宮城県仙台市における震災の記憶の伝承活動のデザインについて〜100年後、1000年後まで語り継がれるために〜
1 はじめに
宮城県仙台市における震災記憶の伝承活動について述べる。
(1)所在地
宮城県仙台市
(2)震災の記憶の伝承手法について
震災時の記録の朗読、本人語り、防災シミュレーションゲーム「クロスロード」などを用いて、はじまりからクローズまでを一連の流れとしてデザインしたイベントとする。さらに、志ある市民とコラボレーションすることにより、より幅広い立場の方々と連携を可能にする。
(3)伝承の対象など
震災体験を伝える対象として、市民や職員などが考えられる。さらに、大学や専門家団体などと連携することにより、社会全体に防災意識や風土の伝承を可能とする。
2 評価すべき点について
震災は、日本のどの場所でも起こりうるものであり、実際に平成30年だけでも、大阪北部や北海道胆振東部地震、広島の豪雨災害など、甚大な被害を受けた災害が起こっている。昔から日本は多くの災害に見舞われ、人々が助け合い生きてきた歴史がある。そのような中、震災の教訓や記憶を、将来に残すためにデザインされた震災伝承の手法を評価したいと考える。具体的に様々な形で震災を伝承していくことが考えられる。その中で、仙台市職員の有志でつくる勉強会Team Sendaiの活動について述べる。
Team Sendaiは、2010年9月に発足し、業務改善などの勉強や職員の相互交流を行なってきた。発足から半年後、震災が発生し、職員らは震災対応業務に追われた。震災後の11月末に集まった職員同士でお互いの業務について語り合い、今後に向けて教訓を残すことの必要性を認識したものである。
まず、2012年1月から、職員の震災体験の聞き取りを開始し、現在までに30人以上に聞き取りしている。職種は様々だが、まだ聞き取り出来ていない職種も多い状況である。また、志ある市民とのコラボレーションによる、防災の取り組みも行なっている。代表的なものとしては、防災シミュレーションゲーム「クロスロード」がある。クロスロードは、震災時の究極の判断が求められる場面でのジレンマについてゲームを通して学ぶものである。設問に対して、自分ならどう考え行動するかを「yes」か「no」のカードで提示する。5人か7人で一つのグループになりカードを出す。多数が座布団をもらえるところにゲーム性がある。ただし、少数派の意見も大事にするゲームであるため、1人しかいない場合、金の座布団がもらえるというユニークな面があるのが特徴的である。さらに、「yes」「no」だけでなく、選んだ理由もシェアし合うため多様性を学ぶことが出来る。神戸市職員の聞き取り活動から生まれたものが、カードゲームとして広がったもである。
Team Sendaiの取り組みは、聞き取った震災記憶を朗読や記録紙の形で広く伝承することや、クロスロードと組み合わせてのイベントを開催することなどがある。様々な組み合わせを実験的に実施しながら、より効果的な形にデザインしていくのである。これからの様々な主体との連携が、さらに進化した取り組みにつながっていくと考える。
3 歴史的背景について
平成23年3月11日金曜日の14時46分に東日本大震災が発生した。また、西暦869年に起きた貞観地震や西暦1611年の慶長の大津波など、これまでの歴史の中でも発生している。宮城県は、日本の中でも定期的に海溝型の宮城県沖地震が起きており、約37年周期である。近年200年に6回もの地震が起こっていた。宮城県に住む者としては、平均40年程度で起こる宮城県沖地震への備えに終始していたと言えるかもしれない。一方で、歴史の中では、津波を警戒するような神社が建立されていた。それは、自ら在学していた小学校学区内にあった波分神社である。自身、神社の名前も存在も知っていたのに、その歴史や建立された理由も知らなかった。そのような中で浪分神社が、今も伝えようとしている事があるのだろうと考える。その名が示すように、波が分かれたと言い伝えがある。一部の研究家などは、過去の歴史から、巨大地震の到来を危惧する声もあった。それなのに、私たちは、それらを受け止めきれずにいたのであろう。波分神社は、次世代に震災記憶の伝承に必要なものを想い描かせてくれると考える。
4 同様の事例と比べて特筆している点について
震災の記録を伝える活動として、二つ挙げる。
一つ目は、NPO法人20世紀アーカイブ仙台(河北新報2013年3月4日記事)の活動である。定点観測やオモイデツアーなどの活動である。市民目線の記録を中心に実施しているものである。震災の記録を写真で残し、市民にも広く呼びかけ、集めるのである。さらに、写真をきっかけにして語り合いを行う。そして、震災前の写真を掲示し、付箋で場所にまつわるエピソードなどを書き語り合う。その積み重ねがさらなるエピソードを呼び寄せるのである。
二つ目は、八木山防災連絡会(日本建築学会東北支部(2013年,p.226-229))である。この連絡会では、地域の若者である小中学生の教育に力を入れていた。高齢者も一緒になって震災前から耐震授業を行っていた。それが震災でも生きた事例である。
これらの活動と比較し、Team Sendaiの活動を述べる。Team Sendaiの活動は写真を主にしては用いない。特筆すべきは、語り継ぎや想いに焦点を当てている点である。さらに、あえて市民目線ではない点も特筆できる。震災が起こった際、行政が何をしていたのか、100万人の市民は、どうしたら震災を乗り切れるのか。少子高齢化が進行するこれからの時代にも、活かされる市民意識を学ぶことにもつながると考える。なぜなら、行政の取り組みを隠さず、市民が知ることで、本当の意味での協働が生まれると考えるからである。お互いに自立したパートナーとして、助け合う土壌が出来るのではないかと考えている。
5 今後の展開について
今後の展開として、市民や専門家団体とのコラボレーションによる、震災記憶の伝承のイベントへつながっていくと考える。なぜなら、震災の記憶の中でもTeam Sendaiの取り上げる内容は、市民が知っておくべき内容であると同時に、お互いに当事者意識を持ち、協力し合いしていく必要があると考えるからである。それは、避難所運営や応急危険度判定など、ボランティアの協力が必要な分野がたくさんあるためだ。
地域を良くしたい、震災を共に乗り切りたい、復興を果たしたいなど、同じ目標をともに叶えるために、様々な主体が協力し合う文化をつくるために、それらを可能にする取り組みをつくることが大切である。それには、同じ課題を共有して話し合うことが必要であり、クロスロードなどの取り組みを通じて、お互いのことを知り合うことにつながる。その積み重ねは、震災に強いまちをつくる礎となるのである。
6 おわりに
震災の記憶の伝承には、様々な手法があり、様々な主体が取り組みを実施している。Team Sendaiの取り組みは、公の役目を担う立場からアプローチしているものであるが、朗読や本人語り、クロスロードなどの手法自体は応用が出来る。今後も様々な場面で専門家団体や民間の団体などの様々な主体と連携していくことが想定される。大切なことは、これらの取り組みを継続していく仕組みにつなげることである。人から人への伝承だけではなく、仕組みとして伝わるよう働きかけていくことが必要だと考える。そのことが、波分神社や津波被害を受けた小学校の震災遺構、震災メモリアル施設などが、それぞれの持つ地域ごとの震災記録を発信し、後世に継続した記憶を継承し続けることで、次世代への震災記憶の伝承へつながるものと考える。
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防災シミュレーションゲーム「クロスロード」の様子(1)(2014年3月7日 筆筆者撮影)
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防災シミュレーションゲーム「クロスロード」の様子(2)(2014年3月7日 筆者撮影)
- せんだい3.11メモリアル交流館(仙台市若林区荒井地区)(2018年12月1日 筆者撮影)
- 波分神社の紹介パネル(せんだい3.11メモリアル交流館内)(2018年12月1日 筆者撮影)
- 波分神社(全景)(仙台市若林区霞目地区)(2018年12月1日 筆者撮影)
- 慰霊碑(仙台市若林区荒浜地区)(2018年12月1日 筆者撮影)
- 震災遺構 仙台市立荒浜小学校(旧)(H29年4月より震災遺構として公開)(2018年12月1日 筆者撮影)
- 津波避難タワー(仙台市宮城野区南蒲生地区)(2018年12月1日 筆者撮影)
参考文献
中日新聞社会部(2012年)「備える!3.11から」中日新聞社
NPO法人20世紀アーカイブ仙台(2013年)「3.11定点観測写真アーカイブ・プロジェクト公開サロン「みつづける、あの日からの風景」レポート」NPO法人20世紀アーカイブ仙台
河北新報(2013年3月4日)「被災観測、関心つなげる」記事
日本建築学会東北支部編集(2013年)「2011年東日本大震災災害調査報告書」日本建築学会東北支部発行
中村豊編集(2014年)「近代消防8月号、9月号」株式会社近代消防社
日本経済新聞 、https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/disaster-map/(2018年11月24日アクセス)
科学(2011年5月号)http://www.bousai.go.jp/kaigirep/chousakai/tohokukyokun/1/pdf/5-3.pdf(2018年11月24日アクセス)
未来に伝えたい中野・岡田の会(2015年)「未来に伝えたい vol.5 ふるさと 和田」仙台市宮城野区発行
クロスロード (内閣府HP)http://www.bousai.go.jp/kyoiku/keigen/torikumi/kth19005.html(2018年11月24日アクセス)
木村浩二、渡邊慎也(2012年)「3.11キヲクのキロク 市民が撮った3.11大震災 記憶の記録」NPO法人20世紀アーカイブ仙台