神話から心和へ『熱田1900年』
「熱田神宮」の所在地は名古屋市熱田区神宮一丁目一番一号である。
熱田神宮は西暦113年に創建された。熱田神宮の創祀は、三種の神器の一つ草薙神剣(くさなぎのみつるぎ)の御鎮座に始まり、伊勢の神宮につぐ格別に尊いお宮として篤い崇敬をあつめ、国家鎮護の神宮として、「熱田さま」「宮」と呼ばれ親しまれてきた。
規模は様々な比較があるが面積は約19万万㎡である。伊勢神宮内宮だけで93万㎡とあり面積はその5分の一程。「初詣の参拝者」で言えば2017年推測230万人が全国から訪れ日本で10位に入るほどの人気だ。しかし初詣のほか七五三などでは賑わうが普段は観光客や地元の人の参拝客の人数は少なく静かである。空襲で焼失したことを境に参りの参拝の習慣がなくなり人の流れや賑わいは減っているという課題がある。
『熱田1900年事業』について
1.「宮宿会」※1
2.NPO法人「熱田ライオンズクラブ」
3.名古屋市と熱田区の行政
4.熱田神宮
を中心に熱田神宮創建1900年を記念して、熱田の発展を目的とした事業である。
※1 2014年4月に発足。名古屋・熱田の食の老舗(あつた蓬莱軒・宮きしめん・きよめ餅・亀屋芳広・妙香園)や大学(名古屋学院大学)、地域NPO(堀川まちネット)が参加
「熱田区の特徴」
歴史や目的のある施設が名古屋市の他の区と比べて多い。「熱田神宮」の他に江戸時代の東海道五十三次の宮宿であり、唯一海路でつないだ「七里の渡し」や徳川家康が作った「堀川」があり、1984年の名古屋デザイン博から造園し文化の継承を目的とした「白鳥庭園」や名古屋の食の流通の「日比野中央市場」。そして、宿があったことから名古屋の「代表食」となる、うなぎの「熱田蓬莱軒」「宮きしめん」など江戸時代からの老舗飲食店の本店がある。
このような特徴があり「熱田1900年事業」は熱田神宮の歴史でもあるが、熱田神宮だけではなく、そのほかの施設、歴史を交えて、地域の人々を巻き込み、協力し合って、名古屋の中心、大きく言えば日本の中心である熱田区の魅力を発信し地域活性につなげたいという目的がある。
私は「イベント」「伝統」、「人やグループでのデザイン活動」の視点から見て、「熱田1900年事業」の活動を調査報告し、評価したいと考える。
「イベントの視点」から
「あつた宮宿会」を中心に1年以上かけ「朔日市」の定例化が決定した。参拝の習慣がなくなり人の流れや賑わいが減っていることを課題に始めた活動である。毎月1日に市を出すことで、現在では近隣のショッピングモールからの無料シャトルバスも出ている。2017年10月の朔日市の水野教授のブログ(註1)のコメント「今日の熱田神宮の参拝者は2万人あったのではないかと思われます。朔日市過去最高の人出でした!」このことからも開催を重ねるごとに、朔日市の認知度は広まり、活動によって熱田の魅力を知る人、イベントに参加して楽しかったと思う人、そして続けてほしいと応援する人は増えていることが分かる。
また、毎年秋には、熱田区内で様々なイベントが行われている。
宮の渡し公園・白鳥庭園・日比野場外市場など、5つの会場でマルシェやステージを開催し、特に景観の優れた場所を利用することで紹介する意味もある。
運営はフォーラム・シンポジウムを毎月開催し、熱田に対しての還元をミッションと捉え、活動報告や検証を行っている。イベントだけでなく地域のコミュニティ単位で講演を開催して熱田に関わる歴史の絵本や紙芝居、カルタを作って子供たちに交流の場を作り次世代にも歴史をつなげる工夫をしている。このように定期的に集まる時間を作り、継続が必要なものは宮宿会が役割を担っていることが分かる。
「伝統を伝える視点」
2015年には熱田区が企画し、熱田ライオンズクラブが制作したドキュメンタリー映画「 熱田物語 ~神話から心和へ~」が作られた。1900年の熱田の歴史と伝統をホームページで紹介するには理解しにくく難しい部分もあるという問題点をわかりやすく伝えているだけではなく熱田をもう一度盛り上げようとしている様々な活動をインタビューで取り上げている。名古屋市の図書館で誰でも借りることができる。
「ブランド化、デザインの視点」
2017年7月には熱田区が名古屋学院大学と協働して、“熱田という地域そのものを熱田ブランドにしようという概念での「キーフレーズ」と「ロゴ」が決定した。ロゴは以下参照。
同年11月には名古屋市民の「広報名古屋」という行政新聞(註2)で、市長の河村たかし氏のコメント「あつたさん1900年。名古屋人でもりあげみゃあ!」とともに、「熱田宮宿会」のイベントなどが紹介されている。この事例からは事柄をデザインすることによって、ロゴを見るだけで、日本人でなくても何か伝わる。このロゴのを老舗和菓子の商品にスタンプをされているものもある。また、日本人には分かりやすく伝わる。そして、かかわる人々の想いが一つの方向を向けるという工夫がされている。発信は名古屋市、熱田区などの行政が役割を担っておりより多くの人に認知される仕組みだ。(ちなみに右のデザインは熱田区だけで考えたものであり、デザインを比較してみても学生参加の魅力が分かる)
このようなロゴだけでなく9月には「熱田宮宿会」のホームページも一新している。
http://atsuta-miyashuku.com/を見ても分かるように
斬新に『熱田を世界に広めたい。熱田は深く面白い。』『「あつた」をより魅力的に、またその魅力をしっかりと伝えていきたい。』という熱いメッセージとともに「あつた」は名古屋、愛知、日本だけでなく世界にも誇れる場所という気持ちを感じることが出来る。
「人やグループデザインの視点」
また、熱田宮宿会総会2017:まちづくり活動記録(名古屋学院大学水野)のホームページhttp://milepost.exblog.jp/26831518/によると総会は名古屋学院大学名古屋キャンパスの場を活用して行われている。運営に携わる名古屋学院大学の水野教授の2016年ブログ(註1)ではイベントには「学生が過去最大の6団体100名強も参加した」とあり、宮宿会の会員の学生の参加数も増えていることが分かる。
熱田199年事業の特徴として特に学生の協力は大きい。熱い思いと斬新なデザインや発想。SNSの活用などコミュニティ―の広がりと市民目線でものが見えるというのが特徴的だ。また、名古屋学院大学地域連携事業(名古屋学院大学みつばちプロジェクト等)もあり、相互に連携している事で、大学にとっても学生の活躍の場を提供してもらっているという図式があるのが他のプロジェクトとは違った特徴でもある。
「まとめ」
熱田1900年事業は上記のように「熱田神宮」「老舗メーカー」、「行政」「学生」、「市民」、の4つが相互に連携しており、確かな想いと意見を交換でき、実現できるデザインがある。
「今後の展望について」
私は実際に熱田神宮、白鳥庭園、日比野秋祭り、七里の渡しに行き熱田の歴史や食文化、景観に触れてきた。歴史的なものと人工的なものとの融合に魅力を感じる素晴らしい街だと考える。とはいえ、現在は神宮駅前のビルは空き店舗も目立つ。日ごろ人でにぎわっているわけではない。宿泊施設を増やせば観光客も増えるのではないか。トリバコなどの比較サイトで調べても名古屋駅がある中村区や繁華街の中区はそれぞれ20から30件以上の宿泊施設があるが熱田区にはほとんどない。神宮駅があり、名古屋駅へは2駅。中部国際空港からの特急電車も停まり交通の便はとても良い立地だ。一度は宿場町として栄えた町である。経済効果も見込めるので行政は助成をする。それに伴いレンタルサイクル店、日比野市場を観光用に整える、景観の素晴らしい白鳥庭園でお茶会など観光コースなども作る。老舗店舗の紹介や和菓子つくり体験などあっても面白い。
熱田事業の特徴である学生が具体的に動く。大学で地域の連携事業を学ぶとともに具体的な経済学を学び、卒業後に名古屋でそれを仕事にする。情熱を傾けた学生であるからこそ熱田の魅力を発信することが出来る。雇用の増加にもなる。大学の就職率も上がり、入学したい学生も増える。本格的に動き出せば、熱田区も観光地として日本全国、世界から人を呼び寄せることができる。町全体を文化遺産として京都や伊勢神宮、浅草のように世界に誇れる熱田になることも可能だと私は考える。今までの活動を記念行事で終わらせるのではなく、この連携を活用することでよい循環になるのはあと一歩ではないだろうか。
参考文献
■註
(1)名古屋学院大学ミツバチプロジェクト http://milepost.exblog.jp/24835753/ 2018/01/18
(2)広報名古屋「熱田区魅力発信市長インタビュー」平成29年11月号NO839 1面2面
■参考文献
初詣人でランキング https://sp.jorudan.co.jp/newyear/rank_visitor.html 2018/01//06
熱田神宮ホームページ www.atsutajingu.or.jp/jingu/ 2017/10/03
熱田宮宿会 http://atsuta-miyashuku.com/ 2017/10/25
名古屋熱田ライオンズクラブ『熱田物語』~神話から心和へ~ 2015年