横浜山手西洋館「花と器のハーモニー」 〜“外国人居留地の面影が残るまち“としてのクロノトポス〜

遠藤 恵

はじめに
形ある物が永遠に存在することは不可能に近く、それは文化資産も同じである。開港の地・横浜の、港を見下ろす山手の丘は“異国情緒溢れる外国人居留地の面影が残るまち“として知られている(1)。だが一帯は関東大震災で一夜にして廃墟となり、居留地時代の建造物はほぼ残っていない(2)。では面影とはどこにあるのか。本稿は、この地に建つ「横浜山手西洋館」を生花で装飾するイベント「花と器のハーモニー」が、山手地区に与える意味づけを読み解き価値を考察する。主に2022年6月4〜12日第20回「花と器のハーモニー 山手の丘のウエディング物語〜幸せをよぶ7つの館のおもてなし〜」について述べる。

1:基本データと歴史的背景(資料1〜4)
1-1)花と器のハーモニー(以下「花と器」)
2001年に神奈川県横浜市中区の「横浜山手西洋館」に於いて、公益財団法人・横浜市緑の協会「花と器のハーモニー実行委員会」が主催となり、梅雨時の観光客減少対策として始まった(3)。来館者の多数を占めた40〜60代の女性層に人気の高い、フラワーアレンジメントと器に着目し企画された。初回は5館、第4回からは7館で開催されている。毎年各館長を中心に全体テーマを決定し、それに沿い各館の装飾担当が各館テーマとデザインを決める。生花装飾と食器のコーディネートを施し更に館内全体も装飾する(4)。

1-2)開催場所「横浜山手西洋館」と山手地区
1859年の横浜開港の後、山下町は商業地、かたや山手地区は住宅地の外国人居留地として開発され住宅と共に学校・教会・病院等の洋館が建ち並び、西洋文化の生活が営まれた。しかし1923年関東大震災によって建物は倒壊・焼失、外国人の多くは帰国や疎開をした(5)。現存する西洋館は概ね震災後の建築だが、それらも1960年代の高度経済成長期以降の開発や、老朽化による建替えで激減した(6)。横浜市は景観保持のため、1969年イギリス館を皮切りに取得を始め、現在は外交官の家、ブラフ18番館、ベーリック・ホール、エリスマン邸、山手234番館、横浜市イギリス館、山手111番館の7館を「横浜山手西洋館」(以下「山手西洋館」)とし、横浜市緑の協会が保存・活用をしている。

2:「道後オンセナート」との比較(資料5、6)
同様に歴史的建造物をイベントの場にした愛媛県松山市道後温泉「道後オンセナート2022」(以下「オンセナート」)と比較し、特徴を述べる。

2-1)開催場所の特徴
「オンセナート」開催の場のシンボルと言える道後温泉本館は、1894年から現在の場所に存在し“博物館化“することなく公衆浴場として使用されている(7)。対して山手西洋館の現在の建物は、1923年関東大震災後の建築であり今は住む人はいない。復興後も主に外国人向け住宅として供給されたが、それまでとは趣が異なり、最盛期の居留地らしい暮らしは現存の山手西洋館で行われていない(8)。また現在地に建築されたのは4館で、他3館は移築である(9)。唯一の震災前建築「外交官の家」は、東京都渋谷区から移築・再建された物だ。つまり道後温泉が建造物の物質的な歴史と、そこでの営みの非物質的な歴史が合致し一本の線で継続しているのに対し、山手西洋館の歴史と外国人居留地の暮らしには時間的・空間的なずれがあると言える。

2-2)展示作品とテーマの統一性
「オンセナート」の展示作品は、全体テーマ「生きるよろこび」に沿うものとされている(10)。だが各作品は、大竹伸朗の「熱景 /NETSU-KEI」、蜷川実花のインスタレーションなど作家性が高く、表現形態も多様である。建造物と現代アートを対比的に配置し、造形的な美が浮き彫りになる(11)。一方「花と器」は個々の展示作品の作家性は高くなく、7館を生花装飾で統一し、テーマのウエディング関連の場面を演出している。建物や家具調度品と生花装飾を調和させ、山手西洋館の生活空間としての美を重視している。

3:評価(資料7)
前項の特徴を踏まえ考察するならば「花と器」の特筆すべき評価点は、7つの山手西洋館の時間的・空間的なずれを融合し、鑑賞者に山手地区を“外国人居留地の面影が残る“クロノトポスとして認識させることである。

3-1)クロノトポスとは
ミハイル・M・バフチン(Mikhail M.Bakhtin, 1895~1975)による概念である。人は文学(主に小説)を読む時、物語を追いながら登場人物が小説中で経験する出来事が“いつ、どこ“で起こっているかを、自身が存在する時間や空間とは区別し認識する。バフチンはこの時間と空間が交差し融合する認識、もしくは交差が起こる象徴的な“場所“を「クロノトポス」と呼んだ(12)。
本来文学評論の概念のクロノトポスによって、建造物や景観領域を論じた先行研究に、藤井秀登の論文がある(13)。また鈴木智之は、アニメ等に登場する象徴的な場所を巡る「聖地巡礼」という現象をクロノトポスの視点で述べた(14)。イベント領域では菅山明美が、プロジェクションマッピングで単なる場や空間を意味ある場所に変え、「トポス」と呼んでいる。菅山の言う「トポス」は時間の概念も含むゆえ、バフチンのクロノトポスの意味に近いと言える(15)。

3-2)「花と器」とクロノトポス認識
これら先行の論考から「花と器」と山手西洋館/山手地区の関係性についても、クロノトポスの視点で読み解くことができる。
山手西洋館における他の時期の装飾イベントは造花やイミテーションオブジェの割合いが多く、「花と器」の生花のボリュームは特徴的だ(16)。この西洋風生花装飾は造花やいけばなに比べ、より瑞々しい生命感をもたらし生活のワンシーンを演出する(17)。通常時においては西洋建築の造形美はあるものの、静的で博物館然とした空間に、「花と器」は命ある花を飾り食器を揃え人の暮らす気配を甦らせる。さらに鑑賞者はウェディングのテーマを認識し、披露宴など西洋文化の華やかな宴が“今ここで“行われているかのような感覚を得る(18)。つまり過去の居留地時代の西洋文化の暮らしという時間的特徴が、現在の山手西洋館の空間に具象化される。
また山手西洋館は3つのエリア(山手イタリア山公園、元町公園、港の見える丘公園)に分かれる。移動の道程は距離があり、閑静だが現代的なまちなみが続く。合間に現存する居留地時代の建造物は「山手80番館」やブラフ積みなど、人の気配の無い“遺跡“だ。通常時の山手地区では、そこに混在する個々の山手西洋館のイメージは繋がりにくい。しかし「花と器」開催時では、統一した生花装飾と通貫するテーマの効果により、各館の“ウエディング関連の或る日“の生き生きとしたイメージが浮かび上がり、鑑賞者はそれを継続したまま町を巡る事ができ、記憶に山手地区の全体像が残る。
すなわち生花装飾とテーマが物語の役割を果たし、時間と空間の途切れが山手西洋館という場で交差・融合してオムニバス小説のように繋がり、山手地区が“異国情緒溢れる外国人居留地の面影が残るまち“と意味付けされたクロノトポスとして認識されるのである。

4:今後の展望
文化財の活用には制約も多く、保存に重きを置けば博物館化しがちだ(19)。「花と器」は昨今の現代アート×歴史的建造物の流れと一線を画し、生花ゆえのメンテナンスの手間や予算の課題がありながらも定着した人気を得ている(20)。来館者は当初ターゲットにした40〜60代の女性中心でリピーターが多い(21)。今後は例えば、テーマに居留地時代を舞台とした物語を更に組み込み、若い世代にも浸透している「聖地巡礼」の性格を持たせるなどの展開によって、山手地区の歴史をより広い層に周知することが期待できよう(22)。

おわりに
川添善行は「文化財継承の方法は物質的なモノの価値と、生業や営みなどのコトの価値を伝える二種類の選択肢、またその組み合わせ。デザインとは過去からその価値を見極め、時間の流れを未来へと接続する作業」(23)と述べた。「花と器のハーモニー」は、山手西洋館という物質的なモノの価値に、居留地時代の暮らしぶりという非物質的なコトの価値をクロノトポスとしてあらわし、継承するデザインだと言える。歴史的建造物は自然災害、老朽化や経済状況によってやむを得ず移築や復元されることもある。イベントは、そのような復元した文化資産にも営みという見えない価値を可視化し、未来に繋げる力を持つのである。

  • 81191_011_32183283_1_1_a8e1413f-4226-4f35-8cc1-1c9af5dad4b0 【資料1】「花と器のハーモニー2022 山手の丘のウエディング物語〜幸せを呼ぶ7つの館のおもてなし〜」山手イタリア山公園、テーマと装飾
    筆者作成
    写真:2022年6月10日、11月1日、12月14日筆者撮影
  • 81191_011_32183283_1_2_ea991aaa-59dd-40ff-8225-6a5f5ad07930 【資料2】「花と器のハーモニー2022 山手の丘のウエディング物語〜幸せを呼ぶ7つの館のおもてなし〜」元町公園、テーマと装飾
    筆者作成
    写真:2022年6月10日、11月1日、12月14日、2023年1月13日筆者撮影
  • 81191_011_32183283_1_3_c345da1a-d4db-4b43-aac0-8bd84d050cda 【資料3】「花と器のハーモニー2022 山手の丘のウエディング物語〜幸せを呼ぶ7つの館のおもてなし〜」港の見える丘公園、テーマと装飾
    筆者作成
    写真:2022年6月10日、11月1日、12月14日、2023年1月13日筆者撮影
  • 81191_011_32183283_1_4_492b1469-e913-498a-97f0-09e4be0c2df2 【資料4】横浜山手西洋館の位置と歴史
    筆者作成
    写真:国土地理院公式サイトより引用
  • 81191_011_32183283_1_5_2b148740-1ff3-4dc1-a336-e0f4543107b8 【資料5】「花と器のハーモニー2022」と「道後オンセナート2022」の比較 筆者作成
    写真
    「花と器」:2022年6月10日筆者撮影
    「オンセナート2022」:WEBマガジン「アネモメトリ」特集108号「道後温泉アートプロジェクト 10年の取り組み」より引用
  • 81191_011_32183283_1_6_06272ea6-4350-42e2-b2e2-e6e9f1b99551 【資料6】「花と器のハーモニー」と横浜山手西洋館の時間的関係 筆者作成
  • 81191_011_32183283_1_7_1b4f507d-1b14-43a5-8436-6cab0a021da6 【資料7】「花と器のハーモニー」と山手地区のクロノトポス認識 筆者作成
    写真:2022年11月1日、2023年1月13日筆者撮影
    地図:国土地理院公式サイトより引用

参考文献

【註】
(1)“異国情緒“、“居留地の面影“という文言は山手地区の紹介に多く登場する。
・「異国情緒ただよう横浜の町をつくりだす原点となった外国人居留地…」
(横浜開港資料館/(財)横浜開港資料普及協会編『図説 横浜外国人居留地』株式会社有隣堂、1998年、p 1)
・「外国人居留地の面影が残り、異国情緒あふれる街並みの横浜山手には、7つの西洋館が佇み…」
(横浜山手西洋館公式サイト>横浜山手西洋館について)
https://www.hama-midorinokyokai.or.jp/yamate-seiyoukan/aboutus.php(2023年1月20日最終閲覧)
・「異国情緒溢れる山手西洋館エリアを巡る…」
(公益財団法人横浜観光コンベンション・ビューロー横浜観光情報サイト)
https://www.welcome.city.yokohama.jp/courses/course.php?mid=m001(2023年1月20日最終閲覧)

(2)震災前の山手外国人居留地の建築で現存する住宅は「山手80番館」のみとされている。建物部分は倒壊・焼失、基礎と土台が遺跡として本町公園内に保存展示。
(元町公園公式サイト、(公財)横浜市緑の協会)
https://www.hama-midorinokyokai.or.jp/park/motomachi/stroll.php#80(2023年1月20日最終閲覧)
「ブラフ積」と呼ばれる擁壁も数カ所が現存。(横浜市ホームページ>山手のあらまし)
https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/machizukuri-kankyo/toshiseibi/toshin/kannaikangai/yamate/yamate.html(2023年1月20日最終閲覧)

(3)新型コロナウィルス感染症拡大により2019年、2020年は開催中止。

(4)「花と器」実行委員会担当者I氏へのメールインタビューの回答より(2022年9月30日回答分を要約)
Q:「開催の経緯、テーマや装飾デザインの決め方について教えてほしい。」
A:「梅雨時の閑散期の対策として、来館者に多い年代の女性に人気のフラワーアレンジメントと食器に着目した。最初は山手111番館、山手234番館、エリスマン邸、外交官の家、ブラフ18番館で始め、2004年第4回からは7館で実施。テーマは館長会議で意見を出し合いトレンドなども考慮し決定。花と器のハーモニー担当者で、大まかなテーマを決めて進めることもある。総合プロデューサーを設けた年はプロデューサーの意見も取り入れ全体のテーマを決定した。各館のストーリー(テーマ)は、各館装飾者に任せている。」

(5)「樹々の生ひ茂った間に綺麗な洋館が並び立って、なんとも云へない異国情緒が感じられる。この油繪のやうな所は一夜にして廃墟に化してしまふとは、誰か想像の及ぶ所であらう。」「外国人の多くは我官憲及各本国救護団の保護を受けて、或は阪神地方に赴き、或は帰国した。」
(横浜市ホームページ>「関東大震災 横浜市震災誌 第2冊 第二編 第4章本市第4方面 第2節山手町」より)
https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/kyodo-manabi/library/shiru/kantodaishinsai/menu/shinsaikiroku/hon-shin2.html(2023年1月10日最終閲覧)

https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/kyodo-manabi/library/shiru/kantodaishinsai/menu/shinsaikiroku/hon-shin2.files/0007_20180830.pdf(2023年1月10日最終閲覧)

(6)1990年代に入ってもなお減少の一途で1992年68館→2013年43館、36.8%の減少率である。
(岩崎詞子他「地域の意識と地域まちづくり方策の対応性に関する研究〜歴史資産を有する横浜山手を対象に〜」『公益社団法人日本都市計画学会 都市計画報告集』No13、2014年11月号)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/reportscpij/13/3/13_117/_pdf/-char/ja(2023年1月10日最終閲覧)

(7)道後温泉公式サイト>外湯紹介>道後温泉本館
https://dogo.jp/onsen/honkan(2023年1月20日最終閲覧)

(8)居留地在住で関東大震災を体験したプールは「震災後の山手は著しく趣を変え、古風な佇まいは失われまったく新しい外国人居留地が出現した、外国人の人口が減少し社交クラブなども変容した」と綴っている。
(O・M・プール『古き横浜の壊滅』金井圓訳、有隣堂、1976年、「6 後日のこと」より要約)

(9)現在地に建築されたのはベーリック・ホール、山手234番館、横浜市イギリス館、山手111館。移築は外交官の家、ブラフ18番館、エリスマン邸。

(10)道後温泉「オンセナート2022」公式サイト
https://dogoonsenart.com/(2023年1月20日最終閲覧)

(11)道後温泉「オンセナート2022」公式サイト>ART Works
https://dogoonsenart.com/artworks/#1(2023年1月20日最終閲覧)
アネモメトリ、特集108号「道後温泉アートプロジェクト 10年の取り組み」京都芸術大学WEBマガジン
https://magazine.air-u.kyoto-art.ac.jp/feature/10881/(2023年1月20日最終閲覧)

(12)ミハイル・M・バフチン(ロシアの思想家/文芸批評家)の論じた概念。
(ミハイル・バフチン『ミハイル・バフチン全著作 第5巻 小説における時間と時空間の諸形式(1930年代以降の小説ジャンル論)』伊藤一郎他訳、水声社、2001年、p143〜p145より要約)

(13)イギリスのリゾート地ブラックプールは海辺に沿って南北に歴史的建造物群が点在している。藤井は、それらが海岸線を南北に走るヘリテージトラム(当時の路面電車-トラム-を再現したもの)と共に、観光客にクロノトポス認識を介して“ヴィクトリア朝やエドワード朝時代の景観“として臨場感をもって現れると論じた。
(藤井 秀登「ヘリテージ・ツーリズムにおける観光資源とクロノトポス ―ブラックプール・トラムを事例に―」、『観光研究』 第33巻 3号、2021年)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jitr/33/3/33_1/_article/-char/ja/(2023年1月10日最終閲覧)

(14)鈴木は、いくつかの小説の舞台となる東京郊外を歩き平凡な町なみを意味あるもの、クロノトポスとして分析した。「聖地巡礼」現象についてもクロノトポスの視点で、アニメや小説が或る場所にイメージの創出をするものと述べた。
(鈴木智之著『郊外の記憶 文学とともに東京の縁を歩く』青弓社、2021年、主に序章参照)

(15)菅山は「トポスとは、地域や社会、文化における“多元的な時間の営みを背景“に形成された、私たちの存在根拠となる場所、私たちの言葉やイメージを形成する原点となる場所」と述べた。““は筆者加筆。
(中西昭一、早川克美著『私たちのデザイン2 時間のデザインー経験に埋め込まれた構造を読み解く』幻冬舎、2014年、第11章 p128〜p129)

(16)年間の装飾イベントとしてお正月、ハロウィン、クリスマスなどがある。
横浜山手西洋館公式サイト>ブログ
2022年ハロウィン装飾
https://www.hama-midorinokyokai.or.jp/yamate-seiyoukan/blog/index_3.php(2023年1月20日最終閲覧)
2022年クリスマス装飾
https://www.hama-midorinokyokai.or.jp/yamate-seiyoukan/blog/(2023年1月20日最終閲覧)

(17)・山口は造花と比較すると生花の特徴的な魅力は、瑞々しさや時間の経過を感じさせる生命感、と述べた。
(山口智子「空間装飾としての花」『東京家政大学紀要 自然科学・工学系』 抜刷 第43号、2003年)
https://www.kasei-gakuin.ac.jp/wp-tkg-u/wp-content/uploads/2019/03/43N59.pdf(2023年1月10日最終閲覧)
・日本のいけばなは床の間など座敷飾りが基本であるのに対し、西洋のフラワーアレンジメントは食卓や居間、服飾(ブーケなど)と生活空間を広く装飾する。
(公益社団法人 日本フラワーデザイナー協会編『フラワーデザイナーのための花の教科書』講談社エディトリアル、2015年、p128〜p132 )

(18)ウエディングというテーマに沿った生花装飾を施す「花と器2022」のイベントデザインは、山手西洋館の外国人居留地の西洋文化の暮らしぶりという歴史的特性を蘇らせている。
(本稿筆者・遠藤恵「蘇る外国人居留地の「暮らし」〜横浜山手西洋館「花と器のハーモニー」〜」2022年度秋期、演習2レポート課題)

(19)文化財保護の重要な柱は保存と活用であり今後は活用の方法が多様化し、活用と文化財的価値の両立が課題としている。
(文化庁ホームページ >重要文化財(建造物)の活用について(通知))
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/hokoku/kenzobutsu_katsuyo.html(2023年1月20日最終閲覧)

(20)「花と器」実行委員会担当者I氏へのメールインタビューより。(2022年9月30日回答分の要約)
Q「生花装飾をするイベントでの苦労した点、利点は何か。」
A「・生花のためメンテナンスが大変、費用がかかる(期間中の活け替え、毎日のメンテナンス、温度管理)。当初は2週間行っていたが、梅雨時という気温の安定しない時期で花の持ちが悪いことや装飾者の負担が大きく途中から現在の9日間に変更。
・文化財の館内の装飾のため、家具や床、壁等に傷をつけたりしないよう、細かな気配りや養生等、かなり神経を使い装飾者の負担が大きい。
・生花ならではの瑞々しい生命感や香り、西洋館という特別な空間でのイベントは好評でリピーターが多い。」
Q「初回からの動員数の推移はどのようになっているか」に対しては、初回から第5回まではデータ無し、第6回2006年からのデータ一覧の回答を得た。抜粋すると2006年は28,348人、以後は増加傾向で2009年に65,158人、2017年には10万人に達した。2022年は感染症対策のため入館人数制限をして37,724人である。

(21)「花と器」実行委員会担当者I氏へのメールインタビューより。(2022年11月30日回答分)「内部アンケート結果で、実際にイベント時の来館者はターゲットにした40~60代の女性が多かった。」

(22)この「聖地巡礼」は元来の宗教的な聖地を巡る旅ではなく、映画や小説、漫画の中に登場する象徴的な出来事が起こる場所を「聖地」と呼び訪ね巡る、昨今現れた意味の「聖地巡礼」を指す。

(23)川添善行著、早川克美編『私たちのデザイン3 空間にこめられた意思をたどる』藝術学舎、2014年、第11章 p145〜p147


【参考文献】
小寺篤著『横浜山手変遷誌』山手資料館、1980年

川添善行著、早川克美編『私たちのデザイン3 空間にこめられた意思をたどる』藝術学舎、2014年

公益社団法人日本フラワーデザイナー協会編『フラワーデザイナーのための花の教科書』講談社エディトリアル、2015年

齊藤多喜夫著『幕末・明治の横浜 西洋文化事始め』明石書店、2017年

鈴木智之著『郊外の記憶 文学とともに東京の縁を歩く』青弓社、2021年

中西昭一、早川克美編『私たちのデザイン2 時間のデザインー経験に埋め込まれた構造を読み解く』藝術学舎、2014年

ミハイル・バフチン『ミハイル・バフチン全著作 第5巻 小説における時間と時空間の諸形式(1930年代以降の小説ジャンル論)』伊藤一郎他訳、水声社、2001年

O・M・プール『古き横浜の壊滅』金井圓訳、有隣堂、1976年

横浜開港資料館/(財)横浜開港資料普及協会編『図説 横浜外国人居留地』株式会社有隣堂、1998年

(公財)横浜市緑の協会編『横浜山手西洋館』(公財)横浜市緑の協会発行、2019年

「横浜山手西洋館 花と器のハーモニー2022 山手の丘のウエディング物語 〜幸せを呼ぶ7つの館のおもてなし〜」リーフレット、(公財)横浜市緑の協会発行、2022年

岩崎詞子他「地域の意識と地域まちづくり方策の対応性に関する研究〜歴史資産を有する横浜山手を対象に〜」『公益社団法人日本都市計画学会 都市計画報告集』No13、2014年11月号
https://www.jstage.jst.go.jp/article/reportscpij/13/3/13_117/_pdf/-char/ja(2023年1月10日最終閲覧)

遠藤恵「蘇る外国人居留地の「暮らし」〜横浜山手西洋館「花と器のハーモニー」〜」、京都芸術大学2022年度秋期・演習2レポート課題

藤井 秀登「ヘリテージ・ツーリズムにおける観光資源とクロノトポス ―ブラックプール・トラムを事例に―」、『観光研究』 第33巻 3号、2021年
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jitr/33/3/33_1/_article/-char/ja/(2023年1月10日最終閲覧)

山口智子「空間装飾としての花」、『東京家政大学紀要 自然科学・工学系』 抜刷 第43号、2003年
https://www.kasei-gakuin.ac.jp/wp-tkg-u/wp-content/uploads/2019/03/43N59.pdf(2023年1月10日最終閲覧)

アネモメトリ、特集108号「道後温泉アートプロジェクト 10年の取り組み」京都芸術大学WEBマガジン
https://magazine.air-u.kyoto-art.ac.jp/feature/10881/(2023年1月20日最終閲覧)

公益財団法人横浜観光コンベンション・ビューロー横浜観光情報公式サイト
https://www.welcome.city.yokohama.jp/courses/course.php?mid=m001(2023年1月20日最終閲覧)

道後オンセナート2022 公式サイト
https://dogoonsenart.com/(2023年1月20日最終閲覧)

道後温泉公式サイト>外湯紹介>道後温泉本館
https://dogo.jp/onsen/honkan(2023年1月20日最終閲覧)

花と器のハーモニーイベント案内公式サイト
https://gardennecklace.city.yokohama.lg.jp/calendar/event5832(2023年1月20日最終閲覧)

文化庁ホームページ>重要文化財(建造物)の活用について(通知)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/hokoku/kenzobutsu_katsuyo.html(2023年1月20日最終閲覧)

元町公園公式サイト、(公財)横浜市緑の協会
https://www.hama-midorinokyokai.or.jp/park/motomachi/stroll.php#80(2023年1月20日最終閲覧)

横浜市公式ホームページ>「関東大震災 横浜市震災誌 第2冊」(2023年1月10日最終閲覧)
https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/kyodo-manabi/library/shiru/kantodaishinsai/menu/shinsaikiroku/hon-shin2.html
https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/kyodo-manabi/library/shiru/kantodaishinsai/menu/shinsaikiroku/hon-shin2.files/0007_20180830.pdf

横浜市ホームページ>山手のあらまし
https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/machizukuri-kankyo/toshiseibi/toshin/kannaikangai/yamate/yamate.html(2023年1月20日最終閲覧)

横浜山手西洋館公式サイト>ブログ
2022年ハロウィン装飾
https://www.hama-midorinokyokai.or.jp/yamate-seiyoukan/blog/index_3.php(2023年1月20日最終閲覧)
2022年クリスマス装飾
https://www.hama-midorinokyokai.or.jp/yamate-seiyoukan/blog/(2023年1月20日最終閲覧)

横浜山手西洋館公式サイト>横浜山手西洋館について
https://www.hama-midorinokyokai.or.jp/yamate-seiyoukan/aboutus.php(2023年1月20日最終閲覧)

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