パリ13区のストリートアート

板倉 麻利

I はじめに
本稿ではパリ13区のストリートアート、特にビルの壁に描かれた壁ストリートアートを紹介する。

以下 アーティスト名(アーティストの国名)描かれた壁の建物の住所または場所

アラピンタ Alapinta (チリ) / 50 rue Jeanne d’Arc
ボム ケイ Bom.K (フランス) / 124 boulevard Vincent Auriol
ビートイ BTOY (スペイン) / 3 rue Esquirol
コノー ハリントン Conor Harrington (アイルランド) / 85 boulevard Vincent Auriol
C215 (フランス) / 141 boulevard Vincent Auriol
D*Face (イギリス) / 10 Place Pinel
ダビッド デラマノ David de la Mano (スペイン) / 3 rue Jenner
エトス Ethos (ブラジル) / Stade Carpentier / 81 boulevard Masséna
フェイル Faile (アメリカ) / 110 rue Jeanne d’Arc
ゲラダ Gerada ( キューバ) / 47 rue Nationale/ Place Pinel
ヘラクト Herakut (ドイツ) / 24 rue René Goscinny
インチInti (チリ) / 13 rue Lahire/ 129 avenue d’Italie/ 80 boulevard Vincent Auriol
インベーダーInvader (フランス) / Hôpital Universitaire Pitié-Salpêtrière / boulevard Vincent Auriol/ 122 Boulevard Vincent Auriol
ジェースJace ( フランス) / 59 rue du Moulinet
Jana & Js (ドイツ、フランス) / 110 rue Jeanne d’Arc
M-City (ポーランド) / 122 boulevard de l’Hôpital
Maye (フランス) / 131 boulevard Vincent Auriol
オベイ OBEY (アメリカ) / 93 rue Jeanne d’arc / 60 rue Jeanne d’Arc/ 186 rue Nationale
オクダ Okuda ( スペイン) / 5-7 place de Vénétie (visible depuis l’avenue d’Ivry)
パントニオ Pantónio (ポルトガル) / Croisement boulevard Vincent Auriol et rue Jenner
/ Avenue de Choisy / Place de Vénétie
レカ Reka (オーストラリア) / Rue du Chevaleret
ロア Roa(ベルギー) / Ascenseur / Rue Marguerite Duras
セネーSainer (ポーランド) / 13 avenue de la Porte d’Italie
セト Seth (フランス) / 110 rue Jeanne d’Arc / 2 rue Emile Deslandres
セト、キスロウSeth et Kislow ( フランス ウクライナ) / 29 rue des Cordelières
ステュウStew (フランス) / Place de la Vénétie
スロクStrok (ノルウェー) / 20 rue de la Glacière
トリスタン イートンTristan Eaton (アメリカ) / 47-83 Boulevard de l’Hôpital
Vhils (ポルトガル) / 173 rue du Château des Rentiers

II 壁ストリートアートの歴史
戦前のパリ13区は中心から離れていて空き地や森などが多かった為、大きな業者用卸市場があり郊外と言ってもいいほどだった。ベビーブームと高度成長期の1970年代は大規模なビルや商業施設の建築の為にアルジェリアやモロッコなどの北アフリカ移民を受け入れた。その為に移民の労働者には住宅が必要になり空き地の多かったパリ13区には近代的な白い壁の高層アパートが多く建てられた。この高層アパートの多くはHLMと呼ばれる日本の公団のような低所得者対象のアパートである。

この白い壁と無機質な高層アパートを利用しようと2013年から実行されたのがストリートアートの壁画である。パリ13区とギャラリーリテナランスが共同で始めた計画だ。
世界各国から応募者を集いそれぞれのアーティストの壁画の計画やコンセプトなどの書類審査を経てアーティストが選ばれている。

Ⅲ.事例のどんな点について積極的に評価しているのか
2013年より以前は若者のストリートアートのグラフィティーが流行った。グラフィティーのプロアーティストはコンセプトがありプロの技術があるが、プロ以外にもペンキのスプレー缶を持った若者たちが夜中にメトロの車両やトラック、店のシャッターに汚い落書きをするので多くの被害があった。汚された区画、無機質な白い高層ビルが並ぶ13区にプロジェクトが生まれた。世界から選ばれたストリートアートのアーティストの大規模な壁アートが現れることで、素人の汚いグラフィティーが減っていった。

現代的なアパートの無機質な白い壁しかなかったパリの街の区画が、ストリート壁画によって意味や存在や味を持ち出した。2013年以前は用がなければ旅行者が来なかったパリ13区にガイド付きの観光客が訪れるようになった。

壁ストリートアートが13区で有名になったことで壁ストリートアートのアーティストはパリ郊外や地方都市のHLMなどにも壁ストリートアートが浸透してきている。

Ⅳ.今後の展望について

パリ13区の市長のジェローム クメ氏はこのストリートアートの協力者、企画者として2016年に金のマリアンヌ賞を受賞している。この賞は地域の文化的ダイナミズム、ストリートアートを中心に開始された活動に対しての賞である。パリ13区が世界中から選抜して実現させたス40メートルの高さのObey(オベイチーム)の作品が特に代表的である。このプロジェクトに関わったアメリカで最も重要なストリートアーティストのシェパード フェアリーが2015年11月のパリ同時多発テロの犠牲者に対する追悼作品としてフランス共和国を象徴する女性像マリアンヌとフランス共和国の標語『自由、平等、博愛』と描かれた壁アートが製作された。

国内外においてもパリ13区のストリートアートは特別だと言える。13区は書類を申請して許可されれば縁石上にある電気の箱や小さな壁にも絵を描けるようになっている。現時点では160の公認されたストリートアートがパリ13区にあるが審査が通ればストリートアートは今後も増えていく。

Ⅴ.まとめ
2020年3月から6月まで、2020年10月から2020年12月まで、2021年1月から6月までとパリはコロナ患者を減らす為に3回ロックダウンをして屋外を出歩くには証明書が必要になった。美術館、映画館、図書館、体育館、レストラン、カフェ、大型商業施設などが閉鎖になり人々の自由が失われた。コロナ下でストリートアートは美術館閉鎖に伴いアートに触れられなくなった人々を癒してきた。

普段美術館に行かない人やアートに関心がない人にもストリートアートは存在感を持ちメッセージを与え続けている。このようにダイナミックでメーセージ性のあるパリ13区のストリートアートはパリの人々の生活に活気と芸術性を与え続けているのである。

  • 46364_1 写真1 シェパード フェイレイShepard Fairey (Obey)。
    2015年11月13日の連続テロへの追悼の意を込めて製作された。 筆者撮影 2021年6月21日
  • 46364_2 写真2 左奥はインチというチリのアーティストの作品である。右手に持っているリンゴはニュートンのリンゴであり宗教と科学がテーマになっている。右はアイルランドのアーティスト、コノー ハリントンによるもの。彼の作品には大統領選前の政治的メッセージが込められている。筆者撮影 2021年6月21日
  • 46364_3 写真3 アーティスト名=Maye(マエ) またはAlias Maye( アリアス マエ) フランス人のアーティスト。彼の故郷である南仏のフラミンゴと人間をオマージュにして人類と自然の脆弱性を表現している。筆者撮影 2021年6月21日
  • 46364_4 写真4 スペインのアーティスト、ダビッド デラマノの作品。デラマノの3つの提案の中から住民が選んだ。筆者撮影 2021年6月21日
  • 46364_5 写真5 D*face (アーティスト名=ディーフェイス、本名=ディーン ストックトン)作 イギリス人のアーティスト。彼の作品はポップアート風である。筆者撮影 2021年6月21日
  • 46364_6 写真6 当時ソルボンヌ大学在学であった女性アーティスト2名のグループQeenssandcの作品。筆者撮影 2021年3月22日
  • 46364_7 写真7 Qeenssandcは不思議の国のアリスをテーマにしたストリートアートを展開 筆者撮影 2021年3月22日
  • 46364_8 写真8 ストリートアーティストのJBCの作品。病院の壁に医療従事者へのオマージュが描かれた。看護師がマスクと帽子を被りOkのサインをしながらワクチンを持つ手が描かれている。筆者撮影 2021年3月22日

参考文献

フランス語の文献
『Boulevard Paris 13』著者メフディ=ベン=シェイク アルヴァン=ミッシェル出版 Collection beaux livres

年月と地域
タグ: