「坂のまち、尾道」〜美しい街並みと景観〜
1.はじめに
尾道は、広島県に位置する美しい港町であり、その風景や文化的な価値から、日本遺産に認定されることとなった魅力的な地域である[資料1]。本稿では尾道市の坂道と路地に視点をおき、景観及びその空間の使われ方をデザインの観点から考察する。
【基本データ】
尾道市は、広島県の南東部に位置し、広島市から西へ約70キロメートルの距離にある。瀬戸内海に面した地勢にあり、その自然環境は美しい景観を形成している[資料2]。
2023年時点での人口は約13万人と比較的小規模な都市であるが、観光地としての魅力があり、年々観光客の数が増加している(註1)。尾道の自然景観や歴史的な遺産は、多くの訪問者を引き寄せている。
【歴史的背景】
尾道は江戸時代に瀬戸内海を航行する船の要所として発展し、商業が盛んであった(註2)。この時代の建造物や街並みが現在でも保存されており、歴史的な価値が高いといえる(註3)。
また、文学と芸術の拠点として、尾道は多くの文学作品や映画の舞台となり、多くの作家やアーティストに影響を与えた(註4)。特に林芙美子の小説「放浪記」に登場し、その文学的なつながりは尾道の評価に大きく寄与している(註5)。
2.事例のどんな点について積極的に評価しているのか
尾道市の坂道と路地の景観に関して、その高い評価にはさまざまな要因が寄与している。具体的に、どのような側面が注目を浴びているかを詳しく探る。
尾道市の坂道と路地の景観においては、その独自のデザインと配置が特に際立っている。坂道が織りなす変化に富んだ高低差は、街の全体的な動線と視覚的な魅力を巧みに形成している。この地形の独自性は、訪れる者に独自の体験と印象をもたらし、観光の魅力を一段と引き立てている。
例えば、坂道の迂回路や急峻な坂が絶妙に配置され、歩くことで異なる視点から風景を楽しむことができる。これにより、訪れる者は街の奥深さや変化に富んだ美しさを感じ取ることができ、観光地としてだけでなく、散策や探索が楽しめる魅力的な場となっている。
路地の配置や広がりも見逃せない。これらの狭い路地は、伝統的な建築様式や歴史的な雰囲気を感じさせ、尾道の過去と現在が見事に共存していることを表現している。歩くたびに新たな発見があり、建物の間や路地裏に広がる非日常的な空間が、訪れる人々に興味と驚きをもたらしている。
さらに、景観の評価において重要なのは地域のコミュニティとの結びつきである。坂道や路地が地元住民や観光客を引き寄せ、地域の特産品や文化を楽しむ場として機能していることが確認されている。地元の商店や飲食店が路地に面して営業していることで、地域経済に貢献し、持続可能な発展を促進している。
尾道市の坂道と路地はデザインの観点から見ても、地域の歴史や文化を踏まえた上で素晴らしいバランスを保っており、その景観や空間の使い方が豊かな体験を提供している。このような魅力的なデザインが尾道の観光地としての評価を高め、訪れる人々に長らく愛される要因となっている。
3.国内外の他の同様の事例と比較して何が特筆されるのか
日本遺産として指定された尾道市の坂道と路地の景観と、世界文化遺産である清水寺への参道である「清水坂」について、特筆すべき点を挙げつつ、両者の比較を通して魅力を探る[資料3] [資料4]。
尾道市の坂道と路地を他の同様の事例と比較する際、まず文化的背景、デザイン、そして地域コミュニティとの結びつきの三つの要素が際立っている。文化的背景において、尾道市は江戸時代の商業発展や文学芸術の拠点として栄え、その歴史が現在も魅力的な観光地として息づいている[資料5-A,B] [資料6-A,B]。これとは対照的に、清水坂は神社への参詣が中心であり、宗教的・歴史的な価値が強調されている[資料5-ア,イ] [資料6-ア,イ]。
デザインの観点では、尾道市の坂道と路地は巧妙な配置により独自性が際立っている。坂道の変化に富んだ高低差が、街の全体的な動線と視覚的な魅力を引き立て、訪れる者に独自の体験と印象をもたらしている[資料5-C,D] [資料6-C,D]。これに対して、清水坂は静けさや荘厳さを追求したデザインが特徴で、参拝者に神聖な雰囲気を醸し出している[資料5-ウ,エ] [資料6-ウ,エ]。
地域コミュニティとの結びつきにおいても、尾道市が注目される。坂道や路地が地元住民や観光客を引き寄せ、地域の特産品や文化を楽しむ場として機能していることが、地域経済に対する積極的な貢献となっている[資料5-E,F] [資料6-E,F]。一方で、清水坂は主に神社への参詣が目的であり、地域コミュニティとの結びつきが相対的に限られている[資料5-オ,カ] [資料6-オ,カ]。
総合的に見れば、尾道市の坂道と路地は他の同様の事例と比べても、その多面的な魅力が際立っている。文化的な豊かさ、巧妙なデザイン、そして地域社会との深い結びつきが相まって、観光地としての魅力だけでなく、地元のコミュニティにも長く愛され、持続可能な発展を遂げているであろう。
4.今後の展望について
尾道市企画財政部文化振興課にインタービューを行ったところ、尾道市の美しい坂道と路地の景観を維持しながら、地域をより持続可能で魅力的なものに発展させるためには、今後検討すべき課題や方針がいくつか存在することがわかった[資料7]。
地域住民との連携を一層強化し、コミュニティ参加型のデザインやイベントを積極的に促進することが必要である。地元の声を反映させつつ、地域住民と観光客の交流を促進する取り組みやワークショップを通じて、共感と協力の文化を醸成していくと考える。これにより、地域社会の一体感が一層強化され、観光地としての魅力も一段と向上するであろう。
また、清水寺のような歴史的な場所の成功事例を参考に、伝統と現代の調和を図る取り組みが重要である。歴史的な価値を守りつつも、新たなアートやデザインを導入することで、訪れる人々に新しい視点や体験を提供できる。これにより、尾道市の魅力が時代と共に進化し続けることが期待される。
環境への配慮も欠かせない。持続可能な観光開発を推進し、エコフレンドリーなデザインや再生可能エネルギーの活用を促進することで、美しい景観を保ちながら地域の自然環境も守ることが可能であり、これは将来の世代にも継承可能な魅力的な地域への貢献であると言える。
最後に、デジタルテクノロジーの活用も考慮すべきである。スマートな観光案内やデジタルアートの導入は、観光体験をより豊かにし、訪れる人々に新たな感動を提供でききる。これにより、尾道市の坂道と路地がデジタル時代においても魅力的な観光地として存在し続けることが期待できる。
5.まとめ
本報告書では、尾道市の坂道と路地に視点をおき、景観及びその空間の使われ方をデザインの観点から詳しく探究した。尾道の景観は、その豊かな歴史と文化、美しい風景、そして地域社会の協力に支えられている。
尾道市の坂道と路地は、その独自のデザインと配置によって形成された景観が、訪れる者に多様な視点から美しい風景を楽しむ機会を提供している。この地形の独自性は、観光の魅力を一段と引き立て、地域社会との結びつきを強化している。
特に、坂道の迂回路や急峻な坂が絶妙に配置され、歩くことで異なる視点からの風景を楽しむことができる点は評価されている。路地もまた、伝統的な建築様式や歴史的な雰囲気を感じさせ、尾道の過去と現在が共存していることを表現している。これらの空間は、訪れる人々に興味と驚きをもたらし、地域の歴史や文化に触れる機会を提供している。
比較的小規模な都市である尾道市が、地域のコミュニティとの結びつきを大切にし、地元の商店や飲食店が景観に調和しながら営業することで地域経済に貢献している点も注目されている。このような魅力的なデザインは、観光地としての評価を高め、訪れる人々に愛され続けている。
今後の展望では、地域住民との連携を強化し、コミュニティ参加型のデザインやイベントを通じて一体感を醸成することが重要である。また、伝統と現代の調和を図りつつ、環境への配慮も忘れずに進化を続け、デジタルテクノロジーの活用も視野に入れた持続可能な発展が期待されている。これにより、尾道市の坂道と路地は時代に適応し、その魅力を持続可能な未来に継承するための素晴らしい機会を提供していると考える。
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【表紙】坂の上から見た尾道水道
(写真:2023年7月30日 筆者撮影) -
【資料1】所在地(尾道市、京都市)
(資料:2023年12月16日 筆者作成/地図:国土地理院公式サイトより引用、2024年1月6日 最終閲覧/写真:尾道市 2022年7月23日 筆者撮影、京都府 2018月1月8日 筆者撮影) -
【資料2】尾道水道の断面図
(資料:2023年12月16日 筆者作成) -
【資料3】清水寺参道の断面図
(資料:2023年12月16日 筆者作成) -
【資料4】尾道と清水寺参道の景観
尾道の景観)、
(資料:2023年12月21日 筆者作成/地図:国土地理院公式サイトより引用、2024年1月6日 最終閲覧/写真:2023年7月30日 筆者撮影)、
清水寺参道の景観)、
(資料:2024年1月6日 筆者作成/地図:国土地理院公式サイトより引用、2024年1月6日 最終閲覧/写真:2018年8月12日 筆者撮影)。 -
【資料5】尾道と清水坂の広範囲図
尾道の広域図)、
(資料:2023年12月21日 筆者作成/地図:国土地理院公式サイトより引用、2024年1月6日 最終閲覧)、
清水坂の広域図)、
(資料:2024年1月6日 筆者作成/地図:国土地理院公式サイトより引用、2024年1月6日 最終閲覧)。 -
【資料6】尾道と清水坂の景観の比較
A)尾道ベッチャー祭り、
(写真:2022年7月23日 筆者撮影)、
B)林芙美子像、
(写真:2022年7月23日 筆者撮影)、
C)坂道の変化に富んだ高低差、
(写真:2023年7月30日 筆者撮影)、
D)街の全体的な動線と視覚的な魅力、
(写真:2023年7月30日 筆者撮影)、
E)文化を楽しむ場 はちみつBeeio、
https://www.instagram.com/83beeio_onomichi/
(写真:2022年7月23日 筆者撮影、2024年1月6日 最終閲覧)、
F)地域の特産品 大谷産業株式会社、
(写真:2023年7月30日 筆者撮影)、
ア)西門と清水寺三重塔、
(写真:2018年8月12日 筆者撮影)、
イ)音羽山 清水寺HP 知られざる清水寺 音羽山ワンダーランド 清水寺参詣曼荼羅、
https://www.kiyomizudera.or.jp/read/%E9%9F%B3%E7%BE%BD%E5%B1%B1%E3%83%AF%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89
(絵図:音羽山清水寺公式サイトより引用、2024年1月6日 最終閲覧)、
ウ)清水坂の静けさや荘厳さを追求したデザイン、
tripnoteHP 清水坂、
https://tripnote.jp/gion-higashiyama/place-kiyomizuzaka/photo/59354
(写真:tripnote公式サイトより引用、2024年1月6日 最終閲覧)、
エ)清水寺仁王門、
(写真:2018年8月12日 筆者撮影)、
オ)清水坂 神社への参詣、
(写真:2018年8月12日 筆者撮影)、
カ)清水寺、
音羽山 清水寺HP 伽藍の風景 清水寺の四季 秋、
https://www.kiyomizudera.or.jp/season.php
(写真:音羽山清水寺公式サイトより引用、2024年1月6日 最終閲覧)。 -
【資料7】取材記録
尾道市歴史文化まちづくり推進協議会、
尾道市企画財政部文化振興課 西井 亨氏、
(2024年1月9日 メールでインタビュー)。
参考文献
〈註〉
(1)尾道市役所HP 住民基本台帳人口 令和5年~令和6年、
https://www.city.onomichi.hiroshima.jp/soshiki/14/59024.html
(2024年1月6日 最終閲覧)、
(2)勝矢倫生、
『徳川期尾道の経済構造 ~問屋商事の展開を中心に~』、
尾道市立大学学術リポジトリ、
尾道大学地域総合センター叢書、
巻2号 [尾道まちづくり : 過去・現在・未来]、
発行日 2008年8月、
https://onomichi-u.repo.nii.ac.jp/records/621
(2024年1月7日 最終閲覧)、
(3)尾道市HP 日本遺産のまち尾道デジタルアーカイブ、
『常称寺ー文化財の保存修理と埋蔵文化財調査』、
尾道の歴史と遺跡シリーズ9、
尾道市企画財政部文化振興課、
発行日 2022年3月、
https://www.city.onomichi.hiroshima.jp/soshiki/7/32709.html
(2024年1月7日 最終閲覧)、
(4)内閣府HP 第3章 第5節 ケーススタディ1:「映画の街」尾道、
https://www5.cao.go.jp/j-j/cr/cr07/chr07_3-5-3.html
(2024年1月7日 最終閲覧)、
(5)林芙美子、
『放浪記』、
新潮社、
https://www.shinchosha.co.jp/book/106101/
(2024年1月7日 最終閲覧)。
〈参考文献〉
・尾道市HP 港町の発展と北前船、
https://www.city.onomichi.hiroshima.jp/uploaded/attachment/4691.pdf
(2024年1月7日 最終閲覧)。
〈参考Webサイト〉
・国土交通省 国土地理院HP 地理院地図、
https://www.gsi.go.jp/tizu-kutyu.html
(2024年1月6日 最終閲覧)、
・日本遺産尾道市HP、
http://nihonisan-onomichi.jp/
(2024年1月6日 最終閲覧)、
・尾道市役所HP 尾道市が日本遺産に認定!!、
https://www.city.onomichi.hiroshima.jp/soshiki/7/4024.html
(2024年1月6日 最終閲覧)、
・尾道市HP、
https://www.city.onomichi.hiroshima.jp/
(2024年1月6日 最終閲覧)、
・おのなび 尾道観光情報、
https://www.ononavi.jp/
(2024年1月6日 最終閲覧)、
・尾道商工会議所HP、
https://onomichi-cci.or.jp/
(2024年1月6日 最終閲覧)、
・因島商工会議所HP、
https://in-no-shima.jp/
(2024年1月6日 最終閲覧)、
・尾道しまなみ商工会HP、
https://onomichi-shimanami-shoko.jp/
(2024年1月6日 最終閲覧)、
・観光なび いんのしま 一般社団法人 因島観光協会、
https://kanko-innoshima.jp/
(2024年1月6日 最終閲覧)、
・尾道 Street View360、
http://nihonisan-onomichi.jp/street360/
(2024年1月6日 最終閲覧)、
・日本遺産 村上海賊、
https://murakami-kaizoku.com/
(2024年1月6日 最終閲覧)、
・JAPAN HERITAGE、
https://www.japan.travel/japan-heritage/
(2024年1月6日 最終閲覧)、
・京都府HP 世界遺産(世界文化遺産) 清水寺、
https://www.pref.kyoto.jp/isan/kiyomizu.html
(2024年1月6日 最終閲覧)、
・清水寺門前会 門前会マップ、
http://www.monzenkai.com/monzen_map.html
(2024年1月6日 最終閲覧)、
・音羽山 清水寺HP 知られざる清水寺、
https://www.kiyomizudera.or.jp
(2024年1月6日 最終閲覧)。
〈参考動画〉
・YouTube 箱庭的都市 尾道市、
https://www.youtube.com/watch?v=lG3lUCkeXZg
(2024年1月6日 最終閲覧)、
・YouTube 日本遺產尾道市介紹視頻、
https://www.youtube.com/watch?v=9adCC7f4ttw
(2024年1月6日 最終閲覧)、
・YouTube 【日本遺産】尾道水道が紡いだ中世からの箱庭的都市、
https://www.youtube.com/watch?v=KYfNkuDhZTs
(2024年1月6日 最終閲覧)、
・YouTube 音羽山 清水寺の紅葉 / Kiyomizu-dera / 京都いいとこ動画、
https://www.youtube.com/watch?v=HDkCoRMuz9M
(2024年1月6日 最終閲覧)、
・YouTube 【清水坂🇯🇵】京都・世界遺産清水寺への道~Kiyomizuzaka the way to Kiyomizudera temple~、
https://www.youtube.com/watch?v=mQ4iuG-p6bI
(2024年1月6日 最終閲覧)。
〈調査協力〉
・尾道市歴史文化まちづくり推進協議会、
尾道市企画財政部文化振興課 西井 亨氏、
(2024年1月9日 メールでインタビュー)。