特定地域でのデザイン活動として、読書会ネットワーク「Read For Action」が開催する読書会と、地域読書会「まちヨミ」をとりあげ、その活動に対する評価を行う

秋月仁志

特定地域でのデザイン活動として、読書会ネットワーク「Read For Action」が開催する読書会と、地域読書会「まちヨミ」をとりあげ、その活動に対する評価を行う。

Ⅰ.基本データ
「Read for Action」は、「非営利型一般社団法人Read For Action協会」が企画・運営を行っており、経営コンサルタントであり作家の神田昌典氏が代表理事を務める。読書会を主催する「リーディングファシリテーター」は約250人で、年500回ほど全国で読書会を企画・運営している。参加者は会社員や高齢者、親子連れなど多様である。
Read For Action読書会の中でも「まちヨミ」は、主に地域の新聞社や行政や公的機関などと連携した、特定地域の読書会を指す。普通の読書会との違いは、地域で解決したい課題の解決に向けて個人や組織が行動を起こすための読書会としてデザインしている点である。現在まで、札幌、青森、仙台、福島、栃木、東京、横浜、名古屋、長野、新潟、金沢、富山、大阪、広島、岡山、鳥取、徳島、福岡、鹿児島、沖縄、など日本各地、また海外でも実施されている。
読書会の目的は、読書を個人の経験にとどめず、本の感想を共有し、仲間と一緒に読むことで、内容をより深く理解し、解決方法を話し合いながら、読書を行動する力に変えることである。
まちヨミの形式は、「事前に本を読み終えて参加し、その感想を語り合う」という一般的な読書会スタイルと異なり、まち全体で1冊の本を決め、未読の状態からその場で短時間で読み、内容を共有して、地域の未来を描く対話を行う形式である。そして、複数の地域の問題と多くの分野、多くの利害関係者の人から声を収集する。

Ⅱ.歴史的背景
明治維新の直前・幕末、黒船が来航し、武士の時代の価値観が揺らぐ中、吉田松陰の「松下村塾」、福沢諭吉を輩出した「適塾」など、日本中に私塾が立ち上がり、歴史書や思想書、蘭学書を塾生たちが読み合わせ、未来の日本を熱く語る場ができた。この時代の流れを受けて「個人の知識習得の読書」から「体験を共有する読書」を、この時代に提唱しようと考えるのが、Read For Actionであり、2011年 3 月東日本大震災のあった同年9 月に、人と人をつなげて知を共有する「行動するための読書会」ネットワークとして開始した。
まちヨミのヒントは、アメリカ・フィラデルフィアで開催されている「One Book,One Philadelphia―1冊の本で、フィラデルフィアはひとつに―」という読書イベントである。「たった1日で、奇跡が起こせる!」と確信し、地域活性の一助になることも願ってスタートしたのが「まちヨミ」である。

Ⅲ.評価
1.コミュニティ運営の観点
リーディングファシリテーターはFacebookグループのような独自のSNSでつながっており、読書会運営についての議論を中心に行っている。
多種多様な関心を持つ読書会参加者に対して、どうすれば求心力のある読書会を開催できるかという情報を共有し、仕事やライフワークにも生かせるような情報発信がなされている。
また、リーディングファシリテーターを育てる講座が、Read For Action協会により開催され、修了すればRead For Action読書会を開催可能というしくみになっており、運営のしくみは整っていると評価できる。

2.情報編集の観点
読書会やまちヨミの活動趣旨を伝えるための情報編集について考察する。
2014年4月にSNSができ、代表理事と事務局とリーディングファシリテーターが「効果的な情報発信」「読書会参加者の個人情報の扱い」「読書会開催を円滑化するシステムの充実」「デザイン性とユーザビリティに長けたWEBサイトへの更新」といった課題について議論を重ねた。
そして、議論を踏まえてWEBサイトは2014年5月にリニューアルされた。ポータルサイトでは読書会開催レポートや開催予定が掲載され、読書会の申し込みができる。ブログでは読書会の集客に向けた認知度向上のための情報発信が行われ、リーディングファシリテーター向けの新しいコミュニティサイトでは打合せの記録や読書会実施マニュアルやよくある質問集を掲載している。
特に、ポータルサイトでは、読書会のレポートが写真つきでアップされ、参加を希望する人は事前に情報を得ることができて安心できる上、読書から実際に行動につなげるイメージを描くことができ、非常に有意義である。

3.読書会の価値
通常の読書会は、同じメンバ、同じような本の読書感想会に終始し、マンネリ化する。一方、まちヨミでは、同じテーブルに座る人は都度異なる。自分の手で書き加えられる未知の空間があることが、モチベーションにつながる。
また、マーシャル・マクルーハンが『メディア論』で「あらゆるものがメディアである」と述べたが、Read For Action読書会で用いられる本は、著者からの一方的なコミュニケーションメディアではなく、著者へ質問をぶつけて擬似的な対話をしたり、参加者同士が質問や意見を述べあう双方向コミュニケーションメディアへと進化する。そして、目の前の相手に即座にフィードバックするために、漫然とではなく利他の精神で読むことができ、本の内容が現実の自分の状況と直結し、脳に刻み込まれるほどの深い学びや気づきが得られる。
さらに、まちヨミでは、読書をする人の視点、読書会のファシリテーターの視点、まちのリーダーである議員や行政の人たちの視点、出版社や著者など出版業界の視点、これらの読書会を広く知らせてくれるメディアに従事する新聞社等の記者の視点、など様々に視点を切り替えることになり、本から得られる学びが幾重にも広がり、そこから得られる行動力も他の読書会に比べて遙かに強力になる。
そして、リーディングファシリテーターが、その何重もの視点をもって集まった人たちの創造性を引き出す場を作る。
まちヨミは一種の「プラットフォーム」であるが、それは一人で読書を消費する文化から、読書を通して地域に住む複数人が集まって創造性を発揮してアイデアを生み自己成長を楽しむという文化を作る可能性をもっている。
編集者の菅付雅信さんは「編集は、そこに含まれた言葉やイメージ単体を伝えるのではなく、ひとつにまとめる編集の形式そのものにメッセージ性があり、上手く操ればそのメッセージは飛躍的に受け手を触発できる。」(『はじめての編集』)と述べている。まさに、まちヨミとは、地域に住む「人」や「アイデア」など、すでにあるものを組み合わせて文脈を編集することで新たな価値を生む、創造性の高い「デザイン活動」である。

Ⅳ.結論と展望
地域の課題解決には、法律的知識や経営的観点が不可欠で、優れた文化やデザインがあるだけでは、住むに値する生活環境は実現しない。では、まちヨミというデザイン活動の可能性とは何か。
それは、参加者一人一人が、まちヨミに参加して、自分の中から湧き出たすばらしいアイデアをもって、日々の行動を変化させていくことで、まち全体をより良い方向へと活性化させていくという可能性である。
では、今後の展望はどうか。NPO法人グリーンバレー理事長の大南信也さんは、徳島県神山町で1999年から「アーティスト・イン・レジデンス」というアートプログラムを手がけている。スペインのビルバオでも同様の事例がある。両事例ともプログラムによって地域の魅力が生まれ、最終的には人材集積が起こっている。
まちヨミも同様で、続けていくことによって次第に社会をより良い方向に変革しようという想いを持った人材が集まっていく。「自分は何がしたいのか」や「自分は何ができるか」よりも、「出会った人たちと自分の間で何を実現できるか」を考える人材が集まる。開催地域以外からも人が訪れ、多様な人たちが混じり合うことで、まちにある新たな価値が発見され、まちはさらに活性化されていく。
最後に、まちヨミは現在では都市部に近い場所で多く行われているが、都市部は「無縁社会」などとも呼ばれ、地方から来ている人たちが多いことから、そのまちに対する思い入れがどうしても少なくなってしまう。よって、都市部で開催される読書会ではビジネスパーソン向けにして、思いを持った人がわずかでもその場に来たならば、その人はリーディングファシリテーターとなって、さらなる自己成長や人とのつながりを求めて、各地域に出向いていって「まちヨミ」を実施するというのが、今後のRead For Actionの「まちヨミ」のデザインだろう。

参考文献

前田勉『江戸の読書会』(平凡社選書232)平凡社 2012
菅付雅信『はじめての編集』アルテスパブリッシング 2012
外山滋比古『新エディターシップ』みすず書房 2009
松岡正剛『知の編集工学』朝日新聞出版 2009
「READ FOR ACTION」WEBサイト(ポータルサイト) 
http://www.read4action.com/ [2015.1.31確認]
『One Book, One Philadelphia 2013』の様子 
http://libwww.freelibrary.org/onebook/obop13/index.cfm [2015.1.31確認]