早川 克美(教授:学科長)2018年3月卒業時の講評

年月 2018年3月
みなさん、ごきげんよう。卒業研究のレポートの作成、おつかれさまでした。
卒業研究は、みなさんの芸術教養学科で学んだこれまでの学習の成果です。それぞれの方の視点が実に様々で、読み応えのあるレポートばかりでした。

特に優れたレポートについていくつかご紹介しましょう。岐阜県飛騨高山地方の郷土玩具さるぼぼについての調査レポートは、さるぼぼの特異性について、〈抽象/具体〉〈伝統/現代〉という「相反する要素」の共存にあるのではないかという仮説を立て、考察する興味深いもので、さるぼぼのデザインについての評論として優れた内容でした。地域猫のボランティア活動の仕組みのデザインに着目されたレポートでは、ボランティアと地域住民の接触による効果についての考察が素晴らしかったです。アートグッズブランド「tomoni art」の可能性を考察したレポートでは、インタビュー調査や文献調査をもとに活動の実態に迫り、良い点だけでなく、具体的な課題についても言及されている慎重な視点が優れていました。

レポートの評価が分かれたのはご自身の問題意識と対象への評価軸が明示されているかという点です。せっかく丁寧に調べられたのに、調べたことのまとめで終わってしまっている方も少なからずいらっしゃいました。評価が高かったレポートは、二次情報に頼らず、ご自身が直接現地で調査をされたり、適切な比較対照を試みたり、また評価手法および評価軸を明確に定義されていました。演習の授業でもお話しましたが、まず、調べた多くの情報から、「何を取捨するのか」という「問題定義=切り口」を示すことが肝心です。次に、その切り取られた情報をどのような「構造」で考察するのかを検討し、最後にその構造をどのような「語り口=手法・方法」で伝えるかという点に留意して書くことが重要です。また、ほとんどの方が、選ばれた対象への一定の距離をおいた客観的な考察には成功されていますが、批判的、反省的なまなざしで捉えていなかったことが気になりました。一見、うまくいっているように見える事象に問題はないのか?どのような課題をクリアして今日があるのか、そんな視点も加味されると、一層深い考察になったと思います。

いろいろと書いてしまいましたが、卒業生となられたみなさん、本当におつかれさまでした。みなさんが得られた学びはゆっくりと時間をかけてみなさんの中で熟成されて、様々な場面でみなさんを助けてくれることでしょう。一緒に学んだこの月日はみなさんの勝ち取られた財産です。これからのみなさんのご活躍を祈っております。