BUNACO
- 雪国が生み出すLe bois de hêtre et des artisans
はじめに
雪国青森県を代表するartisan(手工業)であるBUNACOがここまでに至る経緯と国内外で高評価を得るその素材を活かした美しくまた特徴的なフォルムはどの様にできあがるのか、躍進し続けるブナコ株式会社の地元と世界を繋ぐ好循環に注目するものである。
1、BUNACOとは
BUNACOを製作、販売しているブナコ株式会社の所在地は青森県弘前市である。BUNACOとはブナ材を薄く桂剥きにし、6ミリから12ミリ幅のテープ状に裁断。それを軸板に、バームクーヘン状に何重にも巻きつけたものを少しづつ押し出し、ずらし、変形させ、器やランプシェードなどにデザインしてゆくユニークな青森の手工業品である(註2・④&⑤ )。BUNACOという名称は材料であるブナ、コイル状に巻きつける製法、そして津軽弁で物に「○○こ」と語尾に「こ」を付ける事などから「ブナコ」と名付けられた。
2、BUNACOの足跡
ブナコは青森に群生するブナ材を有効活用するため、1956年に青森県工業試験場長、城倉氏と漆職人、石郷氏の共同研究により生み出された。その後、1963年に現社長、倉田昌直氏の父親がそこより特許を譲り受け、ブナコ漆器製造株式会社を設立した。また、同試験場に勤務していた望月氏によりモダンな形状に生まれ変わる。1980年に現社長、倉田氏が会社を引き継いだ時、大胆な製品のリニューアルに着手し、そこで考案されたのが今までに無いワインレッドカラーの漆器「あかねのうつわ」である。これは1982年の見本市に出品した所、注目されロングセラー商品となるが、この商品の売れ行きが伸び悩み始める。そこにランプシェード制作の依頼があり、この時よりBUNACOはインテリア事業及びランプシェード制作へと経営を大きく転換させる。この時ランプシェードのデザインを手がけたデザイナーにより2003年のギフトショーでBUNACO RED(註7)を発表する。このBUNACO REDは六本木ヒルズTORAYA CAFEの照明に採用されている。2007年には青森県初の地域資源活用プログラムの認定を受ける。この頃よりBUNACOは海外という市場を意識し始める。2008年、安積伸氏デザインによる「Yauatcha Tea Set」が英国Homes&Gardens Classic Design Award受賞、同作品は英国国立ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館永久収蔵品となる。(註3・⑥)。またパリのMaison et Objetに出展し、毎年展示ブースを出している(註4)。2013年には社名をブナコ株式会社と改める。2014年、リッツカールトン京都で照明が採用される。青森県津軽地方スターバックス3店舗(註5・①)と、ユナイテッド・シネマ豊洲での照明採用。同社はその間にグッドデザイン賞を2007年、2009年に受賞。2012年には県内初のグッドデザイン・ロングライフデザイン賞(註3・④)を受賞。更に県内多所にて照明が採用されている。2015年からはフランスにある工場に日本から輸出したランプシェードとフランス国内で生産した照明器具とを組み立てる委託契約を結んだ。そして2017年、日本でのランプシェード生産を本格化させるため本社がある弘前から少し離れた西目屋村に廃校を利用した工場を開設した。そこでは見学、製作体験、が出来る他、ブナコカフェが併設されている(註2・①、⑥&⑦)。またスタイリッシュなオリジナルスピーカーFaggio(註2・②&③)も見学、視聴できる展示ルームも設けている。
3、材質の弱点を克服。ブランディングデザインにより他に類を見ないスタイリッシュな形状に進化。
先にも述べた様に青森のブナ材を有効活用するために生み出されたBUNACOであるが、元々ブナ材は水分を多く含みそのまま使用するのが難しかった。そこで木材の繊維方向を一定に定位することにより資材の反りを防止出来る事を発見した。この方法がBUNACOの独特なフォルムへと繋がっていく。現在では乾燥技術もさらに発達し、当初に比べると材料の加工は容易になった。しかし、原材料であるブナ材を調達していた白神山地は世界遺産に登録され、そこからの調達が不可能になったため、青森県産に限らず、現在では近県からもブナ材は積極的に取り入れられている。
ブナコは工業試験場から技術を譲渡された当時はねぷた絵などを漆器に施していたが、2000年以降にデザイナーとのランプシェードのブランディングデザインによりそのイメージを一変させる。ブナ材は薄く桂剥きにしたものをランプにかざすとその部分はほんのり赤くなる特徴があった。これがBUNACO REDである。このランプシェードを採用したTORAYA CAFEでは各方面で話題となった。その後も同技術を使用したダストボックスやロングセラーのティッシュボックスなどがある(註3・②)。これらの作品には一貫してブレないスタイルが存在する。それは素材の持ち味を壊さず、独自の製法で造られる独特なフォルムである。工場見学で実際に目の当たりにしたが、このフォルムを形作る、巻き上げ・型上げと呼ばれる作業は(註1・2&3)力加減が非常に難しく、熟練の技術が必要である。しかし、この2つの工程でほぼBUNACOが形造られると言っても過言ではない。
この滑らからかな形状デザインをBUNACOの統一ブランディングデザインに据え、会社の方向性を変更した事はBUNACOを今日まで継続させる最大の理由である。
4、周縁アートから中心アートへ
青森県には様々な伝統工芸が存在する。中でも思いつくものに「津軽こぎん刺し」(註5・②)がある。こぎん刺しはBUNACOと比べその歴史は長い。明治維新後にはその伝統が一時衰退した事もあったが弘前こぎん研究所(註6)により伝統を絶やさぬ努力がされている。またBUNACO同様、海外や現代の様式に合わせようとアーティストによる現代風のこぎん刺しの作品が発表されたりしている。しかし、こぎん刺しには伝統工芸を維持しなければいけないという前提がある為、その様式に様々なルールが存在するが、BUNACOにはその枷が全くない。自由にその形状を変化できるBUNACOはスタイリッシュに現代の生活にさりげなく溶け込む事が可能なのである。またこぎん刺しの服に防寒機能を与えるという生活に必要不可欠であった伝統工芸から現代ではインテリア、雑貨に応用されるところはBUNACOの漆塗りの素地という存在から世界の名だたる表舞台への台頭は両工芸とも周縁アートから中心アートへと見事にその立ち位置を変化させた事に2つの工芸アートの共通項を垣間見る事ができる。
5、まとめに
今回の研究課題でBUNACOの作品や会社の姿勢というものを理解できた。現在のBUNACOの方向性はそのスタイルをModern Zenと位置付け、自社の製品または作品を一過性のものではなく、長期に渡り人々が愛用でき、またさりげなく日常の空間を彩る努力をしてゆくと提唱している。この姿勢こそがBUNACOが国内外で受け入れられる大きな理由であると考察する。なぜならインテリアとは空間を彩り、人に癒しを与えなくてはならないからである。しかしそれだけではない、そのブランドを受け入れてもらい、認知してもらうには「特徴」が不可欠となる。BUNACOはこれらのハードルを見事に乗り越え、素材や形状の「特徴」に注目した素晴らしい企業である。「ブナコの照明は、部屋を明るくするという同じ様な機能にもかかわらず、デザインや仕上がりの精度にしたがって(中略)価格幅が大きい。機能的な価値よりも意味的な価値が大半を占めているからこそ、付加価値が非常に高くなるのである。」(玉田、2016、p66)と、そのフォルムや特徴に重きを置いている事がわかる。これは、デザインはデザイナーに、作品製作は熟練の職人にというようにその分野のexpertiseに委ねるといった姿勢からも見てとれる。またそれだけではなく、去年、廃校を利用して開設されたBUNACO西目屋工場は地元に寄り添い、会社にもその土地にとっても好循環を生み出している事はBUNACOのみならず青森が誇るべきブランドと位置付ける事ができる。そして今後のBUNACOのInternationalな展開とその美しい芸術手工業の発展に注目していきたい。
- 註1)BUNACO製作工程・西目屋工場にて 筆者撮影・2017/11/24
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註2)西目屋工場内部 筆者撮影・2017/11/24
① 廃校をリノベーションして工場として使用
②&③ BUNACOオリジナルスピーカーFaggio
④&⑤ 型上げ作業で形作られたBUNACO。直線的な形や丸みを帯びた形、またアシンメトリーにさせる事も可能。職人の為せる技。
⑥ 工実際にBUNACOを製作体験できるスペース。製作したBUNACOの器は仕上げをしてもらい、後日配送してもらえる。
⑦ 工場内に併設されたカフェ。素敵なBUNACOのランプシェードの下でお茶を頂ける。 -
註3)BUNACOショールームBLESS 筆者撮影・2017/11/24
① ショールームBLESSにて購入可能なBUNACOのペンダントランプ。
② ロングセラー作品・ティッシュボックス、SWING。2009年グッドデザイン賞。
③ TRAIN SUITE四季島 搭載商品 PLATE#143
④ 浅はち・2012年グッドデザイン・ロングライフデザイン賞。
⑤ ブラケットランプ・BL-B493 2005年あおもり産業デザイン賞・大賞受賞。(左上)
⑥ 安積伸氏デザインYauatcha Tea Set・英国Homes&Gardens Classic Design Award受賞・英国国立ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館永久収蔵品
⑦ 白色有機ELを使用した、星野リゾート青森屋オリジナルランプ -
註4)Maison et Objet Newspaper 2017 BUNACOショールームBLESS資料提供協力・2017/11/24
2017年に開催されたMaison et ObjetでのBUNACOブースと作品の広告 -
註5)BUNACOとKOGIN 筆者撮影・2017/11/24
スターバックス弘前城公園前店内
① BUNACOの美しい照明。
② 津軽こぎん刺しが施された座席。
(非公開) - 註6)弘前こぎん研究所 筆者撮影・2016/10/14
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註7)BUNACOショールームBLESS資料提供協力・2017/12/20
ブナ材のランプシェードからほのかに溢れる赤い色(BUNACO RED)
参考文献
地域発イノベーション事例調査研究プロジェクト(2016)『地域発イノベーションV・東北から世界への挑戦』
(玉田尊英)株式会社南北社
BUNACOホームページ
http://www.bunaco.co.jp
(2017 11月1日アクセス)
BUNACO西目屋工場・櫻庭真紀子氏
工場内とBUNACO工程説明協力・写真撮影許可
(2017 11月24日)
BUNACOショールームBLESS・舘山乃奈氏
BUNACO商品説明・資料提供・写真撮影許可
(2017 11月24日)
スターバックス弘前城公園前店
写真撮影許可
(2017 11月24日)
弘前こぎん研究所
筆者撮影写真使用許可
(2017 12月26日)
下池康一(2017)『青森の暮らし2017・411月号 木のハナシ』
(有限会社グラフ青森) 凸版メディア株式会社