インテリアを力にした空き家リノベーションによる塩飽本島の賑わい復活 ― 特色あるプロジェクトを核にして身の丈に合ったまちづくり ―

尾上 貞雄

船が本島(ほんじま)泊港に入ると、大勢の人が来島者を待ち受け、賑わっている。2022年開催の瀬戸内国際芸術祭(瀬戸芸)は、11月6日に幕を閉じる。瀬戸芸は、「海の復権」をテーマに、瀬戸内の島々に活力を取り戻し、瀬戸内が世界のすべての地域の「希望の海」となることを目指して開催される(1)。2010年から5回目となるこの芸術祭は、4月14日から直島、女木島、小豆島など12の瀬戸内海の島々と周辺の港で、自然のなかでの作品展示や空き家などでのインスタレーションが行われ、本島は秋の開催のみである。ワンデイチケットなどでの参加者は、レンタサイクル、コミュニティバスや徒歩で島を巡り、作品を鑑賞する(図1)。
本事例は、過疎の離島において、従来みられなかったプロジェクトにより賑わいを呼び戻す活動である。

1 基本データ (表1)
1)本島をジャックしてフリッツ・ハンセン島に
(本島を舞台に空き家リノベーションが続く)
瀬戸芸に合せて、本島では、浜辺、泊港やコミュニティバスの停留所などにフリッツ・ハンセン(F.H.)の椅子が置かれ、無料休憩所でもある展示場「フリッツ・ハンセン庵」のパート2がオープンし、2023年1月にゲストハウスとなる「ヴィラ・カサシマ・エン」が登場する。「フリッツ・ハンセン庵」や「ヴィラ・カサシマ・エン」は、リノベーションした古民家にF.H.の家具と椅子や照明を設えて、泊港本島パークセンター内のカフェ「Honjima Stand(本島スタンド)」やブリュワリー「久福ブルーイング本島」にもF.H.の家具やインテリアが設えられる。このイベントは、本島をF.H.でアイランドジャックする「フリッツ・ハンセン島」をキャッチフレーズに、家具やインテリアのショップCONNECT(コネクト)と北欧家具メーカーF.H.社とが起こした島内のさまざまなスポットを散策しながら島を巡るプロジェクトであり、リノベーションした古民家とデンマークの名作家具との融合が感じられる(2)。 (図2、資料1)
これらは、コネクトが空き家を再生する地域活性と地域の歴史や資源を活かしたリブランディングに取り組み、地域とインテリアのブランドが関わる世界で初めてのプロジェクトである(3、4)。
2)本島における空き家リノベーションと活用
(これまでの活動とリノベーション)
北欧家具と雑貨を販売し、トータルに空間を演出しているコネクトは、丸亀市綾歌町の郊外にあり、幸せをつくる「暮らし」をテーマにしている。
活動を振り返ると、コネクトの高木智仁さんは、増える空き家をどうにかしたいとの思いから、さまざまな活動をしており、「地方の空き家は、いろいろ複合的な理由で生じ、一つの方向だけからアプローチしても、根本的解決にはならない。移住者には、コーディネーター役の人がいないと地域に馴染めずに定住できないことがある」と考える(5)。
高木さんは、仕入れ製品の現地での使われ方を知り、くらしや文化に触れている。2014年にデンマーク王立建築デザインアカデミー(KADK)の学生寮を見学し、学生と交流後、大学側から学生の受け入れを依頼される。2017年9月から2人のKADK学生を迎えて、空き家のリノベーション・プロジェクトを綾歌町で行い(6)、2019年には本島でプロジェクトを行って、ゲストハウス「Villa 泊」をオープンする(7)。
KADKだけではなく、F.H.社と地元企業などと連携して、瀬戸芸2019の秋会期に合わせ、本島の国重要伝統的建造物群保存地区笠島の空き家をリノベーションして、「フリッツ・ハンセン庵」という展示を行い、北欧デンマークのインテリアをこの本島に取り入れている。また、2018年にカフェ「本島スタンド」をオープンし、本島の発信や対話の拠点となる場所を提供している(8)。

2 歴史的背景と現状
1)塩飽本島
本島は香川県丸亀市に所在し、丸亀港から30分ばかりの小島である(9)。塩飽(しわく、瀬戸内海の西備讃瀬戸の島々)は、かつて人名(にんみょう)という島民650人の共有の独立した自治領である(10)。本島の笠島集落には、国選定の伝統的建造物群保存地区に、江戸末期から大戦前の古いまち並が残る。まち並は、千本格子の出窓のある家屋や漆喰塗りの白壁が連なり、讃岐、備前・備中を中心に数多くの建造物を手掛けた塩飽在方集住大工集団である塩飽大工の技術の高さを感じる(11)。 (図3、資料2)
2)本島の現状
本島の人口は、2000年に768人であったが、2023年1月に264人(153世帯)となる(12)。2020年4月から本島中学校は本島小学校の併設校となり、在校生は小学校3人、中学校4人である(13、14)。
高度経済成長と都市化により「過疎」が農山村に生じ、「限界集落」、地域の消滅すなわち「廃村」もある。人口減少や少子高齢化により、空き家はますます増加すると予想されている。(15~19)
本島も深刻な状況であり、地域の消滅が憂慮される。 (資料3)

3 事例の評価
1)企業による離島での空き家リノベーション
この事例は、地方のインテリアショップが北欧有名ブランドの家具メーカーと連携して、芸術祭と観光の適期に、リノベーションした空き家を無料休憩所にし、家具やインテリアを展示することなどにより、インテリアの力で賑わいを創出している。
空き家リノベーションは空き家の再生と移住がなされることが最善であるが、共有空間として特別な展示場をつくることで賑わいを取り戻すことができ、地元企業コネクトとF.H.社のプロジェクトは好評で、惜しまれて終了する。
2)ゲストハウスやカフェで交流
リノベーションした空き家をゲストハウスにオープンして、宿泊施設の提供も行っている。
軽食がとれるカフェ「本島スタンド」をオープンすることで、島内、地域の人や観光客のコミュニケーションの場をつくり、島内の情報をホームページやブログなどで発信している。
3)心地よい暮らしへの取り組み
住みやすさや暮らしやすさは大切であり、多くの課題がある。建築のアドバイス、空き家の活用提案、観光・旅行情報発信、家の管理マネジメントの家守やキャンプ場の運営を行うなど島内や地域と積極的に関わっている。

4 徳島県神山町の事例との比較 (表2)
1)気風
神山町には四国霊場12番札所の焼山寺があり、本島には島の人たちが先祖供養のため浄財を集めて小豆ご飯やお菓子などで参拝者を接待をする「お大師まいり」が行われ、両者によく似た接待文化の気風がある。
2)活動の目指すところ
神山町では、「NPO法人グリーンバレー」が設立され、「人」をコンテンツにしたクリエイティブな田舎、多様な人の知恵が融合する「せかいのかみやま」、「創造的過疎」による持続可能なまちをつくることを目指して、「移住支援」を軸として、多彩な事業を行っている。(20)
本島では、コネクトが中心に、F.H.社と連携して、インテリアを力にした空き家リノベーションを核にして、離島の賑わい創出の活動をしている。ゲストハウスや宿を利用するなど島での体験を通じて、空き家のオーナーになるなど、本島を拠点にしていく人が徐々に増えて、往来が多くなることを目指している。

5 今後の展望
1)プロジェクトの継続
F.H.社とのプロジェクトは、瀬戸芸後も継続して取り組むとのことなので、ますます「フリッツ・ハンセン庵」は好評を博して、本島でのイベントとして定着する。
2)地元や地域の人々との連携、協力
これまで以上に地元の「NPO法人笠島まち並保存協力会」、民宿「やかた船」、企業、デザイナーなどとの協力や連携ができ、KADKとのつながりもあって、プロジェクトは発展充実する。
これらのことから、芸術祭、観光、行事で人の往来は増え、賑わいが多くなる。
3)自然環境の保全と文化遺産の保存
かつての森林火災、浜辺の景観を損なうプラスチックごみ、外来生物ヌートリアの繁殖など自然環境に対する影響への取り組みも行われる。
荒れた寺の修復、廃屋の鏝絵の保存なども必要である。

6 まとめ
賑わい復活を目指す本島のような離島では、企業や企業人とコラボすること、行政ではなく、企業などが前に出ることで地域が活性していくこともできる。小さな集落は、そのコミュニティの小ささを活かした欲張らないまちづくりがあり、ひとつのプロジェクトに特化集中することで、成功も可能である。これはひとつの縮図でもある。

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  • 81191_011_32183237_1_2_%e2%97%8e%e5%8d%92%e6%a5%ad%e7%a0%94%e7%a9%b6-%e5%9b%b3%ef%bc%92_page-0001 図2  フリッツ・ハンセンのインテリアによるリノベーション (写真) (2022年11月5日、筆者撮影)
  • 81191_011_32183237_1_3_%e2%97%8e%e5%8d%92%e6%a5%ad%e7%a0%94%e7%a9%b6-%e5%9b%b3%ef%bc%93_page-0001 図3  本島の実景写真            (2022年11月5日、筆者撮影)
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  • 5 表2  コネクトとグリーンバレーの活動 (筆者作成)
  • 81191_011_32183237_1_6_%e2%97%8e%e5%8d%92%e6%a5%ad%e7%a0%94%e7%a9%b6-%e8%b3%87%e6%96%99%ef%bc%91_page-0001 資料1  フリッツ・ハンセン (筆者作成)
  • 81191_011_32183237_1_7_%e2%97%8e%e5%8d%92%e6%a5%ad%e7%a0%94%e7%a9%b6-%e8%b3%87%e6%96%99%ef%bc%92_page-0001 資料2  人名の島 香川県丸亀市本島 (筆者作成)
  • 81191_011_32183237_1_8_%e2%97%8e%e5%8d%92%e6%a5%ad%e7%a0%94%e7%a9%b6-%e8%b3%87%e6%96%99%ef%bc%93_page-0001
  • 81191_011_32183237_1_8_%e2%97%8e%e5%8d%92%e6%a5%ad%e7%a0%94%e7%a9%b6-%e8%b3%87%e6%96%99%ef%bc%93_page-0002 資料3  本島の歴史、行事、文化および現状 (筆者作成)

参考文献

註1:瀬戸内国際芸術祭ホームページ
 https://setouchi-artfest.jp/about/mission-and-history.html(2021年12月20日 閲覧)

註2:AXIS Web Magazine 「フリッツ・ハンセン島」が開催中
 https://www.axismag.jp/posts/2022/10/498032.html(2022年10月15日 閲覧)

註3:CONNECT ホームページ
 https://www.connect-d.com/blog/archives/40126(2022年11月9日 閲覧)

註4:PRTIMES 「フリッツ・ハンセン島」
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000013.000047270.html(2022年11月9日 閲覧)

註5:コネクト高木氏のブログ
  https://www.connect-d.com/blog/archives/9155 (2021年12月13日 閲覧)

註6:Business kagawa
  https://www.bk-web.jp/post.php?id=1550 (2021年12月15日 閲覧)

註7:日本経済新聞 ホームページ
  https://www.nikkei.com/article/DGXMZO47671620T20C19A7962M00/ (2021年12月15日 閲覧)

註8:せとうち石の島 丸亀市/ 石の島からイノベーション!
  https://stone-islands.jp/event/detail/14/ (2021年12月17日 閲覧)

註9:丸亀市ホームページ 塩飽諸島の本島
 https://www.city.marugame.lg.jp/sightseeing/spot/shiwakushoto/page_02.html
 (2021年12月20日 閲覧)

註10:真木信夫、瀬戸内海に於ける塩飽海賊史、宮脇書店、1972年

註11:高倉哲雄・三宅邦夫著、塩飽大工、塩飽大工顕彰会、2017年

註12:丸亀市ホームページ 人口・世帯数
 https://www.city.marugame.lg.jp/info/deta/( 2022年12月16日および2023年1月24日 閲覧)

註13:本島小学校 - 学年別の児童生徒数・学級数
 https://www.gaccom.jp › schools-34415 › students(2022年12月16日 閲覧)

註14:本島中学校 - 学年別の児童生徒数・学級数
 https://www.gaccom.jp › schools-34567 › students(2022年12月16日 閲覧)

註15:ブリタニカ・オブ・ジャパン

註16:舩戸修一、「他出子」の出身集落への関わり意識 ―浜松市天竜区佐久間町のX集落の調査から―、静岡文化芸術大学研究紀要 21巻 23~32頁、2021年

註17:浅原昭生、日本廃村百選 ―ムラはどうなったのか、秋田文化出版、2020年

註18:浅原昭生、廃村をゆく2、イカロス出版、2016年

註19:総務省統計局 平成30年住宅・土地統計調査の結果
 https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2018/pdf/kihon_gaiyou.pdf(2022年10月15日 閲覧)

註20:「おもてなしの精神で広がるまち」、京都芸術大学 アネモメトリ 徳島・神山


参考文献

NPO法人 本島町笠島まち並保存協力会 ホームページ
 http://wwwe.pikara.ne.jp/honjima/(2021年12月20日 閲覧)

丸亀市ホームページ 離島振興計画
 https://www.city.marugame.lg.jp/ (2021年12月20日 閲覧)

本島の情報 - 香川県 - 離島経済新聞
 https://ritokei.com/shima/kagawa/kagawa_honjima (2021年12月20日 閲覧)

高橋大輔、小さなまちづくりのための 空き家活用術、建築資料研究社、2017年

林明希人ほか(国土総合研究機構観光まちづくり研究会編)、交流まちづくり サスティナブルな地域をつくる新しい観光、学芸出版社、2022年

「TIMELINE フリッツ・ハンセン150年の歴史」、フリッツ・ハンセン社パンフレット

フリッツ・ハンセン ホームページ
 https://www.fritzhansen.com/ja/ (2022年10月13日 閲覧)

CONNECT ホームページ
 https://www.connect-d.com/blog/archives/31535、
 https://www.connect-d.com/blog/archives/31754 (2022年10月13日 閲覧)

現地取材
 2022年11月5日に丸亀市本島の国重要伝統的建造物群保存地区笠島において
 フリッツ・ハンセン庵、ヴィラ・カサシマ・エン、本島スタンドなどを巡り、本島の民謡をベースにした楽曲が流れるなかで、リノベーションした古民家とF.H.の名作家具との融合を感じる。コネクト高木氏にお会いし、また瀬戸芸展示作品を鑑賞する。


メールでの取材  (送受信相手:コネクト高木氏)
 2022年12月20日に送信して、12月21日に受信する。
内容(概要)
送信: 「空家ゲストハウス」で、北欧デンマークの学生二人が古民家を改修してゲストハウスにしていたとの記事を読ませていただきましたが、この活動なりプロジェクトはもう終了し、今後は同様のことが行われる予定はないのないのでしょうか。また、来られていた学生さんとか、デンマークの大学(KADK)とのつながりはもう無いのないのでしょうか。
受信: 本島での活動は、新型コロナによっていろいろなことが予定通りいかず、プラン変更を余儀なくされている。ゲストハウスとしてプランをしていたが、不特定多数が同じ棟に宿泊するとい事自体が、感染症対策から非常に相性が悪かったので大幅にプランを見直している。KADKとは、今もまだ繋がりをもっているが、往来は制限している。しかし、状況をみて適時再開できたらとは思っている。本島内で宿泊施設の準備やそれに伴うその他の施設の拡充も進めており、ブログ等で告知したい。


関連の履修科目
 芸術教養研究1 (2022年4月30日提出)
 瀬戸内の本島(ほんじま)における空家リノベーションと活用

年月と地域
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