市民有志による『みたか観光ガイド協会』の無料ガイドツアー

小野寺あゆみ

市民有志による『みたか観光ガイド協会』の無料ガイドツアー

Ⅰ.はじめに
東京都三鷹市で16年続いている『みたか観光ガイド協会』を評価、報告する。無料で行われている定例ガイドツアーの実態を取材するとともに、ボランティアスタッフのモチベーションが継続できる要因を明らかにしたい。

Ⅱ.基本データ
1.概要
平成11年6月 市民によるガイドボランティアとして設立
平成27年までに148回の市内定例ツアー開催、市内外の12,000人以上を案内
[定例ガイドツアー]
「作家・太宰治の足跡ガイド」
予約不要・雨天決行・参加無料
毎年3月〜11月 第4日曜日開催
午前9時50分にJR三鷹駅南口デッキ上集合
[他コース]
桜桃忌ガイド
ジブリ美術館まで
大沢の里・歴史と自然散策 他

2.会員構成
・主に三鷹市在住の一般市民、現在45人
・現役世代〜80代
・仕事をリタイアした男性、子育てに一段落した女性が中心

Ⅲ.歴史背景
1.会の背景
発足のきっかけは平成10年に行われた、みたか市民ネットワーク主催の『市民ガイド養成講座~太宰治の足跡案内~』だった。全5回の講座終了後、受講生達が講座で学んだ太宰治の足跡を多くの人に知ってもらおうと、さらに学びを重ね翌年にスタートした。

2.地域背景
三鷹市は都心から西へ約18km、東京都のほぼ中心に位置している。観光地という印象は少ないが、都立井の頭恩賜公園や国立天文台、三鷹市立アニメーション美術館(三鷹の森ジブリ美術館)があることで知られている。
また、太宰治をはじめ多くの著名な文学者が暮らし作品を生み出した町として知られ、「文学のまち・三鷹」とうたっている。

3.太宰治と三鷹市
太宰治は昭和14年から三鷹市に住み、疎開期間を除き昭和23年に亡くなるまでの約7年半、この土地からたくさんの名作を送り出した。作品の中に三鷹の様子や当時の生活も多く描かれ、平成20年度より「太宰が生きたまち・三鷹」として太宰治顕彰事業を開始し、特別展『太宰治 三鷹からのメッセージ〜没後60年記念展〜』を開催した。また同時期に太宰プロジェクトの情報発信地となる「太宰治文学サロン」も開設し、翌年には生誕100周年のイベントが行われた。

Ⅳ.評価、特筆する点
調査にあたり太宰治ゆかりの地を巡る定例ツアーに参加した。当日直接集合時間に行くと30名ほど集まった参加者は2つに分けられ、ガイドが2名ずつついた。
太宰が投身した事で知られる玉川上水は現在国の史跡にも指定され、三鷹駅からの上水沿いの道には歴史的、文化的に貴重な文化財や施設が数多く存在していた。それらの解説も交えてのガイドだったが、単に跡地や作品に登場した場所を紹介するだけではなく、裏話も豊富に聞くことができた。写真や図などと共に、ガイド自身が書き溜めたファイルを開き、三鷹市を知り尽くす市民目線でガイドは進められた。一方通行ではなく参加者とのやりとりも楽しい3時間弱だった。
後日、代表の小谷野芳文さんにお話を伺った。

1.口コミと予約不要
「発足当時はインターネットなんてできなかったからね。ずっと口コミが頼りだったんですよ。」と小谷野さんは言う。
そこで気になるのが、予約不要というスタイルである。参加人数がわからない状態で、やりづらさはなかっただろうか。
毎回3〜4人のガイドが集合場所に向かうが、当然ガイドと参加者が同人数という事もあり、逆に何十人も集まる事もあると言う。しかしそういう臨機応変さも、ツアーデザインの一部になっている。
「予約不要の一番の利点は、予約受付に人手がいらない事です。申し込んだ人が来ないからと、連絡を取ったり待ったりしなくていいですからね。」
ボランティア団体だからこそ、メインの活動以外に時間を作る事は難しい。それを「予約不要」という形で解消している。また、雨天決行なので中止の連絡も必要ない。間に合わなかった人が公開している電話番号から連絡を取り、途中から参加する事もあるそうだ。

2.モチベーションはどこにあるのか
高齢社会の昨今、いわゆるリタイア後の活動の様々な選択肢の一つであることは想像できる。ただ、他とは違う特色を挙げるならば「太宰治について知っていることや学んだことを話すだけで喜ばれる達成感」だそうだ。一見当たり前のようだが、台本を覚えて解説をしなければならないという事もなく、情報交換や勉強を重ねて知識を増やしそれを話すことがガイドの役目であり、2時間半参加者とおしゃべりをしながら歩く「だけ」で喜ばれるという。
「それは、100円でも頂いたら違ってくると思うんだよね。」
無料ガイドだからこそ、ガイドの質を統一する義務はなく、暗記するという強制もない。また、毎月同じルートを解説していても、参加者の年齢や性別、時には学生や教師の団体などの依頼もあり、たくさんの刺激がある。そのように様々な場面に対応するために日頃から視野を広げることや緊張感もモチベーションになっている。年配のガイドにとって歩く事としゃべる事による身体や頭への効果も大きい。

3.何故無料で続けられるのか
口コミから始めた活動も年を追うごとに注目されるようになり、商工会から声がかかったり雑誌などの取材も増えていった。そして発足の翌年(平成12年)から、三鷹市とまちづくり三鷹が主催する『三鷹まちづくりフォトコンテスト』の受付や選考などで有償の協力団体として関わっていることが活動の支えとなっている。
今では他県からのツアー参加者も少なくないそうだ。それには三鷹駅から徒歩3分にある「太宰治文学サロン」の存在も大きい。これは太宰が通った酒屋「伊勢元」跡地に建てられたもので、市と協働で運営し、入場無料で開館している。そこに交替で6時間常駐し、太宰治に関する解説の他、希望があれば足跡散策をしている。このように活動の場が増えることが、148回も続いた秘訣であるといえる。

4.他のボランティアガイドとの比較
他市の例や都立庭園ガイドと比較して特筆すべき点は、一般的な名所案内ではなく太宰治の足跡を訪ね市内を巡るという視点であること、そして行政からは独立した任意団体で無償ボランティアであることだと言える。台本に縛られず、その時々で変化する内容も人気の秘密だ。
小谷野さんの言葉を引用すれば「市民有志が地元の宝を伝えようと立ち上げた、一言で言うならば『市民の勝手連』」。「市民の勝手」を16年も続けている事が会の特徴を物語っている。

Ⅴ.ギブアンドテイク
「volunteer」は自由意志、自発性に裏付けられた奉仕という意味を持っている。無償の奉仕という意味合いが強いが、有償のボランティア活動が増えている現状もある。この会が無償で続いているのは何故なのか。
まずは活動の場所や時間が限定されているため、活動に伴う個人の支出がほとんどないことがあげられる。逆に活動の対価として、人との出会いやふれあい、感謝の声、達成感など得るものも大きい。
一方参加者に聞いてみると、返礼を期待しない無料ツアーである事を前提に参加したが、「無料で参加できた」という気持ちは一方通行では終わらない。三鷹を知り、興味を持ち再び訪れること、ツアーの存在を人へ伝えること、へと繋がったと言う。ツアー終了後は三鷹で食事や買い物をしていく人も多い。
また、参加者にお年寄りや身体の不自由な方がいた時には、同行するメンバーが自然に足並みを揃えてくれるという。これも無料だから、という無意識の作用なのかもしれない。こういう大小のギブアンドテイクが、今後もこの会を支えていくのだろう。

Ⅵ.今後の課題や可能性
ジブリ美術館への外国人来訪者が年々増え、駅からのガイドを頼まれることもあるそうだが、シニア世代が大半を占める団体ではやはり言葉の問題が壁となることが想像できる。
そこで三鷹市の特徴をここでも伺うことができる。「市民が観光大使~住んでよし、訪れてよしのまち 三鷹~」をキャッチフレーズに設立したのが「みたか観光案内所」だ。ここでは音声ペンを使って4ヶ国語の音声解説が聴ける「みたか散策マップ」や、英語の「三鷹駅前まち案内マップ」を配布している。ボランティア団体と町の活動が繋がることで、どこかだけが負担を追うことなく町づくりを続けることができるのだ。
町が活力を維持していくためには、市民自身が町に誇りを持ち、自ら学び、繋がっていくことが必要である。三鷹市のこの例は、まさにこれを実現していると言える。
今後は、文学作品に興味を持ち始める中学生などを対象に、授業の一環として三鷹文学ガイドをする事を提案したい。自分の住む町の作家たちの足跡を知ることは、町を知り愛する心を育むであろう。

  • 987383_b9be636f12fa42db921170566f811692 みたか観光ガイド協会 定例ツアー 平成27年9月27日(日)参加 集合場所風景
  • 987383_9a99cb52148348868a81c3a4439b0d2c 集合目印 の幟(のぼり)
  • 987383_8d981eb4aa4c47af9a86af83fead92e5 例ガイドツアー 配布資料
  • 987383_7928d6e54eea4c39ad3d3d1f319698e5 平成27年9月27日(日)参加 定例ツアーの様子 山本有三記念館にて
  • 987383_0ab99dfdbdff48e68f403c774201d4bd 平成27年9月27日(日)参加 定例ツアーの様子 禅林寺にて(太宰治の墓がある)
  • 987383_c483cc37c663419791924418b4b9177a ≪添付資料≫近隣の市で行われている観光ガイド・都立庭園で行われている庭園ガイドの比較

参考文献

【Webサイト / PDF】
・みたか観光ガイド協会  http://mitakaguide.xsrv.jp(2016/01/11)
・東京都産業労働局観光部振興課 平成26年度東京都観光まちづくり取組事業例集より
『観光まちづくりデータベース 』http://www.gotokyo.org/jp/administration/h26/documents/35-65.pdf(2016/01/20)
・全国観光ボランティアガイド http://vg.nihon-kankou.or.jp/(2016/01/20)

【参考文献】
Dioの会 編『三鷹という街を書く太宰治 ―陋屋の机に頬杖ついて』はる書房
財団法人三鷹市芸術文化振興財団文芸課 編『三鷹ゆかりの文学者たち』財団法人三鷹市芸術文化振興財団
海野和之 著『社会参加とボランティア』八千代出版
堀田力 著『心の復活 ふれあい社会とボランティア』NHK出版
石井英輔 田中優子 著『大江戸ボランティア事情』講談社