上村 博(教授)2021年3月卒業時の講評

年月 2021年3月
今年度の卒業研究は例年にも増してさまざまな地域のレポートを読ませていただきました。いつものように日本の各地、青森、横浜、川越、神戸、博多、浜松、東京、福井、岸和田など、いろいろな土地の事例が豊富だったほかに、今回は海外の事例についても実にたくさんありました。エジプト、ミャンマー、ドイツ、アイルランド、アメリカ、台湾、フランス、ベルギーなど、それぞれ現地で実際に観察・調査された充実した内容のレポートでした。
全体に、安易な紹介に終わることなく、自分なりの視点をもったものが多かったです。他方で、取り上げた文化資産の特色を示すための他の事例との比較があまりうまく有効ではないものも散見されました。ひとつの事例だけしか見ずに、その特色を指摘することは不可能です。国内外、あるいは過去の類似例と対照することで、はじめて事例の独特な性格が浮かび上がってきます。そして、比較するのは、もちろん共通の物差しがある者同士でなくてはなりませんが、その共通の物差しは、「これは!」と思う注目ポイントに関わるものでないと、機能しません。たとえば、もし東南アジアでのコーヒーを取り上げる場合、それを小規模生産者のブランディングを議論するのか、現地独特のコーヒー消費の風習について注目するのかで、比較の対象は変わってきます。その場合、コーヒー豆やコーヒー飲料といったモノで比べる必要はなく、他のフェアトレードの農産物や喫茶文化と対照するほうが有効なこともあります。
いずれにせよ「これは面白い!なんでこんなことが可能になったんだろう?」ということが出発点です。ぜひこれからも、好奇心と探究心のアンテナを張り巡らせてください。