広島市三篠地区における藍の復活

亀本 準子

1.日本での藍染めの歴史
「ジャパン・ブルー」と称されるように、日本の生活には藍色が深く根付いている。屋根瓦や着物、手ぬぐい、浮世絵の鮮やかな藍色など、思い起こせば多種多様なものに施されている。現存する日本最古のものは正倉院宝物《縹縷(ハナダノル)》であり、これは奈良時代のものであることからそれ以前には日本に伝わっていたことがくみ取れる。
古くから藍染めの染料となる藍草は日本で大切にされてきたが、特に阿波(徳島県)の藍はその産出量も品質もトップを誇るものであった。温暖な気候や吉野川流域が藍草の栽培に適していたと言える。江戸~明治時代に最盛期を迎えていた阿波の藍は、その製造技術の漏洩を恐れ専売制が厳しかったが、新明治政府の近代産業政策によってしがらみが排除され、全国的に藍栽培が展開されていった。広島県においても藍作が栄えたのはこの時代と考えられる。日本農書全集に引用されている徳島県藍業視察員の調査報告書から分かるように、「広島県の安芸・備後両地方における藍作は、阿波より伝えられた藍種および藍玉製造技術によってしだいに大きな発展を見た」とある。(1)安芸(現在の広島県西部)と備後(現在の広島県東部)において明治初期藍作が栄えていたことが分かる。
しかし、明治13年に藍色が合成色素によって簡単に表現できるようになり、天然の藍染めは合成染料にとってかわられることとなった。藍染めだけでなくその他の草木染めも同様、また染物だけでなく人びとの暮らしの様々なものがハイテク化されていった時代である。数百人規模だった阿波の藍師も2019年時点では5軒に減り(2)、昨今天然の藍染めの価値が見直される活動が増えている。
本レポートで取り上げるのは広島県広島市三篠地区における、「三篠の藍(アイ)復活・活用プロジェクト」である。前述に明治時代安芸での藍作が発展したとあったが、広島市三篠郷土史においても安佐郡新庄村で品質良好な藍玉を製造していた旨の記述があり、この地域で藍が作られていたことが分かる。(3)太田川下流域は肥沃な土壌があり、藍の栽培に適していたようである。藍染めを生業にしている紺屋もこの地域に存在していた。(4)この点に着目し、藍を三篠地区の特色にできないか、と地元小中学校や住民で藍の復活活動を行っているこのプロジェクトに焦点を当てる。

2.活動内容
2021年度より、藍の栽培を三篠公民館及び三篠小学校にて行っている。6年生が郷土史を学習し、藍の栽培管理を行い、生葉染めによる藍染めの体験学習を行う。藍染め後は種の収穫もおこない、来年度の6年生に残す。藍染めに使用する絹布は地元商店街に寄付してもらい、学校ふれあい推進委員によって縫製され小学生に金銭的負担が生じないように地元住民で協力しあっている。また、初年度中学生やシニアが活動に携わる機会が少なかったことから、2022年度は同区中広中学校でも藍染めの体験学習を行い、その輪をひろげている。
小学生が地域の歴史を知る機会を設け、藍染めという伝統的な技法について地域住民と協力して体験を通して学ぶことで、多様な年齢層の人びととのふれあいや地域文化の継承につながる。
また、地元酒店の協力でお酒を飲みながら藍染め体験をするという、大人に向けたイベントも2022年9月に行われ、まちの活性化に一役買っている。公民館での藍染めイベントも盛況で、毎回すぐに定員に達するという。
もともとは地域に住む染色家の女性が、三篠に昔藍作が栄えていたことを知り、自宅アパートの屋上で藍を育て始めたのがこの活動の発端となった。三篠公民館岡田館長の働きかけや、地域住民で活動に賛同した人びとが盛り上げていき、その活動の場が徐々に広がっている。地域コミュニティの活性化に伝統的な題材を用いている点も評価できる。
2022年度の新たな取り組みとして、沈殿藍をつくるというものがあった。それまでは生葉染めによって染色していたが、生葉染めではあまり濃い色は染められない。沈殿藍は藍草を水につけて発酵させ、石灰を入れかき混ぜて空気酸化させつくるものである。生葉染めよりも濃い青色になる。時間も手間もかかる作業であるが、作業に集まった有志の地域住民はストールなどを染めて楽しんだ。

3.他事例との比較
はじめに述べたように、日本の藍作において阿波の藍は最高峰のシェアを誇っていた。その阿波地域(徳島)でも藍染めの伝統継承とこれからの産業化へ向けた取り組みが行われている。徳島県立城西高等学校では、2010年から「阿波藍6次産業化プロジェクト」を行っている。藍の栽培から始まり、この地域の藍師の協力で阿波藍の伝統的な技法「天然灰汁発酵建て」による本藍染めを継承し、それによる商品開発や販売を高校生たちがおこなっている。「マフラータオル」や「バンダナ」などのヒット商品や食藍シリーズでテレビ番組や新聞紙に取り上げられるという成果もある。彼らはその活動の中で、同校他学科や近隣の商業高校、科学技術高校と連携している。例えば、食藍の商品開発を一緒に行う、藍の生育において生産率の向上を図る為に畑で使う機械の開発を行うなどである。時間も労力もかかる伝統的な藍産業を次世代につなげていけるよう、学校の枠を越えて横のつながりによって発展させている。
「三篠の藍(アイ)復活・活用プロジェクト」では、まだ藍染め製品の販売にまでは至っていない。しかし小学校や公民館から始まり、地元の町内会、老人クラブ、母親クラブ、商店街、とつながっていき広まった点は特筆すべきだと三篠公民館岡田館長も述べている。地域へ急速に浸透していった様子は目を見張るものがある。

4.今後の展望
まだ始まって2年ほどという若さゆえに、今後の活動には様々な方向性があるだろう。藍の栽培は現在小学校や公民館で行っているが、三篠地区が都市部にある為、前述の徳島県立城西高等学校のように藍栽培を産業化していくのは三篠では難しいかもしれない。(5)しかし、特産品として販売するモノづくりではなく、藍栽培や藍染めという体験に焦点を当てるのも一案ではないだろうか。
三篠地区は、広島駅からJR山陽本線で2駅の横川駅近辺に広がっている。三篠小学校・公民館も横川駅北口から徒歩5分以内の近さだ。路面電車・JR・バスの各交通機関が利用できるということで広島市内でも近年人気が上昇しているエリアである。昔ながらの商店街から新しくオープンしたおしゃれな店まで、散策が楽しくなるエリアでもある。クリエーターのインスタレーションの展示や横川ゾンビナイトなど、商店街のイベントもユニークだ。国内外からの観光客もアクセスしやすい立地であり、原爆ドームや宮島などの世界遺産にも電車1本で行けることから、そのような利点を生かすアプローチも良いかもしれない。
三篠公民館岡田館長の話では、藍だけでなくこの地区に有名企業がある金箔や針、ゴムボール、ビーズなどといった産業を観光に取り入れる為、体験プログラムを考案しているところだという。また違う階層でのつながりが生まれ、そこに藍の取り組みも加わっていくことで地域に新たな風が吹き込みそうだ。

5.まとめ
これからこの藍復活プロジェクトが進んでいく道は如何様にも広がるが、地域住民が楽しんで活動を継続できることを期待する。毎回すぐ定員に達する藍染め体験も然り、藍染めしてモノづくりをするもそうであろうし、ツーリズムに加えて新しい出会いが増えるとまちもより色づくであろう。地域住民が集まって試行錯誤しながら活動する過程は、何にも代えがたい楽しい時間、価値のあるものとなっているのだ。

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    2022年11月12日筆者撮影
  • 81191_011_32183280_1_2_img_6482 沈殿藍をつくる様子
    2022年11月12日筆者撮影

参考文献

註(1)野口一雄、宇山孝人、佐藤常雄、中村克哉、北村敏、湯浅淑子、斎藤洋一『日本農書全集 45 特産1 名物紅の袖・あゐ作手引草・油菜録・五瑞編・海苔培養法・煙草諸国名産・朝鮮人参耕作記』1993年、農文協、p.125
 (2)吉原均、山崎和樹、新居修、川人美洋子、楮覚郎、宇山孝人、川西和男『地域資源を活かす 生活工芸双書 藍』2019年、農文協、p.30~31
 (3)広島市三篠地区社会福祉協議会『広島市三篠郷土史』、1970年、広島市三篠地区社会福祉協議会、p.182
 (4)広島市郷土資料館、映像資料より
 (5)三篠公民館岡田館長インタビューメールより

参考文献
野口一雄、宇山孝人、佐藤常雄、中村克哉、北村敏、湯浅淑子、斎藤洋一『日本農書全集 45 特産1 名物紅の袖・あゐ作手引草・油菜録・五瑞編・海苔培養法・煙草諸国名産・朝鮮人参耕作記』1993年、農文協
吉原均、山崎和樹、新居修、川人美洋子、楮覚郎、宇山孝人、川西和男『地域資源を活かす 生活工芸双書 藍』2019年、農文協
三木産業(株)技術室編、木村光雄監修『藍染めの歴史と科学』、1992年、裳華房
広島市三篠地区社会福祉協議会『広島市三篠郷土史』、1970年、広島市三篠地区社会福祉協議会
青木正明『天然染料と衣服』、2022年、日刊工業新聞社
中国新聞記事『三篠の藍復活へ住民スクラム』2022年9月24日朝刊
三篠の藍(アイ)復活プロジェクトHP掲載PDF https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/461979.pdf(2022年12月5日閲覧)
横川商店街 https://yokogawanow.com/(2023年1月13日閲覧)
横川カンパイ!王国 https://k-o-y-kanpai.com/(2023年1月13日閲覧)
広島市郷土資料館、映像資料

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