湯宿温泉集落という「組」のある共同体に紡がれてきた人々の生活のデザイン、そしてこれから

山本 左紀子

はじめに
湯宿温泉集落には「組」(以下「」なし)という組織がある。この集落で生まれ育った私の夫(インタビューの項 4)は「組内は家族同然の付き合いで、風呂も共同湯で一緒だった」と言う。東京や横浜のマンションで育った私はその生活のあり方にとても驚いた。組と共にある生活とはいったいどのようなものだろうか?なぜ必要なのだろう?と私は思い4人の方々にインタビューし、ここでの暮らしの在り方はどのように紡がれてきたのか、そして、これからの社会にどの様に生かされていく可能性があるのだろうか、考察したいと思った。

1.基本データと歴史的背景
基本データ
住所:群馬県利根郡みなかみ町湯宿温泉(旧新治村布施)(キャプション1)。湯宿温泉集落(以下、湯宿と表記)は、東京の水源である利根川水系の一つである赤谷川と国道17号沿いの約110世帯からなる。集落内に湯(キャプション2)が湧き、湯元から湯を引いて6件の旅館、4件の共同湯(キャプション3)がある。この集落には大体10戸を一つとした組(註1)という組織があり組単位に様々な役割を担い集落内及び会館、河川の清掃、管理点検、道普請、花つくり運動、草刈り、各種祭典、年中行事(花見、祇園祭、秋の祭り、敬老会、どんど焼き、組の引継ぎ)、冠婚葬祭(註2)、要望、対策、名簿作成、区費の徴収などを行い(参考資料5より)、人々は日常的に協力し、集落の管理運営を行っている。

歴史的背景
赤谷川沿いに、縄文時代後期の遺跡が点在し、古くから人の住む地域であったことがわかる。小学校校区は一つ上の河岸段丘地にある須川集落にある須川小学校(現在は羽場集落から永井宿までの範囲の子どもたちの通う「にいはるこども園」)であり江戸時代より三国街道の須川宿の一部として結びつきがあった。街道利用の変遷、国道17号、関越自動車道、上越新幹線の開通、経済の発展とともに人の流れが変わり集落は時代とともに浮き沈みがあった。

2.事例のどんな点について積極的に評価しているのか?
この集落の組はどのような組織でどんな役割をもち、そこでの生活に生かされているのだろうか?
集落の各組は組長(伍長)、湯宿区区長、みなかみ町長につながる情報網としての機能を持つ。また、自分たちの住む地域を管理、点検し様々な問題を共有し、暮らしの安全、安心を守っている。組費を納め(註3)、集落として、また各々が役割、責任を持つ。組のメンバーは、組内、組同士以外にも多層的につながり、様々なグループや委員会(河川管理委員会、防災対策委員会、共同湯維持会、婦人会、老人会、消防団、子ども会、祭り、スポーツチーム等)をつくり、集落外部とのつながりや、顔の見えるコミュニケーションを日常的に持つ。7月第4土曜日には祇園祭があり、集落としてのまとまりを高める(河合市郎さんより聞き取り(以下、氏名のみ)。祭りはこの3年間コロナで中止されている)。
生活の中で自然資源を有しその恩恵に与るとともに危機意識も共有し、いざという時、助け合える人間関係(顔、年齢、健康状態を含めて)を築いている。近年の新しい取り組みとして、気候変動を鑑み、2018年に避難訓練を実施した。

3.国内外の他の同様の事例と比較して何が特筆されるのか?
ここでは、2018年に行った湯宿の避難訓練の事例と私の住むマンションの防災訓練及び、『Breeze』199号、201号(参考資料の1、2)掲載のトーア南晴海マンション、トーア辰巳マンションで行われた防災訓練の事例を比較しながら、組の特筆される点を述べてみたい。

2018年に湯宿では、ここが赤谷川沿いであることから、大雨による川の氾濫を想定し、川を渡った高台の須川集落の「にいはるこども園(旧須川小学校)」に全集落民が避難する訓練を行った。この訓練は組のネットワーク、災害避難名簿(参考資料5【事業関係】10より)、日頃の人間関係(註4)を基に行われた。問題点(キャプション4,註5)は、湯宿区区長、町長へあげ、改善へとつなげた。この経験は2019年10月の台風19号の襲来時、集落全員のスムーズで安全な避難に生かされた(山本俊一さん、河合市郎さん)。
私の住むマンション(95戸、築20年、東京都江東区)でも入居後1,2年は、管理人、理事会が中心となり消防署の方をお呼びして消防訓練という形でおこなったが、内容のマンネリ化、参加・不参加者の固定化がみられ、その後の実施は見送られたままだ。この地域が居住地内避難区域であることからどこかへ避難するという意識が低いことも影響している。都市でマンションに暮らす人々は、管理は管理人、掃除は掃除人、植栽の手入れは業者に任せ、住人同士の交流は希薄で挨拶程度、マンションの居住状態も知らない。『Breeze』掲載のトーア南晴海、トーア辰巳マンションの避難訓練は、住民の高齢化、家屋内の家具倒壊の危険を想定し、より安全なマンション内の集会室への誘導を行った事例である(註6)。この記事からも、名簿作成による住人の把握、有事における声掛けには、日頃の住民同士のコミュニケーションが大切であり、それにより、スムーズな避難行動へ、よりスピーディーな安全確保へと結びつくことがわかる。
湯宿の組は、情報網の機能を持ち、災害避難名簿を作成し、組の各戸、各人が組長をはじめ、役割を持ち責任を持って働く心構えと実行力を持つ点が特筆される。また日頃の付き合いのある組、組のつながりが、集落の様々な活動をより迅速に行えるようにしている点も大きい。

4.今後の展望について
現在の社会的な少子高齢化は、全国的な現象の一つである(参考資料6より)。みなかみ町でも小中学校の統廃合が続き、湯宿もその現象をまぬかれていない。みなかみ町には空き家バンク登録制度があり、外部の人を受け入れている。湯宿では区長、組長が湯宿の新たな住民へその人たちが地域の一員となれるよう手助けしている(河合市郎さん)。住人同士が多層的につながり合っていることも、交流をより豊かにしている。温泉、旅館、会館は集落の人々に集まる場を提供し、暮らしに必要な情報交換、組の会合、暮らしの行事に用いられ、外部との交流の場ともなっている。
一方で、住人の世代の継承が続かない問題も有している(註7)。都会の築年数の高いマンションもこれと似たような経過をたどっており(註8)、決して、お互いに無縁ではない。
人々が、自然とともに集落を形成し社会の変化とともに大切に守ってきた集落のあり方には、そこに住む人々の多くの知恵や工夫(註9)と人のつながりを有しており、時代の変化と共にコミュニティの次のあり方を再構築していくうえで一つの基盤となるだろう。

5.まとめ
少子高齢化社会において、「大都市型」の地域では、社会的インフラは充実しているが、環境的に自然が遠く、人間関係では、近所付き合いの少ない気楽さと引き換えに、コミュニティの不在、個人の孤立化が顕在化し、いざという時の不安が増大しており、「農村地域型」の地域では、それらとは正反対であるが、少子高齢化による生活面へのマイナスの影響は大きくコミュニティ自体が縮小、弱体化しつつある(註10、註11)。一方で、高齢者の増加は、彼らの生活パターンとして現役時代に比べて地域で過ごすことが多くなり、コミュニティのあり方は今後さらに重要になる(註12)。
湯宿には生活インフラ(温泉、水、きれいな空気、自然など)が天然資源として与えられている。旅館もある。それらを維持し活用し、自然の脅威から暮らしを守る術が組とともにある。組のある共同体での生活のあり方は、住人たちに、そこに住むという自覚、役割を与える。時代の変化(明治維新、戦争、高度経済成長、少子高齢化、コロナ禍等々)とともに組を改編しながら、つながりを大切にして、自分たちの身近な生活を観察し、気付きを実践、改善し生活を紡いできた。温泉のある集落として、その地域の人々の感覚、生活にフィットしたコミュニティの存在は、そこに住む人々の生活のみならず、都市の住人たちの生活をも、より豊かにしていくだろう。
これからも、湯宿の風土・文化や、組のある人のつながりを大切にして、空き家への幅広い年齢層の移住者(新しい風(息吹)、活力)を促しつつ、彼らと共に新たな気付きも形にして、この集落内、外のバランス(キャプション5,註13)をとりながら、共同体のモデルを湯宿からさらに発信していく事が重要だと思われる。

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     タイトルの湯宿温泉集落の全体。手前が東京方面、奥が新潟方面。共同湯がある集落は画面一番奥の右側の山沿いである。左手に流れる川が赤谷川。右手の道路が国道17号。
     画面手前の集落は10組で、元は田んぼだった。1990年代に造成して宅地にし、温泉集落の中から、国道17号沿いの地の利を求めてここに移動した店(饅頭屋、美容院、など)がある。「農村地域型」のコミュニティ(註11)である。
    (集落の境である湯の華燦々橋(通称 さんさん橋)から、筆者撮影。2022年6月15日)
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     湯本館(旅館)の裏に湧く源泉。(筆者撮影、2022年1月30日)
     温泉がいつ頃からあり、利用されてきたのかは不明だが、戦国時代より真田氏の戦いの後の湯として利用された記録もあり、太平洋戦争時代は、軍人の療養、東京の疎開地とし利用された(『温泉の日本史』より)。
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     4件の共同湯。時計回りに左上から、松の湯、窪湯、竹の湯、小滝の湯。(筆者撮影、2022年6月15日)。松の湯には、外側に湯だめがあり、生活に必要な(掃除など)湯を汲めるようになっている。組ごとにどの湯にはいるか、決まっている。湯宿民が入っているときは、一般の人も100円支払い、入浴可である。共同湯維持費として、湯宿民は、毎日入浴する家は月3000円、時々入浴する家は月1000円払い、清掃費、維持費にあてている。(山本俊一さんより聞き取り)
     実際に今でも夫の実家(2021年より空き家)には風呂がなく、泊まりの時は共同湯にいく。現在は家の建て替え時に内湯を作る家も多く、夫の子供のころとは趣は異なる。
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  • 81191_011_31886049_1_5_img_11072022_203133_900_x_675_%e3%83%94%e3%82%af%e3%82%bb%e3%83%ab キャプション4(註5の キャプション)
     写真の右側が湯宿温泉集落。須川集落の「にいはるこども園」(旧須川小学校)へ避難する際に渡る日和橋。一度に何十台もの車が通ると橋の強度が十分ではないことが問題になった。(筆者撮影、2022年6月15日)
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     赤谷川沿いに、造られた「湯宿ゆうえんち」(筆者撮影、2022年6月15日)
    ここでは、町の観光課主催の竹灯籠祭りやホタルまつりが開催される。来客が使用できる駐車場がつくられた。まだ、観光課と湯宿の集落民とのつながりは、あまり感じられないそうだが(河合市郎さんより、京子さん筆)口コミで、この駐車場は、他集落の人たちが共同湯を利用する際にも、利用できる(山本俊一さんより聞き取り)。(以前、私が、須川集落にも共同湯に来たい人たちがいるのに、駐車場がないから来れない様だ、と話した時に、山本俊一さんより伺った口コミの情報である。)「口コミでね。」と念を押された点が、共同湯の利用についてであるが、集落内と集落外(集落民の生活と観光)のバランスの例として、またこの「湯宿ゆうえんち」の存在は集落を外へ開いていく方向性をもった(公共性と自然とのつながり)一つのルートでもあるだろう。(新治村は、平成17年の町村合併でみなかみ町となった。)

参考文献

参考文献

『新治村史』編集新治村史編さん委員会、みなかみ町教育委員会、発行みなかみ町(みなかみ町後閑318 電話0278-62-2111)

石川理夫著 『温泉の日本史』、中公新書2494  中央公論社発行 2018年

広瀬良典著 『人口減少社会のデザイン』、東洋経済新聞社、2019年

広瀬良典著 『コミュニティを問いなおす』つながり・都市・日本社会の未来、筑摩書房、2009年

野村朋弘編 『人と文化をつなぐものーコミュニティ・旅・学びの歴史』 芸術教養シリーズ26、芸術学舎、2014

ヒューマンルネッサンス研究所/八岩まどか著 『温泉と共同湯』 ふれあいと癒しのコミュニティ、青弓社、1997年

インタビュー

1.山本俊一さん(61才、湯宿温泉集落在住、5組組長、男性、自営業)電話で、 
1回目 2021年6月12日 13時から13時25分 湯宿温泉集落、共同湯、組について。質問項目 1.集落の規模、共同湯利用、組の組織について。2.組で行っていることについて。(その1つに避難訓練のことを話してくださった。)
  河合市郎さんを紹介していただく。
  湯宿温泉集落の 令和2年度事業・行事等報告書(参考資料5)をコピーして頂く。
2回目2022年6月15日、15時から15時15分 「火の番」について、他。 

2.岡田 作太夫さん(56才、湯宿温泉集落在住、湯本館経営者、男性)湯本館にて、 
1回目2021年8月15日、参考文献『新治村史』を貸していただく。ご自身の湯宿温泉に関する資料をFAXにて送信して頂く。
2回目2022年1月30日午前9時から9時半 共同湯、湯宿温泉集落についてお話していただく。
参考文献『温泉と共同湯』を紹介していただく。

3.河合市郎さん(68才、湯宿温泉集落在住、屋号清水屋、男性、元教員)
1回目 ご自宅にて、2021年8月15日午前9時から10時、湯宿夏祭りについて
2回目 手紙で2022年2月21日返信 湯宿温泉集落の組について(筆者、奥様の河合京子さん、註の文中では(河合市郎さん、京子さん筆と表記))質問項目は、1.組の歴史、2.集落には、組以外のグループがありますか。3.湯宿温泉集落への移住者への組の働きかけはありますか。4.組は、今の生活にも必要ですか。(避難訓練の事例をあげての説明があった。)
5.みなかみ町の観光課とこの集落のつながりはどの様な感じですか? 6.組には住民全員が加盟ですか?会費(町内会費)はありますか?
3回目 ご自宅にて、2022年6月15日 午後1時30分から2時30分 世代間の継承について「火の番」、祭りの事例を中心にお話してくださった。

4.山本直明さん(59才、東京都在住、男性、会社員、18才まで湯宿温泉集落で育った)2022年7月4日 小学校、中学校時代の思い出を中心に。他、日常会話にて。

参考資料

1."今年は防災グッズ展示やパネル展示で防災訓練” 辰巳1 トーア南晴海マンション、
『りんかいRINKAI Breeze』(文中『Breeze』と表記) 2021年7月9日199号、 ©りんかいBreeze編集室 臨海副都心新聞販売株式会社発行 編集責任者石原恵子 (東京都江東区の台場(港区)・東雲・辰巳・有明・青海エリアの新聞全紙に折り込まれるフリーペーパー)
※ト一ア南晴海マンションは築41年、147戸。

2.”みなさんの顔を見ることができて安心” 避難行動要支援者のための避難訓練 辰巳・トーア辰巳マンション 防災委員会、『りんかいRINKAI Breeze』(同上) 2021年9月10日201号、©りんかいBreeze編集室 臨海副都心新聞販売株式会社発行 編集責任者石原恵子 (同上)
※ト一ア辰巳マンション築42年、291戸。

3. “2021衆院選課題の現場から”  東京一極集中 政治の一手は、
 朝日新聞朝刊 東京本社 2021年10月24日(日) 1社会面 33ページ

4.”築40年の分譲住み続けたいけど” 高齢化するマンション プロローグ、 
 朝日新聞朝刊 東京本社 2022年4月14日(木)生活1 22ページ 13版S くらし考シリーズ
   
 ”自宅介護 オートロックの「壁」” 高齢化するマンション 認知症編上
 朝日新聞朝刊 東京本社 2022年 4月21日(木)生活1 24ページ 13版S くらし考シリーズ
 
 ”見てみぬふりは・・・管理員の戸惑い” 高齢化するマンション 認知症編中
 朝日新聞朝刊 東京本社 2022年 4月25日(月曜日)生活面1 19ページ くらし考シリーズ
  
 ”生活支援や見守り 自分たちで” 高齢化するマンション 認知症編下
 朝日新聞朝刊 東京本社 2022年 4月26日(火曜日) 生活1 21ページ くらし考シリーズ

5.湯宿温泉集落の令和2年度 事業・行事等報告(山本俊一さんよりコピーしていただく。2021年6月12日) A4、2ページ分  議題 (1)令和2年度事業・行事等報告として
内容【事業関係】14項目、【祭典関係】4項目、【要望書・各種対策の関係】7項目、【申し送り事項】7項目、【区費関係】3項目からなる。
  
6.”少子化の町 消えゆく保育の場” 青森県中泊町小泊地区の場合 唯一のこども園 園児2年後には半分に 撤退を検討中「日本各地で起きる問題」、
 朝日新聞朝刊 東京本社 2022年 2月10日(木)生活25ページ 13版S
 記事の最後に、
「清隆厚生会の理事長を務める坂崎隆浩さん(61)は待機児童問題を中心にこれまでは東京の取り組みを地方に広げてきた。人口減少は地方から先に出る。これからは地方をモデルにして都市部に広げる方策を国には考えてほしい。」とある。



註1.インタビューの時、「「組」はいつからありますか?」の質問に三者三様の答えが返ってきた。「昔(戦前から)からある」(山本俊一さんより 2021年6月12日)、「戦争中の隣組の組織。」(岡田作田夫さんより 2022年1月30日)、「時代ごとに色々思想的にも、またその役割も形態とともに変遷をみながら再編を繰り返してきた。」(河合市郎さん 京子さん筆より)
テキスト『人と文化をつなぐものーコミュニティ・旅・学びの歴史』芸術教養シリーズ26の第6章も参照

註2.現在は、結婚式場、葬儀場といった業者を利用するが、やはり、組の人の手を借りることも多く、気持ち的に助かるという(河合市郎さん、京子さん筆より)。

註3.組費(区費)は隔月で収めており、この金額は、家の収入、組の仕事に出せる働き手の人数によって異なる。そのどちらも多い家ほど多く払う。一人暮らしの高齢者は免除される。その他、共同湯費、街路灯費用などがあり、組長が集金する。金額は1ヶ月2000円から3000円。組費があるときは3000円から7000円位。(河合市郎さん、京子さん筆より)

註4.誰が車を出して、どこの誰を何人乗せられるかといった、車の台数、運転手の人数、車に乗せられる人数を把握し、だれが誰に声掛けをして車に乗せるか、細かい点の把握を組長中心に事前に行った。(山本俊一さんより 2021年、6月12日)

註5.須川の高台に上がるために渡る日和橋の強度が不十分であることが判明した(山本俊一さんより、キャプション4)

註6.防災訓練委員会を立ち上げ、そのメンバーが名簿上の高齢者宅へ赴き、集会室へ誘導する。当日は、その他、集会室に防災グッズ、防災食や、訓練時の写真、マンション内の気を付ける場所などの写真等をパネル展示し、住民たちの交流も促した。阪神淡路大震災の時、家屋内の家具倒壊による被災が多かったことを念頭に置いている。(参考資料1,2より)

註7.2021年、湯宿温泉集落では5人の方が亡くなり人口が減り、空き家が増えた。2021年度5組と7組が合併した。(山本俊一さんより、参考資料5より)。私はこの急速な変化に少子高齢化の実態を見た気がする。
「ここが自然豊かで温泉があり清水が流れ、何はなくともバラックでも住める気安さがここを貧しい集落にしてしまった。産業がなく、仕事を求めて、子どもはよそに出て行ってしまい、人がいなくなり子どももいなくなる。(2022年1月30日)」と岡田作田夫さんは語る。河合一郎さんも「祭りのまとめ役の継承者不足が悩み(2021年8月15日)」と語る。旅館も跡継ぎ問題で、1件2020年に廃業した(山本俊一さんより 2021年6月12日)。戦後ここに住み始めた第一世代は高齢化して、亡くなれば空き家になるのが現状である。

註8.参考資料No.4 朝日新聞朝刊 くらし考シリーズ ”高齢化するマンション”より

註9.この集落には「火の番」という活動がある。その歴史は長く、女性たちが4軒一組となり毎晩11時から3時まで、食べ物を持ち寄ってそのうちの一軒に集まり火の用心の集落内の見回りを行った(河合市郎さんより、2022年6月15日)。現在は夜9時の見回りだけで、1軒から出れる人が出る(男女問わず)システムに変わっている(山本俊一さんより、2022年6月15日)。集落の中で、女性たちは、多くが嫁でありよそ者である。彼らはこのような役割を担い、ここでの暮らしを先輩から後輩へ繋ぎ、団結し、周囲に認められていったのだろう。よそ者が、集落の者となるための一つの方法を示唆していないだろうか。(『温泉と共同湯』(参考文献)p.106 ’16 火の番’も参照)

註10.「農村地域型」コミュニティの湯宿集落の、その例として、2点あげる。

1,小、中学校の統廃合による校区拡大による集落への帰属意識が希薄化(少子化により小学校、中学校の統廃合が進むと校区が拡大し、集落対集落の大会がなくなり、集落の子どもという帰属意識や集落の活力の減退などが考えられるからだ)。例として、須川小学校(平成19年度閉校、新巻小学校に合併)には湯宿(ゆじゅく)、須川(すかわ)、笠原(かさっぱら)、峰(みね)、谷地(やち)、塩原(しょばら)集落の子どもたちが通っていたが、運動会ではこれらの集落(部落)ごとにチーム化され、競技で得点を競い合っていた。親、祖父母、近所の人たちは”本気で”自分たちの部落の子どもたちを応援し、学校の運動会は校区内の集落の一大イベントだった。(山本直明さんより 2022年7月4日。1969年から1975年須川小学校へ通った。)

2,区長一任で、3年目の祇園祭りの中止決定(河合市郎さんより、2022年6月15日)なども、集落のまとまりや弱体化のきっかけとなると思われる。なぜなら、祭りが行われないとそのための練習、集落民全員が関わる準備、計画がなくなり、組の仕事もなくなり(令和2年度事業、行事等報告書の「9、石畳の補修 祇園祭り中止に伴い実施せず」とある。)、集落の荒廃にもつながると考えられるからだ。

註11.
『コミュニティを問い直す』(参考文献)pp.19~21 ’人口構造という要因と地域コミュニティ’の項、pp.107~113 ’時間的な解決から空間的な解決へー再び「福祉地理学」について’の項と表3-3 ’異なる地域における問題・課題と「資源」・”魅力”を参照。
 表3-3にみる 地域の A.大都市型、B.地方都市型、C.農村地域型 の分類より。

『人口減少社会のデザイン』(参考文献)pp.293~297 ’共同体を超える原理としての「自然」’の項と図表7-3 個人・コミュニティ・自然の関係を参照

註12
「この集落にいれば退職後も何かしらやることがあるよ。畑仕事、草刈といった自分の家のことから、組の仕事までなあ」(山本俊一さんより 2022年6月15日)

註13 一般利用も可能な共同湯の利用をめぐる湯宿民と外部者との軋轢の変遷は『温泉と共同湯』(参考文献)(pp.115~126)に詳しい。

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