岡山の現代陶芸作家によるインターネットを活用したセルフプロデュース
1 はじめに
陶芸作品のネット販売は他の素材より難しいと考える。「オリジナル」「立体」「ワレモノ」「高価」で梱包も難しく送料も比較的高い。
実際、芸術作品を主に扱うサイトではないがAmazon.co.jpで「容器」の「売れ筋」を検索した結果、プラスチックとガラスの容器が多数であった。筆者もAmazon.comその他で販売経験があるが芳しくなかった。
そんな中、筆者の地元、岡山県在住の現代陶芸作家3名は国内・海外への販売にも結び付いている。その理由を探る為にインタビューし評価・考察した。
2 基本データ・歴史的背景
1)セルフプロデュースとは
インターネットの発展により個人が情報発信する時代となった。そして個人の作家が自らホームページを開設、SNSを活用して自らの作品の魅力を伝える事例が増えている。
作家3名の活動はインターネットを活用したセルフプロデュースとも言い換えることができる。
2)作家・ブランド紹介
陶芸作品とインターネット上の活動については以下URL参照のこと。2名はブランド名で活動・販売している。
・加藤直樹[写真1,2,3]
[ https://www.naokikato.com/ ]
・PUGLAND[写真4,5]
[ https://minne.com/@pugrunrun/ ]
・SHOKKI[写真6,7]
[ https://shokki.org/ ]
3)作家の歴史的背景・共通項
・岡山県在住の作家3名はそれぞれ大学教育学部(芸術系)または芸術学部を卒業。芸術についての造詣・守備範囲が広い。特にPUGLAND氏は模型・木工、SHOKKI氏は現代美術・映像についての創作活動歴があり、現在もメインで進行形の創作もある。
・加藤氏は庭瀬陶芸工房(吉井清治代表)[ http://niwasekoubou.jp/ ]の講師で、後2名の作家と筆者は会員である。
3 インタビューと評価
1)質問
10問の質問を設け(20/11/14)、口頭及びネット上でどのようにセルフプロデュースしているか回答を得た(11/26)。(一部割愛)
インタビューQ&Aは一覧表[アンケート結果]とし、注目した点を赤字とした。
問1 インターネット上で、特にアピールしたいことは?
問2 ホームページ、SNSに作品を展示・プロデュースする上で特に心掛けている事は?
問3 ギャラリーの作品展示のようにインターネットではアピールできていますか?
問4 岡山での作家活動で不便はありますか?
問5 セールス・発送に関して気を付けていることをコメントください。
問6 ホームページ・SNSの構成・選定にあたり特に重要視したことは、どんなことでしょうか?
問7 SNSはどれがいいでしょうか?ホームページ含めて使い分けしている場合はそれぞれ役割を教えてください。
問8 インターネットからの販売もある中で、過去と現在で大きく変わった転機・出来事・改善点はありますか?
問9 インターネットを使っている上で作品にどのような変化・影響がありますか?それとも相関性はないでしょうか?
問10 今後の作家活動でインターネットに求める事や夢は?
2)回答結果
・共通点
問1 2 4 6 7 8の回答から、作家3名はインターネットを新規開拓の発信の場として活用している。又、問4の回答から英語表記も行うことで海外も考慮に入れていることが分かる。
問6 7 8の回答から、SNSに関して作家それぞれの試行錯誤が伺えた。
問10の回答から新たな取り組みを進めていることが分かった。
問5の回答から芸術作品が陶芸である為にそれぞれ梱包・配送に特別配慮していることが分かった。
・相違点
問3でギャラリーの実展示のようにインターネットでアピールできているかを質問したが、加藤直樹氏、SHOKKIでは「いいえ」、PUGLANDでは「はい」と回答が分かれた。
問2で写真について、加藤直樹氏は「クオリティ重視」、PUGLAND氏は「実物そのままが届いたなという写真で自然光で撮影」と対照的な回答となった。但し「作品が相手に伝わること」を重視・考慮がされている点は両者に共通している。SHOKKI氏は問3の回答で実空間とインターネット空間は別物として考察していた。
問9でPUGLAND氏の「オーダー受けてるけどインターネットからの影響を受けないようにしている。」と言った興味深い回答を得た。
3)評価・特筆すべき点について
・インターネットからの影響について
問9から作家3名ともそれぞれある程度の距離感を持って制作に臨んでいることが判明した。PUGLAND氏は動物、特にパグ好きな人から親しんで貰えるように他の作家との比較差別化しつつマーケティング・SEOも考慮してオーダー制作にも取り組んでいる。それは註1に述べられた『私たちのデザイン1 デザインへのまなざし ― 豊かに生きるための思考術』の「ユーザー中心主義」の思考プロセスに基づいた考えであると予想していた。
しかし、回答結果からPUGLAND氏は作家自身のパグへの愛情からの自発的な「デザイナー主導」でもあることが判明した。特筆すべき点として元々のバックグラウンドにある絵画・フィギア制作・木彫り・型制作等の芸術関係の新たな手法も導入し、陶芸に新たなアイテム的要素を持ち込む「デザイン主導主義」的な要素も多く含まれている。
・写真について
PUGLAND氏と加藤直樹氏で撮影法が対照的であるが作家本人が作品の性質を理解しており結果的に適切な写真を選択をしている。註2『私たちのデザイン4 編集学 ― つなげる思考・発見の技法』のP.46〜「同質性と異質性の編集」の項にある区分が適切である。PUGLAND氏は陶芸に限らず一般的なパグ好き動物好きに「同質性」が伝わるよう作品のディテールを深め観る者に訴求している。逆に、加藤氏は註2の「消費にあがらう価値生成が存在している分野としては、コンテンポラリーアート」「セレクトと開発」「現代は差異が小さくなっているから(後略)」と言った先端的な、デザイン主導主義の作品の「異質性」を際立たせる情報編集の戦略を取っている。
SHOKKI氏は回答からも一歩先に踏み込んでいることが伺えた。上記のどちらにも当てはまる性質があるのではと考える。氏のバックグラウンドに映像・写真での受賞歴やウェブへの知見がある為、註2P.96「メディアによって映像編集は変わる」の考えを理解し、 P.79「構造」をまとめると「SNS構造はメディアの制約を受けるが特性をうまくつかって構造化」の手法を駆使している。ホームページに陶芸作品だけでなくコンセプトが分かるイメージ写真を多用し、アーカイブとして芸術作品に仕上げる意欲も伺え、それが写真と親和性・ホームページと相関性のあるインスタグラムのインフルエンサー化につながった特筆すべき点と考える。
4 今後の展望とまとめ
・インターネットから影響を受けないはずはない。しかし作家自ら考えた思考プロセス、作品スタイルを貫くことで作品が伝わり易くなり、セルフプロデュースとして一番大切ではと考えられる。
・作家はSNS等で試行錯誤しているが、回答にもある通りAR・動画への期待を含め、新たなサービスが生まれ移行する可能性がある。視野を広く将来を見据えてセルフプロデュースした方が良いと考えられる。
・台湾国際陶芸ビエンナーレで加藤氏は金賞を受賞した(本学の松井利夫教授は審査員の一人)。インターネット展示はギャラリーの実展示より難しいとの回答があったが、大きい展覧会から進歩することが期待できる。
・陶芸作家3名は大学の芸術教養で筆者が学んだ思考プロセスを活用してセルフプロデュースしていることが分かった。広い視野を持ち適切な選択・行動をすることで芸術活動・社会活動で未来が拓けると確信する。
- [写真1]加藤直樹氏と工房風景(2020年8月13日 岡山市の加藤氏の工房にて 筆者撮影・編集)
-
[写真2]加藤直樹 作品「nwc1601 - Porcelain @2016(Korea Ceramic Foundation) 」
引用元[ https://www.naokikato.com/ ] 閲覧日2021年1月29日 -
[写真3]加藤直樹 作品および陶展「ネイチャーワークス」案内
引用元[ https://www.naokikato.com/ ]閲覧日2021年1月29日 -
[写真4]PUGLAND 作品「パグカップ・中~フォーン」
引用元[ https://minne.com/items/25262413 ]閲覧日2021年1月29日 -
[写真5]PUGLAND 作品「桃のころ~パグ・フォーン&黒」 (筆者 画像編集 )
引用元[ https://minne.com/items/26135652 ]閲覧日2021年1月29日
コメント「1230度で焼成した陶磁器の造形作品です。
動画 https://twitter.com/redleaves6/status/1347440667656474627
https://twitter.com/redleaves6/status/1347440960381145088
桃の花に その妖精のようにちょこんと仲良く座るフォーンと黒のPUGです。
桃は 中国では不老不死を与え 邪気をはらう神聖な力を 持つとされているようです。
3月下旬から4月に咲く花の花言葉は
「チャーミング・気立ての良さ・天下無敵・あなたのとりこ」だそうです。可愛らしいですね。
PUGLANDの周りでは 桃畑が 結構あり、花の季節は 毎年楽しみです。
PUGLANDの小さな庭にも観賞用の八重咲のホウキ桃が あるのです。
思えばとても身近、、、それで この作品も ごく自然に発想~生まれてきたのかもしれません。(後略)」 -
[写真6]SHOKKI 「 seasonal exhibition /"MODEL HOUSE" at HOUSEHOLD, Toyama from 12. Sep to 1 ... 」
引用元[ https://shokki.org/ ]閲覧日2021年1月29日 -
[写真7]SHOKKI 作品 (筆者 画像編集 ホームページに陶芸作品だけでなくイメージ写真を多用)
引用元[ https://shokki.org/ ]閲覧日2021年1月29日 - [アンケート結果]
参考文献
註1 早川克美著『私たちのデザイン1 デザインへのまなざし ― 豊かに生きるための思考術』、藝術学舎、2014年
註2 紫牟田伸子著、早川克美編『私たちのデザイン4 編集学 ― つなげる思考・発見の技法』、藝術学舎、2014年
作家3名のサイト
・加藤直樹 https://www.naokikato.com/
・PUGLAND https://minne.com/@pugrunrun/
・SHOKKI https://shokki.org/
作家3名が所属する陶芸教室
・庭瀬陶芸工房 http://niwasekoubou.jp/
台湾国際陶芸ビエンナーレ 受賞作品
・2020 Taiwan Ceramics Biennale Winners https://public.ceramics.ntpc.gov.tw/en/winnerslist.html