早川 克美(教授:学科長)2021年9月卒業時の講評

年月 2021年10月
 みなさん、ごきげんよう。卒業研究のレポートの作成、おつかれさまでした。
卒業研究は、みなさんの芸術教養学科で学んだこれまでの学習の成果です。それぞれの方の視点が実に様々で、読み応えのあるレポートばかりでした。

 ここではweb公開希望者のレポートを中心に総評を示します。未公開のレポートにも大変優れた内容があったことをお伝えします。

 公開されているレポート3点をご紹介すると、
「アクロス福岡ステップガーデン」についての論考は、4つの筆者独自の観点から分析することで、この施設の特質を多面的に評価することに成功しています。比較対象事例との対照も効果的でした。持続可能な社会をめざす私たちにとって必要な意識を表明したメッセージ性のある読み応えのある内容でした。

「都立砧公園「みんなのひろば」におけるユニバーサルデザイン」では、一つの広場を「UDの遊び場の5原則」によって詳細に評価し、これを契機として、公園全体がユニバーサルデザイン(以下、UD)とインクルーシブな場になるようにとの指摘で締めくくられています。ハード面のUDはつくれても、肝心なのは心理面、意識面でしょう。心のUDにも指摘されている点もバランスのとれた良い考察となっています。

「東大阪文化創造館の人が集い憩うピロティ」では、新たに完成した公共施設の空間の中で、名もなきピロティ空間の価値に気づき、積極的に評価しようとしている視点に、気づいた感受性の高さと独自性を見出す事ができます。
 
 レポートの評価が分かれたのはご自身の問題意識と対象への評価軸が明示されているかという点です。せっかく丁寧に調べられたのに、調べたことのまとめで終わってしまっている方もいらっしゃいました。また、論点の軸が曖昧なため、減点となった惜しいレポートもありました。評価が高かったレポートは、丁寧な調査をされ、適切な比較対照を試みたり、また評価手法および評価軸を明確に定義されていました。いつも演習の授業でお話していますが、まず、調べた多くの情報から、「何を取捨するのか」という「問題定義=切り口」を示すことが肝心です。次に、その切り取られた情報をどのような「構造」で組み立てて考察するのかを検討し、最後にその構造をどのような「語り口=手法・方法」で伝えるかという点に留意して書くことが重要です。
 また、ほとんどの方が、選ばれた対象への一定の距離をおいた客観的な考察には成功されていますが、一見、うまくいっているように見える事象に問題はないのか?どのような課題をクリアして今日があるのか、そんな批判的、反省的な視点も加味されると、一層深い考察になったと思います。

 いろいろと書いてしまいましたが、卒業生となられたみなさん、本当におつかれさまでした。みなさんが得られた学びはゆっくりと時間をかけてみなさんの中で熟成されて、様々な場面でみなさんを助けてくれることでしょう。一緒に学んだこの月日はみなさんの勝ち取られた財産です。これからのみなさんのご活躍を祈っております。