「福井県立恐竜博物館」のデザインは、子供たちにどのように伝える工夫がなされているか

北藤 好一

はじめに

 福井県立恐竜博物館は、恐竜を中心とした国内最大級の、地質・古生物学の展示研究施設として、2000年7月14日に開館し、今年で20周年を迎えた。恐竜博物館は、現在の私達に何を伝えようとしているのであろうか。
 勝山市では、1982年に、北谷の杉山川左岸の崖で中世代白亜紀前期のワニ類化石が発見された。その後、恐竜をはじめとする多数の脊椎動物の歯、骨、足跡等の化石が発見されている【註1】。
大地の中からつぎつぎと発見された太古の形跡が保存されている恐竜博物館では、地球誕生以後の地球上での出来事を知ることができる。
恐竜は、ホモサピエンスが生まれる前のものであるから、人間の文化とは関係がないように思えるが、我々が生活している同じ場所で生活していた事実をふまえると、今の地球環境や、人間の生活を考えるヒントも隠されている可能性がある。
人類が生活している地球とは、どういうものなのかを知ることは、人類にとって重要であろう。特に子供たちが博物館で刺激を受け、興味を持つことは重要である。本稿では、恐竜博物館について、特に、福井県立恐竜博物館(以後、福井恐竜博物館と表記)が、子供たちにどのように発信しているのかを考察してみる。

1.基本データ

所在地:福井県勝山市村岡町寺尾51-11
設計:黒川紀章
竣工:2000年6月
敷地面積:約30,000㎡
延床面積:約15,000㎡
資料点数:約4万1千点
構造・規格:鉄筋コンクリート造、地上3階、地下1階、常設展示室(恐竜ホール)の寸法は、高さ37m、長径87m、短径55m、エスカレーターの長さ約33m。
 勝山市一帯は、恐竜渓谷ふくい勝山ジオパークとして、2009年10月に、日本ジオパークに認定された。現在、福井恐竜博物館を含めた恐竜の町として知られている。


2.評価している点

 ①福井恐竜博物館の平成30年度、年間来館者は938,310人であり、県の重要な観光資源ともなっている【註2】。
 ②博物館内の展示は、40体以上の恐竜骨格や、千数百点もの標本や、大型復元ジオラマ、映像などがあり、恐竜のみならず、地球の生成、地質など、中身の濃い展示内容であり、研究者や大人にも十分満足のいく学術的に裏づけされたものであるにもかかわらず、子供たちを引き付ける魅力もある。テーマパークとは一線を画す施設である。
 ③2018年の勝山市北谷町での第四次恐竜化石発掘調査で、3200点にのぼる化石が採集され、多くの成果が得られている。また、福井県立大学恐竜学研究所や中国科学院古脊椎動物・古人類研究所等と協力し、2017年度から5年計画で、中国内モンゴル自治区などゴビ砂漠一帯 において発掘の共同調査を行っている【註3】など、展示しているだけではなく、実際に国内外で活発に活動している。


3.他の同様の施設と比較して何が特筆されるのか

 同様の博物館は、カナダのアルバータ州、カルガリー市の北東のドラムヘラーというところにあるロイアルティレル古生物学博物館(以後、ロイアルティレル博物館と表記)がある。1985年9月に「ティレル古生物学博物館」が開館し、エリザベス女王から、王室の称号が授与され、1990年に「ロイアルティレル古生物学博物館」に改名された。恐竜に関しては世界最大の規模であり、福井恐竜博物館とは姉妹館提携を結んでいる。
また、子供向けの化石発掘体験や、親子のためのサマーキャンプ、学校向けのさまざまなプログラム(写真1)が用意されて、福井恐竜博物館と同様に教育に対しても非常に熱心な博物館である。
 内部の展示方法や、メイン展示室全体を上から眺められるようになっているのは、福井恐竜博物館にも影響を与えている(写真2)。また、博物館を出て前の小高い丘に登ると、散策路があり館全体を見下ろせ、館内の恐竜を思い浮かべると、この辺りにかつて恐竜がいたことを想像させる演出も似ている(写真3)。
 違う点は、ロイアルティレル博物館の、実物の大型恐竜骨格化石の量の圧倒的な多さ。そして、館の周りの発掘に適した自然の地形の広さ。これらは、福井恐竜博物館は真似できないことである。ロイアルティレル博物館の周りは、白亜紀後期の化石を含む地層が広がって(写真4)、住宅の敷地内から恐竜の化石が発見されることは、よくあるとの事である。(写真5)
 福井恐竜博物館は、発掘現場から掘り出された石を博物館の敷地に運び込んで、子供たちは、それを叩いて発掘体験ができるようになっているが(写真6)、カナダでは、実際の恐竜の化石を手つかずの自然の環境の中で子供が発見している。フィールドワークではカナダの方が有利である。福井恐竜博物館ではその分工夫して、独自の恐竜博物館を目指すことが必要であろう。
 ロイアルティレル博物館は、本物の骨を主体にした正統派博物館であるが、福井恐竜博物館は、屋外の「かつやまディノパーク」など、やや遊び心のある展示もあり、さらに化石発掘体験で、ゴーグルや手袋を付けさせる細やかな配慮もされている。また、ロイアルティレル博物館にはない動く恐竜が何点かあり、子供の記憶には強く刻み込まれることであろう。これらは特筆されることである。


4.今後の展望について

 2020年10月17日のカナダのCTVTVニュースで、12歳の少年がロイアルティレル博物館の近くの地層から、恐竜の骨格の化石を発見したとのニュースがあった【注4】ということからも、日本より化石発掘の機会ははるかに多い。
日本の恐竜博士の宮下哲人さん【註5】は、16歳で単身カナダへ渡り、ロイアルティレル博物館の学芸員になっていた。カナダで恐竜の化石を発見した12歳の少年も、どちらも、恐竜博物館から影響を受けたことがうかがえる。
 このように、多くの小学生が、恐竜だけではなく地球に関して興味をもつようになるためにも、福井恐竜博物館での子供たちへの教育は重要であろう。
なんとなく、恐竜すごい、だけに終わらず、子供が興味を持ったらすぐに、それが何を意味するのか、さらに、それを調べると何がわかるのかをより分かりやすく説明する工夫が必要である。そのためにも、子供の質問に答えられるスタッフが巡回していることが必要であり、積極的に子供たちに話しかけ、何を疑問に思っているのか聞き出し、的確に分かりやすく答えることが必要であろう【註6】。また、パソコンを設置しておき、熱が冷めないうちにすぐに疑問な点を自分で調べられるようにすることも必要である。

 他の博物館を参考にすることは良いことではあるが、福井恐竜博物館は、日本の子供に興味を持たせることにおいて、独特の展示方法があっても良いのではないか。アニメの力を借りたり、バーチャルゴーグル、プロジェクションマッピング、3D映画、ロボット。
展示物は必ずしも本物の化石の必要はなく、レプリカを使っても興味を引き出すことは可能である【註7】。
 また、たとえば、入り口から地下の恐竜が展示されているメイン展示場へ降りて行く長いエスカレーター(写真7)から見える位置に、「現在」「明治大正時代」「江戸、平安時代」「1万年前(縄文時代)」「6600万年前(恐竜絶滅)」「1億5000万年前(恐竜発生)」という標識を表示すれば、どれほどの年代を遡っていくのかがわかるし、恐竜の時代にタイムカプセルに乗って遡っていくというわくわく感が演出できるであろう。展示方法や演出などでデザイナーの役割は多い。
 2023年に北陸新幹線が開通する。福井恐竜博物館は、ジオパークであることを活かすと、さまざまな可能性がある。


5:まとめ

 福井恐竜博物館は、恐竜を通して子供たちに、地球の科学、地球環境、生命の歴史、など幅広い分野に興味を持たせるきっかけを与える工夫がなされている。
 福井恐竜博物館の内容充実度は、ロイアルティレル博物館に決して引けをとるものではないが、子供達でも発掘しやすいという周りの地形環境では不利である。福井は独自の情報発信方法が必要である。
 博物館は、ただモノを並べて展示するだけではなく、それを見た人が、あらゆる方面に想像力を広げていけるような工夫がなされていることが大切であろう。
そのためにも、恐竜博物館の展示方法を分かりやすくするためには、学者とデザイナーの協力が不可欠である。
 福井県立恐竜博物館は、子供たちが、ぬいぐるみの恐竜に興味を持つことだけに終わらないように、さまざまな方面に興味を持つように工夫した展示を試みている点と、子供たちへの地球環境に関する教育を行っている点を高く評価したい。

  • (非公開)
    (写真1)ロイアルティレル古生物学博物館HPより。
    ロイアルティレル古生物学博物館では、子供向けの化石発掘体験や、親子のためのサマーキャンプ、学校向けのさまざまなプログラムが用意されている。
  • 2 (写真2)
    上:福井県立恐竜博物館:筆者撮影(2019年5月10日)
    下:ロイアルティレル古生物学博物館:筆者撮影(2019年9月25日)
    どちらも、館内を上から眺められる展示方法。
  • 3 (写真3)
    上:福井県立恐竜博物館:筆者撮影(2019年5月10日)
    下:ロイアルティレル古生物学博物館:筆者撮影(2019年9月25日)
    どちらも、館を出て小高い丘に登ると、博物館内の恐竜がこのあたりにいたことが、想像できる。
  • 4 (写真4)
    ロイアルティレル博物館の周りは、白亜紀後期の化石を含む地層が広がっている。:筆者撮影(2019年9月25日)
  • 5 (写真5)
    ドラムヘラーの町では、住宅の敷地内から恐竜の化石が発見されることが、よくあるとの事である。:筆者撮影(2019年9月25日)
  • (非公開)
    (写真6)上:福井県立恐竜博物館HPより。下:ロイアルティレル古生物学博物館HPより。
    福井恐竜博物館は、発掘現場から掘り出された石を博物館の敷地に運び込んで、子供たちは、それを叩いて発掘体験ができるようになっているが、カナダでは、実際の恐竜の化石を手つかずの自然の環境の中で子供が発見している。
  • 7 (写真7)
    入り口から地下の恐竜が展示されているメイン展示場へ降りて行く長いエスカレーター(約33メートル)から見える位置に、「現在」「明治大正時代」「江戸、平安時代」「1万年前(縄文時代)」「6600万年前(恐竜絶滅)」「1億5000万年前(恐竜発生)」という標識を表示すれば、どれほどの年代を遡っていくのかがわかるし、恐竜の時代にタイムカプセルに乗って遡っていくというわくわく感が演出できるであろう。:筆者撮影(2019年5月10日)

参考文献

【注1】福井県立恐竜博物館。開館の経緯
https://www.dinosaur.pref.fukui.jp/museum/history.html
(2020年12月20日閲覧)

【注2】「公立博物館における来館者数の状況について」令和元年10月時点。都道府県立博物館に関する調査
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bijutsukan_hakubutsukan/shinko/other/pdf/r1413727_03.pdf 
(2020年12月20日閲覧)

【注3】「恐竜博物館ニュース第56号」2019.2.28福井県立恐竜博物館
https://www.dinosaur.pref.fukui.jp/archive/Dinosaurs056.pdf#search='%E6%81%90%E7%AB%9C%E5%8D%9A%E7%89%A9%E9%A4%A8%E3%81%AF%E3%80%81%E7%8F%BE%E5%9C%A8%E3%81%AE%E4%BA%BA%E9%A1%9E%E3%81%AB%E4%BD%95%E3%82%92%E4%BC%9D%E3%81%88%E3%82%88%E3%81%86%E3%81%A8%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%81%AE%E3%81%8B%EF%BC%9F'
(2020年12月20日閲覧)

【註4】
CTV News: 「Calgary boy makes significant 69 million year old dinosaur discovery」Published Thursday, October 15, 2020 .
https://calgary.ctvnews.ca/calgary-boy-makes-significant-69-million-year-old-dinosaur-discovery-1.5146946   
(2020年12月20日閲覧)

【註5】「恐竜発掘の聖地と博物館で恐竜まみれだった高校時代」宮下哲人。National Geographic第3回 
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/web/17/120500017/120700004/
(2020年12月20日閲覧)

【註6】「科学館における「対話」の構築」城 綾実・坊農 真弓・高梨 克也 Cognitive Studies, 22(1), 69-83.March 2015 フィールドに出た認知科学    相互行為分析から見た「知ってる?」の使用。
 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcss/22/1/22_69/_pdf/-char/ja
(2020年12月20日閲覧)

【註7】中学校理科「生物の変遷」における始祖鳥化石の観察:科教研報 Vol.27 No.5
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsser/27/5/27_No_5_120518/_article/-char/ja/
(2020年12月20日閲覧)


【参考】
福井県立恐竜博物館
https://www.dinosaur.pref.fukui.jp/museum/construction.html
(2020年12月20日閲覧)

ロイアルティレル古生物学博物館
https://en.wikipedia.org/wiki/Royal_Tyrrell_Museum_of_Palaeontology
(2020年12月20日閲覧)

 子供向け教育活動   福井県立恐竜博物館。恐竜博物館ニュース第26号、2009.3.20.
https://www.dinosaur.pref.fukui.jp/archive/Dinosaurs026.pdf
(2020年12月20日閲覧)

「 長崎恐竜博物館(仮称)の建設におけるランドスケープ計画の重要性」Journal for Interdisciplinary Research on Community Life vol. 10, 2019, pp. 1-12
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jircl/10/0/10_1/_pdf/-char/ja
(2020年12月20日閲覧)

福井県立恐竜博物館:学校教育支援プログラムでのご利用について。
https://www.dinosaur.pref.fukui.jp/guide/education/guide.html#museum
(2020年12月20日閲覧)

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