「江戸東京たてもの園」歴史的景観と伝統行事の保存
「江戸東京たてもの園」歴史的景観と伝統行事の保存
Ⅰ.はじめに
江戸から東京への時代の流れの中で、江戸の景観を失い、関東大震災で明治の景観を失い、第二次世界大戦の東京大空襲で大正・昭和の景観は大きく損なわれ、さらに東京オリンピックに伴う都市改造で変貌していった。
『江戸東京博物館』の分園で江戸・明治・大正・昭和の古建築を移築して保存公開している野外博物館『江戸東京たても園』について、東京の「地域性」(多摩、山の手、下町)を重視した「建物展示」と「情景再現展示」、運営・保存にかかわるボランティア活動と地元自治体・企業とも共催されている活動を他の建物保存施設との比較して報告する。
Ⅱ.江戸東京博物館と江戸東京たてもの園の背景
経済高度成長に伴う都市開発により残されていた江戸、明治、大正、昭和初期の街並み、建物の織り成す都市景観が急激に失われつつあり危機感を抱いていた都民(文化人、建築家、学者)の提言をうけ都と有識者が1960年頃から都立博物館構想活動をはじめていた。1980年代、東京都鈴木知事の依頼(スミソニアン博物館に匹敵するミュージアム)を受けた早稲田大の暉峻康隆教授座長の江戸東京博物館建設懇談会がまとめた『江戸東京博物館基本構想』をまとめた。内容は江戸と東京を連続的に捉えて「江戸及び東京の歴史と文化に関する資料を収集、保管、展示する」としたものであった。予定地(旧国鉄両国操車場)の敷地が狭ので建物保存を都立小金井公園に設置したのが『江戸東京たてもの園』である。
Ⅲ.基本データ
平成5年(1993年)江戸東京博物館の分館として都立小金井公園内の敷地7ha.に設置。
1.所在地.東京都小金井市桜町3-7-1
2.展示施設の構成
「たてもの園」は江戸東京の継続する流れをコンセプトで三つの展示エリアを設定、「西ゾーン」「センターゾーン」「東ゾーン」の三地区の「多摩の道」「山の手通り」「武蔵野の道」「下町中通り」とテーマ別に建物を並べて展示して地域のイメージを再現しており、江戸東京の400年を経た「空間」を昭和の一時期に集約させ、「時間」を21世紀の今に再現固定している
【センターゾーン】
ビジターセンタ「旧光華殿」に資料図書室、導入展示、ミュージアムショップなど管理運営置いている。 自証院霊屋・高橋是清邸・西川家別邸・伊達家の門・会水庵を展示している。
【西ゾーン】
東京の山の手と郊外住宅、多摩の農村、雑木林の道に展示している。
「山の手通り」前川國男邸、田園調布の家(大川邸)、小出邸、デ・ラランデ邸、
「桜の散歩道」常盤台写真場、三井八右衛門邸、
「多摩の道」綱島家(農家)、吉野家(農家)、八王子千人同心組頭の家、奄美の高倉
「武蔵野の道」庚申塔、供養塔、馬頭観音など
【東ゾーン】
下町の銭湯、商家、居酒屋を復元し往事の街並み景観を表通りと路地裏を再現している、店頭には商売道具、商品(模型)を其のままに展示している。
「下町中通り」子宝湯、鍵屋(居酒屋)、仕立屋、万徳旅館、小寺醤油店、川野商店(傘屋)、大和屋本店(乾物屋)、武居三省堂(文具店)、花市生花店、丸二商店(荒物屋)、村上精華堂、植村邸、天明屋(農家)
「東の広場」万世橋交番、都電7500形、郵便差出箱(1号丸型)
Ⅳ.評価すべき項目
たてもの園が東京の地域性と時代に着目したコンセプトの「多摩」「山の手」「下町」を「空間造形」から評価する。
【西ゾーン】
「多摩の道」「武蔵野の道」では多摩地区の特徴である、畑作の農業と雑木林と里山の自然を八王子千人同心(幕臣)と将軍家鷹狩り場であった三鷹付近の豪農屋と街道筋の庚申塔などで昭和30年代の多摩地区の特徴的情景を再現している。
「山の手通り」の四つの洋館と写真館などは山手通り(環状六号線)沿いに所在していた明治大正昭和の著名な建築家作品の米・仏・オランダ・独の影響を受けた住宅を田園都市的情景に再構築している。
田園調布の家(大正14年)は渋沢栄一が構想計画した田園調布にアメリカ西海岸で流行した郊外住宅様式で建てられた、その生活様式は洋式で下町との文化的違いは「紅茶と番茶」と比喩できる。
前川國男邸(昭和17年)仏国ル・コルビュジエに師事、モダニズム建築の先駆者 前川が大崎に自邸として建築。戦時中の制限の中、和風モダンの合理的で機能的住まいを実現。
小出邸(大正14年)文京区に堀口捨巳がオランダ住宅の影響下に和建築を組合せた、郊外住宅で和洋折衷の生活様式が営まわれた、小出氏一家は移築まで居住していた。
デ・ラランデ邸(明治43年増改築)信濃町の丘に建ち、当時の外国人の生活を彷彿させるドイツ式の洋館であり、三島由紀夫の『鏡子の家』のモデルとも言われている。1階とベランダはカフェレストランで大正浪漫にひたれる。
常盤台写真場(昭和12年)東武沿線の郊外住宅地(常盤台)で、新住民が家族の記念日ごとに写真をとる習慣に答えたものである。外観はコンクリート建築だが木造モルタルで裏は和風の作りである。
【東ゾーン】
「下町中通り」正面に足立千住の子宝湯(昭和4年)関東大震災以降の宮型銭湯の典型である。左に居酒屋「鍵屋」(安政4年)言問通りに在り昭和47年まで営業、イベント時には営業する。右は仕立屋、明治期の町家で室内用ガス灯の配管がある。通り始めに、小寺醤油店(白金)・川野商店傘屋(小岩)と万徳旅館(青梅)は重厚な感じを受ける。
中程からは関東大震災の復興の過程で生まれた『看板建築』の街並み、武居三省堂・花市生花店・植村邸・村上精華堂・丸二商店が並ぶ、当時の防火規則で木造構造の外壁に防火材を貼ればよいので銅版・モルタル・スレートで覆った。銅版には伝統模様を打出し技術を競い、洋風の概観を模した。
Ⅴ.他の同様の事例との比較
1、農村民家の活きた生活文化の展示
ここでは「川崎市立日本民家園」を事例とする、大阪「日本民家集落博物館」ともに我国に措ける先駆であり、運営に市民が参加するモデルともなっている。
民家園は江戸時代24棟の重要文化財を含む東日本の各地、信越、関東、東北と地方別、用途別に配置され旅気分にされる工夫された展示している。時間は江戸時代に固定されている、見学した建物の保存状態はかなり良く整備されている。屋内外の掃除、整理等をボランティアが行い人が居住している様な温かい雰囲気を維持しており、藁葺き家屋では週に一回は囲炉裏に火を入れ燻す事で活きた保存を実行している。
本年1月5日の「お正月を遊ぶ」展示は獅子舞、むかし話(語り)、正月遊びコーナ、日本の注連飾りなどが市民協力で展示、実演され盛況であった。
これら運営も特色があって会員組織のボランティア活動で運営支援を「炉端の会」と伝統的民具技術保存活動を「民具制作技術保存会:略称・民技会」で行っている。これらは市民支援活動のお手本と評価されている。
2、東京の地域性(下町・山の手・多摩)の生活文化の展示
「たてもの園」は東京にあった建物を集めた「地域性」で時代は江戸から昭和までの時代性を生活文化で展示する難しさが存在する。多摩の農家(藁葺き家屋)での囲炉裏火入れや、正月・盆・十五夜の行事は、ほぼ同様な市民参加の運営を行って活きた展示が評価できる。
「下町仲通り」は町人(商人、職人)の街、「山の手通り」は高級郊外住宅であり、建物展示は街並み景観とも非常に良く再構成されているが、都会の「情景再現」はボランティア活動の店番、案内の保全的な活動にとどまっており今後の展開が期待される。
Ⅵ.今後の展望
注目は「情景再現事業」である。正月・祭りの「ハレ」のイベント時だけでない日常の「動的情景再現」を展望したい。交通機関では人力車・輪タク・円タク・都電。街を歩くモボ・モガ・みゆき族。など都会風俗の一時代を「街の情景と生活風景」を例えば「昭和15年田園調布の家での朝食情景と街行く人」再現ができればと考える、これには家具・衣服・履物・食器・髪型・化粧・食材など丸ごとの再現と記録になると考える。
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【西ゾーン】多摩の道
「江戸東京たてもの園」 多摩の農家、郷士、豪農の武蔵野の風景を再現 -
【西ゾーン】山の手通り・桜の散歩道
「江戸東京たてもの園」 オランダ、フランス、ドイツ、アメリカの影響を受けたモダン建築 -
【東ゾーン】下町中通り・子宝湯、鍵屋、仕立屋
「江戸東京たてもの園」 昔の銭湯、商家、居酒屋が下町の風情を再現 -
【東ゾーン】 下町中通り・看板建築
「江戸東京たてもの園」 昭和の東京は関東大震後の復興期の現れた看板建築にあふれていた。 -
『江戸東京たてもの園』
夜間特別開園 紅葉とたてものライトアップ 平成27年11月21・22・23日 -
『川崎市立見本民家園』他の同様の事例との比較
江戸時代24棟の重要文化財を含む東日本の各地、信越、関東、東北の民家を展示 -
【東ゾーン】下町中通り・店内の再現展示
「江戸東京たてもの園」 建物保存だけでなく「情景再現」の工夫がされている。
参考文献
江戸東京たてもの園 http://www.tatemonoen.jp/index.html
江戸東京博物館 http://edo-tokyo-museum.or.jp/東京文化財研究所刊行『日本美術年鑑(彙報)』江戸東京博物館基本構想 http://www.tobunken.go.jp/materials/nenshi/6866.html
『新江戸東京たてもの園物語』 企画編集 江戸東京たてもの園 制作 株式会社スタジオジブリ
内閣府 『災害教訓の継承に関する専門調査会報告書 平成20年3月第1部復興計画の策定
第1章帝都復興の展開
一般社団法人東京建設業協会 『東建月報』2010年4月号(No.744)新連載エッセイ・野外博物館の魅力(第1回)「野外博物館の誕生」
『東建月報』2010年6月号(No.746)新連載エッセイ・野外博物館の魅力(第2回)「ロマンを受け継ぐ江戸東京たてもの園」
『東建月報』2010年8月号(No.748)新連載エッセイ・野外博物館の魅力(第3回)「収集の情熱ともてなしの心横浜・三渓園」
『東建月報』2010年11月号(No.751)新連載エッセイ・野外博物館の魅力(第4回)「収集の情熱ともてなしの心横浜・三渓園」
日本民藝協会 http://nihon-mingeikyoukai.jp/
明治かがやくー開国150年(別冊太陽)2005年2月 平凡社
博物館明治村 http://www.meijimura.com/
三渓園 http://sankeien.or.jp/index.html
川崎市立日本民家園 http://www.nihonminkaen.jp/facility/
東京ロマンチック案内ーレストラン・喫茶店・美術館・博物館...ノスタルジック&モダンな東京案内 著者 甲斐みのり 発行マーブルトロン 発売 三交社 2012/08/10初版
東京建築みる・あるく・かたる 著者 倉方俊輔・甲斐みのり 発行所:株式会社京阪神エルマガジン社 2012/11/10初版
エクスナレッジムック 東京建築ガイドマップ 明治・大正・昭和 監修・執筆 倉方俊輔・斉藤里 出版:株式会社エクスナレッジ 2007/02/07初版
京都歴史災害研究 第5号 2006年 江戸の地盤と安政江戸地震 著者 松田磐余
江戸東京たてもの園だより40号平成24年9月30日
江戸東京たてもの園だより41号平成25年3月00日
江戸東京たてもの園だより42号平成25年9月30日
江戸東京たてもの園だより43号平成26年3月31日
年2回発行 発行者 公益財団法人東京都歴史文化財団・江戸東京たてもの園
江戸東京たてもの園 秋のイベント案内 平成26年10・11・12
発行者 公益財団法人東京都歴史文化財団・江戸東京たてもの園
江戸東京たてもの園案内パンフレット 2014年6月30日 第21刷
発行者 公益財団法人東京都歴史文化財団・江戸東京たてもの園
TBSテレビ「テレビまんが昭和物語」http://www.showa-movie.jp/
パンフレット:夜間特別開園「紅葉とたてものライトアップ」平成27年11月21,22,23日 主催:江戸東京たてもの園 協力:小金井市商工会
川崎市立日本民家園 園内案内 パンフレット
川崎市立日本民家園 カレンダー 2015年12月~2016年3月
江戸東京博物館「えどはくカルチャー」講座名:江戸東京たてもの園セミナー「移築を考える」
第1回2015.11.5「前川さんすべて自邸でやってたんですね」中川準一(元前川設計事務所)
第2回2015.11.19「江戸東京たてもの園への移築復元」デ・ラランデ邸 田中昭之(株式会社建文)
第3回2015.11.26「”移築が切り拓く建築の世界」平山育夫(長岡造形大学教授)
公益財団法人文化財建造物保存技術協会 http://www.bunkenkyo.or.jp/
文化庁「伝統的建物保存地区」http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/hozonchiku/
川崎市立日本民家園 http://www.nihonminkaen.jp/
江東区深川江戸資料館 http://www.kcf.or.jp/fukagawa/index.html
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