野村 朋弘(准教授:主任)2021年9月卒業時の講評

年月 2021年10月
2021年度の夏期に卒業研究をご提出された皆さま、お疲れ様でした。
そしてご卒業が認定された55名の皆さんおめでとうございます。謹んで言祝ぎ申し上げます。

新型コロナウイルスの感染拡大の中、意欲的に調査・考察をされた玉稿を拝見しまして、一介の研究者として学びになりました。
芸術教養学科では、過去を見つめる文化・伝統と、未来を考えるデザイン思考とを両輪として学びつつ、いまある地域の文化資産についてまとめてもらうことが卒業研究で求められています。
地域で育まれた文化資産には様々な価値があると思います。抽象的に価値を考えるというよりも、地域性(風土であったり人々の繋がりであったり、歴史性であったりと多様な要因がかみ合って地域性が形成されます)に沿って考えることはとても重要なことです。
私が担当するのは、毎年恒例ながら歴史性のある文化資産が多かったです。コロナ禍の中でもフィールドワークや文献調査に勤しみ、まとめられている力作も多くみられました。
特に今年度は、文化資産を観光資源として考えるという視点をお持ちの方が複数いらっしゃり、興味深く感じました。

文化資産の価値をどう捉えるか。限られた文字数の中で、「問い」を定めることはとても難しい作業です。
またもう一つ、毎年総評でも述べていることですが、「比較考察」が有効かどうかも重要なポイントです。単に挿絵ではなく、取り上げた対象と「問い」を考察する際に、有機的に機能する事例を選ぶことは、これまた難しいものです。
本学科の卒業研究は、20000字といったような「卒業論文」ではなく、3200字という限られたものにしているのは、調査探求し考察したことをどうまとめて分かりやすく・端的に可視化するか、つまりはデザイン思考がどのように結実しているかを問うているものです。文字数が少ないからといって簡単に卒業できたという訳ではありません。それは歴代の卒業生もそう思っていると思いますし、何よりコロナ禍の中で取り組まれた皆さんが一番感じているとことだと思います。
こうした時勢の中で卒業できたということを誇りに思い、ぜひ、今後の人生に役立てて下さればと思います。

但し、在籍中にコミュニティの日記で縷々お伝えしていたと思いますが、幅広い教養とは何か直ぐに活用出来るスキルという訳ではありません。大学で育んだ眼差しがいつ機能するかは分かりませんが、いつの日か機能したとき、「あ、野村が言っていたのは、これかっ」と思って頂けると嬉しく思います。
卒業生の皆さんのこれからのご活躍を祈念しております。ではまた。