川のある町越谷  ~弱点を活かした水辺の街づくり~

佐俣 由理子

埼玉県越谷市「越谷レイクタウン」は造成し新たにつくられた街である。2008年に街開きをし約225.6haの敷地に現在約1000世帯・2万2千人が暮らす(註1)。全国でも集客が高く、話題性の多い日本一の商業施設がある。面積約24.5万㎡、710店舗を持つショッピングモールイオン越谷レイクタウン店(註2)と同時に行われたこの街の発展、今後の姿を考察する。

1.基本データと歴史的背景
越谷市は古来より洪水に悩まされながら、川の流れを変え治水し(資料1:越谷市基本情報・ 補足:二つの調節池)水郷という弱点を改善するために新しい街「越谷レイクタウン」を造成した。雨水の調節池整備と一体的に新市街地整備がされ、水辺空間と都市生活空間を融合させ全国でも例を見ないモデル的な街づくりを進め「The livecom Awards リブコムアワード2009」を受賞した(註3)。平成20年以降「越谷レイクタウン」を「人々の安心とうるおいの暮らしを守る」をコンセプトとして大型ショッピングモールと県、市、自治体で共に街作りを進めている(註4)。

2.積極的に評価している点
特筆すべきは水郷という弱点を逆手にとり新たな水辺を造り、民間・地域・住民が一体となり一つの街を造成し、機能させ、自然にも配慮している点である。
埼玉県では令和3年度から、県が管理する河川を対象に、民間事業者と地域住民・行政などが企画段階から連携し、より魅力ある水辺空間を創出し河川の活用を進める「Next川の再生『水辺deベンチャーチャレンジ』」(註5)を実施している。越谷レイクタウンもそれを利用している。
水辺周辺は遊歩道(レイクサイド ウォーク)が整備され、ウォーキング・犬の散歩・ジョギング等に利用されている。 北池南側は桟橋や水上ステージ等が整備され、 イベントや水上アクティビティ等が出来る。湖畔には「BBQ」が出来る施設もあり活用されている。春〜秋の毎週末 には「Lake and Peace」や「越谷技博」などのイベントや水辺のアクティビティ「ディンギーパー ク」が実施される。「 レイクタウンランニング」や「越谷いちごラン」などのランニングイベントも年数回行われている。「クリスマスマーケット」や「七夕のスカイランタン祭り」等季節に沿ったイベントが行われている。イベントの集客数は5,000人程度である。
水辺のビオトープ作りにも力を入れ、ショッピング施設の対岸に樹々を植え観察をしている(資料2:ビオトープ)。人口池ではあるが水辺の緑を大切にし、「NPO法人越谷ふるさとプロジェクト・越谷市民活動連合会」により保護観察が行われている。活動目的は「子供たちと市民のふるさと作りをするため市民の地域コミュニティ形成を図る」「子供も大人も皆が住みやすい安心安全を作ること」である。街開きをした際に異常発生したユスリカもこちらの団体により駆除された。ユスリカの幼虫やアオコの原因となるプランクトンを退治するためにスジ海老・モロコ・メダカなどを池に放流し水質改善を行ったのである。
同団体によりリサイクル活動も行われている。イオンレイクタウンmori館でワークショップや工作(リサイクルから作られた展示品)がショッピングモールに多数展示されている(資料3-1:店内)(資料3ー2:エコロジー)。
ショッピングモールは710店舗あり、ほかに病院・銀行ATM・宝くじ売り場・美容院が設置されており市民の利便性が高い。周辺では食の越谷としてイチゴ、小松菜、トマト等産地直送の野菜作りをする農園にも力を入れている。
こうして県(埼玉県土整備事務所・東部地区振興セ ンター・県関係 河川環境課 )・市(越谷市経済振興課・都市計画課・公園緑地課 )・関係団体 (越谷市観光協会・越谷商工会議所 )複数企業・市民・自治体(地域住民 地元自治会)および大相模調節池周辺の活動団体 (㈱まちづくり越谷(Lake and Peace実行委員会))と他部門に渡る協力により一つの魅力的な街がつくられた。

3.他との比較
【2013年に商業施設が先に開業した幕張新都心と比較】
こちらでは周辺の交通渋滞が問題になり、イオンモールと千葉県、千葉市が協議会を作り、JR東日本京葉線に新駅の設置を要請し2023年春「幕張豊砂駅」が開業した。一方「イオンレイクタウン越谷店」は、「越谷レイクタウン」と名付けられたニュータウンの中の商業施設として、JR東日本武蔵野線「越谷レイクタウン駅」と同時に整備が進められた。ショッピングモールも駅も、ニュータウンの街開きと同じ2008年に開業した。「越谷レイクタウン駅」は、ショッピングモールのための駅ではなく、周辺に広がるニュータウンのための駅という位置づけである。(住所表記も越谷市レイクタウンと改定)官民一体となり街づくりを進めた結果、住みたい街ランキングが上位となった(註6)。

【従来のショッピングモールとの比較】
従来のショッピングモールは市街地から離れた場所に設置されることが多い。来場者の交通手段は車であり、広大な無料駐車場が用意されている。車でなければ行くことが出来ず、高齢者の買い物難民が発生するのは周知のことである。イオン越谷レイクタウン店を訪れる人の武蔵野線利用者は多数である(註7)。駅からスムーズに店内へ移動出来ることも特徴である。2024年春に各館を結ぶブリッジを新設したことで、交差点を横断する歩行者数を抑え歩行者保護と渋滞緩和の対策が行われている。レジャー目的で遠方から来る人、休日などに施設周辺での渋滞を懸念する人が電車を利用し、車を持っていなくても来場が可能である。鉄道との連携はイオンモール施設への効果だけでなく、地域経済の活性化に繋がる取り組みである(註8)。

4.今後の展望や伸長のために
各館はオーバーブリッジ、動く歩道により結ばれている。移動の際も緑が多い外の風情を眺めることが可能である。更に店内に電動カートなどを用意し、空港などの様に専用通路を設置させては子供連れの家族やお年寄りにもより良く利用されるのではないであろうか。
現在各館前を縦断する東埼玉道路4号線は外環自動車道八潮付近から16号線春日部付近まで延伸工事を行っている。更なる交通量と集客、自然保護の観点で工夫が必要であると考える。ビオトープ部分を拡張し、車の排気ガスなどの抑制に効果があげられると尚良いであろう。
2024・春、増床したアウトレット館では中庭も楽しめる。間伐材から作られたアスファルトが再利用されている。雨水を循環させて植物を守り手入れに手をかけない工夫(資料2:ビオトープ)が行われている。このシステムを越谷市や他の地区でも取り入れ、昨今の温暖化に歯止めをかけてほしい。

5.まとめ
店内の作り、駐車場、店舗の成り立ち全てに自然と人、人と企業、企業と街が競合しつくられている街であることを感じる。住民や近隣住民がその気持ちよさ、心地よさを感じまた利用したい、訪れたいと感じる街である(資料4:筆者によるレイクタウンアンケート)。店内外の草花の成長や今後の姿を追って行きたいと考える。今後も緑地部分が増加し、生活に根付いたイベントを行うことで地域住民や来訪者が更にまた来訪したいと思える街になるであろう。
自らの視点(資料5:自らの視点で及び、資料:2.3)でまとめたが、総合的に緑が多く取り入れられて「気持ちの良い空間」であり「わかりやすく」「便利」である。各年代が満足することが集客に繋がっていると考える。
水辺に置かれた指輪のオブジェは「人間が自然と生きるための約束」である。官民自然すべての循環がこの街の成り立ちにあると言える。成長が楽しみな街である。

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  • EFBC88E8B387E69699EFBC91EFBC89E8B68AE8B0B7E5B882E59FBAE69CACE68385E5A0B1+_page-0004 (資料1)越谷市基本情報 
    現状地図筆者作成(2024.2.17)
    写真筆者撮影(2024.5.3)
    越谷市を流れる川(越谷市ホームページより抜粋)
  • 2 (資料2)ビオトープ
    筆者撮影(2024.5.3)筆者作成(2024.5~7)
  • 81191_011_32286024_1_3_(資料3-1)店内 _page-0001
  • 81191_011_32286024_1_3_(資料3-1)店内 _page-0002 (資料3ー1)店内
    筆者撮影(2024.5.3)筆者作成(2024.5~7)
  • 81191_011_32286024_1_4_(資料3ー2)店内外エコロジー_page-0001
  • 81191_011_32286024_1_4_(資料3ー2)店内外エコロジー_page-0002 (資料3-2)店内外エコロジー 
    筆者撮影(2024.5.3)
    筆者作成(2024.5~7)
  • EFBC88E8B387E69699EFBC94EFBC89E8B68AE8B0B7E383ACE382A4E382AFE382BFE382A6E383B3E382A2E383B3E382B1E383BCE3838828E7B0A1E69893E382A4E383B3E382BFE38393E383A5E383BC29_page-0001
  • EFBC88E8B387E69699EFBC94EFBC89E8B68AE8B0B7E383ACE382A4E382AFE382BFE382A6E383B3E382A2E383B3E382B1E383BCE3838828E7B0A1E69893E382A4E383B3E382BFE38393E383A5E383BC29_page-0002 (資料4)来訪者アンケート
    筆者実施筆者作成(2024.5.3)
  • 81191_011_32286024_1_6_(資料5)自らの視点で_page-0001
  • 81191_011_32286024_1_6_(資料5)自らの視点で_page-0002 (資料5)自らの視点で 
    筆者文書作成(2024.5)
  • 7 (補足)越谷市の二つの調整池について 
    筆者文書作成(2024.7)

参考文献

(註1)越谷レイクタウンの人口https://jinko-db.net 2024.5.3閲覧
(註2・4・8)イオンレイクタウンホームページ https://www.aeon-laketown. 2024.5.3閲覧
(註3)「越谷レイクタウン」リブコムアワード2009金賞受賞について | NDLサーチ | 国立国会図書館 https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R000000004-I10643544  2024.5.3閲覧
(註5)水辺でベンベンチャーhttps://www.city.koshigaya.saitama.jp/citypromotion/shizen/ike/mizubekatsuyou_files_mizube_de_venture_koshigaya.pdfjp/  2024.5.3閲覧

(註6)2024.5.16埼玉新聞記事https://news.allabout.co.jp/articles/o/79963/ 2024.5.30閲覧
(註7)ナビタイム混雑状況参考  2024.5.17閲覧
(註8) 越谷市公式ホームページ  https://www.city.koshigaya.saitama.jp  2024.5.3閲覧

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