日本の木造住宅における伝統構法の保存について

國井 宏和

1 はじめに
『日本の木造住宅における伝統構法の保存』は、特定地域でのデザインである。「1960年代以降、「design」は「インダストリアル・デザイン」の意として、国際的に使用されるようになる。70-80年代の情報化社会にあっては、ポスト・モダニズムが台頭し、モダニズムに対する反論が示された。このような経緯を経て、デザイン上の問題は、従来の「いかにデザインするか」という形態に関わる技術的観点から、人間/人工の産物/環境をめぐる全体的な調和のありかたへの検討と比重が移ってきている。さらに現代では、「もの」に限らず、不可視である「こと」のデザインへと用法が拡大している。」(『デザイン事典』,日本デザイン学会編,朝倉書店,2003)つまり『構法の保存』という活動も今日では、デザイン活動の一環と考える事が出来るだろう。『日本の木造住宅における伝統構法の保存』の報告をまとめる為に、伝統構法と古民家の保存に取り組む山形県の企業、古民家ライフ株式会社の代表取締役であり、20年来の旧友である高木孝治氏を取材し、その活動を考察し評価したいと考える。

2 古民家ライフの活動と基本データ
古民家ライフは、山形県にある小規模な建設会社である。古民家の移築・再生・修繕等を業としている。解体予定の古民家を調査し、必要とする別のクライアントに情報提供を行う。代表取締役 高木 孝治(1975年福島県伊達市出身)は何事にもこだわる。新築住宅でも伝統構法一筋で、意見の違う施主の仕事は断ってしまう事もある。木材は施主を連れて山を登り、木を選ぶ、自らの手で墨を出し、加工する。昨今の主要な住宅メーカーは、すべてをプレカット業者に外注し機械で加工する事が多い。主要構造部の仕口や継ぎ手は、金物を多用しコストパフォーマンスを追求する。悪い事では無いが、優れた大工の技術や文化は衰退し絶滅寸前の状態にある。これらの技術や先人たちの思想を受け継ぎ、後世に残すという活動が、古民家ライフの基本理念となっている。

3 古民家ライフによる、『伝統構法の保存』の何を評価するか
芸術や文化は、いくら優れていても需要が無くては衰退する。古民家ライフの活動はこれを食い止める為の活動の一環といって良いだろう。歌舞伎が今日評価され続け、伝承されている背景には、優れた歌舞伎役者が、技術を伝承する努力と共に、民衆の評価を維持する努力を同時に行ってきた事があげられる。『伝統構法の保存』も同様である。大工の『テクニック』や『こころ』を伝承する為には、民衆の評価も不可欠であり、そこを如何に維持していくかが大きな課題である。伝統構法の伝承活動を確実に行っている一つの例として、宮大工という業種がある。文字通り寺社仏閣の修繕等を行う大工である。彼らの技術は実に巧妙で素晴らしい事は間違いない。しかし後継者の育成が全く出来ていない為、高齢化が進み現役の宮大工は100名程度ともいわれている。まさに絶滅寸前の状態である。つまり彼らに伝統構法の保存を期待する事は、極めて難しいのである。一方、伝統構法一本で年間数棟を継続的に建設している古民家ライフは既に民衆(施主)の評価を得ており、伝統構法の継承において十分に期待できる。この点がこの企業の最も評価されるべき点である。

4 古民家ライフの歴史的背景
古民家ライフ代表高木氏は、工務店の2代目として生まれた。会社を継ぐべく大学進学を志すも、予備校在学中に父親が他界、同時に工務店も倒産。挫折しかけた彼が、ふと目にしたのは、古民家の記事だった。その瞬間、これをライフワークにする事を決意したという。その後幾多の苦難も難なく乗り越え、2006年「受け継ぐ」をテーマに古民家ライフの運営を開始。2009年には、自邸「山麓の家」を竣工。現在、大工をする傍ら、自然体で暮らすことを実践、衣・食・住についての企画・提案も行っている。

5 国内の現代の木造住宅に比べて何が特筆されるのか。
伝統構法による木造住宅は、主要大手住宅メーカーのものとどの様に違うかを古民家ライフ株式会社の高木氏に聴いた。「構造用合板等で構成された壁面の壁倍率に頼らず、構造全体を木組みで構成するという点かな?」と彼は答えた。壁倍率とは、建築基準法で決められた下地に、決められた厚さの石膏ボードや構造用合板を貼って仕上げた壁面には、他の壁面の何倍という倍率を定め、構造強度の根拠とするというモノであり、現在の住宅メーカーの住宅の多くは、これ等をメインに構造計画を安易に行う。これに対し伝統構法では、構造体はあくまで木組みによって構成する。また、一つ一つの作業には、経験と知識が必要であり、その仕上がりは、職人の力量により大きく異なり、住宅の寿命にも影響する。『2×4工法』という工法がある。日本語でいうと『木造枠組み工法』、これに対し日本で昔からあるのが『在来木造軸組み工法』これらは、構造計算の考え方で分けられた工法であるが、『2×4工法』の骨組みを施工するのには、多くの経験や技術は不要である。2インチ×4インチの木材にベニヤを貼れば誰でも組み立てる事が出来る。大工では無く、フレーマーという職種の職人が建て方を行う場合も少なくない。『軸組み工法』でも柱と梁の接合部には、工場で金物を仕込み、現場ではそれらをはめ込み剛性の高いピンで固定する。という簡便な工法が多用されている。機転の利く鉄骨の鳶なら、2時間で技術は習得できるだろう。技術の希薄な職人でも建てられるが、これでは、大工の技術が衰退していく。日本の優れた大工の技術を伝承する為には、伝統構法の技の伝承が不可欠と言っても良いだろう。

6 今後の展望について
今後の展望について、高木氏に聴いた「すべての人が伝統構法を必要とはしない事は当然である、住宅メーカーの住宅が悪いとは思わない。ただ守るべき伝統は、誰かが真剣に取り組まなくてはならない。建築に限らず、衣・食・住でも地域の文化でも、日本には伝承した方が良いものが沢山あると思う。その家の味を親から子へ伝えるのと同じことで、たまたま自分にはそれが大工仕事だっただけの事」と語った。彼は、今残っている古民家を調査し、新たに必要とするクライアントに紹介するという手法で、現存する古民家そのものを保存し、その技術と建物が如何に良いかを一人でも多くの人に感じてもらえるように情報提供しているのである。

7 まとめ
文化や技術、芸術を継承する事は、難儀な事である。それは単に流行りが廃れる事もあれば、人々の生活や思考が時の流れと共に変わってしまう事も有る。木造伝統構法を維持継承していく為には、作り手の育成と世間からの評価の獲得を同時に推進する必要がある。その点では、陶芸技術の維持継承に近いかもしれない。現代の日本は経済的には豊かになったが、文化的にはどうだろう?家族形態は核家族が多い為、何世代にも渡り住宅を住み継ぐ事自体が稀である。伝統構法の維持にとって不利な条件でもある。住宅メーカーの施工に技術があまり必要ない工法の方が、現代の住宅事情にはマッチしているのかもしれない。一方で、豊かになった分、文化に対する考え方が多様化している。施主自身が伝統工法に興味を持つ事も有れば、既存の民家を移築し住みたいと考える人もいる。確かに住宅メーカーの住宅は売る側にも便利で安く売っているものもあり、買い手も安易に買える事も有り、圧倒的に需要は大きいだろう。しかし様々な理由から伝統工法の住宅を求めている人も居て、その数が徐々に増えている事も事実である。先人たちの努力や工夫で完成した大工の『技術』や『こころ』を如何にして守っていくかという事を、どれだけ多くの人が、真剣に取り組めるかという事が、これからの課題になるだろう。

  • 1 http://kominkalife.jp/made/(山形木のお家、古民家ライフ株式会社より)

参考文献

日本デザイン学会編,『デザイン事典』,朝倉書店,2003

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