宮 信明(准教授:主任)2023年9月卒業時の講評

年月 2023年10月
みなさま

卒業研究レポートの作成、お疲れさまでした。大きな課題を終え、いまはホッと一息つかれているところでしょうか。

今期の卒業研究は、97件の提出がありました。昨年度の秋期は83件でしたので、なんと14件も増えたことになります。それだけ多くの卒業生を送り出すことができたということで、感慨もひとしおです。

みなさまのご卒業を寿ぎ謹んでお慶びを申し上げます。

とはいえ、これで終わってしまっては総評になりません。もちろん、個別のレポートの点数と講評については、個々にお伝えしてありますので、そちらをご覧いただければよいのですが、ここでは、総評として、私が採点・講評をした卒業研究の全体的な特徴や傾向、改善点について、述べていきたいと思います。
今回、私が担当した卒業研究では、以下のような対象が取り上げられていました。

・琉球ガラス
・長崎市のお盆と精霊流し
・街頭紙芝居のと塩崎おとぎ紙芝居博物館
・『楽毅論』と気韻生動
・さっぽろ雪まつり
・ヒゲダンス
・勅使河原蒼風『花伝書』といけばな
・ハリスツイードとレベッカ・ハットン
・映像制作集団「分福」
・西畑人形芝居
・タイ・プーケットのカフェ
・岸和田だんじり祭り
・五平餅
・和泉市軟質ガラス
・ザ・フェアモント・バンフスプリングスホテル
・江之浦測候所
・山梨県立図書館
・台湾のマジョリカタイルと台湾花磚博物館
・イカナゴのくぎ煮

地域の工芸品や年中行事、祭礼、博物館や図書館、食文化や民俗芸能などなど、極めて多彩なテーマで、いずれのレポートにおいても、さまざまな興味深い事例が報告されていました。また、それを論じるための視点もじつに多様で、読み応えのあるものばかりでした。

その上で、いくつか気になった点を改善点として示しておきたいと思います。

まず、大学のレポートや論文では、学術的な文章の作成(アカデミック・ライティング)が求められます。正しい日本語の運用は当然として、客観的な記述になっているか(「私」や「思う」「感じる」等を使用した主観的な記述になっていないか)、引用はルールに従って行われているか、註や参考文献、添付資料のキャプションはきちんと記載されているかなど、その作法に則って文章を作成しなければなりません。私が拝読したレポートのなかにも、修正した方がよいと思われるものがいくつかありました。改めてご自身の卒業研究を読み返していただき、アカデミック・ライティングができていたかどうか、いま一度ご確認いただければと思います。

次に、課題の趣旨についてです。特定のデザイン・芸術活動について考察し、「文化資産評価報告書」を作成するという課題の趣旨を、ほとんどの方がきちんと理解され、レポートを作成されていました。ただ、残念なことに、「評価対象に関して、どのような点がデザインとして優れているかも考察して下さい」「報告に際しては必ず次の5点を明記してください」という課題の要求にお答えいただけていないレポートがいくつかありました。特に「3.国内外の他の同様の事例と比較して何が特筆されるのか」では、他の同様の事例と比較することによって、それらの共通点だけでなく、対象とする事例の「特筆される=デザインとして優れている」点を考察していただきたかったのですが、比較考察がなされていないもの、比較対象の妥当性に疑問が残るもの、共通点の指摘だけで終わっているものなどが散見されました。比較することで考察を深め、研究対象の「特筆される=デザインとして優れている」点を、よりいっそう明らかにしていただきたかったところです。

また、多くの方のレポートで、数値やデータなどの客観的な論拠があまり示されていなかったことも気になりました。例えば、どれくらいの参加者や利用者がいるのか、またその推移や分布はどうなっているのかなど、自分の考えや意見を書くときには、ただ「多い」とか「美しい」とか、「価値がある」などと記述するのではなく、必ずその論述の根拠を示すようにしましょう。数値やデータなどの客観的な論拠を示しつつ、より具体的かつ多面的に論述することができれば、さらに完成度の高い卒業研究になると思います。

最後に、資料調査についてです。卒業研究における「着眼点の独自性」とは、ただ主観的に自分の思ったこと(思いつき)を述べるのではなく、先行研究や文献調査、フィールドワークやインタビュー等の結果を踏まえた上で、自分の考えを展開していくことから生まれるものではないでしょうか。もう少しはっきり言えば、先行研究や資料の調査が不足している、と思われる卒業研究が少なくなかったということです。もちろん、すべての資料や文献に目を通すことは不可能かも知れません。しかし、できるだけ多くの先行研究や資料に触れ、その方法論を身につけるとともに、考察を深め、より独自性のある着眼点を示していただきたかったところです。

以上、色々と口喧しいことばかり申し上げてきました。
卒業研究は、みなさんがこれまで芸術教養学科で学んでこられたことの集大成です。だからというわけでもないのですが、この総評でも個別講評でも、厳しいことをあれこれと書き連ねてしまいました。とはいえ、それぞれのレポートが卒業に値するクオリティに達していたことは間違いありません。ぜひこれからも、芸術教養学科で学修したことをもとに、よりよい学びを続けていってください。

それでは、改めまして、ご卒業、誠におめでとうございます!