装身具変遷を記憶に留める『アクセサリーミュージアム』の存在

宮内 裕文

はじめに
「装身具」は人が身を飾り装うための道具で、首飾り・腕飾り・耳飾り・髪飾りがある。日本の「装身具」は縄文時代に始まり、魔除け・護身といった呪術的な意味を持ち、社会的立場を示すために用いられてきた(1)。しかし、現代社会にあてはめてみると欧米ファッションの流入により装身具は単純な装飾品として利用されることが多くなり、昭和から平成・令和までの100年間での装身具の変遷は目を見張るものがある(2)。東京目黒にあるアクセサリーミュージアムは私設美術館で、開国以降目まぐるしく変わっていった現代の装身具(コスチュームジュエリー)を一同に集めた日本唯一のミュージアムである。私はこの「アクセサリーミュージアム」を評価し、文化資産として報告する。また「装身具」文化特性についても合わせて考察する。

1. 基本データと歴史的背景
1-1.基本データ
・名称:アクセサリーミュージアム
・設立年:2010年
・創設者:田中美晴、田中元子(館長)
・所在地:東京都目黒区上目黒4丁目33番12号
・展示物:コスチュームジュエリー(金やプラチナといった貴金属ではない素材でつくられたジュエリー)
常設展は1830~2000年代の田中美晴氏・元子氏によるコレクション5万点から2千点余り展示。企画展はアクセサリー・ジュエリーを主体に様々なテーマを設け、当時のファッショントレンドや世相を反映させた企画展を随時開催する。展示の他にアクセサリー教室(ジュエリー製作の指導)やファッション専門学校学生へのセミナーも開催。
・来館者:6,000~8,000人/年

1-2.歴史的背景
館長の田中元子氏は、父である田中健蔵氏が興したアクセサリー(装身具)の製造卸問屋(東洋産業商会)に1960年入社し商品企画やデザインを担当するとともに世界各地のアクセサリーを収集した。東洋産業商会退社後、コスチュームジュエリーの将来への技術の伝承とその変遷を記録としてとどめるべくアクセサリーミュージアムを設立。

2.事例のどんな点について積極的に評価しているのか。
アクセサリーミュージアムは「コスチュームジュエリー」を専門に扱った日本唯一のミュージアムである。「コスチュームジュエリー」は金やダイヤのように素材自体に価値がある宝飾品と違い、流行とともに生まれ、流行が終われば消える運命にある。世相や流行をいちはやく反映するものである(3)。」当ミュージアムの創設者で館長である田中元子氏は「ファッショントレンドはいつの時代も世相を映し人々の「希望」の姿でもあった。アクセサリーはそうしたファッションの傍らに常にあり、人々を飾り引き立て、時にはファッションを凌駕する存在感を主張してきた。非常に流動性が高いファッショントレンドの中にあって、装身具はことさら潔くその場を立ち去っていく。その動きの中多くの技法や繊細な手仕事、素材などを失ってしまう結果となった(4)。」と述べている。
コスチュームジュエリーは、ともすれば時代時代に完全消費され振り返ることさえ必要とされないものなのかもしれない。身に着けることで十分なものであり鑑賞するものではない性質をもつものなのかもしれない。「コスチュームジュエリー」を販売するジュエリーショップは多いが美術館は少ない。そんななか「アクセサリーミュージアム」がある意味“刹那”ともいえる「コスチュームジュエリー」をアート作品として取り上げ、未来へ継承させていこうとする姿勢を私は評価する。
江戸から大正の時代にかけては、櫛、笄(こうがい)、簪(かんざし)といった頭髪用の装身具が主で、「コスチュームジュエリー」の登場は戦後1955年頃からである。アメリカ文化の影響が大きく、その歴史はまだ浅い(5)。近年、やっと数十年の歴史を経た数々の「コスチュームジュエリー」がビンテージ品として価値を高め、アート作品としても注目されるようになってきたのは必然である。実際に2020年”ガブリエル・シャネル展(三菱一号館美術館)”と”マリー・クワント展(Bunkamuraザ・ミュージアム)”が、2021年”イヴ・サン・ローラン展(国立新美術館)”、2022年”クリスチャン・ディオール展(東京都現代美術館)”、2023年”コスチュームジュエリー・美の変革者たち展(パナソニック汐留美術館)”と、次々とコスチュームジュエリー展が開催され、近年人気を博している。

3.事例で何が特筆されるのか
「コスチュームジュエリー」を常設展示するミュージアムが非常に少ないのは「変遷」×「蒐集」×「歴史」の要因によるものだといえる。「変遷」は装身具のもつファッション性(移り変わり)である。開国後150年の変遷は特に著しい。西洋文化流入による洋装化、パリのクチュールスタイルやアメリカンスタイルの流入、そして近年の「シャネル」「ブルガリ」「カルティエ」「エルメス」といった高級ブランドの時代とめまぐるしい。この“刹那”ともいえるファッションの特質が作品の保存を困難にしている。したがって「蒐集」も容易ではない。「アクセサリーミュージアム」の展示品は、創設者田中夫妻が装身具製造卸問屋を経営していたこともあり、その必要性から数多くのコレクションを蒐集することができた。パナソニック汐留美術館で開催されたコスチュームジュエリー展の作品もコスチュームジュエリー研究家の小瀧千佐子氏が、自身のヴィンテージショップ運営のなかでコレクションできたものだ。いずれも自身の仕事を通じて蒐集を可能とした。また企画展シャネル、イブ・サン・ローラン、クリスチャン・ディオールのコレクションもそれぞれのメゾン(ブランド)の所有物であり展示品でない。ファッション消耗品であるがゆえその蒐集は容易いものではない。「歴史」について、装身具の歴史自体は縄文時代からでとても古いものではあるが、「コスチュームジュエリー」は戦後の始まりでその歴史は浅い。展覧会などでのアート芸術作品として認められてきたのは近年のことである。「コスチュームジュエリー」はこれから様々に新しい作品(商品)が生まれその様式も変化していくであろう。そして50~100年後、それら芸術性高い作品が歴史とともに、今は見過ごされているかもしれないが、その価値が再認識されていくにちがいない。まだ歴史浅い装身具(コスチュームジュエリー)に特化した『アクセサリーミュージアム』の存在は貴重である。

4.今後の展望について
副館長の小犬丸伸子氏に、施設運営での苦労している点をお伺いすることができた。それはリソース不足(ヒト・モノ・コスト)にある。「ヒト」はコスチュームジュエリーに精通したスタッフの不足である。ガイドツアーやアクセサリー教室を行うための知識技術を擁する人材は多くない。「モノ」は先述したコレクション蒐集の難しさである。消耗品であるがゆえ、広く一般からの寄贈も不可欠となる。「コスト」は運営費である。私設の「アクセサリーミュージアム」は自費による運営で国や自治体からの助成・補助金はない。当該施設の維持・運営はコスト面でも容易なものではない。一方、昨今の「コスチュームジュエリー」の人気は目を見張るものがあり、アートとして鑑賞したいと思う人が増加している。実際に各地で開催されたコスチュームジュエリー企画展では多くの集客をしており、美しいものを求める気持ちは永遠なのだということを実感させられる。
文化庁は「博物館は文化をつなぐミュージアムとして、多角的視点から物事を志向する場であり、過去・現在・未来を客観的・理論的に考え、確認する場である(6)。」としている。「アクセサリーミュージアム」は、これから歴史を紡ぐことで「コスチュームジュエリー」を通しその意義を達成していくことができるのである。

5.まとめ
「装身具」は時代と流行に沿って次から次へと変遷していく。そしてその一部でもある「コスチュームジュエリー」は今後数十年の間にその姿や形も大きく変わっていく。多くの人々を魅了するポップなアートであるが、芸術品としては発展途上である。今後、時を経て、その歴史がさらに刻まれることで、芸術品としての価値を持ち、文化的資産としても認められるものになっていくに違いない。そのとき、「アクセサリーミュージアム」の存在価値や意義はさらに評価されるものになるであろう。

参考文献

註(1)国立歴史民俗博物館編、『男も女も装身具、江戸から明治の技とデザイン』、2002年、7P。
註(2)田中元子著、『日本のコスチュームジュエリー史1950~2000』、繊研新聞社、2023年、68P
註(3)日本経済新聞朝刊(2023年11月26日付)The STYLE、18面。
註(4)アクセサリーミュージアムHP~当館について~ https://acce-museum.main.jp/about/
註(5) 関昭郎編、『日本ジュエリー100年』、美術出版社、2005年、25P。
註(6) 文化庁HP資料「博物館法制度の今後の在り方について」
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/hakubutsukan/hakubutsukan03/03/pdf/93626501_01.pdf



参考文献
野村朋弘編『伝統を読みなおす4 文化を編集するまなざし ―蒐集、展示、制作の歴史』、藝術学舎、2014年
田中元子著、『日本のコスチュームジュエリー史1950~2000』、繊研新聞社、2023年
小瀧千佐子著、『コスチュームジュエリー、美の改革者たち』、世界文化社、2023年
関昭郎編、『日本ジュエリー100年』、美術出版社、2004年
国立歴史民俗博物館編、『男も女も装身具、江戸から明治の技とデザイン』、2002年
湯原公弘編、『別冊太陽、コスチュームジュエリー』、平凡社、2007年
長崎巌編、『日本の美術、女の装身具』、至文堂、1999年
露木宏編・著、『日本装身具史、ジュエリーとアクセサリーの歩み』、美術出版社、2008年

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