都市公園の価値-隅田公園
はじめに
都市公園の価値は、時代とともに変遷し続けている。東京都墨田区の隅田公園を例に都市公園が、どういった価値へ変わろうとしているのか、法律や制度、墨田区の方針などから、今後の展望を考察する。
1.基本データと歴史的背景
1-1.基本データ*1
名称:隅田公園
所在地:東京都墨田区向島一丁目、二丁目、五丁目
面積:80,497.38平方メートル
開園年月日:昭和6年3月24日
特記施設:喫煙所、駐車場、トイレ
桜の本数:332本
最寄駅:都営地下鉄浅草線本所吾妻橋 徒歩約5分
1-2.歴史的背景*2
1-2-1. 840年 牛嶋神社が慈覚大師の御神託により創建。
1-2-2.1869年 水戸藩の武家屋敷「水戸小梅邸」として利用。
1-2-3.1923年 関東大震災により小梅邸消失。
1-2-4.1931年 震災復興三大公園(錦糸・浜町・隅田)のひとつとして隅田公園が開園。
日本初のリバーサードパーク(臨川公園)である。ウォーターフロントの市民への開放、行楽や避難など、新しい公園利用の考え方が導入された。
1-2-5.1977年 墨田区政30周年記念事業として隅田公園を大改修。
1-2-6.2020年 再整備工事の完了・供用開始。浅草と東京スカイツリーを繋ぐ東京ミズマチとして整備された。
2.公園デザインの評価
都市公園の役割*3とされている、1.地球環境の配慮、2.市民の活動と憩いの場をピックアップする。また、3.新しいパークマネジメントの取り組みの3つの観点で評価する。
2-1.地球環境への配慮
墨田区公園マスタープランとして、10のプラン*4を策定し、その中で地球環境への配慮として、「自然エネルギーを利用した環境配慮」「雨水の再利用」「芝生化などによる表面温度上昇の抑止」などがあげられる。実際に「隅田公園」には、約3,000平方メートルの「芝生広場」*5が適用されている。墨田区の他エリアには雨水を再利用したトイレ、自立型ソーラースタンドなどがある。また、墨田区の環境の方針として、墨田区の緑の基本計画*14では、環境対策として、緑を増やすことが目標として掲げら得ている。
隅田公園では、その目標に適用されている芝生広場に着目する。芝生広場は2020年12月にリニューアル*6するまでは樹木が覆っていた部分が芝生化された。樹木と芝生は同じ緑地であるが、通風阻害が発生した場合、ヒートアイランド現象が抑止しにくい可能性がある*7。このため、都市公園の緑地は単純に木を増やす、芝を増やすだけではヒートアイランド対策としては効果をなさない可能性があり、樹木と芝生はバランスよく配置する必要がある。また、芝生化することで、人が利用しやすくなる効果も生まれる。
2-2.市民の活動と憩いの場
憩いの場の活用として、「釣り堀」「児童の遊具コーナー」、庭園としての名残である「ひょうたん池」、隅田川や東京スカイツリーをのぞむ場所には桜が植樹されている。また、公園の南部には、2020年12月に大きくリニューアル*6された芝生化と、鉄道高架下にオープンした商業施設「東京ミズマチ」がある。東京ミズマチの目の前である公園南部に流れる北十間川沿いには親水テラスが設置された。とくにこの親水テラスに関しては、墨田区公園マスタープラン*4の「すみだを代表する風景のある公園をつくる」にある「水辺景観をつくる」に沿ってプランニングされたと想定できる。リニューアル前*6は無機質だった川沿いに商業施設、歩行エリア、テラス席を儲けることで、水際の眺望が用意された。現地調査で、川辺にドリンクを置ける肘掛けも設置(写真1)されていた。さらに、水際の眺望として、隅田川にかかる鉄道橋梁に寄り添うように「遊歩道 すみだリバーウォーク」*6も設置され、隅田川の景観を味わえる橋も生まれた。これは隅田川を挟んだ浅草からの人流、浅草への人流も創出(図1)している。単なる移動手段のインフラとしてだけではなく観光機能を同時にはたすことで、人流促進の配慮が伺える。
2-3.新しいパークマネジメント
上記、2-1と2-2では、都市公園としての役割である「環境配慮」と「憩いの場」について考察した。しかし、これは場所の提供のみ、つまりハードウェア的部分にあたる。市民の利活用を促進させるために公園のソフトウェアとして、隅田公園ではパークマネジメントが整備し直されている点に注目する。北十間川周辺公共空間の活用方針*8において、イベントなどの活用のための「よそ風ひろば」がつくられた。公共空間が誰のためのものかが議論され*9、申し込みから実行までのフローが再整備された。また、途中で利用者側が諦めないように、禁止事項だけではなく、何ができるかも明文化*10された。申し込みから開催、完了まで、すべてのタッチポイントが隅田公園への評価になることが配慮されていることが伺える。
3.他の都市公園としての比較
他の事例として臨海公園である神奈川県横浜市の山下公園*11と比較する。山下公園を選択した背景としては、設立やロケーションに類似ポイントがあったためである。類似ポイントとして、関東大震災の復興事業として生まれたこと。日本初の臨海公園、水辺の公園として誕生したことの二点があげられる。
山下公園の地球環境への配慮に関しては、横浜市の横浜市都心臨海部再生マスタープラン*12のP43に将来的なビジョンが記載されているとおり、山下公園単体では、地球環境配慮のミッションはおびていないものの、水際からの海風を利用した風の道を生かした環境づくりの一部として支えている。隅田公園との違いは、臨海という海風を利用した風の道をつくるビジョンが横浜市全体で掲げられている。墨田区は緑豊かにすることを掲げている。それぞれの土地環境を利用したビジョンとなっている。
次に、市民の活動と憩いの場として、比較する。山下公園では、芝生、海の眺望を楽しめるベンチ、関東大震災にシアトルから送られたバラを活用したバラ園、震災時に被災したインド人が救済のお礼として贈答したインド水塔、など港町である横浜を体現する国際色豊かなコンテンツが設置されている。横浜全体の文化が公園自体に融和している。隅田公園においては、震災復興公園の案内板(写真2)、庭園らしさが残るひょうたん池(写真3)、隣接する牛嶋神社(写真4)、といった日本の歴史文化を感じさせるものが融和している。ともにそれぞれの歴史を伝え残している。
続いて、山下公園のパークマネジメントについて。現在撤退しているものの山下公園のレストハウスがコンビニのローソン*15が2007年からテナントとして入っていた。授乳エリアや観光情報の提供、休憩スペースなどの機能を備えていた。現在はPark-PFI制度*16があるため、公共施設に民間の事業施設が入ることは比較的容易だが、2007年時点は先進的だったといえる。隅田公園に隣接する商業施設である「東京ミズマチ」に関しては、Park-PFI制度は墨田区自体が当時、未導入のため、こちらも手探りでおこなわれたことは想像しやすい。
4.今後の展望について
隅田公園は、今後の公園の利用方法、集客といったものの可能性を広げるチャレンジをしており、2021年11月8日、Park-PFI制度を利用すべく市場調査*17を開始した。今度は民間の力を利用して、さらなる発展が期待できそうだが、山下公園に比べると開始の遅さはいなめない。
また、地球環境への配慮に関しても、商業施設の参入により他にも公園が担える部分も今後増えてくることが予想できる。商業施設の参入によって、環境配慮した食器、フードロス対策としての長期保存用の包装など、公共施設に設置される商業施設ならではの配慮は強化できるのではないだろうか。
5.おわりに
隅田公園は、関東大震災の復興事業を出発点とし、都市公園として整備された、さらに公園の機能を向上し続けていることがわかった。また公園というのものは、自然環境や文化、歴史、周辺の都市施設に影響され、公園というもの単体を見て最適化できないことが伺える。公園は都市をデザインするにあたって市民活動の重要なポジションを担っており、インフラ的要素もあれば、ロケーション、コンテンツを楽しむ場でもあり、また地域のらしさ、社会の豊かさを体験する場でもあることを報告する。
参考文献
*1
墨田区 公式サイト 2021年12月10日閲覧
https://www.city.sumida.lg.jp/sisetu_info/kouen/kunai_park_annai/sumida_park/park33.html
*2
墨田区 公式サイト 2021年12月10日閲覧
隅田公園における公募設置管理制度、指定管理者制度等の民間活力導入に関するサウンディング型市場調査事業概要資料 P2より
https://www.city.sumida.lg.jp/matizukuri/park/20210901sp.files/gaiyo.pdf
*3
国土交通省 都市局 公園緑地・景観課 都市公園の役割 2021年12月10日閲覧
https://www.mlit.go.jp/crd/park/shisaku/p_toshi/yakuwari/index.html
*4
墨田区 公式サイト 墨田区公園マスタープラン 2021年12月18日閲覧
https://www.city.sumida.lg.jp/kuseijoho/sumida_kihon/ku_kakusyukeikaku/kouenmasuterplan.files/kouenmasterplan_outline.pdf
*5
墨田区 公式サイト 隅田公園の再整備工事について 2021年12月18日閲覧
https://www.city.sumida.lg.jp/sisetu_info/kouen/kunai_park_annai/sumida-kouen-renewal.html
*6
公共E不動産のプロジェクトスタディ 行政と鉄道会社による官民連携。公園・道路・河川・高架下の一体リニューアル|墨田区北十間川・隅田公園・東京ミズマチ(前編) 2021年12月18日閲覧
https://www.realpublicestate.jp/post/sumida01/
*7
環境庁 平成17年度都市緑地を活用した地域の熱環境改善構想の検討調査報告書
P5からP6 2021年12月18日閲覧
https://www.env.go.jp/air/report/h18-03/01.pdf
*8 北十間川周辺公共空間の活用方針 2021年12月26日閲覧
https://www.city.sumida.lg.jp/matizukuri/kasen_kyouryou/KitajukkengawaSumida.files/R1katsuyouhoushin.pdf
*9
公共E不動産のプロジェクトスタディ 区職員自らがプレイヤーに。みんなの「やりたい」に伴走する公園マネジメント|墨田区立隅田公園(後編) 2021年12月26日閲覧
https://www.realpublicestate.jp/post/sumida02/
*10
隅田公園利用ガイド 2021年12月26日閲覧
https://www.city.sumida.lg.jp/matizukuri/park/kouensenyou.files/sumida-guide.pdf
*11
横浜観光コンベンション・ビューロー 横浜観光情報 山下公園 2021年12月29日閲覧
https://www.welcome.city.yokohama.jp/spot/details.php?bbid=190
*12
横浜市都心臨海部再生マスタープラン 2021年12月29日閲覧
https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/machizukuri-kankyo/toshiseibi/sogotyousei/toshinmp/toshinmpsakutei.files/0006_20180921.pdf
*13
山下公園通り地区 地域緑化計画書 2021年12月29日閲覧
https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/machizukuri-kankyo/midori-koen/midori_up/3ryokuka/chiikimidori/ryokuka/chiikimidori_yamashi.files/yamashitakouendoriplan.pdf
*14
墨田区の緑の基本計画 2021年12月29 日閲覧
https://www.city.sumida.lg.jp/kuseijoho/sumida_kihon/ku_kakusyukeikaku/midorinokihonkeikaku.files/gaiyouban.pdf
*15
HAPPY LAWSON 店舗紹介 2021年12月29日閲覧
https://www.lawson.co.jp/lab/mama/art/1305722_4668.html
*16
国土交通省 都市局 都市公園の質の向上に向けたPark-PFI活用ガイドライン 2021年12月29日閲覧
https://www.mlit.go.jp/common/001197545.pdf
*17 隅田公園における公募設置管理制度、指定管理者制度等の民間活力導入に関するサウンディング型市場調査 2021年12月29日閲覧
https://www.city.sumida.lg.jp/matizukuri/park/20210901sp.html