UR多摩平の森団地の景観形成と周辺地域について

野中 洋志

UR多摩平の森団地の景観形成と周辺地域について

東京都日野市に独立行政法人都市再生機構(以下UR)の団地がある。

この団地は、30棟あまりの1500戸で構成され、面積は東京ドーム2個分程度である。棟の間隔は広くとられ、緑が多く植えられた団地となっている。

この団地の景観形成の経緯と、この団地の敷地内にある「多摩平の森」を中心とした周辺地域について記述する。

この地域は大正時代には宮内省帝室林野局林業試験場「日野苗圃」という御料林だった場所である。その跡地として昭和30年ごろから250棟、2800戸程度の「多摩平団地」が建設され、東京ドーム6個分以上の敷地に1万人程度が暮らしていた。平成9年から建て替えが進んで、今の「多摩平の森団地」となった。
「多摩平の森団地」の優れた景観は、この建て替えの際に行われた団地居住者とURおよび日野市の3者勉強会の成果である。

この3者が納得するまで118回も行われた協議の結果として、「緑の継承と育成」をテーマにした団地の景観が形成されている。
緑を優先した団地設計となり、木を残して棟をずらす・木を残すために道を曲げる、共同花壇の設置、そして御料林の頃から残る自然公園を「多摩平の森」として保全する取り組みが行われた。
添付写真「多摩平の森 入り口」(capture_mori.jpg)

この3者協議と団地設計はURの「都市デザインサイト」でも紹介され、URとしても代表する事例のひとつとなっている。
3者勉強会や、木を残すことを優先した団地の設計を行うことは「多摩平方式」と呼ばれるほど画期的な取り組みで、この取り組みはUR内だけでなく、他の住宅建築の際の参考事例となるとともに、国際的な「環境・景観の保全・創造による住みよいまちづくり」の賞であるリブコムアワードにて、2008年に環境配慮型プロジェクト部門の銀賞を受賞している。これは、このプロジェクト賞部門での受賞は日本で初めてとなる。

また国内でも、この活動に対して公益財団法人都市緑化機構が主催した平成17年「第25回緑の都市賞」にて都市緑化基金会長賞を受賞している。
「多摩平の森」も同団体主催の平成22年の「生物多様性保護につながる企業のみどり100選」に選ばれ、国土交通省の「企業のみどりの保全・創出に関する取り組み」の優良事例として紹介されている。

また、これと並行して「緑のワークショップ」が開催され、団地居住者、日野市、UR職員、コンサルタント、周辺住民の参加による緑環境をテーマに絞った検討会が、延べ1185人の参加により34回にわたって行われた。ワークショップは毎回「緑の思いを語る会」「新たな森を提案する会」など、個別のテーマが与えられ、それぞれの立場でさまざまな意見交換を行うとともに、森の土づくりなどの体験も交えて開催された。市を巻き込んで、過去の土地の経緯や当時の住民の想いが反映された結果として、御料林であったことを強く意識させる緑の多い景観が形成されている。元の住民の意見を取り入れた成果は、団地建て替えの際の戻り入居率が7割を超えることにも表れている。

(参考資料)UR都市デザイン「多摩平の森」
http://www.ur-net.go.jp/urbandesign/project/tamadaira.pdf

URの管理地はさらに広く、今の団地以外にも東京ドーム4個分程度の用地がある。当初は元の「多摩平団地」と同程度以上の 4400戸を計画していたが、1500戸にとどまったため、残りの土地は空き地となった。
日野市全体は、近年の日野自動車本社工場移転(本社機能は残る予定)、東芝工場撤退などで活力が失われつつある。日野市は市の再興としてURと協力し、この空き地の有効利用に注力している。
団地の建て替えは、日野市が掲げる『まちづくり条例(第38条)に基づく「まちづくり重点地区」として指定し、開発にともない積極的な緑化誘導を図る』に基づくもので、「緑の継承」や「シニアライフの支援」「子育て環境の整備」をテーマに、まだこれからも発展していく計画のものとなっている。
この長期的な計画に基づき、イオンモールの誘致や新しい分譲マンションの建築などが行われている。
すでにイオンモールは完成しているが、まだ街並みが大きく変化していく途中にあり、しばらくはこの計画による変化が続く街である。

譲渡・貸与等で整理が進んでいるが、管理地内にはまだ大きな空き地が2箇所残っている状態である。それぞれ「A街区」と「K街区」という区画の名前がついている。
A街区は4.5haの面積(東京ドーム1個分程度)があり、市立病院と近接している。一部の土地が残るが、養護・リハビリ・子育ての複合施設になることが決まっていて、2016年後半に建設が始まった。この複合施設も市の進める計画に沿って進められ、高齢者を対象にした施設を中心に、幅広い年代が利用できる施設となる。
添付写真「A街区 複合施設建設の様子」(capture_A.jpg)

「K街区」は3.4haの面積があり、こちらは「多摩平の森」に隣接している。人口(需要)増加を見込んだ用地確保のまま空き地となっていたが、2016年末に譲渡と貸与となることが決まった。まだ公募の段階だが、譲渡部分は高層住宅用に、貸与の部分は市へ保育園を建設する土地として計画が動き出したところである。
添付写真「K街区 現在の様子」(capture_K.jpg)

先ほどの取り組みの結果の一つとして団地の名前も「多摩平団地」から「多摩平の森団地」(UR多摩平の森)に変わり、「多摩平の森」を中心とした団地となった。
すでに完成しているイオンモールおよびマンションもそれぞれに、多摩平の森および緑に対する取り組みが意識されている。
イオンモールの名前は「イオンモール多摩平の森」である。ここの地名としては日野市の豊田もしくは多摩平ではあるが、あえて多摩平の森としている。屋上にはビオトープが設けられ、緑と生態系に対する配慮が行われている。
添付写真「イオンモール ビオトープ案内看板」(capture_aeon.jpg)

マンションについても名前は「クレヴィア豊田多摩平の森RESIDENCE」であり、入り口には「多摩平の森の歴史」が掲げられている。多摩平の森団地で行われるイベントに、ここの住民および管理会社も参加・協賛することも多く、良い関係が構築できている。また、駅からA街区および市立病院までの途中にあり、道路に面する1階部分はクリニックステーションとなっていて、4種類のクリニックが開業していて高齢化の進む地域への安心を提供している。
添付写真「多摩平の森の歴史 紹介看板」(capture_cre.jpg)

元の住民との協議の結果によって作られた「多摩平の森」が中心となり、多摩平の森という名前が単なる公園もしくは団地を示す名前というだけでなく、この地域を示す地名として、また緑を守る設計とともに広がり、定着し始めている。

今後も、K街区については多摩平の森に隣接していることもあり、またK街区を挟んで多摩平の森の反対側には黒川清流公園があるため、多摩平の森と黒川清流公園の緑が繋がる場所として、今以上に「多摩平の森」の名前を広げる緑豊かな施設になることが期待される。

このK街区の整理を持って、この地域でURが管理しているほとんどの土地が整理されることになり、今まで日野市とURが進めてきた計画は、ひと段落することになる。
URは企業とはいえ独立行政法人であり、国土交通省が所管している団体のため、まったくの民間とはいえない。
今後は、民間企業が街の発展に寄与できるかどうかが鍵になってくると考えられる。
多摩平の森を中心として、緑豊かで住みやすい地域として認知されることにより、URの管理地だけでなく、UR近隣と駅周辺を中心とした街並みが発展し、さらに次代へと引きつがれる、昭和30年代の高度経済成長期とは違った、現代ならではの多摩平の森と緑豊かな地域、子育てしやすい街・高連射が安心して暮らせる街として形成されることになる。

  • capture_a 「A街区 複合施設建設の様子」
  • capture_k 「K街区 現在の様子」
  • capture_aeon 「イオンモール ビオトープ案内看板」
  • capture_mori 「多摩平の森 入り口」
  • capture_cre 「多摩平の森の歴史 紹介看板」

参考文献