「新浜地区 3.11東日本大震災後の 持続的発展に向けた復興活動」の考察 ~新浜の人・自然・なりわい・生活の歴史と今、そして未来へ~

武田 要二

□はじめに
東日本大震災の巨大津波で被害を受けた仙台市沿岸部新浜の暮らし再興の営みから、地域への想い、強い危機感をみつめ、同地区の持続的発展に向けた復興活動を考察する。

□基本データ
所在地: 仙台市宮城野区岡田新浜地区(資料1)
○新浜地区のデータ:
・3.11東日本大震災前
世帯数148、人口560人 農業世帯数60 農地総面積100ha
・3.11東日本大震災発災後(2023/1/12)
世帯数70、人口210人 津波死亡者58名 農業世帯数55(実従事世帯37)、
農地総面積 100ha (註1)
○東日本大震災のデータ
東北地方太平洋沖地震
発災日時:2011年3月11日14時46分
震源・震度等:三陸沖 マグニチュード9.0Mw 震度6強(仙台市宮城野区)
東日本太平洋沿岸部に巨大津波発生
仙台市内 死者904名 行方不明27名
浸水世帯8,110 浸水農地1,800ha (註2)

□新浜の歴史的背景
17世紀初頭、旧宮城郡岡田村東部の野谷地を中心に開拓し、渚から約1.2㎞内陸の自然堤防上に屋敷地を築き定住したのが「新浜」の始まりである。
折しも1611年10月28日には慶長奥州地震津波が発生している。何の防備もない新浜は巨大津波で壊滅的な被害が出たものと想定される。その後、防災・減災、生業の農業と生活を守るためクロマツを植林する。仙台藩も本格的に植林をおこない、縦1,080m幅324mの松林が造成された。(註3)
高さ20mの海岸林は長さ700m範囲で砂を含んだ塩風を緩和するなど、クロマツ海岸林は多様な機能を持つ。(註4)
そのクロマツ海岸林は維持管理に多くの労力と費用を必要とし、仙台藩はその存続を図るため管理を村人に課し、かわりに「資源」利用を認めた。間伐された幹は、建材や舟材に、枝や梢は薪、松葉は燃料、下草や落葉は田畑の刈敷として活用された。また、松露、ハツタケ・ギンタケなど食用にも供された。クロマツ海岸林は里山的な恵みをもたらし、生業や暮らしに寄り添う身近な里浜であった。
また、凶作・飢饉時には「御救い山」として機能。藩払い下げ松材は、売却され、村内で食料の購入など生活費に充てられた。クロマツ樹皮は食用に供されギリギリの命を繋いでもきた。新浜の半農半漁を支える「魚つき林」としても機能した。 (註5)
厳しい環境に生きてきた新浜は、人々の強い結束と連帯、地域への熱い想いを感じさせる。その想いは里浜に立つ愛林碑や信仰石碑群からも垣間みられる。近年まで「松葉さらい」、頼母子講などがあり「葬儀のための講」は今も機能している。自然とともに生業と生活を守り育ててきた新浜は、豊かな里浜景観を生み出した。

□東日本大震災における新浜の被害と復旧・復興
新浜は巨大津波の直撃を受ける。新浜沿岸部の津波浸水高は16.8m、居住地域は4.6mに達した。(資料2)
クロマツ海岸林の豊かな里浜景観は津波に悉く粉砕され、新浜の人々の生業も生活も一瞬に奪い去った。
畦畔や耕土が流失、大量のがれきや塩分を含んだ海底土砂が耕作地を覆った。農水省は農地の復旧と除塩のため直轄特定災害復旧工事を実施した。(註6)
植林のため林野庁は、高さ2.4~3m、幅6mで1,100haの海岸線盛土工事を行った。(註4)今日も官民一体で防災林形成へ向け植林の試行錯誤が続く。
のちに国交省による『第二堤防』が2019年に完成する。防災集団移転跡地活用事業は、新浜では2.48haにおよぶ。(註2)
復旧から復興へ向けた動きがはじまる。
2013年3月新浜は行政支援のもと「新浜地区復興まちづくりプラン」を策定、その後も計画を更新・実施している。(註7)

□新浜の特筆すべき点 他地域との比較
新浜で特筆されるのは、新浜の人々が仙台市市民文化事業団と協働してアートの仕掛けで地域内外交流を促し、大学等とも連携、問題解決と地域再生を進めていることである。
クロマツ海岸林一帯に歴史遺産 貞山運河(49km)があるが、震災で甚大な被害を蒙る。ここで流出した運河橋再建は、新浜の悲願であった。
2016年7月、アーティスト川俣正氏は新浜の橋再建の想いを受け、「みんなの橋プロジェクト」をスタートさせる。せんだいメディアテークのせんだい・アート・ノード・プロジェクト支援のもと、新浜は長い時間をかけ川俣氏と深い関係を築きながら多様な人々を巻き込み想いをかたちにした。2017年ワークショップ、2018年「みんなの船」、2019年「みんなの木道」、2022年4月「新浜タワー」と、まさに「みんな」のちからで完成させた。
その協働から新浜にとり新しい気づきがうまれる。新浜町内会庶務の遠藤源一郎氏は「川俣正さんは、常識を越えたところからダイナミックにアドバイスや解決策を示していただいてい る。」とアートの力を実感する。(註8)
さらに貞山運河倶楽部・同研究所、東北学院大学、宮城教育大学と地元クリエイターの協力をえて、生き物観察会や自然環境、生物多様性について学ぶイベントを展開する。2022年に筆者が参加した主なイベント(9回)について資料3に示す。
他地域に宮城県南の特定非営利活動法人わたりグリーンベルトプロジェクトがあり、NbS思想を軸に地域編集を行っており、人の豊かな暮らしを支える生態系サービスを復興まちづくりに取り入れ持続可能な地域づくりをめざしている。外部交流を積極的に行い地域再生の機運がみられたが、コロナの影響もあり停滞気味である。(註9)同法人に限らず復興5年経過後の沿岸地域は共通して活動の持続性が問われている。他方、新浜は、コミュニティが主体となりアートの力をかり、また外部の大学・団体との協働で特色ある交流を重ね、事業を絶えず活性化させている点は特筆すべき点である。

□新浜の評価すべき点 課題と展望
新浜の地域編集力をベースにした交流連携・情報発信事業は評価すべき点である。
地域存続の危機を乗り越えてきた強い共同体自らがその軸となり、「地域の持続的発展」という明確な目標に向け地域編集を進めている。それゆえ、新浜という強い磁場・包容力・魅力が多くの多彩な人々を引き寄せ交流は広がりをみせる。
特色ある事業企画力、それを支える「場」と人々がいる新浜であり、数多くのイベントが実施され賑わいをみせるが、個別イベントと地域の人たちの関わり度合いや生業への経済波及効果など課題がある。
今後の展望として、アーティストや農業従事者、生活者、研究者などを束ね相乗効果をもたらす組織デザイン構築がなされることで、新浜は、多様な人々が定着し、生業と生活は一層輝きを増すものと期待される。

□まとめ
数々の対話を通しみえてきたものは、自然と、人と、生業・生活が織りなす歴史的景観の中で、厳しいながらも400年積み重ねてきた新浜という「場」そのものに対する深い愛情・想いであり、新浜の人々の絶対信頼の元で構築された人的存在組織である。藩政時代から今日も続く相互扶助に基づく講があり、農業協同組合などの近代的人的結合体や町内会によっても新浜という「場」の編集力は強化された。
新浜は壊滅的被害を蒙り危機に瀕したが、過去から続く自然との関わり、生業を再確認し多様な外部との交流から様々な「化学変化」を起こしながら、生物多様性、自然治癒力、地域の持続的発展に繋がる活動を模索している。
震災による存続の危機の中、新浜は中に深く外に広く繋がることで、過去から未来へ繋がる地域アイデンティティを以前にも増して醸成しつつある。
「貞山運河沿いの横連携を深め、独自性を発揮して、埋もれず、地域の魅力を発信していきたい。」という遠藤源一郎氏の熱い想いは、「このままでは、新浜は限界集落になってしまう」という強い危機感から発せられている。(資料4)

参考文献

註1 2023年1月12日、新浜町内会庶務 遠藤源一郎氏への聴き取り調査時、
遠藤源一郎氏の提供資料による

註2 参考資料 仙台市「写真とデータで振り返る10年」『つなぐ おもい つながる ~東
日本大震災から10年~』 仙台市まちづくり政策局防災環境都市推進室 2021年11月

註3 参考資料 菊地慶子「新浜の歴史」『新浜で繋がる、自然・ひと・歴史』
編集 株式会社ビー・プロ
発行 平吹喜彦 東北学院大学教養学部地域構想学科 
2019年9月17日初版第2刷発行

註4 佐藤修氏(仙台ふるさとの杜再生プロジェクト連絡会議 会長、緑を守り育てる宮城県連絡
会議 事務局長) 「仙台の海岸林とその再生」
2022年11月23日に新浜町内会集会所で開催された「第2回仙台湾岸の自然と人をつなぐフ
ォーラム」の講演内容 主催 カントリーパーク新浜

註5 参考文献 菊地慶子『よみがえるふるさとの歴史10 仙台藩の海岸林と村の暮らし~黑
松を植えて災害に備える~』 発行所 蕃山房 2016年3月11日

註6 参考文献  『復旧・復興、その先の未来へ 直轄特定災害復旧事業 直轄特定災害復旧
関連区画整備事業 仙台東地区 技術誌』 発行 農林水産省東北農政局仙台東土地改良
建設事務所 編集NTCコンサルタンツ株式会社 印刷一世印刷株式会社

註7 新浜でつくられた計画
・2013年3月「新浜地区復興まちづくりプラン」
・2017年3月 新浜町内会まちづくりアクションプラン
1)「災害に強い安全な防災まちづくり」、
2)「多世代が安心して暮らせる快適まちづくり」
3)「訪れたくなる魅力溢れる活気まちづくり」 
  ・2018年3月 新浜の浜を活かす ニュービーチプラン
 ・2019年3月 新浜町内会まちづくりアクションプラン
   ※2023年1月12日新浜町内会 庶務 遠藤源一郎氏取材時資料による

註8 参考文献  「海岸部でアートが動きだす 川俣正 みんなの橋プロジェクト」
『季刊まちりょく』vol.36 公益財団法人仙台市市民文化事業団 
2019年9月20日
※せんだい・アート・ノード・プロジェクト 
せんだいメディアテークが2016年から始めた「アーティストのユニークな視点と仕事」
と「地域の人材・資源・課題」をつなぐ取り組み
https://artnode.smt.jp/ 2023/01/11閲覧

註9 東聖史 氏(特定非営利活動法人わたりグリーンベルトプロジェクト 代表理事)
「自然を基盤とした解決策NbSに基づく地域の賑わいづくり」  
2022年12月4日に新浜町内会集会所で開催された「令和4年度 新浜の自然と歴史の学習
会」の講演内容 主催 新浜町内会
NbS思想:社会課題に対して生物多様性と人間の幸福を同時に達成することをゴールとする
※NbSについて https://nbs-japan.com/  2023/01/11閲覧

年月と地域
タグ: