柏の葉キャンパスにおける子どもの居場所づくりの過程

大浦 生美

はじめに

居場所づくりとは何か。2017年4月、街の居場所づくりFreddy (以下「Freddy」)は本格始動した[1]。本稿では2017年のFreddyの活動よりこの団体の子どもの居場所づくりの活動として特筆している点を評価し、文化資産として報告する。

1、 基本データ
団体名:街の居場所づくりFreddy
分類:任意団体
設立年:2017年4月
主催者:杉本淳子
後援:NPO支援センターちば
所在地:千葉県柏市若柴柏の葉キャンパス
活動内容:子ども及び保護者対象のイベントの実施[写真1~3]

街の居場所づくりFreddyの活動は柏の葉T-site2階ラウンジにて月に1~2回子ども又は親子対象のイベントを実施している[1]。2017年には12回のイベントを実施しており[表1]、イベントの内容は工作を含めた作品づくりである。後援団体、支援者、協力者はイベント実施に際して主催者の杉本淳子氏(以下杉本氏)と共にイベントの告知、準備、実施を行っている。実施者は協力者又は協力者からの紹介[2]により、柏の葉キャンパス以外からも来訪している。

2、いつどのように成立したか
街の居場所づくりFreddyの設立は2017年4月である。2018年7月現在、設立から1年4か月となる。杉本氏は長らく関西にて福祉の分野で仕事をしていたが、縁あって、2015年頃から千葉県柏市若柴にある柏の葉キャンパス(以下柏の葉)にて、子どもの居場所を作る任意団体設立への行動を開始していった[1]。杉本氏には元々柏の葉に知り合いはいなかったが、柏の葉はまちづくりイベントが盛んな土地であるため[2]、その場に出向き、自分は何者であるか、この柏の葉で何をしたいのかを出会った人々に丁寧に伝えていった[3]。思いは人から人へと伝わっていき、協力者、後援団体、実施者と繋がり、Freddy成立に至った。
ここで柏の葉キャンパスについてもう少し詳しく述べる。柏の葉キャンパスがある千葉県柏市は東京駅(江戸城)から約30km[4]の土地である。江戸時代から複数回に渡って開発が行われてきた土地であり、その度に他所からの移住してきた人々がいた[5]。柏の葉キャンパス自体は確かに都市計画に基づいた新しい名であり街であるが[6]、江戸幕府開幕以来の有史から見ると、開発と移住は繰り返された行為の一つである。しかし、この柏の葉キャンパスの歴史がFreddyの様な設立から間もない団体がイベント運営していける下地ではないかと筆者は考えている。

3―0比較と評価
評価に際して、東京都葛飾区亀有にある一般社団法人ココロエデュケーションラボ(以下ココロラボ)との比較を行う[表2] 。本稿での評価軸については「はじめに」で述べたが、その選定理由は筆者がFreddyを取り上げようと考えた執筆動機による。何かを始めようとする時、人は最初の一歩を踏み出すことを躊躇してしまう。「はじめの一歩」を踏み出せるかどうかは物凄く勇気のいる行動である。その一歩を踏み出し、歩み始めた二つの団体のこどもの居場所づくりという目的に対する行動を取材し評価することで、それぞれの在り様を伝え、誰かの一歩への励ましになれば幸いである。

3-1子どもの居場所づくりとしての比較と評価
街の居場所づくりFreddyを文化資産として評価する点は、子どもの居場所づくりの手法として毎回多様な作品づくりを行うイベント(ワークショップ)の実施をしている点である。Freddyとココロラボは子どもを対象とした活動をしている点、設立時期が近い点が共通点ではあるが、活動の手法としてのイベントの実施内容や頻度は異なる[表2]。その異なる手法がそれぞれの創ろうとしている場を現しているのではないだろうか。
まず、ココロラボが子どもの居場所づくり事業として週に一回実施している「キッズポータルスパイス」(以下ポータルスパイス)[写真4・5]について述べる。毎週月曜日15時~18時、学校が終わった子供たちが順に集まってきて、宿題、おやつ、ボードゲームで時間を過ごしている。最初に宿題を行うのは決まっているが、その後何をして遊ぶかはその時々による[1]。「何をするかわかっている」という点が保護者にも参加する子どもたちにも安心感を与えていると推測している。取材の際、会場の前を通る帰宅途中の小学生は代表理事の森谷氏に手を振っていた[2]。その子供達は会場には来ないのだが、この場所で子供達の為に何かやっている事を知っているのだろう。ポータルスパイスは週に1度だが、他の時間にココロラボが実施しているアクターズスクールの稽古[3]、ロボット教室[4]や地域の人と協働してのイベントも開催している。このことを知っている地域の子供達や保護者が、いつか必要なタイミングが来た時に利用に繋がるのではないだろうか。「エマイマ」という場と設立以降実施しているワークショップやイベントが支える場こそ、ココロラボが創る「子どもの居場所」ではないだろうか。
次にFreddy の居場所づくりの活動について述べる。子どもの居場所づくりの手法として毎回多様な作品づくりを行うイベント(ワークショップ)の実施をしている点を評価すると述べたが、コミュニティデザインの手法としてまちづくりにおいて、地域住民を対象にワークショップを実施することは事例としてある。この時のワークショップは一回毎に実施目的が異なる[5]。Freddy においてイベント(ワークショップ)は子どもとの出会いの場であると杉本氏は述べている[6]。告知に際して、制作する作品の写真がWEB上に載せられるが[7]、それを見て子供が作りたい、又は保護者が作らせたいと思うことを大切にしている。多様な作品づくりを行える実施者と柏の葉にいる子ども達との出会いの場をデザインすることで、杉本氏は間接的に子供たちに多様な大人がいること、一人一人が違ってよいことを伝えようとしている[8]。実施者はそれぞれ実施するイベント(ワークショップ)に思いをのせている。その多様性を大切にする姿勢がそのまま子どもの個性を尊重する思いとなり、創りたい場を現しているのではないだろうか。

3-2考察
子どもの居場所づくりに必要なものは田村(2016)によると、「「子どもの居場所」の実践において、貫いて大切にされてきたのは、そこにいる子ども自身が『そこに居ていい』と感じる思いであった」[1]とある。その思いは杉本・庄司(2006)[2]や斎藤(2007)[3]でも言葉を別にして述べられている。「そこに居ていい」と感じる居場所をココロラボは決まったプログラムを実施することで、Freddyは多様な作品づくりを行うことで伝えようとしているのではないだろうか。デザイン実践例として特筆すべき点からみてみるとそれはより分かりやすくなる。杉本氏には強い意志と目的がある。デザインについて早川(2014)は「デザインは、明確な目的をもって、モノやコトに新しい価値や意味を与える方法」[4]と述べている。杉本氏は子どもの居場所をつくるという明確な目的の下、実施するイベントに対して時に「子供達との出会いの場である」という意味を、時に「親子の絆を深める時間」という価値付けを行っているのではないだろうか。その意図を込めた活動が今後「そこに居ていい」という居場所につながっていくのだろう。

4、今後の展望
街の居場所づくりFreddy設立から9ヶ月が経った2017年12月。Freddy代表の杉本氏はこれまで何度かイベントに協力してくれていたアーニー先生とまりぃ先生と新たな団体を立ち上げた。「EMFフードサポート」である。それぞれの活動とFreddyで一緒に行ったイベントを通して対話を重ねた結果、新たにフードドライブ[1]の活動を開始した。Freddyとしてではないが、Freddyでの活動が基礎となり広がった結果であることは確かだろう。Freddyは現時点で子どもの居場所を作れているかどうかの確証はない。されど活動を通して着実に人と人が繋がり、繋がることで互いに力を与えあっている。今後はイベントの実施とフードドライブ活動を通して更に人々と繋がっていき、柏の葉キャンパスという地域において子どもの居場所であり、地域の人が出会う場となることを望む。

  • 1-1 [写真1]パタパタホバークラフト 参加者作品(2017年8月21日撮影 撮影者:渡部ルカ氏)
  • 2 [写真2]こまーと参加者共同作品(2017年4月16日 筆者撮影)
  • 3 [写真3]おばけの学校 作成途中の光る妖怪カルタの確認中の様子(2017年7月1日 筆者撮影)
  • %e8%a1%a8%ef%bc%91-001-1 [表1]2017年1月~12月 街の居場所づくりFreddy実施イベント
  • %e8%a1%a82-001 [表2]子どもの居場所づくり団体比較表
  • 6 [写真4]防災コミニティスペースEma- Ima(2018年6月4日 筆者撮影)
  • 7 [写真5]キッズポータルスパイスにて、夕御飯調理中の様子(毎月第1月曜日は夕御飯を作る日)(2018年6月4日 筆者撮影)

参考文献

【注釈】
はじめに
[1]2017年1月にプレイベントを実施している。[表1]参照。

1 基本データ
[表1] 2017 年1月~12月 街の居場所づくりFreddy実施イベント(筆者作成)
[1]2018年7月現在。イベント実施会場に関してはその都度変更の可能性もある。
[2]筆者も協力者の一人として実施イベントのコーディネートやワークショップの実施を行っている。

2 いつどのように成立したか
[1]杉本淳子氏インタビュー、2017年11月23日16時柏の葉T-siteにて
[2]2006年11月に「柏の葉アーバンデザインセンター(UDCK : Urban Design Center Kashiwa-no-ha)」は日本初の公民学連携による都市づくりセンターとして設立し、柏の葉キャンパスの街づくりの中心となり、各種イベントやワークショップを実施している。『柏の葉アーバンデザインセンター(UDCK : Urban Design Center Kashiwa-no-ha) HP』http://www.udck.jp/ (2018年7月31日 閲覧)
[3] 杉本淳子氏インタビュー、2018年4月17日15時、柏の葉キャンパス某所にて。
[4]水戸街道沿いに歩いて約8時間。
[5]小金牧の江戸時代中期・明治維新の開墾、柏飛行場、戦後の緊急開拓地、米空軍柏通信所が時代毎に設立している。柏市編さん委員会編『歴史ガイドかしわ』、柏市教育委員会、平成19(2007)、P58、P198
[6] 「UDCKの多様な取り組みは、千葉県、柏市、千葉大学、東京大学による2006~2007年度共同研究の成果『柏の葉国際キャンパスタウン構想』にもとづいて行われている」とある。柏の葉アーバンデザインセンターUDCK主催『アーバンデザインセンター会議報告書 まちづくりの場を考える』、2009年12月

3-0比較と評価
[表2] 子どもの居場所づくり団体比較表(筆者作成)

3―1こどもの居場所づくりとしての比較と評価
[表2]同上
[1]『キッズポータルスパイスFacebookページ』https://www.facebook.com/events/211166139644662/ (2018年7月31日 閲覧)
[2]一般社団法人ココロエデュケーションラボ代表理事森谷哲氏インタビュー、2018年6月4日、防災コミュニティ Ema-Imaにて。同日キッズポータルスパイスの活動に参加。
[3]ひなたアクターズスクール稽古風景、『 一般社団法人ココロエデュケーションラボFacebookページ、7月15日投稿』 https://www.facebook.com/cocolabonet/?hc_ref=ART3ngGX5eczgtPSXEJKB6aQV_R0mv6TYHbAMh9MjrIFIy8KXv17kWbSjpG8qV3dRJQ(2018年7月31日 閲覧)
[4] ロボット教室風景、『 一般社団法人ココロエデュケーションラボFacebookページ、5月21日投稿』 https://www.facebook.com/cocolabonet/?hc_ref=ART3ngGX5eczgtPSXEJKB6aQV_R0mv6TYHbAMh9MjrIFIy8KXv17kWbSjpG8qV3dRJQ(2018年7月31日 閲覧)
[写真]
[5] 岡部有美子著「分散、体験型見本市(D-HOPE)アプローチとコミュニティ・デザイン」、三好晧一編『地域資源とコミュニティ・デザイン』、株式会社晃洋書房、2017、P68-83
[6] 杉本淳子氏インタビュー、2017年11月23日16時柏の葉T-siteにて
[7]柏の葉T-siteイベント告知ページ、「親子で作ろう紙マスコット」
https://store.tsite.jp/kashiwanoha/event/magazine/1020-1109201018.html(2018年7月31日 閲覧)
[8] 杉本淳子氏インタビュー、2017年11月23日16時柏の葉T-siteにて

3-2 考察
[1]田村光子著「子どもの居場所機能の検討」植草学園短期大学編『植草学園短期大学研究紀要 第17号』、植草学園短期大学、2016
https://www.jstage.jst.go.jp/article/uekusat/17/0/17_KJ00010150079/_pdf/-char/en (2018年7月31日 閲覧)
[2]杉本希映 庄司一子著「「居場所」の心理的機能の構造とその発達的変化」、日本教育心理学会編『教育心理学研究 54』、日本教育心理学会、2006
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjep1953/54/3/54_289/_pdf (2018年7月31日 閲覧)
[3]斎藤史夫著「子どもの「居場所づくり」の可能性と課題」、早稲田大学大学院編『早稲田大学大学院文学研究科紀要 52』、早稲田大学大学院、2007
https://waseda.repo.nii.ac.jp/index.php?action=pages_view_main&active_action=repository_action_common_download&item_id=2059&item_no=1&attribute_id=162&file_no=1&page_id=13&block_id=21
(2018年7月31日 閲覧)
[4]早川克美著『芸術教養シリーズ17 私たちのデザイン1 デザインへのまなざし-豊かに生きるための思考術』、京都造形芸術大学 東北芸術工科大学出版局 藝術学舎、2014、P24

4 今後の展望
[1]フードドライブとは、フードバンク活動のうち食料を集める活動のことを指す。
参考「食べ物の問題・フードバンクとは」『セカンドハーベスト・ジャパンHP』 http://2hj.org/vision/problem/(2018年7月31日 閲覧)



【参考文献】
山崎亮著『コミュニティデザインの時代』、中央公論新社、2012年
大塚久雄著『共同体の基礎理論』、株式会社岩波書店、1955年、
広井良典・小林正弥編『双書 持続可能な福祉社会へ公共性の視座から 第1巻コミュニティ 公共性・コモンズ・コミュニタリアニズム』、株式会社勁草書房、2010年
小泉秀樹編『コミュニティデザイン学 その仕組みづくりから考える』、一般財団法人東京大学出版会、2016年
街の居場所づくりFreddy Facebookページ
https://www.facebook.com/pg/ibasyo.freddy/posts/
一般社団法人ココロエデュケーションラボ
HP http://coco-labo.net/
Facebookページ https://www.facebook.com/cocolabonet/