時とともに進化し続けていく、HAKATA JAPAN

高野 未来

時とともに進化し続けていく、HAKATA JAPAN

1. はじめに
福岡県福岡市博多区。この都市には織物、人形、張子、曲物など古くから今日まで伝わる工芸、いわゆる伝統工芸のまちとして盛んである。だが、それらは近年の目まぐるしい生活様式の変化とともに衰退の一途を辿りつつあるのが現状だ。そんな厳しい状況下で、強く立ち向かい続ける企業がある。それが博多織ブランド「HAKATA JAPAN」だ。
本報告書では、以下HAKATA JAPANの概要とともに他地域の類似伝統工芸との比較、評価することで、企業活動の将来性を導き出すことを目的に作成した。調査方法は、現取締役社長鴛海伸夫とのインタビュー、現場の見学、書籍研究により行った。

2. HAKATA JAPANとは
(1)会社概要
●屋号:HAKATA JAPAN
●商号:株式会社鴛海織物工場
●創立:1928年2月1日
●代表者:代表取締役社長 鴛海伸夫〔おしうみのぶお〕
●所在地:〒812ー0027 福岡市博多区下川端町3ー1 博多リバレイン1F HAKATA JAPAN
●従業員数:10名
●交通アクセス:西鉄天神バスセンターより約10分、JR博多バスターミナル3番のりばより約15分
(2)事業内容
ブランドコンセプトは「先進的なクラシシズム」。
博多織の持つ従来の美意識と高い織技術を帯だけでなく、バッグや服などのアパレル雑貨、ステーショナリー、陶芸や宝飾等に組み込むことで自分らしくスタイリッシュに楽しむ時代の進化的価値を提案している。これら商品の企画、製造、販売を担う。
(3)歴史・沿革
西暦1241年・鎌倉時代、承天寺開山・僧聖一国師(1202〜1280)と共に中国の宋で6年間修行し、織物の技法を習得した商人・満田弥三右衛門(1202〜1282)が博多の津に帰国、独自の意匠を加えながら織物を家伝とし、代々継承されたことが博多織の起源である。
250年後、中国の明で織物の研究を行った弥三右衛門の子孫・満田彦三郎(生没年不詳)が、その技法を竹若藤兵衛(生没年不詳)と共に工法の改良工夫して「琥珀織」のように地質厚く、浮線紋や柳条などの浮き出た模様を作り出すことに成功した。そしてその織物が作られた地名をとって「覇家台織〔はかたおり〕」と名付けられた。
さらに江戸時代、筑前藩主・黒田長政(1603〜1623)が、博多織を幕府への献上品として納めたことにより、より広く博多織市場は普及した。

鴛海織物は1928年に博多織メーカーとして鴛海伸夫の祖父・鴛海南が創業し、主に着物に占める帯を製造していた。総理大臣賞を始め、企業のオリジナル織物「大和錦」が登録商標、博多織きものショーのイベント企画・運営、通商産業大臣表彰「伝統的工芸品産業功労者」の認定を受けるなどさまざまな功績を得るが、1991年に起きたバブル崩壊の影響で一時織物市場から撤退する。
その後2000年に父・鴛海茂が博多織の新ブランドHAKATA JAPANを開業。これまで着物に締めるための帯地を、一つの良質な絹の素材としてファッションに加ようという発想の下、新しい形の博多織グッズを展開。ニューヨークのトレードショーにて見事ベストブース賞を受賞する。
2009年、鴛海伸夫が代表取締役社長に就任。博多リバレイン1階に直営店をオープンし現在まで運営を務める。

3. 商品について
(1)HAKATA JAPANオリジナル模様
HAKATA JAPANが取り扱う模様は全部で6種。博多織の代表である博多献上をはじめ、他5種はすべて鴛海織物オリジナルの模様である。※図1滑らかな肌触りと上品な印象が特徴の大和錦「細献上」、吉祥紋様の青海波に花の広がりがデザインされ、絶えることのない幸せを願う「華扇」、古来中国に伝わる百寿図より、未来への寿ぎと喜びの広がりへの願いを込めて八つの壽の文字を選出し、連ねられた「壽」、博多献上の華皿を花のように華やかに配置し、絶え間ない喜びと繁栄を祈る「華菱」、福岡の博多織デザインコンクールで入賞した新感覚の可愛らしさと神秘性を兼ね備えた「ドット」。非常にシンプルなのが特徴である。
これらの模様と博多織の五色献上〔青・紫・赤・紺・黄〕※図2を組み合わせてHAKATA JAPANの商品は作られる。
(2)クリエーターとのコラボレート
商品はアパレル雑貨を中心に全200種。その中の約8割がクリエーターと協力して作られたコラボレート商品である。例えばバッグは埼玉県のバッグ企業「ジェイクラフトマン」※写真1、服は福岡県のプリーツ企業「オザキプリーツ」※写真2、小物は京都府の「シューンナップ」※写真3、一部食器は武蔵野美術大学出身若手デザイナー「英一郎磁器」※写真4などプロ・アマチュア問わず、幅広い分野のスペシャリストとタッグを組むことで、企業のコンセプトに沿う商品展開を実施している。

4. 比較して見える優位点と課題点
京都市上京区にある西陣織専門店「白綾苑大庭」を比較対照とする。白綾苑大庭はネットショップを主体に西陣織の帯を製造・販売している企業である。昨年行われた伊勢志摩サミットでは着物と帯が採用された実績を持つ。先にHAKATA JAPANが優れている点を3つ述べる。
(1)受け入れやすいデザイン
HAKATA JAPANの模様はどれもシンプルなデザインであるため、世代や使用される場面を制限しない。日常生活でもカジュアルに使用することができる。また色展開もはっきりとしているので、自分やプレゼントする相手の好みに合わせやすい。
対して白綾苑大庭の模様は、大胆な図案や個性的な配色が特徴であるために、個人の好みに合わせずらく、年代、場面を限定してしまう。
(2)高い耐久性と順応性
白綾苑大庭の西陣織は、細い経糸に同じ幅の沢山の緯糸を打ち込んで複雑な柄を織り出す。大変薄く、軽量でしなやかであることが特徴であるが、反対にほつれやすい、歪みやすい、水に弱いなどの欠点にも繋がる。柄を重視にした製法をとっているので、金銀糸、平箔を多用していることも原因だと考えられる。
HAKATA JAPANの博多織の場合、細い経糸に太い緯糸を筬で強く打ち込み、経糸を浮かせて柄を織り出していく。完成した生地は厚みと張りがあり、キュッキュッと堅い独特の絹鳴りが聞こえる。昇進祝いとして帯を幕下以上の力士に譲渡されることから、簡単に劣化することは無く、耐久性が非常に高いと言える。加えて天気に左右され無い順応性を兼ね備えている点も評価される。
(3)リーズナブル
HAKATA JAPANで並ぶ商品は300円から高価なもので数万円と、手に届きやすい価格設定だ。これはプランニング、デザイン、プロモーションを全て自社が担い、それぞれの技術に特化した人々とパートナーシップを組むことで、最小限のコストに抑えるビジネス体系を整えているからである。故に小ロットで生産でき、織物業でありがちな在庫過多になることは無い。
白綾苑大庭も多品種少量生産方式を基盤に商品を製造するので、こちらも過剰在庫に陥る心配は不要だ。しかし、商品の殆どは一点ものの帯をメインに取り扱っているため、平均価格は十万円代と跳ね上がってしまう。

次に課題点を挙げる。それは〈顧客へのアプローチ対策が完備されていないこと〉だ。
拠点である博多リバレインは決して悪いロケーションではないが、店内の高級百貨店のような雰囲気から、足を運ぶ多くの年齢層が中高年代と限られてしまう。その上来客目的を分析すると、隣接する博多座の公演や、近隣のホテルオークラで宿泊した際の立ち寄りが主な理由で、顧客として抑えておきたい外国人観光客の動員もあまり見込めない。
対処法としてSNS広告やDM・ポスター・雑誌広告、楽天・Amazon・Yahooなどのネットショップ連携、または独自のネット販売等が挙げられるが、現状では不十分であることが判明した。

5. これからのHAKATA JAPAN
伝統工芸品を後世に残していくために日々奮闘するものたちがいる。HAKATA JAPANもその一つであり、作り手と協力し、博多織を現代のライフスタイルに合わせたデザインに進化させることで他に無い博多織を完成させることができた。
将来について企業は、顧客に対しての課題点を見直し、PR活動を通してまずは生まれ故郷である博多の地から、人々と交流を深めていきたいとのこと。地元の支持が集まれば、ブランドとしての説得力が一層高まり、県外進出や海外進出への可能性も見えてくる。これからは買い手との繋がりが未来をともにする商品開発への鍵となるだろう。今後の活動に期待したい。

  • HAKATAJAPAN_模様2 図1: HAKATA JAPANの模様(出典元HAKATA JAPAN公式ホームページ http://www.hakatajapan.jp/hakataori.htmlを参照し、筆者がまとめたもの)
  • hakatajapan_2 図2:博多織・五色献上(出典元HAKATA JAPAN公式ホームページ http://www.hakatajapan.jp/hakataori.htmlを参照し、筆者がまとめたもの)
  • hakatajapan_3 写真1:クリエーターとのコラボレート作品_ジェイクラフトマン 平成29年1月9日筆者撮影 HAKATA JAPANが創立して最初に製作したもの。当初はバッグを中心に商品展開していた。
  • hakatajapan_4 写真2:クリエーターとのコラボレート作品_オザキプリーツ 平成29年1月9日筆者撮影 プリーツスカートの縦じわの間隔は博多献上の模様をモチーフにしている。
  • hakatajapan_5 写真3:クリエーターとのコラボレート作品_シューンナップ 平成29年1月9日筆者撮影 金属の錫を材料にしたペンダント。錆びない特性があるので、半永久的に使用することができる。
  • hakatajapan_6 写真4:クリエーターとのコラボレート作品_英一郎磁器 平成29年1月9日筆者撮影 あくまで作品の形を重視しているので、白以外の色を使用しない。
  • hakatajapan_7 HAKATA JAPAN店内写真1:平成29年1月9日筆者撮影
  • hakatajapan_8 HAKATA JAPAN店内写真2:平成29年1月9日筆者撮影

参考文献

武野要子、小川規三郎『博多織史 』、博多織工業組合、2008年
北俊夫『近畿の伝統工業〜調べよう・日本の伝統工業5』、国土社、1996年
HAKATA JAPAN公式ホームページ、http://www.hakatajapan.jp/(2017年1月10日閲覧)
白綾苑大庭公式ホームページ、http://www.hakuryouen-ohba.co.jp/(2017年1月10日閲覧)