早川 克美(教授:学科長)2019年9月卒業時の講評

年月 2019年10月
みなさん、ごきげんよう。卒業研究のレポートの作成、おつかれさまでした。
卒業研究は、みなさんの芸術教養学科で学んだこれまでの学習の成果です。それぞれの方の視点が実に様々で、読み応えのあるレポートばかりでした。

特に良かった2点はいずれも海外から。
「FabLab Bhutanから始まるコミュニティ形成」では、FabLab Bhutanから始まるコミュニティ形成についての評価について、工房としての機能ではなく、FabLab Bhutanの社会的役割に着目された点に独自性を見出すことができました。遠隔地域への波及や、グローバルコミュニティの活用からFabLab Bhutanがブータンにもたらす教育的効果がよくわかりました。添付資料も丁寧にまとめられていました。
「ヴィクトリアパーク」の都市公園としての役割」では、都市住民の健康を支える場としての都市公園の役割に着目され、対象事例を評価している点がユニークでした。アメリカ・シアトルの「カーキークパーク」との比較対照も適切な対象事例の選択であり、比較したことによって、ヴィクトリアパークの特質と課題を浮き彫りにすることに成功しています。

レポートの評価が分かれたのはご自身の問題意識と対象への評価軸が明示されているかという点です。せっかく丁寧に調べられたのに、調べたことのまとめで終わってしまっている方も少なからずいらっしゃいました。また、論点の軸が曖昧になってしまい減点となった惜しいレポートもありました。評価が高かったレポートは、二次情報に頼らず、ご自身が直接現地で調査をされたり、適切な比較対照を試みたり、また評価手法および評価軸を明確に定義されていました。演習の授業でもお話しましたが、まず、調べた多くの情報から、「何を取捨するのか」という「問題定義=切り口」を示すことが肝心です。次に、その切り取られた情報をどのような「構造」で考察するのかを検討し、最後にその構造をどのような「語り口=手法・方法」で伝えるかという点に留意して書くことが重要です。
また、ほとんどの方が、選ばれた対象への一定の距離をおいた客観的な考察には成功されていますが、批判的、反省的なまなざしで捉えていなかったことが気になりました。一見、うまくいっているように見える事象に問題はないのか?どのような課題をクリアして今日があるのか、そんな視点も加味されると、一層深い考察になったと思います。

いろいろと書いてしまいましたが、卒業生となられたみなさん、本当におつかれさまでした。みなさんが得られた学びはゆっくりと時間をかけてみなさんの中で熟成されて、様々な場面でみなさんを助けてくれることでしょう。一緒に学んだこの月日はみなさんの勝ち取られた財産です。これからのみなさんのご活躍を祈っております。