二つの走井餅の歴史と目指す未来
1、はじめに
京都府八幡市には走井餅という、餅の中にこしあんが入った白い餅が売られている。
その餅は、ほとばしる水滴を表した形、刀の荒身を模した独特の形と言われている[添付資料1:11株式会社やわた走井餅本舗]。
走井餅を食べれば道中剣難を免れると、旅人たちがこぞって縁起をかついだ餅とも言われている。また、剣難を逃れ、開運出世の縁起を担いだものと伝えられている。
その走井餅には、滋賀県大津市にもある。京都府八幡市と滋賀県大津市の走井餅について歴史的文化遺産として価値を考察するものである。
尚、滋賀県大津市の走り井餅は「追分走り井餅」、京都府八幡市の走井餅は「やわた走井餅」と区別する。
2、基本データと歴史的背景
名 称:株式会社やわた走井餅老舗
創 業:明治43年(1910年)
所在地:京都府八幡市八幡高坊19 (石清水八幡宮表参道一ノ鳥居前)
店 主:10代 井口氏
商 品:走井餅
餅の形:[添付資料1:11株式会社やわた走井餅老舗]を参照
賞味期限:製造日から2日間
石清水八幡宮表参道一ノ鳥居前に株式会社やわた走井餅老舗という昔ながらのお店がある[添付資料3:②の地図]。その店に「走井餅」という白い餅が売っている。白い餅の中にこしあんが入った餅である。その餅は、見た瞬間に手作りであることはすぐにわかる。店舗の古さを感じ、歴史のある餅と感じた[添付資料1:9、11やわた走井餅本舗]。
梱包箱に走井餅が入っているのであるが、その梱包は走井餅を手作業にて箱に入れ、密閉梱包しないのである[添付資料1:19株式会社やわた走井餅本舗]。このことが賞味期限に影響しており製造日から2日間になり、この2日間の短さが走井餅の販路に影響している。
やわた走井餅を製造販売している株式会社やわた走井餅老舗の創業は、創業明治43年(1910年)である。今年で、113年続いている。創業は明治43年(1910年)であるが、分家としての創業になる。本家は明和元年(1764年)となり、本家と合わせると259年も続いているのである。
3、事例のどんな点について積極的に評価しているのか
創業からの製法を守り抜き、機械を入れず手作りを続けている点を積極的に評価する。手作りと簡易梱包により賞味期限が製造日から2日間という。2日間の賞味期限により、販路をあえて広げず石清水八幡宮の参拝者向けの販売に徹している点も積極的に評価する。
草津追分にあった創業家は、株式会社やわた走井餅老舗が創業後に跡継ぎがおらず廃業をしている。よって、株式会社やわた走井餅老舗は分家であるが直系として、昔ながらの製造法でやわた走井餅を製造販売して江戸時代から走井餅の歴史を継承している点を評価している[添付資料1:29]。
時代の流れに影響されず、機械化もしていない。また、店舗の拡大もせず、製造販売している店舗と、石清水八幡宮の境内にある臨時店舗(土日祝と石清水八幡宮の行事がある時に開店する)の2店舗だけの販売である。こじんまりした小規模経営である。当主は、井口の家名を継承し井口家を守り商売を続けている。やわた走井餅は、分家ではあるが今残る直系唯一の走井餅となり積極的に評価をする。
4、国内外の他の同様の事例と比較して何が特筆されるのか
4-1、比較対象店舗の説明
名 称:株式会社走り井餅本家
創 業:明和元年(1764年)
所在地:滋賀県大津市横木一丁目3-3
店 主:井筒八つ橋本舗が引き継いでおり、店主はいない。
商 品:走り井餅
餅の形:[添付資料1:11株式会社走り井餅本家]を参照
賞味期限:製造日から2週間
株式会社走り井餅本家は、追分走り井餅を製造販売している。場所は、走井餅の発祥地である滋賀県大津市にある。本家筋にあたるが、本家井口家が廃業により初代からの系統は途切れているが、製法が伝承され続いている[添付資料1:29]。
追分走り井餅は、明和元年(1764年)に初代井口市郎右衛門正勝によって創業した。本家井口家として代々引き継がれていたが、跡継ぎがおらず本家井口家が廃業してしまう。その後、お菓子を作っていた片岡家が走井餅の製法を引き継ぎ、走井餅は継がれることになった。しかし、片岡家においても跡継ぎがおらず、お菓子を作っていた井筒八つ橋本舗が製法を引き継ぎ現在に至る。
4-2、他の同様の事例と比較して何が特筆される点
株式会社走り井餅本家は、本家が廃業で井口家本家からの系統は途切れているが、製法が伝承され続いている。追分走り井餅は、昔ながらの手作りではなく餅の形が整っており機械での生産と考察する[添付資料1:11株式会社走り井餅本家]。
また、追分走り井餅は梱包方法の改善により賞味期限が製造日から2週間となっている[添付資料1:19株式会社走り井餅本家]。機械生産により大量生産され、多くの店舗で販売されている[添付資料:10株式会社走り井餅本家]。
追分走り井餅は製法の伝承により、時代の流れと環境の変化により創業当時の追分走り井餅から新種の走井餅を作り出している[添付資料1:13株式会社走り井餅本家]。追分走井餅は、走井餅の名前だけを継承している餅と言ってもいいかと思う。これは、追分走り井餅の本家が廃業したことで、昔ながらの製法を守る意識が薄くなったのだと考える。
やわた走井餅は、分家ではあるが今残る直系唯一の走井餅となる。やわた走井餅は変化することなく、その製法が代々引き継がれ現在に続いている点である。昔の伝統を守り抜いているやわた走井餅本舗での新しい種類の餅を出さず、賞味期限を延ばそうともせず、販売拡販に走らず2店舗の販売のみで経営しているところに伝統を重んずる老舗の意気込みを感じた。
5、今後の展望について
株式会社やわた走井餅本舗は、6代 井口市郎右衛門正勝の時に走井餅の拡販により、名水がある場所に子供たちを送り込んだ。6代 井口市郎右衛門正勝の四男嘉四郎が、名水「石清水」があるやわたで走井餅を作り始めた。現在、株式会社やわた走り井餅本舗は10代目が守っている。11代目は、10代目の長女が継ぐことで決まっている。これからも時代の環境の変化に変わらず、伝統を守り続ける方向性は変わらない。
今後は、やわた走井餅を製造し販売していくことを継続していけるかが課題である。
やわたで113年も続いている走り井餅である。草津追分の創業から数えると259年も続いているのである。分家としてやわたに移ってきた理由は、大津追分の環境の変化である。明治時代になると人々の移動が鉄道になる。大津追分は、東海道の街道沿いにあり東海道を歩いていく人々が少なくなったのである[添付資料1:10株式会社走り井餅本家]。走井餅の販売数が激減し、新たな販路を広げるため名水のあるやわたに移ってきたのである。やわたに移ってきて、今日までいろいろな環境変化に対応してきたと思う。株式会社やわた走井餅本舗にて、これからもいろいろな環境変化が起こっていくが、やわた走井餅本舗は昔ながらの製法と味を老舗として伝統を継承していくであろう。
6、まとめ
やわた走井餅を調査して2つのことがわかった。
1、老舗における環境の変化
鉄道の普及により、昔の街道にて徒歩での移動する人が減り商売に影響が出たことであ る。それにより、新天地を探したことで本家と分家の関係が発生することになった。
2、老舗の伝統へ対応
追分走り井餅は井口家の本家筋にあたるが、跡継ぎ問題で井口家の本家筋が途絶え、製法だけが引継がれることになる。その引継ぎは、伝統を言う文字が消え、時代の変化に対応していく方向性を選んだ。株式会社やわた走井餅本舗は、井口家の血統が続いていることにより伝統を守り継続する方向性を選んでいる。
老舗の経営と伝統を守ることがいかに難しいかを学んだ。
やわた走井餅の伝統を守り製造販売を続けている、株式会社やわた走井餅本舗の井口家にはこれからも伝統を守っていただきたい。歴史ある八幡走り井餅の製造販売を続け、100年後、200年後も製造販売をしていることを望む。
やわた走井餅本舗は、歴史的文化遺産として十分に当たると考察する。
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添付資料1 株式会社走り井餅本家 と 株式会社やわた走井餅老舗 の比較資料
出典
株式会社走り井餅本家(2023年1月14日閲覧)
https://www.hashiriimochi.co.jp/index.html
やわた走井餅老舗(2023年1月14日閲覧)
http://yawata-hashiriimochi.com/
やわた走井餅老舗のブログ(2023年1月14日閲覧)
http://blog.yawata-hashiriimochi.com/
石清水八幡宮境内 コトバンクより(2023年1月14日閲覧)
https://kotobank.jp/word/%E7%9F%B3%E6%B8%85%E6%B0%B4%E5%85%AB%E5%B9%A1%E5%AE%AE%E5%A2%83%E5%86%85-1443286
走井 すさまじきもの ~歌枕★探訪~より(2023年1月14日閲覧)
http://saigyo.sakura.ne.jp/hashirii.html
井筒八ッ橋本舗(2023年1月14日閲覧)
https://www.yatsuhashi.co.jp/
石清水社・石清水井 | 八幡ストーリー (city.yawata.kyoto.jp) (2023年1月22日閲覧)
https://www.city.yawata.kyoto.jp/yawata-story/introduction/introduction007.html
石清水社の井戸 (2023年1月22日閲覧)
https://narayado.info/kyoto/iwashimizusya.html
京阪ホールディングス 沿革 (2023年1月22日閲覧)
https://www.keihan-holdings.co.jp/corporate/history/ -
添付資料2 安藤広重作「東海道五十三次」の大津宿の絵
参考文献
走井 すさまじきもの ~歌枕★探訪~より(2023年1月14日閲覧)
http://saigyo.sakura.ne.jp/hashirii.html -
添付資料3 株式会社走り井餅本家 と 株式会社やわた走井餅老舗 の地図
参考文献
Googleマップの画面コピーをもとに筆者加工(地図:2023年1月22日閲覧、追記:筆者作成)
https://www.google.co.jp/maps/place/%E4%BA%AC%E9%83%BD%E5%BA%9C/@34.9356513,135.853466,12z/data=!4m5!3m4!1s0x5fff7420f91f1b61:0x590a7bc238b19538!8m2!3d35.1566609!4d135.5251982!5m1!1e4
参考文献
大津百町百福物語 (2023年1月22日閲覧)
http://otsu-hyakufuku.jp/about/
株式会社走り井餅本家 (2023年1月22日閲覧)
https://www.hashiriimochi.co.jp/index.html
株式会社やわた走井餅老舗 (2023年1月22日閲覧)
http://www.yawata-hashiriimochi.com/