ウポポイ〜アイヌ民族の文化と想いを繋ぐ空間の存在意義を考える

水落 美香

はじめに
2020年7月北海道白老町にアイヌ文化の復興と発展のための拠点として、民族共生象徴空間「ウポポイ」[1] [資料1]が開館した。
日本には、日本文化、アイヌ文化、琉球文化が古くから存在するが、近年までアイヌ文化の学習は皆無と言ってよい。しかし、多様性を受け入れるという社会トレンドを背景に2020年小学校の新学習指導要領[2]が全面実施となり、社会科・地理歴史科ではアイヌ文化の学習も多くなっている。また最近ではアイヌに関連する展覧会[3]も多く目にする。ウポポイには、北海道の先住民族アイヌの文化を、北海道のみならず国内外に広めるという目的があると考える。多様性という言葉を耳にする機会が多い現在、アイヌ民族の歴史と文化が正しく伝わるための役割と必要性、発展していく事の重要性を、象徴空間ウポポイの空間のデザインから考察する。

1. 基本データ
アイヌ文化振興地域である道内8都市の中で、要件[4]を満たす豊かな自然環境に囲まれている白老に決定し建設された。
構成[資料2]
① 国立民族共生公園:伝統的コタンの再現、9.6h、体験交流施設、工房、チキサニ広場、エントランス、展望広場、いざないの回廊、歓迎の広場
② 国立アイヌ民族博物館[5] : 展示室、収蔵庫、調査・研究諸室、ミュージアムショップ
③ 慰霊施設:全国各地に保管され、返還できないアイヌ民族の遺骨・副葬品を集約

2. 歴史的背景
平成9年アイヌ文化振興法[6]の施行により、アイヌ文化の振興や継承のための活動に対し支援がなされたが、伝承者の激減により文化継承が危ぶまれ、アイヌ民族は先住民族であるという認識に基づき、「民族共生の象徴となる空間」をアイヌ政策として国が打ち出した。その結果「先住民族であるアイヌの尊厳を尊重し、国内外にアイヌの歴史・文化等に関する正しい認識と理解を促進するとともに、新たにアイヌ文化の創造及び発展に寄与する。」[7]という理念を掲げた国立アイヌ民族博物館が設置された。

3. 評価
3.1 全体空間の構造と参加型プログラム[資料2]
イランカラプテ〜
ウポポイは、このアイヌ語[8]の「こんにちは」で皆を迎える。施設の名称、案内板、展示の解説の第一言語はアイヌ語で表記され、スタッフにもアイヌ語のあだ名がつけられている。
ウポポイは、“いざないの回廊”から始まる。迷路のような回廊には、鹿、熊などのカムイ[9]が描かれており、アイヌの世界に誘う工夫がされ、そこを抜けると、歓迎の広場、エントランスと開けた空間がデザインされている。ポロト湖を背後にした野外ステージでは、歓迎の芸能、狩猟の仕掛け弓実演などが行われ、工房でのワークショップや多彩な体験型プログラム、各季節のイベント[10]が豊富なのは評価できる。

3.2デジタル技術[資料3、4]
広大な敷地に現代的な建築の国立アイヌ民族博物館が一際目立つ。アイヌ文様[11]がデザインされた扉を開けると、エントランスの大画面にアイヌ語とアイヌ文様が目に飛び込む。更に2階へと進むと一面が窓になっており、ポロト湖とウポポイ全体が見渡せ圧巻である。展示室までの通路は導入展示として、世界の民族や動物が我々を歓迎する映像が流れ展示室に誘う。
展示室の構造は、全体が見渡せるワンフロアである。「ことば」「世界」「くらし」「歴史」「しごと」「交流」の6つのテーマが360度でデザインされ、推奨導線が無いプラザ型[12]展示は、興味あるテーマから見ることができる。「歴史」は、壁面に地図と年代、事象が連動されたデジタル映像で表示され、現代の私たちに理解しやすい歴史的時間がデザインされている。「ことば」は、デジタル化された仕組みのいろり端があり、スクリーン内のおばあさんが民話などをアイヌ語で語り、その場で聞いている気分になれる。またアイヌの世界を小さな子供が興味を持つアニメ映像や、展示に触れられる探求展示コーナーもある。
デジタル技術を生かした博物館は、アイヌ文化を知ってもらうべき中心対象の若者にも馴染める空間デザインであることは高く評価できる。
公園内施設では、動物の目線で駆け巡る自然の世界とスピード感を体感できる「カムイアイズ」、「ARでアイヌの着物を着てみよう[13][資料5]」という、バーチャルの画像を自分に重ねアイヌ民族衣装を着用しているような写真を撮影できる体験も用意され評価できる。

4. 空間の比較
一施設内でアイヌ文化の情報を発信するウポポイと、街全体がアイヌ文化拠点となっている二風谷コタン[14]を比較する。
平取町は、2007年に重要文化的景観[15]として選定されており、アイヌの伝統的生活空間(イオル)[16]の再生事業政策により、地域コミュニティと協働しアイヌ民族とアイヌ文化を繋ぐ場として発展し続けている。平取町沙流川[17]沿いの二風谷地区は、居住者の7割がアイヌ民族である。
二風谷の文化を現在に残したのは、アイヌ初の国会議員となった萱野茂[18]であり、彼の収集した多数の民具は「平取町立二風谷アイヌ文化博物館[19][資料6]」「萱野茂二風谷アイヌ資料館[20]」に展示されている。博物館の他、二風谷工芸館、復元されたチセ群、匠の道[21][資料7]沿いにアイヌ工芸作家の工房が並ぶ。伝統工芸「二風谷イタ[22]」「二風谷アトウシ[23]」は、経済産業省の「伝統的工芸品[24]」に北海道で唯一指定されている。

ウポポイと二風谷コタンは、アイヌ文化を伝えるための機能と役割を備えた空間構成はほぼ同じであり、観光資源としていることも共通している。しかし、大きな相違点が以下のようにあると考える。
・「ウポポイ」デジタルと演出
ウポポイは、施設内の空間全てがアイヌ文化を再構築する演出である。主となる博物館は、アイヌ民族に対する先入観を払拭する無機質でデジタルを駆使した学習のための施設であり、情報の集約と未来を見据えた世界への情報発信の基地として期待できる空間である。
・「二風谷」アナログと自然
二風谷は、伝統工芸品生産を生業としており、現在は、アイヌ・アート[25] として制作する作家も多い。また町の自然環境、博物館、チセ、既存の施設の全てを含め環境景観を保全しつつアイヌ文化を再現している。カムイが細部に宿っているかのような空気は、五感で感じる事の出来る街として観光客など訪れる人々を魅了する空間である。

5. 今後の展望と期待
最近では、アイヌの伝統文化が描かれている漫画『ゴールデンカムイ』[26]が人気で、アイヌ文化の基礎を学ぶには恰好の作品である。ファンによる、物語の関連施設の聖地巡礼の現象も多く見られ、アイヌ文化や北海道の歴史に関心を集めるきっかけを作った功績は大きいと考える。またウポポイ開業に伴い、アイヌ民族の文化が発信される機会が増え、東京オリンピック2020マラソン大会では、アイヌ舞踊が披露され世界に発信された。
このようにアイヌ文化への関心、興味を広げる効果的な方法は、マスメディアを活用することと考える。しかし大きな波及効果は期待できる一方、一過性の盛り上がり、ブームで終わらせない事が課題となる。そして何より、近代まで文字を持たず口承により伝えてきたアイヌ文化を共有するために、アイヌ民族自ら発信者として表に出てもらう事が重要と考える。
ウポポイの役割として、①マスコミなどの情報収集先となる場②アイヌ継承者が集まり交流し発信する場③道内のアイヌ関連施設[資料8]と連携していける体制とネットワーク構築をし、資料・情報を提供・交換する場 [27]④アートと新しいアイヌ文化の創造の観点から、アイヌアートの展示会やイベント(例:アイヌ文様を使用したデザインや作品の募集等)を開催し、アイヌ文化の継承と発展・創造を促す持続的な取り組みを行う場が必要だと考える。

6.まとめ
ことば・習慣・儀礼などの独自文化を禁止され生きてきたアイヌ民族の存在を、私たちは知らなくてはいけない。しかし、現在アイヌ民族の多くは、私たちとかわりない生活をしているため、歴史・文化がなかなか人々に伝わらない現実もある。
ウポポイは、不本意な歴史を辿ってきたアイヌ民族・文化の復興、創造と発展のために寄与する空間であると考える。そのため、展示を通じて更に深く興味を持てる場の工夫、世界にアイヌ文化を発信できる場にする事が、民族共生象徴空間ウポポイの責務とも言える。デジタル技術を上手く使った博物館をはじめとするウポポイの空間デザインは、アイヌ民族・アイヌ文化をより幅広い年代に関心を持ってもらい理解を促進する可能性を多く秘めているはずである。

  • %e6%b7%bb%e4%bb%98%e8%b3%87%e6%96%991_%e3%82%a6%e3%83%9d%e3%83%9d%e3%82%a4%e6%b0%91%e6%97%8f%e5%85%b1%e7%94%9f%e8%b1%a1%e5%be%b4%e7%a9%ba%e9%96%93%e5%85%a8%e4%bd%93%e5%9b%b3 [資料1] 民族共生象徴空間「ウポポイ」全体図
    ウポポイホームページより引用、筆者編集
  • 2 [資料2] 国立民族共生公園内マップ
    ウポポイにて(2021年10月10日、筆者撮影)
    *は、ウポポイホームページより引用
    園内マップはウポポイパンフレット参照、筆者作成
  • 3 [資料3] 国立アイヌ民族博物館〜入り口から展示室まで
    国立アイヌ民族博物館にて(2021年10月10日、筆者撮影)
    ③は、ウポポイホームページより引用
  • 4 [資料4] 国立アイヌ民族博物館展示室内 
    プラザ方式の展示(中心から周辺へと自由に回れる構成で展示)
    国立アイヌ民族博物館にて(2021年10月10日、筆者撮影)
  • %e6%b7%bb%e4%bb%98%e8%b3%87%e6%96%995_ar%e3%81%a7%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%83%8c%e3%81%ae%e7%9d%80%e7%89%a9%e3%82%92%e7%9d%80%e3%81%a6%e3%81%bf%e3%82%88%e3%81%86%ef%bc%81jpg [資料5] ウポポイで配布されている「ARでアイヌの着物を着てみよう!」
    ARを使用し筆者撮影
  • %e6%b7%bb%e4%bb%98%e8%b3%87%e6%96%996_%e5%b9%b3%e5%8f%96%e7%94%ba%e7%ab%8b%e4%ba%8c%e9%a2%a8%e8%b0%b7%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%83%8c%e6%96%87%e5%8c%96%e5%8d%9a%e7%89%a9%e9%a4%a8 [資料6] 二風谷コタン、平取町立二風谷アイヌ文化博物館にて(2021年10月11日、筆者撮影)
  • 7 [資料7] 平取町二風谷コタン〜匠の道〜
    二風谷にて筆者撮影(2021年10月11日、筆者作成)
  • 8 [資料8] 北海道アイヌ民族関連施設、筆者作成

参考文献

参考文献

【註】
[1] ウポポイとは、アイヌ語で「大勢で歌うこと」という意味で、アイヌ文化復興等のナショナルセンターである。アイヌ文化を復興するための空間や施設だけではなく、我が国の貴重な文化でありながら存立の危機にあるアイヌ文化復興等・発展させる拠点として、また、将来に向けて、先住民族の尊厳を尊重し、差別のない多様で文化を持つ活力ある社会を気づいていくための象徴として整備。ウポポイPRキャラクターはトウレッポん
(ウポポイHP https://ainu-upopoy.jp 2022年1月28日閲覧)
[2] 2020年に小学校の学習指導要領が全面実施。2021年より中学高校も順次移行。授業改善の一つとして「博物館の活用」が示され、アイヌ文化の学習機会が増える。
[3]「アイヌの装いと晴の日の着物」渋谷区立松濤美術館 2021年6月26日〜8月9日
「木彫り熊の申し子藤戸竹喜」東京ステーションギャラリー 2021年7月17日〜9月26日
[4] 候補地:札幌市、旭川市、釧路市、帯広市、苫小牧市、白老町、平取町、新ひだか町
「民族共生の象徴となる空間」作業部会は平成22年3月から平成23年5月まで13回開催、象徴空間の基本的考え方を検討。報告書によると、従来からアイヌ文化の信仰等に取り組んでいる8地域を対象とし、候補地の中で下記の要件を満たす白老を選定。
要件:自然環境、人材、施設、文化実践、伝承の活動、実績の有無、必要な植生の存在、地元の関係機関等の協力、国内外の訪れやすい地域
「民族共生の象徴となる空間」作業部会報告書 アイヌ制作推進会議
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ainusuishin/shuchou-kukan/houkokusho.pdf(2022年1月8日閲覧)

※白老 ウポポイ「民族共生象徴空間」ができるまで
1965年 白老市街地にあった「白老コタン」を現在地となるポロト湖畔に移転
1967年 白老町立「白老民俗資料館」(現在のアイヌ民族博物館旧館)が開館
1984年 「アイヌ古式舞踊」が国の「重要無形民俗文化財」に指定
     「アイヌ民族博物館」(新館)が開館(博物館法による登録博物館になる)
2018年 2020年に「民族共生象徴空間」が整備されるのに伴い閉館
2020年 国立アイヌ民族博物館が開館
[5] 「国立アイヌ民族博物館」設計
・建築基本設計
久米設計:https://www.kumesekkei.co.jp/project/0022.html (2022年1月9日閲覧)
・展示基本設計
丹青社:https://www.tanseisha.co.jp/works/detail/national-ainu-museum (2022年1月9日閲覧)
[6] ※アイヌ民族関連法律等
1899年(明治32年) 北海道旧土人保護法 狩猟採集民族だったアイヌ民族を農耕民にし、児童は日本語教育を受けさせた。
1875年(明治8年)千島樺太交換条約 樺太から約840名のアイヌ民族が江別に移住させられる。
1992年(平成4年)国連「政界先住民の国際年」において当時の北海道ウタリ協会理事長がアイヌ民族の権利を訴える。
1994年(平成6年)萱野茂がアイヌ民族としての初の国会議議員に当選
1997年(平成9年)アイヌ文化振興法「アイヌ文化の信仰並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」(北海道旧土人保護法廃止)
2007年(平成19年)先住民族の権利に関する国際連合宣言
2008年(平成20年)衆参両院「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」
アイヌの人々が先住民族であることの認識を示す
2019年(平成31年)(2021年(令和3年)改正) アイヌ施策推進法施行 アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律
2020年(令和2年)国立アイヌ民族博物館と国立民族共生公園からなるウポポイ(民族共生象徴空間)が開設。

[7] 文化庁 「民族共生の象徴なる空間」における博物館基本構想の概要より博物館の理念
[8] アイヌ語:アイヌ民族が日常に用いてきた言語。文法上の特徴は、主語によって動詞、名詞の形が変化する、否定や禁止の言葉は動詞より前に置く、目的語となる名詞が動詞に取り込まれる。(『アイヌ文化・ガイド教本』https://visit-hokkaido.jp/ainu-guide/guide/ (2022年1月9日閲覧))
[9] カムイとは日本語で神であるが、アイヌ民族にとってのカムイは、生に大きな影響力を持つ者への敬称である。
[10] アイヌ文化やアイヌの世界観、自然観、信仰等を幅広く伝承するため様々なプログラムが用意されている。https://ainu-upopoy.jp/timetable/ (2022年1月8日閲覧)
・プログラム例
くらしと文化開設(コタンの語り、教えて!!トウレッポん)
調理体験(ポロトキッチン、ポントキッチン)
ものづくり見学(男女の手仕事の技法について解説と映像を通して工芸を見学)
ものづくり体験(木彫、刺繍、ムックリ体験)
植物とくらし紹介(コタンの樹木案内)
キッズ向けプログラム(イラストや寸劇、読み聞かせ)
・各季節のイベント:屋外プロジェクションマッピングショー、ウポポイイルミネーション
[11] アイヌ民族の衣類、生活道具、儀式用具に描かれている文様。基本の形状は、モレウノカ(渦巻く文様)、アイウシノカ(棘のある文様)、ラウラムノカ(鱗状の文様)。文様には魔除けの意味があるという説がある。
[12] 中心から周辺へと自由に回れる構成の展示方法
[13] 実在する風景にバーチャル画像を重ね、目の前にある様に表示すること。自身のスマートフォンにアプリをダウンロードしアイヌ民族衣装を着床している様な写真を撮影することができる(ウポポイ配布「ARでアイヌの着物を着てみよう!」より)
[14] 北海道沙流郡平取町二風谷にあるアイヌ文化関連施設の集積地。二風谷(ニブタニ)アイヌ語「ニプタイ」木の生い茂る所。
[15]文化的景観:「地域における人々の生活または生業及び当該地域の風土により形成された景観地で我が国民の生活または生業理解のための欠くことのできないもの」(文化財保護法第二条第1項第五号より)という文化財のひとつで、2005年に文化財保護法の改正により制定。2007年平取町内は、アイヌの伝統が色濃く残る地域として国内外に広く知られ、沙流川流域の近代産業と関わっている点が、全国3番目(北海道初)の重要文化的景観「アイヌの伝統と近代開拓による沙流川流域の文化的景観」として選定された。(2016年第二次、2018年第三次追加選定)
[16] 平取地域IWORイオル(アイヌの伝統的生活空間)再生事業:アイヌの人々が中心となり、既存施設や他の事業とも連携し異オル再生事業を進め、アイヌの伝統と普及啓発を図る拠点作りを目指しいている。(イオルの森、コタンの再現、水辺空間)
平取町立二風谷アイヌ文化博物館ホームページより抜粋
http://www.town.biratori.hokkaido.jp/biratori/nibutani/culture/regeneration/ (2022年1月9日閲覧)
[17] 日高山脈に源を発し、太平洋に注ぐ日高地方最長の大河。かつて「シシリムカ」と呼ばれ、流域には人文神にまつわる伝承が残されるアイヌ民族の聖地のひとつ。先史時代の遺跡も多く出土され、アイヌ文化の歴史的文化景観を構成する遺産が分布している。
[18] 萱野茂(1926-2006)平取町二風谷生まれ。伝統的な民具を買い取り収集し、それらを集めた資料館を作り、生涯をかけてアイヌ文化を次世代に伝える活動に費やす。平成6年にアイヌ民族で初の国会議員になりアイヌ語で質問、アイヌ文化振興法の成立に尽力した。
[19] 「平取町立二風谷アイヌ文化博物館」の基本コンセプト「アイヌ伝統文化の今日的継承」資料の内1121点が、北海道二風谷及び周辺地域のアイヌ生活用具コレクションとして2002年文化庁より重要有形民俗文化財の指定を受けた。ここでは「人々の暮らし」「神々のロマン」「大地のめぐみ」「造形の伝統」4つのゾーンでアイヌ伝統文化を学べる。広くない展示室だが、民族衣装の展示方法が、縦引き出し方式になっているなど工夫されている。
[20] 「萱野茂二風谷アイヌ資料館」
萱野茂が昭和20年代から収集したアイヌの民具、生活用具などを展示されている。
https://kayano-museum.com/  (2022年1月10日閲覧)
この他に二風谷には、「沙流川歴史館(ダム建設の際の発掘調査資料の収蔵と展示を主とする)」がある。
[21] 匠の道の民芸品や工芸品では、伝統的な手彫りの技術で文様を施した木彫品や樹皮で織った織物、文様を刺繍した布製品を中心に、現代に生きるアイヌ工芸の伝承者たちの貴重な作品を実際に手に取り購入する事ができる。また、博物館や資料館等、アイヌの歴史を感じられる施設も充実。(http://nibutani.jp/より抜粋。(2022年1月8日閲覧))
代表的作家として貝澤徹がいる。「北の工房 つとむ」の店主。独創的なアイヌアートに取り組み「ウコウク」「アイデンティティ」「アペフチカムイ/火の神様」などがある。
[22] 二風谷イタ:沙流川流域に伝わる木製の平たい形状のお盆。カツラやクルミの木を材料として、イタをキャンバスに見立て、全体にアイヌ文様を彫り込む工芸品。二風谷イタは、渦巻きの形(モレウノカ)、棘の形(アイウシノカ)、目の形(シクノカ)の基本形を組み合わせ表現する。
[23] 二風谷アトゥシ:樹皮により平織の反物や、仕立てた着物。オヒョウやシナを材料とする。技術に省略や機械化された過程がなく、アイヌの人々の自然と人間との交わりが織り込まれている伝統工芸品。
[24] 伝統工芸品:昭和49年に制定された伝統的工芸品産業の振興に関する法律に基づき経済産業大臣の指定を受けた工芸品のこと。
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/nichiyo-densan/index.html (2022年1月8日閲覧)
[25]アイヌアート:定義はないが、「現代の作家たちが、アイヌ民族の先人たちによる創造の歴史に敬意を払い、それを継承しつつも、個性の発露、自己の表現としての造形を探究し、新たな世界を切り開くもの。」(山﨑明子「第9章アイヌ文化をめぐる表象の現在」『問いかけるアイヌ・アート』P244)と語っている。
アイヌ・アート代表作家:貝澤徹 木彫家、工芸家 二風谷在住
代表作『アイデンティティ』シリーズ、『ウコウク/輪唱』
2020年国立アイヌ民族博物館『アプフチカムイ/火の神様』
2018年大英博物館に常設展示『ケウトゥムカンナスイ/精神再び』
[26] 『週刊ジャンプ』で2014年に連載が始まった野田サトルの冒険活劇マンガ。復員兵とアイヌ民族の少女が埋蔵金の争奪戦に巻き込まれるストーリー。アイヌ社会、伝統文化が描かれている。現在も掲載中である。
この人気漫画によって、素材として北海道の観光産業、アイヌ文化の普及のために多く使用された。
・北海道内のスタンプラリー(北海道・(公社)北海道観光振興機構の「北海道はゴールデンカムイを応援しています。」(2018~2020)キャンペーンで北海道全土においてスタンプラリーを開催)
・コンサドーレ札幌(札幌を拠点とするプロサッカーチーム)
・サッポロビールのイラスト(キャラクターのイラスト入り缶ビールを発売(2018~))
・石屋製菓「白い恋人」(白い恋人とキャラクターの書き下ろしデザインのコラボ缶発売)
[27] (公財)アイヌ民族文化財団民族共生象徴空間運営本部に各施設との連携について2021年11月17日メールにて質問。「「ウポポイを通して良い影響を波及させていくこと、ここを核として各地域とも連携していけるような体制づくりを心がけながら事業を進め、各地域のアイヌ文化が盛り上がるように取り組む」と回答があった。
その後、2021年11月26日北海道新聞に国立アイヌ民族博物館と連携する道内外の博物館職員によるオンライン研修会(アイヌ民族女性の首飾り「タマサイ」の保管方法と取扱注意点について)を初めて開いている。
また、2022年1月13日には、アイヌ民族文化財団がウポポイに札幌大学の学生を研修で受け入れ、アイヌ文化の担い手育成し伝統文化の復興と発展を目指すべく連携協定を締結した。


【参考文献】
・アイヌ文化振興法制定5周年記念フォーラム「再生する先住民文化-先住民族と博物館」報告書、国立民族学博物館、2003年
・『アイヌプリ-アイヌの心をつなぐ-』公益財団法人アイヌ文化振興・研究推進機構、2012年
・『アイヌをもっと知る図鑑』(別冊太陽 日本のこころ 280)平凡社、2020年
・内田順子「アイヌ文化の伝承のありかたと観光」、『国立歴史民俗博物館研究報告』2015年2月
・貝澤徹・吉原秀樹編「北海道平取町二風谷における事例研究と提言」、『アイヌ伝統工芸振興のための課題と方策に関する共同研究報告書』二風谷観光振興組合、1998年
・貝澤徹、吉原秀喜他、池田 忍編『問いかけるアイヌ・アート』岩波書店、2020年
・川添善行著、早川克美編「『空間にこめられた意思をたどる』(芸術教養シリーズ19私たちのデザイン3)、京都芸術大学・東北芸術工科大学・出版局藝術学舎、2014年、P138-147
・「世界の先住民族、日本の先住民族」(特集2 今、アイヌであること)『学術の動向』2011.9
・野村朋宏編『日本文化の源流を探る』(芸術教養シリーズ22伝統を読みなおす1)、京都造形芸術大学・東北芸術工科大学・出版局藝術学舎、2014年、P42-57
・『北海道を、極める』(Pen No.516)P14-43、CCCメディアハウス、2021年 
・吉原秀喜「アイヌ民族の祈りと文化景観・環境」、『遺跡学研究』日本遺跡学会誌第8号、2011年
・吉原秀喜「アイヌ民族・文化とクマ」Hokkaido Nature Magazine 『MALLY』No.28

【Web閲覧】
・ウポポイホームページhttps://ainu-upopoy.jp(2022年1月23日閲覧)
・ウポポイオープン 日経https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00585/071300046/ (2022年1月8日閲覧)
・ウポポイ全貌  https://hokkaidofan.com/upopoy-guide/ (2022年1月8日閲覧)
・公益財団法人 アイヌ民族文化財団  https://www.ff-ainu.or.jp/index.html (2022年1月9日閲覧)
・二風谷匠の道 http://nibutani.jp/ (2022年1月22日閲覧)
・平取ホームページ http://www.town.biratori.hokkaido.jp/ainu/bunka/ (2022年1月23日閲覧)
・平取町立二風谷アイヌ文化博物館http://www.town.biratori.hokkaido.jp/biratori/nibutani/ (2022年1月23日閲覧)
・平取町へ。アイヌ文化へ。平取町役場観光商工課 https://www.biratori-ainu-culture.com(2022年1月23日閲覧)
・平取文化的景観 https://www.isan-no-sekai.jp/report/2151 (2022年1月9日閲覧)
・平取町文化的景観保存計画書 http://www.town.biratori.hokkaido.jp/wp-content/uploads/2017/09/a3764c98cadd4bf11dca19027411c6fd.pdf (2022年1月16日閲覧))
・文化庁 アイヌ文化の振興 https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/ainu/ (2022年1月9日閲覧)
・文化的景観選定(全国文化的景観地区連絡協議会) https://www.bunkeikyo.jp/about/ (2022年1月9日閲覧)
・内閣官房アイヌ総合政策室 
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ainusuishin/symbolic_space.html (2022年1月9日閲覧)

年月と地域
タグ: