羽田空港、保税アートオークション-日本のアート市場の活性化について-

齋藤 保則

0、はじめに
2020年コロナ禍により人々の移動が制限され世界的な規模の航空規制が行われた。国内や海外での空港利用者は減少し、航空事業は減収と減益に見舞われる。その中で羽田空港は非航空事業の取り組みとして保税アートオークションを開催した。羽田空港の新たな取組みの催しを下記にまとめる。
1、保税アートオークション概要
United Asian Auctioneers
『Shinwa Auction×LARASATI×iART auction×ISE COLLECTION オークション』
保税アートオークションとは、2020年12月1日付および2021年2月26日付関税法基本通達一部改正により、保税蔵置場(外国貨物の積卸し、運搬、蔵置などの行為をする場所)で実施が可能となったアートオークションのことである。2021年10月に羽田空港で日本初の保税アートオークションが開催され、次いで2022年3月30日に下記の内容にて開催された。
2-1、基本データ
場所: 〒144-0041 東京都大田区羽田空港 3丁目 3−2 第 1 ターミナルビル 6F
羽田空港第 1 ターミナルビル6F ギャラクシーホール
会場面積:370㎡、天井高さ3.5m
開催日時: 2022年3月30日(水)14:00~20:00
参加方法:対面、電話、オンライン
入場者数:約300人
出品数: 356作品 (NFT作品3品)
落札率:82.01%
落札金額:3,145,720,000円
出  展:United Asian Auctioneers
(主導)Shinwa Auction株式会社
(参画)Larasati auctioneers、iART auction、Asian Art Auction Alliance
運営:日本空港ビルデング株式会社 株式会社羽田未来総合研究所
2-2、歴史的背景
□羽田空港と保税アートオークションが開催されるまでの流れ
羽田空港は1931年8月に国営民間航空専用空港「東京飛行場」から始まる。終戦後、進駐軍に撤収された「ハネダエアベース」になるが、1952年から徐々に返還がはじまる。
その後、東京国際空港として生まれ変わる。保税アートオークションは関係者の日本を世界的なアート市場にしたいとの思いからスタートした。〔資料2,3参照〕その為には保税制度を利用したアートオークションが必要であると判断し、その後、規制緩和等により関税法の基本通達が一部改正された。また保税アートオークションの開催場所である羽田空港では免税事業を60年にわたり継続しており、その実績と信頼から国からの許認可を得て保税アートオークションの開催となった。
□オークションの歴史
インターネットサイト語源由来辞典https://gogen-yurai.jp/auction/2024年1月20日、『オークションとは競売の事であり、オークションの語源はラテン語で「aucutio」と言われている。オークションの始まりは紀元前500年バビロニアで開催された男性が妻を得るための競りだと歴史家のヘドロスの文献で述べている。』以下インターネットサイト語源由来辞典2024年1月20日引用。一般的には購入希望者がオークションにかけられた物品を巡り、複数の購入希望者から競り落とす形式である。また美術品以外でも不動産、生鮮食品なども取り扱うオークションがあり、多種多様な形式である。美術品のオークションの歴史は17世紀頃から始まり、18世紀には現在でも有名なオークション会社のサザビーズ社やクリスティーズ社が設立された。現在では世界各国で美術品オークションが行われ小規模から大規模なものまであり、インターネットの普及とともに多種多様なオークションが開催されている。
3,事例のどんな点について積極的に評価しているのか
3-1 保税地域 規制緩和
2020年12月1日付および2021年2月26日付関税法基本通達一部改正により、保税地域を使用したアートオークションの開催可能となった。※〔資料4〕参照
保税地域とは外国貨物などが置かれ展示可能な場所であり、関税や消費税が留保される場所である。よって保税エリアでアートオークション開催され、落札または販売された作品は日本国内に引き取られる場合は外国貨物として扱い輸入手続きを行い関税及び内国消費税が課される。しかし外国へ送られる場合は、輸入手続きが必要なく関税の納付義務はない。
保税蔵置場とは外国貨物が置ける場所であり、今回の通達改正により国際的なオークションを開催することが可能となった場所である。保税展示場とは外国貨物を展示できる会場で国際的なアートフェアを開催できる場所である。
3-2 NFTとアート
NFTとは「Non-Fungible-Token」の略で代替不可能なトークンという意味である。仮装通貨でも使用しているブロックチェーン技術を利用し、複数のデジタルデータから特定のデジタルデータを識別することができる。このブロックチェーン技術はデータの改ざんが出来ない仕組みを構築し、デジタルデータの保護と資産価値を高める事を実現可能とした。今までのデジタルアートはコピーが容易にできてしまうため、本物か贋作かの区別ができずに資産価値が低かった。しかしNFTアートはブロックチェーンの技術によりデータの改ざんを不可能にして、デジタルアート作品が本物であると証明することを可能にした。このような技術により現物の絵画と同等とみなし価値をつけることができる。Marketα、https://www.caica.jp/media/crypto/nft-art-about/(2024年1月20日)によれば,「NFTアートの特徴は3つに分類できる」『NFTアートの特徴は3つに分類できる。1つ目はアート作品が公平で簡単に取引可能と言う事である。これまでのアート作品の取引は知名度の高い作品しか出品できないなど閉鎖性が高かった。だがNFTアートはプラットフォーム取引を利用すれば気軽に誰でも取引が可能となる。2つ目は作品の出品者に適切な収入が入る事である。
今まではアート作品を出品すると取引が成立した場合、出品者は仲介業者に手数料を支払っていた。だがNFTアートは仲介業者の手数料を支払わなくても、プラットフォーム上で直接取引が可能とした。よって作者や出品者にとっても適正な報酬を得ることができる。
3つめは投資として対象となる事である。』Marketα(2024年1月20日)以下引用
4, 国内外の他の同様の事例と比較して何が特筆されるのか
文化審議会文化政策部会の報告書によれば,https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/bunka_keizai/art_working/01/pdf/93711901_01.pdf最終ログイン2024,1/27※別途資料P7参照『日本のアートオークションの現状は2019年世界のアート市場は7兆円程度と言われ、日本のアート市場は2580億円程度で世界の取引比率では3.6%程度と言われている。世界経済の規模からすると日本のアート市場はまだまだ低い。また日本のアート市場の割合はギャラリーや画廊と百貨店の販売が半数を占めており、オークション販売の割合は5%程度に留まっている。世界の富裕層の占める割合から見ても日本のアート市場は小さいと言われている。』文化審議会文化政策部会の報告書、以下引用
上記のような統計から日本のアートを取り巻く環境はアートが生活の一部として定着していないと言える。日本のアート市場で行われた羽田空港保税アートオークションは通常のオークションとは違い、海外からの作品の課税が留保され羽田空港の保税蔵置場を使い海外から出品されている。また出品作品も356作品と豊富であることから新しいアートプラットフォームとして評価できる。あと保税アートオークションの落札金額は今までの日本で行われたオークション規模とは比較できないほど高額であり、日本のアート市場の一端を担っている。
5,今後の展望と課題について
株式会社羽田未来総合研究所の川邉徹也専務取締役執行役員にインタビュー調査を行った所、今後の開催は未定との事であった。そこで次回開催以降の課題となってくるのが三点ほどある。一点目は良質なアート収集し、出品する事である。また良質な作品を集めるには日本の保税アートオークションを継続的に開催して世界的に認知させる必要がある。二点目が文化庁の調べた調査だと日本のアート市場は世界的に見て小さいと言える。日本のアート市場を活性化するためにはアートを一般市民にも浸透させる必要がある。市民が日常的にアートを楽しむ事ができれば市場が拡大する一つの要因となる。三点目はNFTアートの出品が少ない事である。今回の保税アートオークションの出品をみてもわかるように356作品中3点ほどであった。NFTアートの認知度をあげるには出品を増やし、併せてNFTアートの活用イメージを購買者に伝えることが重要である。以上の三点を加味した、次回の保税アートオークション開催に期待したい。

  • 2022年3月30日(水)羽田空港にて第1ターミナルで行わた保税アートオークション
    (非公開)
  • 資料1 〔資料1〕2022年3月30日(水)羽田空港にて行われた保税アートオークション
    羽田空港第 1 ターミナルビル6F ギャラクシーホール
  • 資料2(p1)
  • 資料2(P2) 〔資料2、3〕 2023年1月10日火曜日 13時 株式会社羽田未来総合研究所 応接室にて聞き取り調査
  • 資料4 〔資料4〕保税地域における国際的なオークションやアートフェアの開催について 
    出典 文化庁文化審議会文化経済部会アート振興ワーキンググループ
  • 資料5 〔資料5〕出典、文化審議会文化経済部会アート振興ワーキンググループ 報告書別添資料
  • 資料6 〔資料6〕 出典 NFTアートとはmarket@

参考文献

・参考文献
美意識を磨く オークション・スペシャリストが教えるアートの見方
山口 桂 著 株式会社平凡社   2020年8月11日 発行

・資料、資料1  写真提供 
 株式会社羽田未来総合研究所
 Shinwa Auction株式会社

・本文引用
market@
https://www.caica.jp/media/crypto/nft-art-about/
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語源由来辞典
https://gogen-yurai.jp/auction/
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文化審議会文化経済部会アート振興ワーキンググループ 報告書別添資料
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/bunka_keizai/art_working/01/pdf/93711901_01.pdf
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・参考サイト
〔資料4〕文化審議会文化経済部会アート振興ワーキンググループ
報告書別添資料
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/bunka_keizai/art_working/01/pdf/93711901_01.pdf
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〔資料5〕〔資料5〕文化審議会文化経済部会アート振興ワーキンググループ
報告書別添資料より抜粋
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/bunka_keizai/art_working/01/pdf/93711901_01.pdf
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〔資料6〕market@
https://www.caica.jp/media/crypto/nft-art-about/
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語源由来辞典
https://gogen-yurai.jp/auction/
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