間どのくらいですか?
田中ご住職 空いている墓地がないため、従来のお檀家さんのみです
質問 ペットはお墓に入れますか?
田中ご住職 入れません。現在のお墓は明治以降から定着してきたもの。お墓や葬儀、供養の仕
方等変わってくるでしょう。
下記は浦安市〔生活編](1993年3月発行)の226頁からの引用だ。
このように昔からある先祖代々のお墓は浦安の場合、守られてきており、ほとんど墓じまいや
改葬はない。そこで、大勢の人が移り住み、新しい地域社会を築こうとしている新興住宅地で
は、その需要に直ちに講ずることは容易でない。
市では、浦安市民のために平成四年に墓地公園を開設し、「浦安を故郷とし心のよりどころになるような」墓地を供給しはじめた。
このように、浦安市は従来のお寺等にあるお墓が、墓じまい、改葬が執り行われることはあまりない実情から、人口の急激な増加に伴い、お墓の整備が必須だったため、広大な土地を確保し、浦安市民全員が墓に眠れる計画されたことがここでも伺える。
2.事例のどんな点について積極的に評価しているのか
積極的に評価する点は、心の安定は何か、生活の基盤は何かを浦安町の頃の調査結果からもわかるように、市は考え捉え大切にし、憩いの場として開放感のある墓地公園の存在を造ったことだ。今回は特に触れないが、市営のバリアフリーの斎場もあるのは、最後の葬儀に対して、浦安市がその家族へ敬意を払ってくれているようにさえ、当事者は一層感謝の気持ちになる。(4)、(5)しかし人口推移等により変更はされ可能性はあるのか、確認してみたい。
ここで実際のお話しを浦安市役所環境衛生課の中岡様に浦安市墓地公園について電話でインタビュー(2023年7月3日午後1:10~1:20)をさせていただいた。
それによると、年間200基の新しいお墓ができ、また約60基が墓じまいされる。
そして今からお墓をあと10年は作れる空き地が墓地公園には残っているので、拡張のため、近隣を埋め立てる計画等はない。
また海洋散骨等の許可が今後も降りる予定はありません。
とのことだった。
市街の人にとっての浦安の印象は、東京ディズニーランドやシーなどのレジャー施設である。一方心の拠り所となるお墓は、市民にとってある意味ではレジャーよりも重要な要素である。
3.国内外の他の同様の事例と比較して何が特筆されるのか
さて、近隣の墓地確保の事例を比較検討してみる。同じ公営墓地の比較として、近隣の東京の令和3年の抽選結果であるが公営墓地の抽選結果(6)を見てみる。すると最低でも1.5倍以上で、年一回の抽選である。つまり死後しばらくは自宅に骨壷を保管するのだ。以前職場の同僚が数年前に亡くなられた家族のお墓が決まらないといっていた理由が理解できた。(7)一方、浦安市は亡くなった月の翌月には墓地の使用許可がもらえ、公園内施設の法要行事も行える利点がある(8)
更に、広さの面での比較として、埼玉県所沢市の所沢聖地霊園と比較検証する。ここを選んだ理由は、実父がこの霊園の墓地に眠っていてとても広いことを以前から知っていたため、今回調査してみた。この地は、昔は米軍キャンプで金網で囲われ、今の航空公園駅は無く、近寄れなかった。1972年頃から米軍基地の返還が始まったため、この土地もかつては米軍基地跡と考えていたが、所沢市経営企画課の星野様、基地対策室弘田様にメールインタビューのご回答をいただいた(添付ファイル レポート添付写真とインタビューメール)ところ、米軍基地の土地ではなく民間の土地であった。1972年に返還が始まったのと同時期に数社の民間会社で墓地公園ができあがった。その広さは東京ドームの約6倍、浦安墓地公園の約2倍の広さである。民間の墓地がたくさんあるため、所沢市では公営を予定していない。
浦安墓地公園は埋立地という特殊な立地条件であり、また所沢聖地霊園は元米軍キャンプ地の近隣という特殊な事情から、広大な敷地確保が可能だったという共通点と、その土地の歴史によるものが公営と民営の違いがあるようだ。
4.今後の展望について
葬儀、お墓は生活スタイルの多様化に伴い変化してきている。浦安市墓地公園も樹林墓地、合葬式墓地など順次建設されてきた。さて今後については、ペットを家族として生活している人の要望として、一緒にお墓に入りたいというニーズはますます増加するものと考える。調査すると、法律により動物を人と一緒のお墓に入れてはいけないというものはない。(13)ただし、浦安市墓地公園の場合は、現在の利用規約では遺骨以外は難しい。(14)一人暮らしの高齢者がペットを飼っているケースは多いという調査結果がある。(15)また市でも「犬・猫の場合はほとんど人間と変わらない。彼岸や一周忌などには墓参を欠かさない家族もみられる。」と認識している。(16)この利用規約が市民の願いによって変更される時、より死の質を高め、心の拠り所となる墓地になると考察し、結びとする。
参考文献
浦安市教育委員会 『浦安の民族』―社会組織•年中行事•信仰― (1996年)
浦安市編さん委員会 『浦安市史[生活編]、1999年3月発行
国立歴史民族博物館編『葬儀と墓の現在ー民族の変容ー』株式会社吉川弘文館、2002年12月
小川直之・服部比呂美・野村朋弘編『伝統を読みなおす2 暮らしに行くづく伝承文化』藝術学舎、2014年12月
(1)浦安市墓地公園案内パンフレットhttps://www.city.urayasu.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/000/680/pan.pdf (2023年7月17日閲覧)
(2)浦安市編さん委員会 『浦安市史[生活編](1993年3月発行)220頁
(写真1)添付ファイルから、卒業研究レポート添付写真とメール.docx
(3)国立民族博物館編 『葬儀と墓の現在―民族の変容―』 吉川弘文館 2002年12月 77頁
(4)浦安市墓地公園 浦安市ホームページ内
https://www.city.urayasu.lg.jp/shisetsu/sonota/saijo/1005653.html
(2023年6月24日閲覧)
(5) 浦安市墓地公園 https://www.urayasu-zaidan.or.jp/bochi/index.html (2023年6月24日閲覧)
(6)令和5年度東京都都立霊園の募集https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2023/05/25/32.html(2023年7月22日閲覧)
(6)2021年8月東京公営墓地受付状況と抽選結果
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2021/08/11/09.html(2023年7月22日閲覧)
(7)東京都建設局霊園
https://www.kensetsu.metro.tokyo.lg.jp/jigyo/park/reien/index.html
(8)浦安市の公営墓地の使用許可について
https://www.city.urayasu.lg.jp/todokede/sousai/bochi/1000681.html
(メール1)添付ファイルから、卒業研究レポート添付写真とメール.docx
(メール2)添付ファイルから、卒業研究レポート添付写真とメール.docx
(11)散骨に関する留意事項 東京都福祉保健局
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/kankyo/eisei/bochitou/ryuuijikou.html
(12)散骨に関するガイドライン
令和2年度厚生労働科学特別研究事業「墓地埋葬をめぐる現状と課題の調査研究」研究報告書
https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000763737.pdf
(13)墓地、埋葬等に関する法律
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu-eisei15/ (2023年7月22日閲覧)
(14)浦安市墓地公園利用案内 https://www.city.urayasu.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/000/680/riyou.pdf (2023年7月23日閲覧)
(15) 一般社団法人 日本ペットフード協会 2021年(令和3年)全国犬猫飼育実態調査 結果 https://petfood.or.jp/topics/img/211223.pdf (2023年7月22日閲覧)
(16)浦安市 浦安市史[生活編]、浦安市、1999年3月、192頁より