下村 泰史 (准教授)2019年9月卒業時の講評

年月 2019年10月
卒業研究レポートに取り組まれた皆さん、お疲れさまでした。
今回私は、景観資源関係のレポートを中心に、7件の作品を担当しました(今回のweb公開は1件です)。主題となったのは、歴史的な用水路、歴史的な街並み、公園、庭園、再興された織物といったものでした。
多くは、特定の作家によって作られたものではないけれど、人間の創意がほどこされた美しいものであり、芸術教養学科の卒業研究にふさわしいものだったと思います。

この芸術教養学科の卒業研究レポートには、次のようなレギュレーションがあります。

1: 基本データ(所在地、構造、規模など)
2: 事例の何について積極的に評価しようとしているのか
3: 歴史的背景は何か(いつどのように成立したのか)
4: 国内外の他の同様の事例に比べて何が特筆されるのか
5: 今後の展望について
の5点を明記しなくてはなりません。この順番は変えてもいいことになっていますし、こうした内容がきちんと示されていれば、こうした見出しを付さなくてもかまいません。
それでもこの1〜5の順番を墨守する方も多くおられます。
この順番そのままで論じると、4つまり他事例との比較検討が、最後の方に来てしまいます。そうすると比較検討が特筆性についての考察に十分に関連付けられず、おまけのような中途半端なものになってしまいがちなのです。
一方、準主役のような形で早めに比較事例を挙げ、論を進めるなかで同時に多面的な比較を行っていたものは、強い説得力をもつ仕上がりになっていました。

ものを考える順序と、考えを伝える順序というのは微妙に違うものです。どのような組み立てたら、読み手に説得的に伝わるのか。これについては一定の王道パターンもありますが、自分が扱っている主題や分析の方法に応じて、そうしたものを参考に自分なりの組み立てを考えなくてはなりません。
今回の5つのポイントは、このレポートだけでなく、これからの人生で何かの大切さについて発言しなければならないときに、ずっと使っていけるものだと思います。ぜひ振り返り、自分のものにしていただきたいと思います。

この芸術教養学科での学びが、偉大な作家や芸術家に限らない、人々の創意の面白さや美しさへのまなざしを導くことができていたら、それに勝る喜びはありません。これからも芸術教養のものの見方を頭のどこかに置いて、面白く生きていただきたいと思います。