「まつぶし緑の丘公園」にみる、建設発生土を有効再利用した公園デザイン
=はじめに=
「建設発生土」とは、建設工事や土木工事などにともなって発生排出される土砂のことで、一般的には建設残土ともよばれているものです。
持続可能な開発目標「SDGs」の取り組みとして「建設発生土」再利用の有効活用そして、今後の可能性について「まつぶし緑の丘公園」を例に、これからの公園デザインを考察する。
1.松伏町の基本データ
・所在地
松伏町は、埼玉県の東南部心から30km内の首都圏近郊整備地帯に属しており、東は江戸川を隔てて千葉県野田市、南は吉川市、西は大落古利根川を境に越谷市、北は春日部市に接している。
町域は、東西約4km、南北約7.5kmと南北に長い形をなし、行政区域面積は、16.20平方kmである。
地形は、一部北部の台地を除いて標高4mから6mの氾濫平野自然堤防で形成された、ほぼ平坦地で埼玉県の東南部に位置している
2.まつぶし緑の丘公園概要
まつぶし緑の丘公園は、 里山 広場、水辺からなる原風景を創出し、 樹林や野鳥、 草花、 昆虫などとのふれあいを通じ、 心も体も元気になる公園を目指し計画された。 県南東部地域の平坦な区域に、 地域のランドマークとなる緑豊かな丘を、 都市の 基盤整備に伴い建設工事により発生する建設発生土(建設残土)を活用しながら築くなど、 「人と環境にやさしい都市公園」 として整備されている。
・所在地
埼玉県北葛飾郡松伏町大川戸2606-1
座標北緯35度56分47.5秒 東経139度48分36.4秒面積15.3ha
・分類
都市公園(総合公園)
・基本設計
埼玉県越谷土木事務所が、パシフィックコンサルタンツ(多摩市)に委託。
公園設備及び施設:「里山ゾーン」「広場ゾーン」「水辺ゾーン」「遊び場ゾーン」などで構成。
・トイレ4か所、洋式水洗
・大型遊具2か所
・柵に囲まれた砂場1か所
・柵に囲まれた芝生コーナー1か所
・水遊びができる人口小川
・全長900メートルの遊歩道
・展望台
・水鳥が飛来するトンボ池
・バーベキュースペース
・喫煙所
・筋トレスペース、足つぼマッサージなどの健康コーナー
・駐車場は2か所あり、普通自動車126台と200台が駐車可能
※画像1.
同公園は、建設発生残土を利用して整備。盛土量は約80万立方mで、10か年計画で9次に分けて実施された。
基本方針:防災機能を重視し、調整池や多目的広場、緑を創出するほか、備蓄倉庫や耐震性貯水槽などが設置されている。
・建設費
公費 約36億円
※森林の整備・保全や身近な緑の保全・創出「彩の国みどりの基金」寄附金
・建設経緯
平成10年度
都市計画決定、事業認可
用地買収 (~平成13年)
平成12年度
工事着手建設発生土受入開始(~平成26年)※画像2.
平成19年度4月1日
広場ゾーンの一部開園(5.6ha)
累計5.6ha
平成22年度
広場ゾーンの拡張(2.9ha)
累計 8.5ha
まつぶし緑の丘公園トンボクラブ発足(約30名 維持管理班 環境整備班 環境調査班で活動)
平成25年度
水辺づくりプロジェクト開始 (~H24)
ワークショップ (水辺区域計画づくり 公募 25名と10回開催)
水質調査、 水生生物調査、 水辺整備など28回開催
広場ゾーン一部開園 (5.6ha)
※画像3.
まつぶし緑の丘公園ボランティアーズ発足
(花壇プランター、 植栽、 芝生広場、 流れ清掃、ゴミ拾い等)
水辺ゾーン開園(6.8ha)
累計 15.3ha
※画像4.
平成28年度
里山造成 約86万㎡
(建設発生土使用)
里山ゾーン開園(全面開園)
※画像5.
画像6.
平成29年度3月末、北側駐車場から頂上までの舗装園路と里山の頂上の展望台が完成、総敷地面積 26.5ha 工事終了
※画像7.
3.積極的に評価する点
・コンセプト
まつぶし緑の丘公園は「人と環境にやさしい都市公園」をコンセプトに
設計施工され、積極的に建設発生土を用いている。
・建設残土について
建設発生土の種類としては、「土砂および、土地造成のための土砂に準ずもの」「港湾、河川等の浚渫に伴って生ずる土砂とその他これに類するもの」がある。
そして、これらの建設発生土は、廃棄物処理法の規定に該当していないため、廃棄物としては扱われないが、産業廃棄物に該当するものが混入している場合は、それを取り除かなければ産業廃棄物に該当することになる。
・建設残土にまつわる諸問題
近年、建設発生土の処理は周辺空地の減少や環境保全の面からの空地利用規制そして海・河川埋立事業の減少等によりその適正な処理が難しくなっていることから、特に首都圏では不法投棄の増加が大きな社会問題となっている。1例としては、2021年7月3日に発生した熱海市伊豆山土石流災害がある、これは「建設発生土の処分」を目的に、静岡県土採取等規制条例に基づき盛り土の工事を熱海市に届け出をしたとされる業者による、ずさんな住宅造成地への建設発生土の盛土が原因ともいわれている。
このように、不適切な「建設発生土の処分」が行われる原因として適切な投棄場所が無いということも一因とされる。
まつぶし緑の丘公園は、その建設発生土を公園造成に有効利用し環境問題にも取り組むプロジェクトであるという点は評価できるところである。
4.まつぶし緑の丘公園の特筆すべき点
・ゾーン構成
まつぶし緑の丘公園の園内は「広場ゾーン」「水辺ゾーン」「里山ゾーン」の3つのエリアからなり、それぞれが人工的に創造されています。
なかでも、この公園のシンボルともなっているのが建設発生土を活用して造成された高さ25メートルの里山がある「里山ゾーン」で、山は自然環境を再現するように樹木も、麓は雑木林で上に行くに従い常緑樹が植樹されています。 ※画像8.
また、「水辺ゾーン」も人工的に自然を再現するように造成されていて、トンボ池とよばれる人工池には鯉などの淡水魚が放流され、自然界の水辺に生息する昆虫や数種類の水鳥を観測することができるビオトープがつくられています。
・特徴から特筆すべき点
ただ単に、遊具を備えた公園ではなく、失われた生態系を復元し、本来その地域にすむ生物が生息できるようにした空間を「SDGs」を中核に形成している点は、この公園の特筆すべき点といえます。
5.今後の展望について
・コンセプトとテーマからみる、
今後の展望
まつぶし緑の丘公園は、
「みんなで育てる緑の丘」をテーマに、「人と環境にやさしい都市公園」というコンセプトで造られた公園なので、完成した今も松伏町町民をはじめとする利用者の希望をもとに、運営されているという点において、より理想に近い公園のあり方が望まれる。
・SDGsの取り組み
建設事業が行われる限り、残土は発生します。不当に処分されている残土への対策とともに、今後発生する残土をさらに減少させるには、適切な残土処分を行うことにより再利用できる状態を作り出すなど、有効利用を模索することが急務であると考えます。
5.まとめ
筆者が取材の為に、まつぶし緑の丘公園を訪れたのは、2022.12.5.㈪曇天の午後でしたが、幼児連れの家族や高齢者が10数名「里山ゾーン」を
中心に散歩をしていました。
取材してあらためて、都市デザインは、ユニバーサルデザインが基本に安全で安心でき、長寿・福祉社会にふさわしいコミュニテイーや良好な都市環境・自然的環境を創出しレクリエーション活動の場となり、個性とうるおいのある都市づくりが大切であり、これからの公園づくりは、計画段階から事業実施、管理運営の各段階において、みんなで考え、みんなでつくり、みんなで育てる公園づくりを行うという運営が理想だと考えます。またデザイン的には「まつぶし緑の丘公園」にみられるように、
1)自然型、2)保全型、3)公園型、4)教育型、5)憩い型の5つの型の融合型が理想で「SDGs」という観点から建設残土を公園デザインに取り入れ有効利用することが望ましいと考えます。
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画像1.
「まつぶし緑の丘公園」
公園配置図
(作図.筆者)
参考:
http://www.town.matsubushi.lg.jp/www/contents/1264144172096/index.html -
画像2.
(筆者撮影:
撮影日2022.12.5)
里山ゾーン築山より、
隣地を望むと、未だ 田畑・原野がひろがり建設前の様子をうかがうことができる。 -
画像3.
(筆者撮影:
撮影日2022.12.5)
築山山頂より
広場ゾーンを望む -
画像4.
(筆者撮影:
撮影日2022.12.5)
(水辺ゾーンの生き物)
※水辺づくりプロジェクト
着工平成25年~
=魚=
淡水魚 鯉
=トンボ=
コシアカネ
シオカラトンボ
アジアイトトンボ
クロイトトンボ
ショウジョウトンボ
=水鳥=
オオハシ
マガモ
カルガモ
ミコアイサ
カイツブリ 等
∶参考
・水辺ゾーン園内案内図
https://www.go2park.net/photo/matsubushi_midori_tombo.html -
画像5.
(筆者撮影:
撮影日2022.12.5)
里山ゾーン
麓から頂上まで
散歩コースになっている -
画像6.
(筆者撮影:
撮影日2022.12.5)
里山ゾーン
建設発生土でつくられた築山
・麓から山頂まで470m
・海抜25m
・最大勾配70% -
画像7.
(筆者撮影:
撮影日2022.12.5)
「まつぶし緑の丘公園」
・県道野田岩槻線側駐車場
・駐車可能台数205台
・駐車場脇にある建設残土置場 -
画像8.
(画像制作筆者)
園内緑化 配置図
・広場ゾーン
・里山ゾーン
・水辺ゾーン
・他
参考:
http://www.town.matsubushi.lg.jp/www/contents/1398573356554/index.html
参考文献
参考文献:
・「危険! 建設残土
土砂条例と法規制を求めて」
畑 明郎(著/文)
出版社:自治体研究社
・
「公園が主役のまちづくり—パブリックスペースのつくり方・活かし方」
小川 貴裕(著作/監修)
出版社:工作舎
・「60分でわかる!SDGs超入門」
バウンド 著
功能聡子 監修
佐藤寛 監修
出版社:技術評論社
参考資料:
・松伏町HP.2023.1.7.閲覧
http://www.town.matsubushi.saitama.jp/
・「まつぶし緑の丘公園」HP. 2023.1/7閲覧
http://www.town.matsubushi.lg.jp/www/contents/1260148701019/
・埼玉建設新聞1999.7.30記事
2023.1. 7閲覧
https://www.nikoukei.co.jp/news/detail/3061
・埼玉建設新聞 2022.6.23記事
2023.1.7.閲覧
https://www.nikoukei.co.jp/news/detail/462494
・埼玉県建設発生土リサイクル協会
HP. 2023.1.7.閲覧
http://www.npo-skhrk.org/skhrk06.html
・産廃メディア
2020.2.29.記事
2023.1.7.閲覧
https://sanpai-media.com/column/881
・総務省HP.
令和3年12月20日
建設残土対策に関する実態調査
<結果に基づく勧告>
2023.1.7.閲覧
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/hyouka_031220000153740.html
・群馬県みどり市役所HP.
「西鹿田グリーンパーク」
2023.1.7.閲覧
https://www.city.midori.gunma.jp/www/contents/1658375239231/index.html
・彩の国みどりの基金HP.
2023.1/8.閲覧
https://www.pref.saitama.lg.jp/a0508/midorisaisei-top/kikin.html