早川 克美(教授:学科長)2017年9月卒業時の講評

年月 2017年10月
みなさん、ごきげんよう。卒業研究のレポートの作成、おつかれさまでした。
そして、提出された21名全員の方が合格され、卒業されます。おめでとうございます。
卒業研究は、みなさんの芸術教養学科で学んだこれまでの学習の成果です。それぞれの方の視点が実に様々で、読み応えのあるレポートばかりでした。

卒業研究では,文化資産評価報告書の作成が課されており,各自の問題関心に沿って、以下の4つの視点を明記することが課題となっています。これらが整理されて記述されているかを評価の基準とします。
0: 問題関心が示されているか
1: 基本データ(所在地、構造、規模など)
2: 事例の何について積極的に評価しようとしているのか
3: 歴史的背景は何か(いつどのように成立したのか)
4: 国内外の他の同様の事例に比べて何が特筆されるのか
+αとして,可能であれば今後の展望について

レポートの評価が分かれたのはご自身の問題意識と対象への評価軸が明示されているかという点です。事例の何を評価しようとしているのか、その評価軸をどのように設定したのかが、明確に示されているレポートがなかったのが残念な点です。せっかく丁寧に調べられたのに、調べたことのまとめで終わってしまっている方も少なからずいらっしゃいました。

芸術教養演習の授業でもお話しましたが、まず、調べた多くの情報から、「何を取捨するのか」という「問題定義=切り口」を示すことが肝心です。次に、その切り取られた情報をどのような「構造」で考察するのかを検討し、最後にその構造をどのような「語り口=手法・方法」で伝えるかという点に留意して書くことが重要です。また、多くの方が、選ばれた対象への一定の距離をおいた客観的な考察には成功されていますが、批判的、反省的なまなざしで捉えていなかったことが気になりました。一見、うまくいっているように見える事象に問題はないのか?どのような課題をクリアして今日があるのか、そんな視点も加味されると、一層深い考察になったと思います。

いろいろと書いてしまいましたが、卒業生となられたみなさん、本当におつかれさまでした。みなさんが得られた学びはゆっくりと時間をかけてみなさんの中で熟成されて、様々な場面でみなさんを助けてくれることでしょう。一緒に学んだこの月日はみなさんの勝ち取られた財産です。これからのみなさんのご活躍を祈っております。