作曲ワークショップが示す公共性とシティプロモーションへの有用性

徳留 将樹

1.基本データと歴史的背景
作曲ワークショップとは筆者主導のもと一般市民を巻き込んだ「まち想い」体験ワークショップである。『第15回京都芸術大学 学生創作研究助成金制度』における採択企画『都市ブランド可視化のための楽曲制作並びに映像作品制作』内で行われた。2021年9月12日「作曲ワークショップ1日目 作詞作曲編」を皮切りに、9月26日「2日目 演奏編」、11月18日「3日目 録音編」、12月7日「4日目 ライブ編」、12月19日「5日目 作品発表(イベント出演)」と展開し、わずか3ヶ月間のうちに参加者をライブパフォーマーへと変貌させた。今回テーマとしたものが「まち想い」というキーワードであり、好きな「まち」や「ひと・もの・こと」を対象物として想い、歌にすることで、その過程で対象物により愛着を持ったり新たな発見を得ることができるという仮説を検証する意味での創作研究助成金の活用となった。
筆者は2016年「まちづくり」に憧れを抱き鹿児島県指宿市へ移住し、音楽による地域振興を企んでいる。福元音楽祭(2017年、2018年)の実施やウクレレ教室の開講などに挑戦するが、興行としての音楽やハウツー的な習い事としての音楽に限界を感じ、地域を去ることになった。転居先の鹿児島市でシティプロモーション戦略ビジョンに基づいた「まち想い」イベント『PLAY CITY! DAYS』(註1)への参加をきっかけに、まちへの関わり方の姿勢に共感。2年間参加ののち2021年度はイベントサポートとして参加、そして3年連続テーマソング作曲(註2)に携わる中で「まち想い」への理解度を深めてきた。また音楽ユニット「はとむすび」(註3)での活動を自己表現の場とする他、より深くまちに関わることができないか模索していた。
ここで「まち想い」とは、鹿児島市総務局市長室広報戦略室 溝端智人主査(2021年5月時点事業担当者)曰く「まちを自分ごととして捉えること、自分とまちの関係性を見つめること」を指す。似た言葉で「まちづくり」と対比する。「まちづくり」の定義は多義に渡るが、ここでは田村明の『「まちづくり」とは、一定の地域に住む人々が、自分達の生活を支え、便利に、より人間らしく生活してゆくための共同の場を如何に作るかということ』(註4)を用いる。「まち想い」について広報戦略室溝端氏は「どんな世代も、どこにいても一人から始められる」と述べている。 想うことは自発的で個人趣向が入っており、しかもその地域に住んでいる必要もなく、改善を目指す必要もない。この点が「まち想い」の妙、まちづくりとの明らかな違いであり、徳留が共感した「まちへの関わり方」の姿勢である。

2.事例のどんな点について積極的に評価しているのか
本活動の評価点として大きく2点挙げられる。まず、本活動が鹿児島市シティプロモーション戦略ビジョンに基づいた、一般市民主導の「まち想い」実践の場となった点である。「日々の暮らしを振り返る中で、まちの魅力を発信するなどのまちを想う行動につなげることができる“伝え隊”を育成することにより、シビックプライドの醸成と本市の多彩な魅力の発信につなげる」(註5)ということが戦略ビジョンにあるが、自らが考える暮らしを振り返る方法、シビックプライド(市民の地域への誇りと愛着)を育む方法、そして楽曲やライブ演奏などを通した魅力発信の方法として音楽を用いた「まち想い」を行った。それは『歌詞を考える際に風景を思い出し、言葉にするため、より愛着が増した』(添8)という参加者の声から伺える。

次に、音楽制作物や音楽という技術自体というよりも、音楽の過程にある「作曲」という行為に「まち想い」を結びつけ、公共性を生み出した点である。厳密には、作曲をする際の意識の向け方、エピソードの振り返りや場面の設定などを行う際の心の動きが「まちを想う」ことと類似しており、その行為は自分一人の趣向から始まるものの、ワークショップ参加者同士や先導者と共に意見を交換しながら行うことで多角的に見つめ直すことができる。ここで私(private)から公(public)へと意識の範囲が拡大する点から、二つは双方に依存しており、私的利益(ここでは好きなものを伝えたいとし楽曲完成を目指すこと)こそが公共利益(ここではその楽曲を聞くことで生まれる感情、興味、共感など)を実現し、双方共に地域への愛着を高めうる。また他者の耳に届いた瞬間、制作過程の様子や込めたメッセージなどが楽曲に付随する情報として再生される。聞き手はその楽曲を聴きながら、『中立的な観察者』として想いに触れ、『同感または共感による是認』(註6)を得ることとなる。まさにアダムスミス的な公共性を生み出す起点となっている。これは楽曲を聴いたまちの人へのインタビュー(添8)からも、感動や安らぎを与える作品となったことが伺える。

3.国内外の他の同様の事例と比較して何が特筆されるのか
『パーソナル屋台』(註7)と比較した、ソフトな場のデザインを行った点が挙げられる。田中元子氏の唱える『マイパブリック』の実践としても今回参考にさせていただいたが、今回コロナ禍の煽りを受け偶発的ではあったもののオンライン化により、街の一角やおしゃれ空間を必要としなかった。ハードとしての場を作る、空き家のリノベーションやビル一角のオープンスペース化、もっと広く都市計画レベルでの人の動きといったデザインではなく、文化、雰囲気といったソフトとしての場のデザインを行った。市民みながシンガーソングライター、ライブパフォーマーに成り得ることを証明し、その成功体験を各自が納めたことで、「曲を作っていいんだ」という気付き、そして「人に伝える方法」として音楽という選択肢を提供した。これはオンラインでも実現可能な場のデザインであり、過疎地域だろうと良い物件が無かろうと実践できる。文化はハード的な「地域」に捉われない。しかし相反するようだが、歌になる対象はソフト的な地域、日々の営みに存在し、双方依存の関係にあると捉えることができる。

次に、各自の価値観や大切にしている風景をテーマに制作するため、誇りや魅力を言語化することになり、シビックプライド醸成の起点となることである。『シビックプライド』(註8)とは『まちに誇りを抱き、よりよいまちにするためにまちづくりや街の魅力発信などに積極的に関わろうとする意識』のことであり、『シビックプライドを図る物差しは多面的』(註9)であるが、「作曲」がそれ自体を抽出させる装置となる。生活のどの場面に、どの風景に価値を感じるかは人それぞれであり、統計を取るには時間と労力を要するが、それを楽曲として落とし込むことで濃縮された情報を得ることができる。『議論し、共有することで初めてシビックプライドが生まれる』(註10)ために、本活動では楽曲が媒介となって実現する。

4.今後の展望について
この報告書をまとめる中で『第二期鹿児島市シティプロモーション戦略ビジョン』(註8)へのパブリックコメントを寄せる機会があった。ここで書き寄せたが、シビックプライド醸成への有用性をさらに確証づけていくために、対象者を市民のなかでも居住年数が浅い者、『まち想い』初心者に対しても作曲ワークショップを行うことで、まちについて知らないことがあるという気付きや気づかなかった魅力など、まちに関わるきっかけを生み出していくことができる。
同時に今回の創作研究助成制度内では断念したが、ワークショップの映像化を行うことで多くの関心を寄せ、興味を抱く方や実践したい地域が生まれると予想できる。各工程の流れ、参加者の声を織り交ぜながら、いかにして『まち想い』に触れることができたかを伝えていく。同時に『まち想い』の事例をデータとして残し評価や分析に用いられるよう、データの蓄積を行う。事例とサンプル数を獲得することで、シティプロモーションにおいて有用な意味づけを行い、作曲ワークショップを拡げていくことができる。商業的音楽ではなく、知らない、しかし『まち想い』という共通の匂いがするご近所さんの作った曲が流れるまちが未来に描ける。これはまさにシティプロモーションにおける『まちの魅力や価値の発掘・創造・磨き上げを行い、国内外に発信することにより、都市イメージを高めるとともに、まちを想い積極的に関わろうとする“鹿児島ファン”を増やす』(註8)ことにつながる。

5.まとめ
以上昨冬取り組んだ筆者の活動であったが、未熟な点は多々見られる。サンプル数が少ない中での活動評価である点(延べ参加者10名、完成楽曲4曲、録音2曲)や、参加者フィードバックの収集方法、分析方法においてごく初歩的な感想シートのみの収集となっている点が挙げられる。しかし肌身で感じた、人の想いが楽曲に落とし込まれ造形物として触れられるようになる工程の感動とその目の輝き、声の躍動はこの「作曲」行為が間違いなく心を震わせ、まちを想い、それを伝えることに適した過程であると確信させるに十分であった。今後も筆者自身のマイパブリックを拡げていく、まちとの関わりを深めていくという意味も込めて、活動を続けていきたい。

  • 1 添1) 第二期鹿児島市シティプロモーション戦略ビジョン パブリックコメント
    (1月18日 筆者作成)
  • 2 添2) 作曲ワークショップ企画説明
    (2021年9月12日 筆者撮影)
  • 3 添3)作曲ワークショップ内資料2
    (2021年9月12日 筆者撮影)
  • 4 添4) 作曲ワークショップ オンライン開催様子
    (2021年9月26日 筆者撮影)
  • 5 添5) 作曲ワークショップ 作品発表 名山ナイトバザール
    (2021年12月19日 撮影者 有川)
  • 6 添6) 2021年度『PLAY CITY! DAYS』との連携 参加者・運営と共に
    (2021年12月19日 撮影者 肥後)
  • 7-1
  • 7-2
  • 7-3
  • 7-4 添7) 制作楽曲 詩集
    (2022年1月18日 筆者作成)
  • 8-1
  • 8-2 (添7) 作曲ワークショップ インタビュー・アンケート書き起こし
    (2022年1月23日 筆者作成)

参考文献

註1)鹿児島市総務局市長室広報戦略室、『令和元年度「PLAY CITY! DAYS」』、https://www.city.kagoshima.lg.jp/kouhousenryaku/pcd/intro.html 、最終閲覧2022年1月23日

註2)KAGOSHIMA PLAY CITY! DAYS、『鹿児島市を楽しもう!PLAY CITY! DAYS 2021 PR動画「小さな一歩」』、https://youtu.be/NEql7J3AvIg 、最終閲覧2022年1月20日

註3)tezrockmusic、『Hatomusubi』、https://tezrockmusic.com/hatomusubi/ 、最終閲覧2022年1月20日

註4)渡辺俊一 編、『公益社団法人日本都市計画学会 都市計画論文集Vol.46 No.3 2011年10月 88.「まちづくり定義」の論理構造』、https://www.jstage.jst.go.jp/article/journalcpij/46/3/46_3_673/_pdf/-char/ja 、最終閲覧2022年1月16日

註5)鹿児島市総務局市長室広報戦略室、『鹿児島市シティプロモーション戦略ビジョン』、https://www.city.kagoshima.lg.jp/kouhousenryaku/citypromo/documents/strategyvision.pdf 、最終閲覧2022年1月16日

註6)山﨑怜・多田憲一郎 編、『新しい公共性と地域の再生ー持続可能な分権型社会への道ー』、株式会社昭和堂、2006年2月20日

註7)田中元子 著、『マイパブリックとグランドレベルー今日からはじめるまちづくり』、株式会社晶文社、2017年12月10日

註8)鹿児島市総務局市長室広報戦略室、『第二期鹿児島市シティプロモーション戦略ビジョン」(素案)』、http://www.city.kagoshima.lg.jp/kouhousenryaku/citypromotion/vision/documents/cp-soan.pdf 、最終閲覧2022年1月18日

註9)伊藤香織 編、『公益社団法人 日本都市計画学会 都市計画論文集Vol.52 No.3 2017年10月 都市環境はいかにシビックプライドを高めるかー今治市を事例とし た実証分析ー』、
https://www.jstage.jst.go.jp/article/journalcpij/52/3/52_1268/_pdf 、最終閲覧2022年1月18日

註10)内田奈芳美 ほか 寄稿、『特集シビックプライド〜いま地域に必要なこと〜 文化のまちづくりとシビックプライド〜金沢における2つの循環〜』、http://www.hitozukuri.or.jp/jinzai/seisaku/81sien/01/19/Thinking19.pdf 、最終閲覧2022年1月19日

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