会津 昭和村の「からむし織」~受け継がれ進化する伝統技術~

鈴木 隆雄

Ⅰ はじめに
からむし織は「風をまとうように軽く、湧き水のように涼やかな類稀なる極上の織物」と称される。[写真1]この苧(からむし)は縄文土器の文様をつける縄としても使用され、「日本書紀」には栽培を奨励するものとして記述されており、かつては広く全国で栽培生産されていた。しかし現在は全国で昭和村と沖縄宮古島の2か所のみでしか取れない希少繊維となっている。このからむし織はイラクサ科の多年草の植物カラムシの繊維を基とする糸で織った織物で、現在は福島県の重要無形文化財に指定されている。また平成3年には国選定保存技術にも選定されており、重要な伝統文化産業の一つとして村を挙げて技術の保持と伝承、産業育成に力を注いでいるが同時に多くの課題も抱えている。本論ではからむし織の今日の姿と今後の展望について考察を進める事とする。

Ⅱ 昭和村とからむし織の基本データ
(1)所在地など 福島県大沼郡昭和村   面積210キロ平方メートル
(2)人口など  1276人(2018年) 人口密度6人/㎢ ランドマーク:博士山
(3)気候  日本海型気候で盛夏は短く11月中旬より4月初旬までは根雪豪雪期間
(4)特産品 全国一位の栽培面積を持つカスミソウの花卉栽培とからむしの栽培      出荷と織物加工品の販売等
(5)特徴  本州で唯一からむしの栽培を絶やさずに継続してきた地域である。また、平成6年から時術継承の為「織姫制度」を開始、定住人口を増やし担い手を養成する為研修生を全国から毎年募集続けている。
(6)生産高 昭和56年に農協内に工芸課が設立され生産販売を強化するも、51年をピークとしてその後は減少を辿っている。しかし近年また、その美しさと希少性が再評価され村の生活産業として見直され栽培面積や生産量も復活している。
(7)からむし織の産業従事者 栽培農家は約35軒、外部からの出身者で織姫として村に定住した後継者が31名(内11名は家庭持ち)、織手は20数名である。

Ⅲ 歴史的背景
Ⅲの1 昭和村に於ける、からむし栽培の始まり
一説では約600年前の室町時代頃から栽培されるようになったと言われているが、初見資料として確認されているのは宝暦6年(1756)の村内の青苧畑証文が最古の文書である。さらには会津藩主保科の時代、勧農作物の一つとして山形などから良質の根を求め農業政策の一翼を担うものとして推奨されたという背景もあり、以来連綿と継承されてきたのである。

Ⅲの2 からむし栽培の拡大発展とその後の衰退
この地が高冷地で冬は2mを超す豪雪地帯で農作物の生産には厳しい土地柄である為、からむしの栽培生産は貴重な商品作物として村の人々の生活を支え、手から手へと技が受け継がれてきたのである。江戸時代には越後上布や小千谷縮みの上布用の原料として質の良い会津昭和村のからむしが使用された事から越後の商人が険しい八十里峠を越えて多く買い付けにきていた。明治中期には年間の生産量が6トンを記録した。昭和に入ると戦争の食糧難等によりからむし畑はイモ等の作物畑へと転作を余儀なくされ、また、安価な化学繊維の発達普及により需要が激減し、昭和村のからむしも販売先の多くを失う事となった。伝統の技術と産業が存続の危機に瀕し、若者は村を去り生産従事者も減少し、技術者も高齢化していったのである。

Ⅳ 「土から糸になる植物」からむしの栽培と糸作りについて
1(植え付)
5月中旬に根を植え付けるが1年目は雑草取り、2年目以降は畑を焼き、3年目から収穫が出来るようになる。

2(からむし焼き)
5月の小満の頃に芽を一度焼き、成長を均一に揃える為にからむし焼きをする。[写真2]

3(垣結い)
焼いた後水をまき翌日に施肥をしてから周囲に杭を立て棒カヤの垣根を作り獣の侵入を防ぎ、倒れ、擦れ合いを防止する。[写真3]

4(収穫)
7月の下旬からお盆までの間に行う。朝露の残る早朝にその日に引く分だけを尺棒で一定の長さに揃えカマで刈り取る[写真4] 。

5(浸水)
刈り取り選別したからむしは、皮を剥ぎやすくするため、一晩程山から流れる清水に浸す。[写真5]

6(からむし剥ぎ)
からむしを皮2枚になるように剥ぎ、中から出る青汁を流し乾燥防止の為に、また清水に浸す

7(からむし引き)
引き具で剥いだ皮の外皮を取り除き、中の繊維を取り出す。青色で光沢のある真珠の様な輝きの「きら」というリボン状の繊維をシュッシュッとリズミカルに引いていく。[写真6]
この段階ではじめて植物から布地の素材へと変換するのである。

8(乾燥)
屋内で陰干しをして日に当てないように保管する。

9(苧績み)
おうみという糸をつぐむ作業で、大変根気のいる作業である。取り出された繊維を細かく裂き一本一本手で裂いて糸を繋いでいく。帯一本分で約2か月を要する。[写真7]

10(撚りかけ)
おぼけ(苧桶)と呼ばれる丸ワッパにためられた糸を静かに取り出して湿らせ、糸車でよりをかけ、丈夫な糸に仕上げる。

このように大変手間と根気のいるいくつもの作業工程を経て初めて植物から糸ができるのである。

Ⅴ 昭和村からむしの今日的活動と特筆に値する点
Ⅴの1 今日的活動とその背景
昭和村は現在も本州で唯一からむしが栽培されている所であり、昔から「からむしだけはなくすなよ」と受け継がれ、この技術を絶やさぬようにと代々の村民の強い信念があり、今も伝統を継承していく力となっている。生産者、農協、役場、技術保持者などが一体となりさらには村外からの新しい風をも入れて改善を重ね新しい視点を持ちながら活動し続けているのである
Ⅴの2 特筆すべき点
平成6年に村に活気を取り戻し定住人口を増やすために、村独自の産物である「からむし織」の織手を養成し、技術を継承発展させる目的で「織姫体験制度」をスタートさせた。この制度は、からむし織と山村生活に興味のある女性(今は彦星として男性も対象)を全国から募集し選考、面接を経て研修生として11か月間にわたり一連の作業に従事してもらうものである。その間、生活援助としての報奨金が村から支給される。今年で25期生を輩出し、多くの織姫が村内に残り積極的に繊維事業として生産普及を拡大する事となり、伝統産業の復興再生の大きな力となっているのは他に例を見ない特筆すべき点である。

Ⅵ 今後の課題と展望への考察
今の私達の日常の暮らしは豊で便利である。消費に多くの選択肢があり、ネットの普及等によりいつでも直ぐに欲しいものが手に入れる事ができる時代である。こうした中にあって伝統産業の産品が時代の変化を乗り越え継承していくためには、やはり売れる商品づくり、価値ある商品へと進化していかねばならない。守り継がれてきた基本的な良さを再度見つめ直し上手に工夫を重ね、新しい価値として再生発信していく事が大切である。織姫2期生の遠藤さんの言葉によれば同じからむし織のある八重山では自家消費使いが、いろんな場面で大変多く、しかもそのステータスも高い。自分たちで織って自分たちで着て使うという事を丁寧にやっている。こうした流れ作りはとても重要であると感じたと言っている。やはり出来ることを一つ一つ山を登るように一歩一歩進めていく事が進化の道のりであると言えるのである。

Ⅵ 沖縄、台湾、など 他の地域との比較検証
沖縄のからむしは(ぶー))と呼ばれ亜熱帯地方のからむしであり、寒冷地の昭和村とは気候風土も違う為その品質にも当然ながら若干の差が見受けられる。昭和村のものはキラと呼ばれる光沢が強く比較の上ではやや固めであり沖縄や台湾のからむし(プタカン)は色味が濃く柔らかいという性質差があるように思われる。このような差が原料加工の次の段階においても技術体系の違いとなり用途の形態にも及んでくるのである。さらにはこのような原料の差異という事のみならず、今後このからむしをどのように伝承、進化させていくのかという取り組みにおいては昭和村の諸々の活動は独創的であるといえる。

Ⅶ 終わりに
今回のレポート作成にあたって昭和村に何度か足を運び感じたことは、過疎高齢化の小さな村がとても素敵に見えたことである。人々の営みの中に営々と受け継いできた意味のあるものと村民が一体となった熱が、からむしというものを媒介として今後の村の暮らしの在り様を紡いでいると思えたのである。[写真8]

  • %e9%88%b4%e6%9c%a81 写真1 からむし織の反物 写真提供:昭和村からむし振興課
  • %e9%88%b4%e6%9c%a82 写真2 発芽を揃え、均一な成長にするため畑を焼く 写真提供:昭和村からむし振興課
  • %e9%88%b4%e6%9c%a83 写真3 かや垣を立てている様子 写真提供:昭和村からむし振興課
  • %e9%88%b4%e6%9c%a84 写真4 朝露の残る早朝に葉を落として一定の長さに刈り取り収穫する 写真提供:昭和村からむし振興課
  • %e9%88%b4%e6%9c%a85 写真5 葉を落とした後、一晩程きれいな清水に浸す 写真提供:昭和村からむし振興課
  • %e9%88%b4%e6%9c%a86 写真6 荢引き(おびき)と呼ばれる道具を使い、表皮と光沢(キラ)のある繊維に引き分ける 写真提供:昭和村からむし振興課
  • %e9%88%b4%e6%9c%a88 写真8 昭和村山間の全景 写真提供:昭和村からむし振興課

参考文献

発行人 菅家博昭 『別冊 会津学』、 奥会津書房、2018年
発行  昭和村 『からむしの学校 カラムシを知る.考える.伝える』会津地方振興局 2014年
著者  菅家博昭 『苧』 農山魚村文化協会 2018年
発行者 羽染兵吉 『からむし(苧麻)全集』
著者  滝沢洋之 『会津のからむし』  歴史春秋出版株式会社  1999年
HP  www.vill.showa.fukushima.jp
サイト名 福島県大沼郡昭和村 アクセス日 31年1月20日

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http://free.filssend.to/filedn_infoindex?rp=da1c58b7b10419e2e7b1b9ee75188a4o

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