街づくりを支える高架下『TauT(トート)阪急洛西口』

堀 弘毅

【はじめに】
TauT(トート)阪急洛西口(以下、トートとする)は京都洛西エリア(註①)に存在する阪急洛西口駅-桂駅間の高架化により誕生した高架下空間を活用した新しいかたちである。そのコンセプトは『行きたい 住みたいKYOTO洛西口~ヒトとヒトをつなぐ エキはマチの縁側~』である。本稿では、そのコンセプトである縁側(註②)としてトートがどのように表現され、どのように街に影響しているのか、他の高架下物件と比較し、考察する。

【基本データと背景】
トート周辺を取り巻く環境はここ数年で大きく変わってきた。その変化は2点ある。
まず阪急京都線 洛西口駅付近の連続立体交差化事業により高架化されたことである。(註③)阪急電鉄、エキ・リテールサービス阪急阪神及び京都市の連携事業として誕生した。
次に近隣に多数のマンションの建築が進み、他府県から多くの転入者を迎え入れ、新たなベッドタウンとして阪急東向日駅、阪急洛西口駅、JR桂川駅周辺は進化している。(註④)

【浮かび上がってきた課題】
大規模な都市開発により、大型ショッピングモールやいくつもの大型マンションが建設され、多くの新しい人口の流入があり、以前より住んでいる住人との認識の隔たりの発生。また現代の家族は核家族化も進む中、昔ながらの「ご近所さん」という関係は薄まってきており、住人同士が出会い、知り合い、助け合う環境が必要となってきている。

【基本データ】
●コンセプト
『行きたい 住みたいKYOTO洛西口 ~ヒトとヒトをつなぐ エキはマチの縁側~』

●景観
阪急洛西口駅から桂駅に向かう高架下に誕生したエリアである。
総延長 約1㎞
面 積 約1万1,200㎡
テナント区画:32区画
行政関連施設:1拠点・・・京都市交流促進・まちづくりプラザ

●歴史
2003年 路面駅として阪急洛西口駅が開業
2008年 高架化着手
2016年 完全高架化
2018年 阪急洛西口トート 第1期完成 地域の魅力を再発見するエリア
2020年 阪急洛西口トート 第2期完成 生活利便施設エリア
2021年 阪急洛西口トート 第3期完成 遊びを通じて学ぶエリア
新たな文化を育むエリア

【評価】
トートは縁側としての「構造物」×活性化する「人」によって作られていると考えている。これら2つの観点から本稿では評価する。

<縁側としての「構造物」>(資料①)
トートは市民から集まった意見を5つのテーマに集約し、そのすべてを何らかの形で表現できたとしている。その5つのテーマに沿って評価を行うことにした。

① 地域交流 まちの交流・人とのつながりに役立つ「地域交流」の場にする
トート内に屋外イベントスペースが3カ所あり、誰でもやってみたいことにチャレンジできるものとなっている。イベントスペース以外では随所に配置された特徴的なベンチ(資料②)も人とのつながりを生み出すものとして部分的な縁側として機能していると考えている。
・多目的スペース
トートの最北部に位置する土舗装のスペースとなっており、自由に使えるスペースとなっている。子供たちが自由に安全に遊べるスペースとなっている。
・トートひろば
ウッドデッキと人工芝で構成されたスペースとなっている。縦長90メートルとトート内最大の広さになっている。実際に週末になると各種イベントが開催され、賑わいを見せている。
・エントランスゾーン
阪急洛西口駅を出て、すぐにある人工芝のスペースである。定期的に地元農家の野菜市が開催されている。小規模イベントやPRの場での使用が最適だと考える。

② 子育て  子供たちの笑顔と見守るみんながくつろげる「子育て」の場にする
・京都市交流促進・まちづくりプラザ
6か月から12歳までの子供たちが親子で遊べる「ガタゴト」、サークル活動やセミナーに使用できる多目的室、親子で利用できるライブラリー、カフェの4種類の場で構成されている。子育て世代をターゲットにした施設となっており、子育てに関するまちの課題を解決できる施設となっている。

③ 文化 西京カルチャーを発信・体験できる「文化」のある場にする
・各種カルチャーセンター
子育て支援施設 京都市交流促進・まちづくりプラザに隣接するエリアになっているためターゲットを子供としている。
・トートひろば・・・①で記載内容と同様
・Share Department
ショップができる3つの建屋とシェアオフィスの建屋で構成されている。職住近接な暮らし方、起業や副業へのチャレンジができる新しい可能性が集まる場所となっている。

④ 観光 ここに来たら手に入る・ここに来たら経験できる「観光」のあるまち
・観光マップ(資料③)
阪急洛西口トートには5カ所に案内板が設置されており、地図は同一のものであるが、そこに記載されているまち情報や観光ルートは全部違っている。京都市が歩くまち京都というコンセプトを掲げており、基本的には歩ける範囲での観光ルートになっている。

⑤ 健康・防災 個性的な空間を利用して安心安全でスポーツ・健康づくりに役立つ「健康・防災」のまちにする
・歩道
トートに並行する形で歩道があり、その幅は約3メートルと広く、歩行者用が2メートル、自転車用が1メートルとなっている。ウォーキングやランニングを楽しむ人は自分のペースで楽しめ、小さい子供も自動車を気にすることなく走れる十分なものとなっている。

<活性化する「人」>(資料④)
トートでは様々なイベントや活動が行われている。
① 洛西高架下サークル
ジョグ・ピラ部、ひまわり部、ボードゲーム部などトートを拠点としたサークル活動が実施されており、条件を満たせば、誰でもサークル活動が開始でき、最近では日本酒サークルの活動が開始された。
② 各種イベント
ジャパンコーヒーフェスティバル、アウトドアフェスや環境に関するイベントなどが行われている。開催時期は週末が多く、キッチンカーなども出店され、活況である。
③ 高架下大学
洛西高架下大学、洛西高架下大学・研究室コース、洛西高架下こども大学の3つがある。それぞれテーマが違い、開催場所も対面、オンラインと違っている。

【他の事例との比較】
他の阪急不動産の街づくりの事例に同じ高架下開発で「灘高架下」を挙げる。
① 名称 灘高架下
② 場所 阪急王子公園駅から三ノ宮駅
③ 歴史 1936年(昭和11年)から現在
④ 活用方法(過去) 駐車場、倉庫、街工場
⑤ 活用方法(現在) 家具・皮製品の工房やアートギャラリー
騒音を出しても差支えがないこと、高架下という空間上、天井が高く、区画内も自由にアレンジを施していいことからクリエイターも心を掴んだ。

<共通点>
① 高架下の施設
高架下はあまり人が近寄らない駐車場や倉庫に使われることが多いが、両施設はそれとは逆に人が集まってくるような高架下となっている。
② 文化を発信する場
トートはトートひろばで行われるイベントや行事を通して京都の文化を発信しており、灘高架下はクリエイターが作るモノを通してアートとしての文化を発信している。
③ ヒトの交流を促す場
トートでは様々なイベントや施設を通して人の交流を促進し、灘高架下はクリエイターとその作品を通して人の交流が促進されている。

<相違点>
① 歴史の厚さ
トートのオープンは2021年、一方、灘高架下は1936年より利用が開始され、その当時から使われている煉瓦や鉄扉、橋脚デザインが持っている歴史を感じさせ、その施設が持っている歴史的価値が全く違う。
② 媒介するものの違い
文化を発信する場としては共通項になると考えるが、何を媒介に発信をするかという点では異なる。トートはイベントや催事で、灘高架下はアーティストたちの作品となっている。

【今後の展望】
トートの歴史はまだ浅く、認知度の低さが不安要素であったが、第24回 関西まちづくり賞を受賞したこともあり、注目度は増していくと思われる。

【まとめ】
高架下活用の多くは商業、駐輪場・駐車場などの生活利便施設として活用されてきた。トートはそれらとは一線を画し、生活に寄り添い、長期的に地元の人々の交流が進むように考えられた高架下活用事例である。
出会いや交流を促す環境はトートには整った。活性化する「人」によるイベントも開催されている。今後は施設を利用し、イベントに参加する人の範囲をどのように拡大していくかである。世代や性別を問わず様々な人々が利用することで、現代の希薄化されたご近所さん関係が緩和されるものと考える。
「構造物」×「人」が生み出す景観としてトートが街の縁側として機能し、将来どのように地域に影響するのか楽しみな高架下空間である。

  • 1 地図:TauT阪急洛西口ホームページより引用、筆者加筆
    写真:筆者撮影
    撮影日:2022年7月29日
  • 2 地図:TauT阪急洛西口ホームページより引用、筆者加筆
    写真:筆者撮影
    撮影日:2022年8月8日
  • 3 地図:TauT阪急洛西口ホームページより引用、筆者加筆
    写真:筆者撮影
    撮影日:2023年1月8日
  • 4 各案内:TauT阪急洛西口より引用
    写真:筆者撮影
    撮影日:2022年11月5日
  • 5 地図:国土交通省 国土地理院 地図に筆者加筆
    写真:筆者撮影
    撮影日:2022年7月18日
  • 6 註①<洛西> ブリタニカ国際大百科事典より参照

    註②<縁側> 大島暁雄他著『民族探訪辞典』、山川出版社、1983年

    註③<高架化による変化> 京都市ホームページ 阪急京都線(阪急洛西口駅付近)連続立体交差化事業
    https://www.city.kyoto.lg.jp/kensetu/page/0000127731.html

参考文献

日本建築学会編『生きた景観マネジメント』、鹿島出版会、2021年
エリック・クリネンバーグ著『集まる場所が必要だ 孤立を防ぎ、暮らしを守る「開かれた場」の社会学』。英治出版、2021年
藤本英子著『公共空間の景観力』、同友館、2022年
土井一成著『まちづくり主義のススメ』、BankART1929、2022年
荒昌史著『ネイバーフッドデザイン』、英治出版、2022年
大島暁雄他著『民族探訪辞典』、山川出版社、1983年
アレックス・カー著『ニッポン景観論』、集英社新書ヴィジュアル、2014年
藤井雅人著『鉄道駅まちづくり』、風詠社、2022年
寛祐介著『ソーシャルデザイン実践ガイド』、英治出版、2013年

木内徹・鈴木裕二『次世代まちづくりに向けた阪急電鉄・阪急不動産の取り組み』、都市住宅学97号 https://www.jstage.jst.go.jp/article/uhs/2017/97/2017_77/_article/-char/ja/
公益財団法人都市活力研究所『TauT阪急洛西口の開発と運営』、UIIまちづくりカレンダー まちつくる通信vol.35 https://www.urban-ii.or.jp/kou2/_pdf/UII_letter_35.pdf
松岡亮介・浅野光行『鉄道高架下空間に見る土地利用形態と住民意識に関する研究』http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00039/200511_no32/pdf/94.pdf
平山隆太郎・佐々木葉『鉄道高架下空間に対する住民の意識に関する研究』、景観・デザイン研究講演集No.3 2007年 http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00039/200511_no32/pdf/94.pdf

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