東大阪文化創造館の人が集い憩うピロティ—視線で変わる居心地
1はじめに
コロナ感染症により世界的規模で仕事や学びのシーンに変化があった。おそらくこの流れは発展しこそすれ戻ることはないだろう。そんななかでちょうどオープンした地元公共施設「東大阪文化創造館」に人々の憩いスペースが偶然できた。非常に居心地の良い場所なので、その空間がなぜ憩いスペースになったかを考えつつ紹介する。
1-1基本データと歴史的背景
2019年9月1日 東大阪文化創造館グランドオープン。最寄り駅からは徒歩5分、バス通りでもあるメインストリートに沿って、メインストリートの方向に開けたデザインで建築され(大林組)、近隣は住宅地であるが自動車教習所や大学、付属幼稚園などが集まる文教地区でもある。
1-2設備
1500人収容の大ホールをはじめ、小ホール、音楽室、多目的室、会議室など多くの小部屋を持つ。建物に囲まれるように街角広場という中央緑地があり、敷地境界線に柵や塀はないオープン外構。月1回火曜日に休館日がある。
建物の1階の一角には市民持ち寄りの図書館「まちライブラリー」と「まちライブラリーカフェ(焼きたてピザとドリンク)」がある。
ライブラリーは基本的に文化創造館の開館日であればいつでも閲覧可能のオープンスペースとなっている。カフェも開館日に合わせて営業している。「まちライブラリー」の外側に当たる外壁沿いに階段状のベンチ構造を備えるピロティがあるが、特段名前はない。このピロティが今回紹介する憩いの場所である。
2.積極的評価ポイント
2020年以降感染症と共に生活する世界で、多くの人が公園のような曖昧な屋外を意識し求めるようになった。これまで屋内の管理空間をいかに快適にするかが重要で、緑地や緩衝空間は見た目だけで実際に設計通りに使われるかどうかはあまり問われていなかった。しかし、感染症対策の世の中では、屋外空間でも安心して快適に過ごせることに価値がでてきた。屋外空間も管理運営の必要が生まれたのだ。
東大阪文化創造館はデザイン的に公開緑地とピロティがあるのだが、最近とみに安心して過ごせる屋外空間として市民に人気がでてきた。ピロティは、名前のない、そもそもの施設の売りでもなんでもない部分だ。施設HPを見てもピロティは取り上げられてすらいない。そんな建物の一部としか見られていなかった部分が居心地よく活用されている。このことは最初から意図していたとは思えないが、この条件で整備すればよい環境作りに役立つというサンプルとして、非常に参考になると評価している。
私の考える条件はこの4つだ。
・車の往来と共に人も行き交う賑わいが見渡せること
・利用者にとって背後からの視線ストレスが少ないこと
・管理下にあることがはっきりわかり同時にそこに憩うこと座ることを許可されていることがわかるデザイン
・毎日特に変わりなく建物との関係性が作られていること
おそらくこのことが、旧来の公開緑地やピロティ建築とは違う印象と居心地を与えたと考えている。
3.近隣事例との比較
ピロティを中心に行ったことのある建物・場所をいくつか挙げてみる。
3-1旧東大阪市民会館
建物外側に回り廊下があったが警備員の見回り対象で一般的に外部から使用不可、吹奏楽など大人数イベントの際は庇の下で雨がよけられるため外楽屋として使われることがあった。玄関付近の階段下部分がタイル張りピロティだったが、暗く閉鎖的で、大きな植栽があったため外部との見通しは無かった。ベンチなどは置かれておらず人が憩うという場面は見たことが無い。
3-2奈良県庁
旧市民会館と同様回り廊下のような構造で、1階の大部分がピロティとなっている。正面の歩道や車道から本庁舎への視線が遮られないよう、人々を招き入れるために設計されたとのこと。このピロティは日陰ではあるが特にベンチなどは設置されておらず、人が憩うという場面は見たことが無い。2階から外に出る通路として階段が直接出てきている。
3-3大阪南港ATC
ピロティ広場と呼ばれる屋外広場がある。ピロティ広場はATCに入ってこなければ見えない海側の一角で、完全に露天である。建物から海までは高低差があるのでその差を利用して階段と座る程度の大きなコンクリートの段が一角に作られている。段に座ると背後が賑わいのある建物出入口や通路になり、建物から海に出るにはその段を降りていく構造で、通路の一部である。露天の為座面は風雨にさらされ風化している部分もある。座っている人はいるが他に座るところが無いからという印象。
3-4東大阪文化創造館のピロティと公開緑地
前述のピロティ3か所のうち大阪南港ATCを除いて、人々が集い憩うという使い方はされていなかった。ATCは座る前提の造りだが通路の要素が大きく、通り過ぎる人の視線が背後から常に注がれるため、居心地がよいとは言えなかった。
旧東大阪市民会館や現奈良県庁は昭和40年代の重厚な作りの建物で、当時の考え方では公共建物は「権威」であって、利用者が「行きたくなる」という魅力要素は考えられていなかった。見比べてみると、3か所のピロティ空間は「憩うこと」が許可されているのかどうかはっきりしない空間と言える。通路としては成立しているが、とどまってなにか休憩・活動するような時には「居ていいのか?」と思う空間になっていた。
東大阪文化創造館のピロティは外回りに柱のない開放的な設計で、中央の公開緑地である街角広場の緑や賑わいとメインストリートの往来が、遮るものなく見渡せる場所にある。特徴は表面加工された樹脂素材で階段状に広いベンチが配置されていることだ。フロアマップにも書かれておらず、名前も付けられていないこの部分は、一番上に座ると背後の室内はガラス越しに「まちライブラリー」の一角だ。しかしライブラリーに人がいても構造上ピロティに絶えず視線が集まるというようなことが無い。一段下に座れば背後はベンチの一部になるのでそこにも視線はない。もちろんベンチなので「憩うこと」「座ること」が許可されている。警備員の巡回が来ても気を遣う必要はない。ピロティの天井部分は大ホールの客席下になっており、雨は吹き込まない。埋め込み照明があり、館内からは見ようと思えばいつでも見渡せる死角のない場所である。
また、建物の外ではあるがオープン外構なので、会館のイベント開催の有無・休館日などに関わらず常に利用可能だ。これらのことが、いつ行っても座ってくつろげるという良いサインになっていると考えている。
しかし居心地がいいと管理上の問題も発生する。夜間に人が集まることや、座る以外の活動は望ましくない。東大阪文化創造館の場合はベンチでスケートボードのトリックをする人が現れ、現在は残念ながら貼り紙などで規制し、夜間も警備員が巡回する必要が出てしまった。ただ、座る以外の活動をしてもらいたくない部分なら、ベンチの表面を凸凹にするなどデザインで解決できたはずなので、行動観察と共感は今後の公共建築に益々必要な感覚になるだろう。
4.今後の展望について
感染症の影響で自宅以外でも居場所を確保するべく「なるべく換気がよく」「座れる」場所を近くに探すようになった。
取材時に出会った高校生たちもそうだった。彼らの学校は駅をはさんで逆側にある。そのため、文化創造館の外に屋根の下で座れるところがあることを、たまたま通りがかりに発見したそうだ。グループで勉強するため集まり、時々ライブラリーや緑地で気分転換しながら便利に使っているとのことだ。その横に居た乳児を連れた女性は、風通しのよい日陰でベンチの幅が広く子供が寝かせられることや、ある程度の施設側の監視の目がありそれが子供連れにとって安心感となっていることがよく来る理由で、何気なく目に入る通りすがりの車や人を見ていると自分は一人ではないと落ち着くそうだ。
今後はこのような緩いつながりのある管理された屋外環境が意識的に探され活用されていくことになるだろう。
5.まとめ
安心感のある公共空間が必要だが、安心感は時代と共に変わるので、その変化に合わせて改良していける融通性や柔軟さが必要になるだろう。
今回偶然にできた憩いの空間が今後どのようになっていくか、興味深く見守りたい。
これからもっと新たな問題や制約が出てくるだろう。しかしそれらは、行動観察と共感を忘れず人にフォーカスしたデザインの力があれば、必ず解決していけるだろう。
参考文献
参考WEBサイト
東大阪市立文化創造館(7/20閲覧) https://higashiosaka.hall-info.jp/
PFI東大阪文化創造館株式会社(7/20閲覧) https://www.city.higashiosaka.lg.jp/cmsfiles/contents/0000018/18877/shiryou2.pdf
大林組(7/20閲覧 ) https://www.obayashi.co.jp/works/detail/work_2376.html
東大阪市(7/20閲覧)
https://www.city.higashiosaka.lg.jp/0000012994.html
東大阪市文化創造館まちライブラリーカフェ(7/20閲覧)
https://higashiosaka.hall-info.jp/facility/summary/machi-library-cafe.html
奈良県庁(7/20閲覧)
https://casabrutus.com/special/japanese-modern-architecture55/035
南港ATC(7/20閲覧)
https://www.atc-co.com/guide/