Dazzling Pigment / まばゆい顔料
―自作品と画材ラボPIGMENTの新感覚的な取り組みについて―
1はじめに
色彩から音や、香り、温度などを感じる時、人の感覚は鋭く研ぎ澄まされている。絵を描く時も同様に、色や形と対話しながら、一番心地いい形や、魅力的な色を置くように、1つの技法や1枚の作品の与える影響は大きく、時に人生をも左右するような感動や憧れ、新感覚という強い輝きを与えるものになる。
今回は自作品と取材に行った画材ラボPIGMENTの新しい取り組みと照らし合わせて基本的データにはじまり、評価点や、私の取り組みと企業の取り組みの共通点や、今後の展望などを記述する。
2基本データ
画材ラボPIGMENTとは、「色彩とマチエールの表現」を追求するラボラトリーである。またアカデミー、ミュージアム、ショップを兼ね備えた「複合クリエイティブ機関」でもある。[1*]
画材ラボPIGMENT所長の岩泉氏曰く、東京・品川区の一角に画材ラボPIGMENTはある。画材ラボPIGMENTのスタッフは約10人、運営母体である寺田倉庫のスタッフは約100人といった規模である。空間デザインは新国立競技場を手掛けている建築家、隈研吾氏によるものだ。[2*]
画材ラボPIGMENTに入ると壁面には多色の顔料が色彩順に並べられている。顔料の他にも膠や、刷毛なども壁面に並んでいるのが見受けられる。
画材ラボPIGMENTの母体である寺田倉庫が創立されたのは1950年だ。
「1950年当初、寺田倉庫は米の倉庫だった。」と、画材ラボPIGMENT所長の岩泉氏は語っている。倉庫に預ける物が次第に米からワインやアートなどに変化し、各商品を預かるのに最適な環境を整える設備投資を行ってきたという。その中でも特にアートに関しては、作品を預かるということに付随して、輸送や展示サポート、修復事業、ギャラリースペースやアトリエ運営など、アートを通じた文化発信にまで発展してきた経緯がある。
[3*]
3歴史的背景について
1879年に北部スペインのカンタベリア地方の洞窟で、その地の貴族が一緒に連れてきた5歳児の娘が天井や壁に描かれていた動物を見つけたという説があり、このアルタミラ洞窟の絵画は最古の洞窟壁画という説がある。[4*] 旧石器時代に描かれたこの壁画で使われていた顔料は、黄土、木炭、マンガン酸化物などとも言われていることから、現在絵画制作に使われている顔料とさほど変わりない物質を使っていたことが分かる。[5*]
日本画の画材を中心に西洋画の画材も置いている画材ラボPIGMENTであるが、もともと日本画と西洋画における東洋西洋の分野的関係はそれほどなく、両技法的要素は分野横断的で、顔料に混ぜるバインダー(メディウム)を変えることで、日本画にもなり油彩にもなるということだった。
したがって最古の洞窟壁画から受けとれるように、人間の知恵から始まっていたことや、自分が体験した光景を絵画で「伝える」という用途であったと言えるという説もできるかもしれないが、もしそうであればなぜ日の目を浴びない洞窟に描いたのかという謎が残る所でもある。
また工業的に絵具が製作されるようになったのは、18世紀以後と言われている。最初に青の合成顔料として登場したのは紺青で、1704年にドイツのベルリンで開発に成功し、これ以後、大量に生産され、安価に供給できる合成顔料が一般的に普及するようになった。19世紀には染料と金属を合成した無機顔料より発色が鮮やかな有機顔料が登場。[6*]
20世紀以後に使われるようになった[7*] ミクストメディアは、作品の表記として使われている。昨今では、作品の技法をつまびらかに表記したくないという理由でミクストメディアとうたっている場合もないともいえない。技法材料の変遷は多様化を物語っている。
4国内外の同様の事例と比べて何が特筆されるのか
海外でも絵具販売店の老舗はあるが、画材ラボPIGMENTのように「複合施設的な顔料のミュージアム、ショップ、また教育を提供する場所を兼ね備えた所は、世界的に見ても例がない。」と岩泉氏は語り、世界的にも類を見ない珍しい取り組みだと言える。画材ラボPIGMENTは現在、海外の美術館からもワークショップなどのオファーを受けているが、その事からも事業の「着眼点の新鮮さ」が特筆される。
5評価する点
顔料を使って何か作品にして発表するということではなく、顔料そのものの最大限の魅力を引き出すという事がミュージアムとして必要とされる。そのためにはどう展示したら美しいかという工夫が必要とされるが、壁面に掛けられた顔料や筆の配列などといった展示方法の美しさから十分に工夫がなされている事、またワークショップにおいても顔料の特性を理解していなければこのような取り組みはできないが、専門家がいる事で質の高い技法のワークショップが行えている事、そして「ここには海外の人がたくさん訪れる」と岩泉氏は述べていたが、英語対応のできるスタッフを常駐させることで、日本の人のみならず世界に向けて文化の発信を行えている事、また海外から訪れる人が多い事も評価できる点だと言える。
6自作品について
私の作品は、見ていて知覚的に心地がいい色彩を平面作品上で実践的に研究したり、日頃から特殊な顔料(クローム顔料や、ホログラム顔料)を仕入れて絵具を制作したり、色彩から音や、香り、言葉を紡ぐことで、共感覚的な作品を作る試みをしている。色彩的な作品を作るのは主に女性に多いという事が皆本二三江さんによって研究されていることも顕著である。[8*]
自作は技法的において「絵画」に属するが、画布にCGデータをプリントしたものの上に油彩やアクリル絵の具でハッチングするという方法を取っている。
意味においては、顔はどこにも描かれていないが、自分をつかみどころのない水面になぞらえた「自画像」であるという事が大きい。
色彩的で知覚的な研究は2013年頃から始めて5年になる。
色彩表現は「夢」の中にいるような共感覚的な要素といえるが、その要素の評価点は色彩が輝くのが一瞬である部分にある。
共感覚的な作品とは、例えば情景や色彩が見えてくるような著書があるが、「夜に」とただ表現するのと、「ピーコックグリーンの夜に」と表現するのとでは見える世界が全く異なるものになるというように、言語が備えた色彩のイメージを再び絵画に具現化する事を表現にしている。
7画材ラボPIGMENTと自作品の着眼点の共通点
温故知新という言葉があるが、私の作品も、画材ラボPIGMENTの取り組みも
その諺の理にかなっているのではないだろうか。温故知新とは古いものを捨てず、また新しいものだけではない、古いものを知って、そこから新しいものを見出すという語義である。
例えば、この場合、顔料の取り組みや私が行う油彩という技法も、一見古く見られがちだが、決してそうではなく、試行錯誤次第では新しくもなり、輝きを増す取り組みだと言っても過言ではないだろう。そのような新鮮さとアカデミックさが入り混じった着眼点が両者には共通していると言える。誰も考えない着眼点は、他の第三者に発見や感動を与える起爆剤になりうるので、たった1人の人間、たった1瓶の顔料、たった1枚の絵画、たった1つの発想は非常に侮れないものだと考えている。
8今後の展望について
今後の展望として、岩泉氏は顔料にまつわる専門的な学校を設立したいという事を語っていた。また私の展望としても、新感覚的な極彩色な作品を多く発展させたいと考えている。また私は展示などを多く重ねていきたいが、一定の作品の質を保ったまま展示をしていくという事は、至難であるため、作品が熟成されてきた30代後半頃に大規模な展示に取り掛かりたいと考えている。
参考文献
参考文献・参考情報
[1*]画材ラボPIGMENT冊子より
[2*]隈研吾氏に関する情報
nippon.com
インタビュー・文、清野由美、執筆年不明
https://www.nippon.com/ja/people/e00101/(2018年1月24日アクセス)
[3*]寺田倉庫に関する情報
NEC ビジネスリーダーズスクエア
文・構成、宮崎智之、2017年執筆
https://wisdom.nec.com/ja/innovation/2017072701/index.html(2018年1月24日アクセス)
[4*]洞窟壁画に関する情報
顔料総論
熊野勇夫、顔料講座第1講、1982年執筆
[5*]アルタミラ洞窟の詳細
スペイン世界遺産、アルタミラ洞窟とスペイン北部の旧石器洞窟美術
執筆者、年数不明
http://www.スペイン世界遺産.jp/pages/northwest/altamira.html(2018年1月24日アクセス)
[6*]顔料の歴史に関する情報
顔料の歴史、トーヨーカラー、執筆者不明、2018年更新
http://www.toyo-color.com/ja/products/generic/about.html(2018年1月24日アクセス)
[7*]ミクストメディアに関する情報
art scape、Art words
ミクストメディア
http://artscape.jp/artword/index.php/%E3%83%9F%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%A1%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%A2
長チノリ執筆、執筆年不明(2018年1月24日アクセス)
[8*]文献
絵が語る男女の性差―幼児画から源氏物語まで―
皆本二三江著、東書選書、1986年
[9]文献
絵画の技法
文庫クセジュ、ジャン・リュデル著、1995年